《寢取られ令嬢は英雄をでることにした》初めての旅(3)

その後、予想通り短時間で戻ってきたライリーと夕食の時間まで部屋でのんびりと過ごした。

ライリーは殘っていたお菓子を時々摘みながら、今日の魔獣討伐での出來事を話してくれて、わたしもお茶會をして過ごしたことを伝えた。

護衛の二人も一緒にいて、話を聞いたのだと言うと「そうか」と笑ったけれど、どこか拗ねたようなじもして可かった。

もちろん、ギュッと抱き著いて「でもライリーと一緒にいるのが一番よ」と伝えるとすぐに機嫌を直してくれたのよね。

それから、そろそろ夕食の時間だと二人で部屋を出れば、丁度フォルト様とレイス様と鉢合わせたので皆で一階へ向かった。

騎士達はそれぞれに食事を摂っており、わたし達もテーブルにつく。

やや大きな丸テーブルには椅子が四つ。

フォルト様、ライリー、わたし、レイス様といったじで席に著いた。

宿屋で働いているの子がこちらに気付いて寄って來た。

「お客さん、何にする?」

「そうだねえ、オススメはどれかな?」

「それならお母さん特製のキノコシチューが味しいよ! ……今日はお客さん達に出すからっていつもよりちょっと多めなんだ」

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のほほんと聞き返すフォルト様に、前半は元気よく、後半は小聲で緒話のようにでの子が言う。

それにキョトンとした後、フォルト様は朗らかに笑った。

「じゃあ僕はそれをもらおうかな」

「私もそれとこのイノシシの香草焼きも」

「ああ、私もその二つを」

「わたしもキノコシチューをお願いしますわ」

フォルト様が「彼以外は多めに頼むよ」と言えば、の子は嬉しそうに笑った。

「かしこまりました! 飲みはどうしますか?」

「シチューに合うものなら何でもいいよ」

「分かりました!」

機嫌な様子での子が去って行く。

そうしてカウンターの奧へ、わたし達の注文したものを伝えている。

それからすぐに飲みを優先して出してくれた。

他の三人はどうやらワインらしい。

わたしのものはオレンジで、一口飲んでみたらオレンジとリンゴのジュースであった。

既に溫めてあったのかキノコシチューも出てくるのが早かった。深めの木のに野菜やキノコ、がたっぷりっていて味しそうだ。スプーンも木製だった。それから焼き締められた黒パン。

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の子が背を向けるとレイス様がフォルト様のと自分のとコップ、黒パンを手早く換し、一口ずつ口にれた。

