ブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom10 七転び八起きも、あなたの傍でなら【6】

翌日、早速それぞれに電話をすると、大手サロンには渋い反応をされたけれど、意外にももうひとつの『hairヘアー salonサロン Douceurドゥシュール』のオーナーは歓迎してくれた。しかも、『今日でもいいよ』と言ってもらえたため、善は急げという気持ちでお願いした。

本店である南青山店には、四十代後半のオーナーの他にスタイリストがふたり、そしてアシスタントの男がひとりいた。他の店舗もスタッフの人數は同じで、麻布あざぶ十番じゅうばん店はオーナーの奧さんが、恵比壽えびす店は別の男が店長をしているそうだ。

「うちのコンセプトは、店の名前通り『優しさと心地好さの提供』ね。ひとりひとりのお客様としっかり向き合って、施でも神面でも最高のサービスを提供できることを目標にしてるから、そのために妥協は一切しない」

厳しい口調のオーナーは威圧がある。聲音からは容赦のない雰囲気が漂い、男だということもあって萎してしまった。

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「試用期間中は麻布十番、恵比壽、うちの順番で一ヶ月ずつアシスタントをしてもらう。店長全員から合格をもらえたら、うちのスタイリストになるために三人のスタッフの施をして、それにも合格したら晴れてスタイリストだ」

さらりと説明されたけれど、それぞれの店長がどんな人かもわからない今の狀況では、どんなものになるのかが想像しにくかった。

「ちなみに、合格をもらえない店舗があれば、そこでまた一ヶ月アシスタントをして再試験に臨んでもらうから。スタイリストになるための試験は三日間で、毎日ひとりずつ施をして店長全員で合否の判斷をする」

最短でも三ヶ月以上、上手くいかなければそれだけ時間がかかるということだ。試用期間は三ヶ月とはいえ、アシスタントの期間がどれだけかかるかは人ぞれぞれで、それを苦に辭めた人もいるのだとか。

「うちはやる気がない子や意識が低い子はいらないし、オーナーとしてもスタイリストとしても全力で取り組んでくれる人と働きたい。だから、経験があっても厳しいけど、一生懸命なスタッフは絶対に見捨てないから」

にっこりと微笑まれ、安堵に似たものを抱く。さっきまでの雰囲気とは一変し、プライドと厳しさの中に優しさをじた。

どうやら、オーナーの藤岡ふじおかさんは思ったほど怖い人ではないようだ。スタイリストになれるまでの工程に対する不安はある。同時に、興味も深まった。

「お疲れ様~」

そんなことを考えていると、明るい聲が響いた。お客様に「いらっしゃいませ」と聲をかけつつ、足音がこちらに向かってくる。すぐにバックヤードにやってきたのは、四十代前半くらいのだった。

「あなたが面接の子ね」

「そう、香月さん。今ちょうど説明が終わったとこだよ」

「そっか。オーナーの妻で、麻布十番店の店長の藤岡夏なつです。はじめまして」

差し出された右手を前に、目を真ん丸にする。そんな私を見て、夏さんは不思議そうな顔をした。

「あのっ……! 以前、埼玉でサロンを経営されていませんでしたか? 『サマームーン』って名前のお店で、レジカウンターに二匹の熱帯魚がいて……」

思わず尋ねてしまえば、今度は彼が瞠目する。私たちを見ていたオーナーも、驚いている様子だった。

「うん、してたよ。この人と結婚したときに自分の店は畳んだけど……もしかして、うちに來てくれたことがあった?」

「はい。まだ高校生だったんですけど、お姉さん……えっと、夏さんがお店を出された頃から三年ほど通っていたんです。サマームーンはうちの近所で……」

「香月……って、もしかして志乃ちゃん 」

記憶をたどるように眉を寄せた夏さんが、程なくして聲を上げる。覚えてくれていたことへの驚きと喜びで、冷靜さを欠くほどの興が込み上げてきた。

「はいっ!」

「うわぁ、懐かしい! すっかり綺麗になったね。それに、あの頃より明るい雰囲気になってる! 當時は高校生だったとはいえ、見違えちゃった」

憧れの人にそんな風に言ってもらえると、面映ゆくなる。

「ずっとうちに通ってくれてたよね。上京するって言ってたけど、容師になったんだね。おめでとう!」

「ありがとうございます。でも、一年くらいブランクがあるんですけど……」

「そんなの、いくらでも取り返せるよ! 自分の腕さえ磨けば、どこでだってやっていけるのがこの仕事なんだもの! これからまた頑張ればいいんだよ!」

が熱くなる。伝えたいことはたくさんあるのに、で泣いてしまいそうだ。

ただひとつ、確かなことは〝ここで働かない理由が見つからない〟ということ。

帰ったら、家で待っている翔に話したいことがたくさんある。彼がアドバイスをくれなければ、私はきっと別の選択肢を取っていた。

たくさんの謝を伝えようと決めたとき、もう自分の中に迷いはなかった――。

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