《寢取られ令嬢は英雄をでることにした》嵐の前れ【続々編】

* * * * *

高い天井、絢爛豪華な彫刻に、しい天井畫。

広々とした謁見の間の上段には、白髪が々混じった銀髪に紅い瞳を持つ老齢の男が座している。

そして段を下げ、やや離れた位置には複數人の人影があった。

その人々の背には、他國の紋章が刻まれている。

「面を上げよ」

老齢の男、國王の言葉に集団が顔を上げる。

「遙々よくぞ參った。貴公らが無事我が國へ著いたこと、心から喜ばしく思う」

その聲には労いのが濃く滲んでいた。

心からの言葉に使節団の代表はしばかり表を和らげ、微笑んだ。

「お心遣い、痛みります。突然の訪問にも関わらずれてくださり、謝の念に絶えません」

「何、突然と言えど數日前には手紙は屆いていた。そこまで恐される必要はない」

「はっ、ありがとうございます」

代表は自の名を名乗り、本日訪れた理由を述べた。

それを黙って國王と王妃は聞いていた。

そして國王と代表は互いに視線を合わせる。

その目には確固たる意思があった。

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夕食後、居間でライリーと共に過ごしていた。

ライリーから聞かされた言葉に目を丸くする。

「確か南の方にある國でしたわよね?」

「ああ、そうだ。我が國とはそれなりに易もあり、比較的友好的な関係を築いている」

シェルジュ國。南に隣接する國の、更に向こうにある國だが、隣接している國の面積が細長いため、隣國と大河を挾んだ先に位置する。

凄く離れているわけでもないが、近いわけでもなく、普段は手紙のやり取りが主らしい。

その國から本日、使節団が來たという。

一応、國にはシェルジュ國の大使もいる。

今日はその大使と使節団が登城したそうだ。

「でもこの時期に何かあったかしら?」

今は社シーズンでもない。

大使などを呼んでの政が絡んだパーティーというなら、他の國の者も招待するだろうし、今回は使節団の訪問なのでシェルジュ國側からの働きかけである。

ライリーがし言い難そうに口を開いた。

「あー、それで、ショーン様が明後日、エディスに王城へ來てしいと言っていたんだが……。大丈夫か?」

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ショーン殿下が?

「わたしに?」

「ああ、使節団が來た件でちょっとな」

濁された言葉に、ここでは話せないことなのだろうとすぐに見當はついた。

しかしその容までは予測がつかない。

それに今は結構忙しい時期でもある。

ライリーにプロポーズをされてから、わたし達は結婚式に向けて準備を始めている。

本音を言えば、お互いだけを呼んでの控えめだけど溫かい式を挙げたかったのだが、英雄という立場上、それは難しい。

王族ほどではないが、それなりに大きな式を開くことになってしまった。

費用は半分以上王家が負擔してくださるらしい。

そうして招待客は王族の方々からライリーと関わりのある貴族達。これが結構多い。ライリーの部下や國の中樞は貴族ばかりだから仕方がない。

結婚すると報告したら、領地に戻っていたはずのお母様は驚くほど早く王都へ戻ってきた。

倒れたというお祖父様が元気だったから心配いらない、と王都へ戻った日に顔を見にやって來たお母様は笑っていた。

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そしておめでとうと抱き締めてくれた。

式を挙げる教會の手配や飾り付け、式の後に出される食事などといった様々なものの準備はわたしとライリーだけでは手が足りず、お母様が嬉々として手伝ってくださるおかげで何とかなっている。

結婚するわたしよりもお母様は張り切っていた。

「……明後日ですね?」

「そうだ。朝、俺と一緒に登城するようにと」

「分かりましたわ」

忙しいけど、王族の呼び出しは斷れない。

それにしてもちょっと嫌な予がするわね。

申し訳なさそうに眉を下げているライリーの頬にキスをして、心で小さく息を吐いた。

結婚式も準備など諸々の事で早くとも數ヶ月は先だし、互いにサインを済ませた婚姻屆は先に提出してある。

ただその承認が結婚式當日に下りるだけだ。

ショーン殿下は笑っていらしたけど。

* * * * *

その翌々日、わたしはライリーと共に馬車に乗って登城した。向かう先はショーン殿下の宮だ。

宮へ到著すると騎士が案のために待っていた。

その騎士もライリーの部下で、いずれ結婚式に招待するのかと思うとしばかり不思議な気分になった。

それは顔に出さず、ライリーのエスコートをけ、ショーン殿下の下へ案してもらう。

部屋の前まで案すると騎士は禮をして去った。

その部屋の扉をライリーが叩く。

中から誰何の聲があり、ライリーが返事をすれば、すぐに側から扉が開かれた。

「忙しい時期なのにごめんね」

ソファーに座ったショーン殿下が片手を上げる。

扉を開けてくれたのは、いつも殿下の傍に控えている近侍であったようだ。

中へる際に視線が合ったので目禮をすると、同じように返される。

ライリーと共に勧められたソファーへ腰掛ける。

テーブルの上には來客用だろう、菓子が々と並んでいるけれど、ショーン殿下のところには相変わらずオレンジジャムサンドクッキーが山をしている。

近侍が淹れてくれた紅茶に禮を述べて口をつけた。

「それで、今回呼んだ理由なんだけど」

と、ショーン殿下が口を開いた。

オレンジジャムサンドクッキーを一つ摘むと、矯めつ眇めつして何やら味し始めた。

「うーん、どこから話したらいいのか。……エディス嬢には全部話すべきだよねえ」

珍しく悩んだ様子でクッキーを口にれる。

一口サイズとはいえど、それをポイと口へ放り込んだものだから、近侍の目付きが一瞬鋭くなる。

恐らく行儀が悪いと思っているだろう。

それを咀嚼して飲み込むと殿下が言う。

「まず、ここ數年の間にいくつかの國で街中に魔獣が出現する事件が起こってる。あまり大っぴらになっていないけど、この間の件みたいなやつだね」

わたしは元婚約者の起こした事件を思い出した。

あんなことが他にも起こっているの?

