ブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom10 七転び八起きも、あなたの傍でなら【1】

『俺さ、將來は自分の手で世界を変えるようなことがしたいんだ』

あ、笑うなよ? と苦笑をらした諏訪くんが私を見る。

『すごく壯大な夢だね』

『壯大ってほどでもないよ。別に、世の中から注目されることがしたいわけでも、目立ちたいわけでもないし』

『でも、大きなことをすれば注目を浴びるでしょう?』

『うん、だから大きなことじゃなくていい』

さっきの言葉と結びつかないことに小首を傾げれば、彼がふっと瞳を緩めた。

『世間には認知されなくても、誰かの生活がちょっとかになるとか、誰かの笑顔に繋がることになるとか、そういうことでいいんだ。ただ、好きなことをするには組織の末端にいたんじゃ難しいだろうし、小さくてもいいから自分の會社を持ちたい』

どこか照れくさそうな諏訪くんは、『偽善者って思われるかもしれないけど』と自嘲混じりに呟く。私はすぐに、否定を込めて首を大きく橫に振る。

すると、彼が面映ゆそうに微笑んだ。

『こんなことを話しても笑われると思って、実は今まで誰にも言ったことがなかったんだけど、香月に話してよかった』

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十月の夕日が、喜を浮かべる諏訪くんを優しく染める。紙の匂いが充満する古い図書室が、なぜかキラキラと輝いて見えた。

『香月は夢とかないの?』

『えっと……』

あるにはある。けれど、私にはきっと向いていない職業だし、彼に比べればちっぽけに思えて言い出しにくい。

『教えてよ』

なんて思っていたのに、笑顔を寄越されると口を開いていた。

『笑わない?』

『うん、絶対に笑わない』

『あのね……私、容師になりたいの』

容師?』

目を丸くした諏訪くんの表から、私には似合わないと思われたのだと察する。恥ずかしくなって口を噤もうとしたけれど、彼は意外にもその理由を訊いてきた。

『えっと……私、男の子が苦手でしょ……? 子どもの頃からいじめられることが多くて、中學でも変に注目されたりして、いつも周りの視線から逃げるように俯いてばかりだったの』

諏訪くんがじっと耳を傾けてくれる。彼の真剣な表が、私に言葉を続けさせる。

『でも、そんな自分が嫌いで、高校ではしでも変わりたくて……學式の前にイメチェンしようと思って、近所にできたおしゃれな容室に行ったの』

そこは、三十代前半くらいのがひとりで経営している小さなヘアサロンで、上手く要を言えない私の言葉にゆっくりと向き合ってくれた。

そして、『大丈夫。変わりたいって強く思える子は変われるよ』と微笑み、自分でも見違えるほどの変化を與えてくれた。

人目を避けるように長かった前髪を眉あたりで整え、ただ切り揃えるだけだったサイドや後ろの髪は癖を活かしてカットされ、私がくたびに軽やかに揺れた。

自信がなかった心を包む固い殻に小さなヒビがり、自分の外見が好きになれそうな予がした。

そのときのが忘れられなくて、『ほらね? まずは外見がもっと素敵になれたでしょ?』と笑顔で言ってくれたお姉さんのような容師になりたいと思ったのだ。

『……でも、結局は高校でも全然変われなかったんだけどね』

黙って話を聞いてくれていた諏訪くんは、優しい笑みを零した。

『そんなことないと思うよ。俺は中學のときの香月のことは知らないけど、きっと変わりたいって思った気持ちは今も香月の中にあって、だからこそ香月の夢はその頃から変わってないんだよ』

彼の笑顔が、優しい聲音が、心を包み込んでくれる。私だけに向けてくれるそれらが、泣きたくなるくらいに嬉しかった。

『それに、容師って外見を変えてあげる仕事だろ。だったら、〝変わりたい〟って気持ちで勇気を出して容室に行った香月には、そういう人たちの心に寄り添えると思うし、むしろ向いてると思う』

キラキラ、キラキラ……まるで夏の海のよう。私には眩しすぎるくらいの真っ直ぐさで、強く優しく背中を押してくれる。

『大丈夫だ。香月ならできるよ』

思ってもみなかった溫かい言葉に、の奧からは正のわからない熱が突き上げてきて。このときの私には、泣かないようにするのが一杯だった。

『だから、頑張れ』

俺も頑張るからさ、と笑った諏訪くんに、大きく二度頷く。

『諏訪くんも頑張ってね』

同じように首を縦に振った彼は、程なくして『あっ!』と聲をらした。

『そうだ。香月が容師になったら、俺を――』

秋の夕日に照らされた笑顔が遠のいていく。その言葉の続きは――。

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