《我が家の床下で築くハーレム王國》第60話思い出す幸せと思い出さない幸せ

「すいません、わざわざ時間取らせてしまって」

「いいのよ。私今日暇だったから」

俺はクレナティアさん(恐らく年上なのは間違いないので、敬語で呼ぶ事にした)と一緒に、近場にある喫茶店に立ち寄った。ハナティア達を待たせるのは悪いけど、これはある意味でチャンスなのだ。

「それで教えてしい事って?」

「あの、その前に第一前提として知っておいてしい事があるんです。実は俺二十年前のトリナディアの事故のショックで、記憶を失っているんです」

「うん、知っているよ」

「え? どうして」

あの事故は、クレナティアさんがトリナディアを去った後の事件のはずだから、俺の記憶喪失の話どころか、恐らくトリナディアの事件の事も知らないはずなんだけど。

「ハナティアから何の話を聞かされたか知らないけど、私普通にトリナディアにたまに出りしているのよ」

「でも、勘當されたって」

「確かに私は王家からは勘當された。でも勘當イコール國外追放にはならないでしょ」

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「確かにそうですけど。ハナティアは」

「あの子は知らないだけなの。多分知っていたとしても、私には會いたくないと思う」

「どうしてまたそんな事を」

「だって、あの子は私を恨んでいるもの」

「恨んでいるなんてそんな」

以前ハナティアが姉の事を話した時、決して恨んでいるような口ぶりはしていなかった。むしろ姉である彼に會いたがっていたはずだ。

「ハナティアはむしろクレナティアさんに會いたがっていました。名前を覚えていてくれていた事も喜んでいましたし、涙も流していました。そんな人が恨んでいるようには俺は思えません」

だから俺はクレナティアさんにハナティアの今の想いを理解してほしくなって、そんな事を言ってしまう。

「噓……。あの子、私の事をそんな風に」

「クレナティアさんがどうして勘當されたのかは俺には分かりませんが、そのせいでハナティアが苦しむ事になって、それを恨んでいると考えているならそれは間違いだと思います。むしろハナティアは、あなたが見ないところで確実に長していると俺は思います」

「ハナティア……」

その過程を全て見てきたわけではないから、どうこうとは語れないけど、もし恨んでいたとしたらあそこまでしっかり者の姫としてトリナディアのてっぺんに立っていない。

むしろ彼はその仕事を誇りに思い、一番に國の事を考えている。だから俺は、そんなハナティアに惹かれる事になったんだけど、それはまた別の話だ。

「って、話が逸れちゃいましたね。クレナティアさんは昔の俺を知っているんですよね」

「うん、そうだけど」

「だったら俺の両親の事、教えてくれませんか?」

「え? しょ、翔君の両親の事? 」

「何で揺するんですか? 別に俺は知っている事を教えてしいだけで」

「え、えっと、それは……。今は教えられないかな」

「な、何でですか? 俺はただ知りたいだけなんですよ」

あからさまに目線をそらすクレナティアさん。まさか初めて話す彼にまでそんな態度を取られるなんて、予想できなかった。

「知りたい気持ちは大切だと思う。記憶喪失なら尚更。でも、思い出さない方がいい事もあるの」

「思い出さない方がいい事?」

ここまで隠し通そうとしているという事は、余程の事なんだろうけど、どうしてそれが思い出さない方がいい事ってなるのだろう。妙に納得がいかない。

「とりあえずこの話はなし。私これから用事があるから、今日はこの辺で」

「でもさっき、今日は暇だって」

「用事思い出したのよ。これ私がトリナディアで住んでいる場所だから本當の覚悟ができたら、訪ねてきて」

そう言いながら何かを書きなぐって、それを俺に渡してくる。どうやらトリナディアの地図に自分の家の場所を記したようだ。

いや、そんな事はどうでもいい。

「あ、ちょっとまだ話が」

「翔君の知りたいって気持ちは私も分かるよ。でもそれを急ぐのはダメよ」

「別に急いでなんか」

「いい? ハナティアやサクヤも教えてくれないから聞こうとしたんだと思うけど、多分他の人に聞いてもまだ誰も教えてくれないわよ。だって今のあなたは……」

「今の俺がは?」

「あ、ごめん。もう行かなきゃ。じゃあね」

クレナティアさんはそう言い殘して喫茶店を出て行ってしまた。

「せめてお金払ってから、帰ってよ」

結局俺は飲みを奢らされただけで、大きな報を得る事はできなかった。

(何だよ、思い出さない方がいい事って)

まるでその方が幸せみたいな言い方じゃないか。

■□■□■□

トリナディアに戻った頃には既に二時間が経過していた。ハナティア達は俺が戻ってくるまでの間、暇だったのかあの実大ボードゲームで遊んでいたらしい。

「遅いじゃないか……翔平」

「悪い悪い。ちょっと買いに時間がかかって」

「どれだけ……待たせるんですか」

俺の予想通りこの実大人○ゲームは力をかなり消費するらしく、雪音と正志は汗だくだった。ハナティアはというと、

「おかえり翔平! 隨分と遅かったわね」

「何でお前はへっちゃらな顔しているんだよ」

「私これでも運しているの」

「いや、元運部の正志がヘトヘトなくらいなんなから、ちょっとやそっとの運じゃ何とかならないだろ」

汗水一つ流してなかった。

「まあ三人で楽しんでたならいいんだけどさ。ほら、飲みとか買ってきたぞ」

「わーい」

「翔平、とりあえず飲みくれ……」

「私も……ください」

「どれだけ地獄だったんだよ二人共」

むしろ俺もこっちの方で遊んでみたくなったよ。

「ぶふぁ、生き返る」

「ハナティアちゃん、よくこんなの作りましたよね」

「こんなのとは何よ。これでも最高傑作なんだから」

「最高傑作、ねえ」

聞いたじでは殆どサクヤが作ったような気がするけど、その所は今度サクヤにでも聞いてみよう。

「じゃあ実大も終わった事だし、今度はこっちの本家の」

「「もう勘弁してください」」

今日を境に、二人はしばらく人○ゲームをやらなくなったらしい。

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