「自然発生ではなく、ですか」

「そう、あれと一緒で人為的なもの」

「しかし魔獣は自然発生する生きだと本で読んだことがございます。一どうやって……?」

魔獣は自然に生まれる生きだ。

から突然変異するわけでも、作り出すことも出來ない、ある意味では自然の生きだと。

それにショーン殿下が頷いた。

「魔獣の発生ってね、魔石に自然に溜まった魔力がある量を超えると活化して生きの形を取るんだ。理由は知らないけどね。それが魔獣と呼ばれてる」

「そうだとしたら、魔道に魔石を使われるのは危険なのではありませんか?」

「いや、それは大丈夫。人の持つ魔力と自然の魔力は質が違うから、人がどれだけ魔力を込めても活化しないんだ」

魔獣は、魔石に自然に溜まった魔力によって発生するが、人の込めた魔力ではそうならない。

それって生命と言えるのかしら?

何だか余計に疑問が増えた気がするけれど、それはとりあえず脇へ置いておきましょう。

「……つまり、最初に溜まっている魔力が問題と?」

「そういうこと。魔獣を討つことで最初に溜まった魔力は四散し、無力化される。それを僕達人間が魔道に転用してる」

なるほど、まあ、確かにそうよね。

魔獣になるかもしれないものを使用するはずがないわよね。でもそう聞くと本當に不思議な話ね。

「だけどね、ある魔師集団がその魔獣になる『活化した魔石』に目をつけた。何らかの魔によって、活化を抑えた魔石を売り捌くようになったんだ」

それって……。

「かなりまずいことですわよね?」

言ってしまえば、んだ場所に、んだタイミングで魔獣を出現させることが出來るのだ。

この前の魔獣事件と同じように。

「うん、各國もこれを重くけ止めているし、その魔師集団……賢者ワイズマンをかなり警戒してる」

「自分達でそのように名乗っているのですか」

ショーン殿下が頷く。

それはまた隨分と自信家な集団ですこと。

いくら自分の力に自信があるからと言っても賢者だなんて、まるでお伽話のようだわ。

ショーン殿下がまたクッキーを食べる。

「今回シェルジュ國から使節団がやって來たのは、実はそれに関係があるんだ」

飲み込み、新しいクッキーを摘む。

「リチャードの記憶を辿っていったらね、我が國にも賢者の端くれみたいなのが潛んでいることが分かって、それを捕らえて々話を聞いたんだけど、そうしたらどうやら集団の拠點がシェルジュ國にあることが判明したんだよね」

「……魔石が富だからでしょうか?」

「そうそう、あの國は他よりも魔獣が出やすいし、魔石の取引も他國よりずっと多い」

ずっと前に淑教育の中で周辺國について學んだ。

その時にシェルジュ國はどういうわけか他國よりも魔獣の出現率が高く、それ故に魔石が富で、他國との取引が盛んだと聞いた覚えがあった。

その賢者とかいう集団にとっても魔獣の出現率が高いのは良いことなのだろう。

扱う商品が多いに越したことはないはずだ。

「その賢者と自稱する集団と使節団が一どのような関係が?」

「率直に言って『賢者を捕縛もしくは討伐する手助けがしい』そうだ。使節団はそのお願いをしに來たんだよ」

「へえ、そうなんですね……?」

ちょっと待ってくださいませ。

使節団がそのお願いをしに來たのは分かる。

でもその件でライリーとわたしが呼び出される理由がないわ。ええ、ないと思いたい。

わたしの心を読んだかのようにショーン殿下がニッコリと笑う。

「それで、陛下はシェルジュ國に英雄を派遣させることをお決めになられたんだよね」

ライリーを見れば視線を逸らされる。

この忙しい時期にライリーがいなくなるの?

國王陛下の命ならば仕方がないのだけれど、一人で結婚式の準備を行えと?

「あ、ライリーだけじゃなくてエディス嬢も一緒に行ってもらいたいんだ」

「え、わたしも?」

「だってライリーの姿を変化させられるのは君だけじゃないか。さすがに他國で獅子の姿は目立つからね」

えええ、わたしも一緒に行くのは決定事項なんですか。拒否権ないですわよね。

結婚式の準備、もうお母様に任せるしかないわ。

橫でライリーが「すまない」と呟く。

ライリーが悪いわけではないので、膝の上にある獅子の手に、自分のそれを重ねてめる。

何でしたかしら。こういうの。

前の世界では、そう、新婚旅行と言うのよ。

まだ結婚していないけれど、そうだと思えば、そこまで嫌なものじゃないはずよ。ええ。

「名目上は魔獣の出沒が増えたことによる一時派遣ってことになってるから、そこのところはよろしくね」

あ、僕も変裝して一緒に行くから安心して。

そうショーン殿下はおっしゃられたけれど、全く何も安心する材料にならないとじたのはわたしだけかしら。

確かにショーン殿下は魔が得意でいらっしゃるから、旅の安全面で言ってもかなり向上するだろう。

でも何というか、振り回されそうなのよね。

ライリーが小さく息を吐くのが聞こえた。

恐らく同意見なのでしょうね。

帰ったらさっそく旅行の準備をしなければ。

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