しばし置いて全て元に戻される。

それはどう見ても毒味だった。

「食べても大丈夫でしょう」

「そっか、ありがとう」

フォルト様もレイス様も當たり前のように食事を始めた。ライリー様も気にした様子はない。

……毒味が必要な分だものね。

わたしも気にしないことにしてスプーンを持つ。

心の中で短く祈りを捧げてシチューを食べる。

ちょっと味が濃いけれど味しい。

この味付けは、多分、かす人に合わせて作ってあるのね。

置かれていた黒パンを手に取る。

……結構い。手で割るのは無理そうね。

これは齧じるしかないと考えていれば、橫からびて來た大きな手がわたしのパンと皿を持っていった。

それを目で追うと、大きな手が皿の上で黒パンを割っていき、食べやすい大きさに分かれた黒パンごと皿が戻される。

「これくらいなら大丈夫か?」

「ええ、ありがとうございます」

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いからシチューに浸して食べるといい」

ライリーは目元を和ませ、自分の食事に戻る。

言われた通り、シチューにちょっと浸けてから黒パンを口に運ぶ。やっぱりいけどそのままより食べやすい。

昔は黒パンが當たり前だったのに、ライリーのお屋敷へ來てからは毎日焼きたての味しいパンだったからこのさは何だか懐かしい。

まあ、わたしは前に食べていた方がくなかった気はする。これは結構い。

だけど不味いってわけでもない。

むしろ黒パンの香ばしさと濃いめの味付けのキノコシチューが合っていて、味しいわ。

「この村の周辺の魔獣はある程度片付いたから、明日は予定通り、朝出立するよ」

割るのが面倒臭かったのか丸々黒パンをシチューに投し、端からそれを食べつつフォルト様が言う。

橫のレイス様の視線がちょっと鋭い。

「他の者にも伝えておきます」

「よろしく〜。……あちちっ」

ライリーの返事を聞きながら、シチューの染みた黒パンを冷まさず口に運んだフォルト様がはふはふと口をかした。

呆れ顔でレイスさんがワインを渡している。

さすがに自分でもそのままはダメだと思ったのか、次の一口はしっかり冷まして食べていた。

リタやユナも別の席で食事を摂る。

他の席でも騎士達がお喋りをしながら食事を口にしていて、ガヤガヤと騒がしいが、嫌な騒がしさではない。

何というか、不思議な安心がある。

の子がやって來て、レイス様とライリーのところにそれぞれ大きめのお皿を置いていく。

そして黒パンが沈んだフォルト様のを見たの子がおかしそうに笑った。

「お客さん、シチュー足りますか? もうれてきましょうか?」

その問いにフォルト様が首を傾げた。

「うーん……。いや、いいよ。足りなかったらもう一度頼むから」

「その時はお気軽にどうぞ!」

「うん、ありがとう」

の子は軽く頭を下げると離れていった。

フォルト様が半分近くシチューを吸った黒パンをスプーンの先でつつき、また端の方から削って食べる。

レイス様とライリーは普通に黒パンを齧って食べていて、二人は格が違うけれど、どうやら食べる量は同じくらいらしい。

レイス様はフォルト様とそう格に差はない。

あ、ライリーがシチューを食べ終えての子に追加を頼んだ。レイス様も頼んでいる。

「二人共よく食べるねえ」

まだ中心はいのか、シチューに浸かった黒パンをつつくのをやめたフォルト様が頬杖をついて左右を見た。

ライリーはともかくレイス様は不思議よね。

「これくらいは騎士ならば普通でしょう」

「私も今日はお手伝いをしましたので普段よりは々多めですが、しかし大いつもこのくらいです」

「いや、そっちはともかくさ、こっちは一どこにそれがってくの?」

「胃ですかね」

フォルト様の突っ込みにレイス様が首を傾げた。

無表なまま、首を戻すとまた食べ始める。

信じられないような顔でフォルト様が黙り、自分の食事を再開する。

それを見ながらわたしも食事を続ける。

わたしが一番ないはずなのに、食べ終えたのは全員ほぼ同時であった。

「明日は朝発って、多分今日と同じじで次の街に著くと思うから、エディス嬢もよく休んでおいてね」

「はい」

それならきっと明日もつらくはないだろう。

「それじゃあ、おやすみ〜」

「おやすみなさい」

フォルト様とレイス様にわたしも挨拶を返す。

「おやすみなさいませ」

ライリーがエスコートして部屋まで送ってくれた。

わたしはもう部屋に戻るけれど、ライリーはまだ明日の予定の確認や準備などあるのだろう。

後ろにリタとユナもついて來る。

「慣れない旅だ、今日は早めに休んでくれ」

「ええ、そういたしますわ」

お互いの頬に口付けを送り合う。

それから部屋の中にわたし達がるとライリーは扉を閉め、リタがしっかり側から鍵をかける。

わたしはソファーに座った。

ユナが荷をがさごそと漁る。

「お湯をいただいてきますので、そのまま眠らないようお願いします」

「分かったわ」

リタが言い、部屋を出ると、ユナが鍵をかけ直す。

ソファーに座ると確かにし眠気があった。

ずっと座っているだけだったけれど、初めての旅で張していたらしく、じんわりとが重い。

振り向いたユナが眥を吊り上げた。

「あ! 寢てはいけませんよ!」

ちょっとソファーに寄りかかっていたら疑われた。

「ええ、大丈夫、起きてるわ。思ったよりも旅って疲れるのね。座っていただけなのに」

