ブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom9 雲となり雨となるとき【6】

* * *

それからというもの、私の日常がしだけ変わった。

諏訪くん――もとい翔は、これまでスキンシップできなかった日々を挽回するかのごとく、毎晩と言ってもいいほど私を自のベッドに招きれるようになった。

あれこれ理由をつけてみても當然承諾されるはずもなく、夜毎彼に抱かれていた。

疲れているときや遅くなった夜には、ただ抱きしめられて眠るだけの日もあるけれど……。とにもかくにも、ここ最近の私は意識を失うように眠りに就く寸前に翔におやすみのキスを與えられ、朝も彼の優しいくちづけで目を覚ますのだった。

なんだか面映ゆくて、毎日がくすぐったいような幸福で彩られている。これほどの幸せで満たされている今、不満なんてひとつもない。

ただ、このままエスユーイノベーションで働いていいのか……とは頻繁に考えるようになった。

容師への未練は、以前よりもさらに強まっている。

週末の恒例になっている翔へのヘッドスパで喜んでもらえることが嬉しくて、同時に容師時代のお客様たちとのやり取りをよく思い出すようになった。

お客様の要を汲み取るのも、流行を追い続けるのも、その上で似合うヘアスタイルを提供するのも、とても難しくて大変だった。

ときにはクレームをけ、指名替えも複數回され、施後にお客様に不満そうな顔をさせてしまったこともある。そのたびに落ち込み、容師に向いていないのかもしれないとへこたれそうになり、悔しさを抱えて數え切れないほど泣いた。

けれど、お客様が喜んでくれるとつらいことが全部消化されるくらい嬉しくて、また頑張ろうと思えた。セクハラやパワハラがつらくても、負けたくなかった。

いつか、小さくても自分のお店を持つために。

そして今も、本當はまだその夢を捨て切れずにいる。

そんな狀態でエスユーイノベーションで働き続けることになれば、真摯に仕事に取り組む翔に後ろめたい気持ちを抱きそうだった。努力している彼や同僚たちを余所に、私だけ優しい場所で守られているのはずるい。

なにより、翔と付き合っているからこそ、彼に甘えてばかりではいけない。

甘えるのは悪いことじゃないと翔が教えてくれたけれど、今の私は彼の傍にいたくて過去から目を背けているだけ。だから、余計にこんな気持ちになってしまうのだ。

(私はどうしたいんだろう……)

翔にはれられても平気になったどころか、彼に抱かれるたびに幸福が募っていく。異であっても、同僚とは隨分と普通に接することができるようになった。

(でも、容師に戻ったら? 同じ店で働くことはなくても、また同じような目に遭うかもしれない……。それでも頑張れる?)

堂々巡りの中にいると息が苦しいけれど、それでも私自が向き合って答えを出さなければ、きっと本當の意味で翔の隣でを張ることはできない。

彼の傍で恥ずかしくない生き方をしたいと思うのなら、私は過去とも自分自とも向き合わなければいけないのだから。

ちゃんと考えよう、と心に誓う。これまでは考えているようでいて、結局は心のどこかで優しい場所で過ごすラクさに甘んじ、現狀維持をんでいた部分があった。

それでいいはずがない。だから、ちゃんと目を背けずにいよう。

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