《我が家の床下で築くハーレム王國》第79話頑張れ
四年前の事故で、親友を失い、もう一人の親友は歩く事が出來なくなってしまった。それ以來俺達は疎遠になっていて、時々顔を出してはいたもののそれもたかが知れていた。
(その時の流れが、自然と俺と沙羅の関係さえも)
なかった事にしてしまっていた。
「翔平君は私を一人にしたいの?」
「違う、俺はそういうつもりで言ったんじゃない」
「だったら、もう一人にしないでよ!」
だからその分だけどれだけ沙羅が寂しい思いしていたのか、全てではないけど理解できる。その想いが今の言葉にもこもっていた。
「本當は私だってこんな足にならなければ、翔平君とも一緒の學校に通えたかもしれない。大好きなピアノだってもっと続けられたかもしれない! でも……でも私は……」
うつむく沙羅。地面には彼が流しているであろう涙が零れ落ち、一つ一つがシミとなって殘っていく。沙羅の必死の訴えは、俺の心に響いている。それでも俺は、彼のその辛い気持ちを全てけれる事ができない。
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この痛みを理解できるのは自分自。今俺がどう言っても彼を辛くさせてしまうだけ。だから俺は言葉をかける事ができなかった。
「ねえ翔平君、私は……生き殘っちゃいけなかったのかな」
「そんな事ない。沙羅は何一つ悪い事なんてなかったんだから」
「だったらどうして! 優だけが死ななきゃいけなかったのよ」
「それは……」
「ねえ教えて! 私は本當に生き殘ってよかったの?」
生きる。
それは當たり前の事で、誰にでも平等に與えられた事。でも時にしてそれは、殘酷なくらい人を苦しめる事がある。
今の沙羅はそうだった。四年間ずっと彼は苦悩し続けたんだと思う。彼の代わりに自分が生き殘ってしまった事を。だから俺はその彼に対して、當たり前の言葉をかける。
「死んでいい人間なんていないんだよ、沙羅! 確かにお前は四年間苦しみ続けて、俺が想像できないくらい苦しんでいたのかもしれない。けど、どんなに辛い事があっても死んでいい人間なんて一人もいないんだよ」
「翔平君は何も知らないくせに、どうしてそこまで言えるのよ」
「俺も十五年前に通事故ではない事故に巻き込まれて、姉を失っているんだよ」
「……え?」
それは自分も似たような環境であった事を思い出したからこそかける事ができた言葉。俺も記憶を取り戻してからは何度も苦しんだ事はあった。それでも俺は、必死に生きようとした。今の沙羅のように何度も苦しんで、それでもハナティアが俺の側にいてくれて。
たとえ記憶がなくても。
たとえハナティアとの思い出も全て忘れてしまっていても。
俺は今を生き続け、そしてハナティアは俺に生き続ける理由を與えてくれた。
「俺さずっと忘れていた事があって、それを最近取り戻したんだよ。小さい頃に事故に巻き込まれて、記憶喪失になっていたんだ」
「記憶喪失?」
「そう、記憶喪失。だから姉さんが死んだ本當の理由を知った時も辛かったし、何より大切な事を全て忘れていた事が一番辛かった」
「私が知らないところで翔平君はそんな事を……」
「でも死にたいなんて一度も思わなかった。なんでか分かるか?」
「どうして?」
「お前と同じように俺には大切な人がいるからだよ。沙羅にもいるだろ? 俺以外にも孤児院の子供達がいるじゃないか」
「あ……」
沙羅は何かを思い出したかのように顔を上げた。そう、沙羅には俺や優以外にも彼を支えてくれた人達がいる。院長さんや孤児院の子供達。彼にも帰る場所がある。
「その人達の為にも生きたほうがいいんじゃないか?」
「私……私……」
「俺もしばらく會えなくはなるけど、必ずどこかで會いに行くよ。ただ、沙羅の願いを葉える事はできないけど」
「翔平くぅぅん」
沙羅は車椅子からを投げ出す。それを俺はけ止める。こんな所ハナティアに見られたら怒られてしまうけど、今はせめて彼の気持ちを癒してあげたい。
「沙羅、頑張れ! 俺はお前を応援しているから」
「……うん、私頑張るから」
夏も終わりが近づくこの日、俺は沙羅と破る事のない約束をわしたのであった。
■□■□■□
墓參りから帰った後は、沙羅は何事もなかったかのように孤児院での仕事を再開。俺も同じように手伝いを再開する事にした。
「隨分と長いお出かけだったな、翔平」
戻ってきてしした後、掃除を一度終えた正志が聲をかけてきた。雪音も雑巾を絞りながら、會話に加わってきた。
「遅くなって悪かった」
「でもちゃんとした理由があったんだから、責めたりしないよ」
「そうですね。私達にずっとその事を黙っていたのは、々許せませんが」
「まさか……話を聞いたのか?」
「勿論」
「はい」
當然かのように答える二人。あまり他の人に話したくなかったんだけど、院長さんに口止めするのを忘れていた……。
「お前も結構苦労していたんだな」
「苦労したのは俺じゃないよ。一番苦労したのは」
孤児院の子供達に絵本を読んであげてる沙羅に視線を向ける。彼は俺の視線には気づいていないのか、何事もないように読み続けていた。
「なあ正志」
「ん?」
「って時々強い所があるよな」
「何だよいきなり」
「何でもない」
四年もああやって生き続けてきた彼を、俺はしだけ羨ましくなった。
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