「そういうものですよ。私なんて初めて乗合馬車に乗った時は、座席は板張りだし、揺れも酷くて、おり切れるかと思いました」

「それはとっても痛そうね」

「子供ながらに馬車ってつらいものなんだな、と理解しましたね」

どこか懐かしそうに、でもし苦いような顔でユナが「座席の下に布があって、途中からそれを敷いて耐えたんですよ」と笑う。

子供はらかいから余計に痛かっただろう。

その時の話を聞いているうちに、部屋の扉が叩かれ、リタが戻ってきた。

大きな桶を運びれ、それから水とお湯をそこへ何度か往復してユナが注ぎれる。

その間に衝立の向こうでリタに手伝ってもらいドレスをいだ。一人でも一応げるが、そうすると皺が寄るそうで、侍の手が必要だったのだ。

髪は洗わないので頭の上で綺麗に纏めておく。

湯の張られた大きな桶にり、座るわたしにユナとリタがお湯をかけたり布でったりして汚れを落としてくれる。

溫かな湯の溫度にほう、と息がれた。

顔やを洗ったら布で拭いてもらい、リタとユナが手早くわたしの顔に化粧水などを、には香油を塗り込んだ。

それから寢間著を著せてくれる。

わたしの髪を解きながらリタが言う。

「さあ、もう休んでもよろしいですよ」

し眠かったわたしは素直に頷いた。

「ええ、ありがとう。先に休むわ」

「はい、おやすみなさいませ」

ベッドへり、橫になるとシーツがかけられる。

目を閉じての力を抜く。

リタとユナが湯の後片付けをしたり、翌日のわたしの裝を用意したり、控えめにごそごそと聞こえる音が不思議と心地良い。

何もしていなくとも慣れない旅で疲れたらしい。

たまに聞こえてくる二人の囁き聲を子守唄に、わたしは眠りについた。

* * * * *

翌朝、出立の準備を整えて宿で朝食を摂ったわたし達は村を出発した。

使節団の人達もいるけれど、彼らはフォルト様やライリーと話をするくらいで、わたしが関わることはなかった。

別にわたしが嫌われているというわけではない。

単純に、関わる機會がないだけだ。

目的地のシェルジュ國について聞きたかったのだが、使節団は男ばかりなので、聲をかけ難い。

初日と同様にフォルト様と同じ馬車に乗り、車窓を眺めながら過ごす。

フォルト様は揺れる馬車の中で、昨日討伐した魔獣の魔石を矯めつ眇めつして何やら調べている。

どの魔石も親指の爪ほどであまり大きくない。

「どの魔石も小さいのですね」

フォルト様の手の中にある魔石を覗き込む。

くすんだ緑のものや、暗い赤のものなど、濃淡があるけれど、大どれもその二に近い。

「スモールラットもレッドボアも弱い魔獣だからねえ。このくすんだ緑がスモールラット、赤いのがレッドボアの魔石だよ」

差し出された二つの魔石をけ取る。

こうしてみると寶石の原石に見える。

「このの違いは何故でしょうか?」

「溜まった魔力の質だね。緑は風、つまりスモールラットは風の魔力を、レッドボアは赤で火の質を持っているってこと」

質……」

そういえば本で魔には火、土、風、水、、闇の六つの屬があると読んだことがあった。

「スモールラットは弱いけれど風魔を纏って素早くいたり風魔を使ったりするし、レッドボアは火と土に対する耐があって、どちらの魔も効き難い。質はそういった特徴に出るんだよ」

なるほど、魔石にこもった魔力の質によって魔獣の戦い方が変わったり、質というか、そういうものも変化するのね。何だか面白い。

「それと魔導にする際に、付與する魔質と同じ魔石を選んだ方が効果と魔力の効率が良くなる」

「へえ、では魔石と相の悪い魔というのもありそうですわね」

「うん、あるよ〜」

馬車に乗っている間はフォルト様と魔石について話をしていたので、思ったよりも退屈ではなかった。

晝食の時間は休憩も兼ねている。

前日と同じく地面に広げられた敷きの上で、宿で作ってもらった軽食を食べた。

楕円形のパンの真ん中に切れ込みがっており、そこにチーズやベーコン、野菜などが挾まっていて、齧りついて食べるらしい。

濃い味のソースがかかっていて、香ばしく、意外と手が汚れないので外で食べやすい。

……前のわたしのいた世界で、何ていったかしら。惣菜パン? こんなじでパンに々な材を挾んで食べるがあったみたい。

その記憶が頭の中に浮かんでいたので、手に持って齧りつくことにあまり抵抗はなかった。

貴族の食事のマナーから外れる食べ方は、むしろ悪いことをしているみたいで、景の良い森の中ということもあり、し楽しかった。

わたしはリタに頼んで半分に切ってもらったものを食べたけれど、ライリーやフォルト様、騎士達はそれを一つか二つ食べていた。

「外で食べるって開放があっていいよねえ」

片手にパンを持ち、を後ろへ傾けて、もう片手で支えながらのんびりフォルト様がおっしゃられる。

「庭と自然の森は違いますからね」

ライリーもそれに頷いた。

「うん、庭で食べてもあんまり開放はないんだよ」

「フォルト殿の場合はどうしても人目がありますから仕方ないでしょう」

「それは分かってるけどさあ」

フォルト様が豪快にパンに齧りつく。

確かに、そういう食べ方は出來ないわよね。

橫でレイス様が言いたげにしていらっしゃるけれど、こういう狀況だからか、注意はしないらしい。

わたしも殘りのパンに齧りついた。

* * * * *

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