《我が家の床下で築くハーレム王國》第72話は腕の中で

「お前、何をそこまで悩んでるんだよ。ハナティアちゃんと家族になろうとしているんだろ? それだけで幸せになれるんじゃないのかよ」

「幸せだと思っていたよ俺も。けど、家族になる事があいつを苦しめる事になるんだ」

「苦しめるって、そんなのお前が勝手に決め付けているだけだろ」

「決めつけてなんかいない。多分この事はサクヤも知っているんだ。それでも彼は國のために働こうとしているハナティアを見て、今まで言えなかったんだ」

「そんなに重い話なのか?」

「……ああ」

知らなければ俺もここまで悩む事はなかったと思う。でももし知らないでその時まで來てしまっていたら、もっと早く知っていればと後悔しているかもしれない。

(だからこの事はハナティアには黙っておきたかった)

でもそれだと、今回の件を解決させる事ができない。だから俺はどうすればいいか分からなくなっていた。

「どういう事をお前達が抱えているか知らないが、それで家族になる事を諦めるくらいのだったのか?」

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「家族にはなりたかったさ。でもそれを諦めないとハナティアが……」

「それを乗り越えようってお前は一度でも考えなかったのか?」

「乗り越える?」

「今回の件だけじゃない。きっとこの先お前達は苦労する事になる。その度に一緒に乗り越えるのが、本當の家族じゃないのか?」

「それは……」

「まずはハナティアちゃんを見つけて、二人でゆっくり話し合う必要があるんじゃないのか? きっとハナティアちゃんなら分かってくれる」

俺はただハナティアが死ぬかもしれないという事にただ怖くなっていた。クレナティアさんに話すなとは言われていたけど、彼を大切にしたいなら二人で向き合うべきなのかもしれない。

(この五ヶ月、俺とハナティアはそうやってたくさんの事を乗り越えてきた)

本當に夫婦になるなら、今回の件も乗り越えないとこの先もっと辛くなる。その為にはハナティアを見つけて俺は……。

「人間一人じゃ乗り越えられないことがある。だけど二人なら……乗り切れるんじゃないのか?」

「二人なら……」

「それが家族なんじゃないのか?」

「それが家族……」

「お前がハナティアちゃんを支えないで、誰が支えるんだよ」

「っ!?」

「しっかりしろ、翔平!」

正志の聲でハッとした俺は、次に俺はトリナディアへの口となる場所へと駆け出していた。

五ヶ月前ハナティアがここから突然姿を現して、全てはそこから始まった。ハナティアがあの日俺に再會する為にここに來たのなら、今度は俺がハナティアを見つけに行かなければならない。

そして、その時に俺は……。

「ったく、世話の焼ける親友だよ、あいつは」

■□■□■□

トリナディアを飛び出してからどれ位の時が経ったか分からなくなっていた。時間を確認できるものも、食料も何も持っていない。ただ私は逃げたくて、ひたすら走って気が付けばあの場所へいた。

(ゴールデンウィーク以來、ね。ここ)

ゴールデンウィークの際に事件に巻き込まれて二人で過ごしたあの水場。今はあの窟も誰かによって整備され、前回のような事件が起きないくらいの安全は確保されていた。

(ここで私は翔平と……)

あの時翔平は何も思い出せていなかった。翔平が記憶喪失なのは十五年前から知っていて、ずっと再會できる時を待ちんでいた私は、それが辛かった。それでもあの時ここで過ごした時間は私にとって幸せだった。

幸せなのはそれだけに限った話じゃない。

この五ヶ月、翔平は私を々な場所に連れて行ってくれて、沢山の思い出を作ってくれた。もう地上に上がれなくなる事を忘れてしまうくらい、それらの思い出は私にとっては楽しくて、翔平と一緒にられる事が何よりも私の幸せだった。

(でも……翔平は……)

私と一緒にいる事が苦痛にじていたかもしれない。ただでさえ記憶を取り戻すのが辛いのに、私と再會したからこそ々不便なこともあったはずだ。告白してくれたのだって、本當は私に対しての同から生まれたものだから、家族になる事を拒んだ。

(それを分かってしまったのに、どうして私は……)

翔平を嫌いになる事ができない。

「翔平……。私寂しいよ……。あなたが側にいない事が……」

気がつけば私はそんな事を呟いてしまっていた。

「だったら、もう寂しい思いなんかさせない! 絶対に」

「……え?」

突然聲がしたので私は振り返る。そこには翔平の姿があった。

「翔平……どうしてここに?」

「悪かった」

「い、いきなり何?」

「昨日はお前を騙すような事をして、悪かった!」

私の眼の前で土下座をする翔平。予想外の行に、私は揺してしまう。

「ど、土下座なんてしないでよ。私何も気にしてないから。それに勝手に逃げ出したのは私だし」

「お前は何も悪くないんだよ! 俺が……悪かったんだ!」

「だから何を言って」

私が翔平に近づくと、翔平は顔を上げてそのまま私を抱きしめてきた。予想だにしない行に、私は目をパチクリさせて何も言葉を発せない。

「もうお前を離さない! 子供を産まないでほしいだなんて言わない。だから……こんな俺を許してくれ」

「翔平……?」

「ここに來るまでずっと考えていたんだ。お前がどれだけ大切なのかって。そして気づいたんだ。俺の隣にいてほしいのはお前だけだって」

翔平は言葉を紡ぐ。私はそれを黙って聞いていた。

「だからもう迷わない。俺はこの先ずっとトリナディアでお前と一緒に過ごす。どんな事が起きても、もう離さない」

「私も……翔平が隣にいないなんて考えられない。會いたくないとか言っておきながら、翔平を忘れる事ができなかった。それほど翔平の事を私は好きなの」

「分かっているよ。だから……ハナティア、俺と結婚してほしい」

その言葉に偽りがない事はすぐに分かった。これは翔平が本當の気持ちで伝えた言葉。そして私がずっと待ち続けた言葉。だから私はその言葉に誠意を込めて返事をした。

「……はい」

今にでも溢れそうな涙を我慢し続けながら。

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