《寢取られ令嬢は英雄をでることにした》初めての旅(4)

午後も馬車に揺られること數時間。

夕方頃に次の街へとわたし達は到著した。

ここでは魔獣討伐の依頼はないようだ。

やや大きい街なのでハンターもおり、周辺で魔獣が出てもその都度きちんと討伐されているらしい。

商人などの馬車もおり、門を抜けるとそれなりに活気のある街中で賑やかである。

宿に到著してそれぞれ部屋を取った。

わたしとリタ、ユナは同じ部屋だが、他は殆どが一人か二人部屋となり、宛てがわれた部屋に荷を置いてから食事にする。

「エディス、良かったら食事は近くの店で摂らないか? フォルト殿とレイス殿も一緒だが」

「いいですね、そうしましょう」

ライリーのいをけて、部屋を出る。

リタとユナはまだ荷を移させなければならないからと、ついて來なかったが、ライリー達がいるのだから心配はないだろう。

それに護衛の二人のうち、クウェントがつく。

シーリスにはリタとユナをお願いした。

ライリーのエスコートをけながら一階へ下りれば、フォルト様とレイス様が待っていた。

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「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「大丈夫、そんなに待ってないよ〜」

謝罪するとフォルト様がニコリと笑う。

橫でレイス様も頷いたのでホッとした。

「宿の者に聞いたんだけど、すぐ近くに味しい店があるっていうからそっちに行ってみたくてね」

ライリーはフォルト様の護衛も兼ねてるのかしら。

でもせっかくの旅だから、立ち寄った街の料理も食べてみたいので丁度良かった。

フォルト様が「店はあっちだよ」と先導し、四人で夕方の街へ出る。

仕事を終えて家へ帰る人々で々道は混んでいたけれど、ライリーに手を引かれ、前をフォルト様とレイス様が歩いているため人にぶつかるようなことはなかった。

宿より數軒離れた店の前でフォルト様が止まる。

「赤い屋で看板が出てる。……ここだね」

高級店でもないが、小さな食堂でもない。

レイス様がお店の扉を開けると、カランとベルが鳴った。

従業員だろう男が來て、わたし達の人數を確認すると、席へ案してくれた。

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席はそれぞれが衝立で間仕切られている。

席につくとメニュー表が置かれてた。

「へえ、魚料理もあるみたいだ」

ライリーに差し出されたメニュー表をけ取る。

「まあ、本當ですね」

陸部なのに魚料理を提供出來るとは。

見たところ海の魚の名前が並んでいるので、恐らく魔で凍らせて保存させたものを運んで來ているのだろう。

他にも鹿や鶏の料理もあったが、わたしは魚料理を選んだ。

ライリーは鹿のソテーと野菜たっぷりのスープを、フォルト様とレイス様は日替わりのオススメだという鶏の香草焼きとライリーと同じスープにしたようだ。

従業員に聲をかけて注文する。

「明日は晝過ぎに出立して、村を二つほど通り過ぎて國境の街へ真っ直ぐ行く予定だから、何か必要なものがあったら午前中の間に買い揃えておいてね」

離れていく従業員から視線を戻したフォルト様に言われて、わたしとライリーは頷いた。

フォルト様が思いついた様子でこちらを見る。

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「何なら午前中に街を見て回ってきたら? エディス嬢も馬車と宿の中だけだと退屈でしょ?」

思わずライリー様を見れば笑い返される。

「そうですね。……せっかくだからし出掛けないか?」

「はい、是非」

前半はフォルト様へ、後半はわたしへの言葉だった。

それにわたしは即答で頷いた。

元々靜かに過ごすことに苦痛はじないけれど、旅に出たのに馬車と宿に引きこもっているのも勿ない。

ライリーと出掛けられるのも嬉しい。

従業員がやって來て、注文した料理が運ばれ、テーブルの上へ並べられていく。

村の宿の食事よりも豪華だ。

でも貴族の食事ほど気取ってもいない。

レイス様がフォルト様の食事の毒味を行い、問題がないことを確認して、全員食事を始める。

わたしは魚のムニエルを頼んだ。

食べやすく切った魚を口へ運ぶ。

たっぷり使っているのかバターの濃厚な香りがして、魚の旨味と甘みが口の中へ広がる。果のソースがほどよく酸味があって、バターでまったりしてしまいがちな味をサッパリさせてくれる。

一緒にっている野菜は彩りも良い。

「この店は當たりだったね」

「ええ、味しいですね」

フォルト様とレイス様がそう言いながら、食事の手を進めていく。

両手に乗るくらいの小さめな鶏を一羽丸ごと焼いたものが二人の前にあり、どうやら中に香草が詰められているらしい。

それをナイフで切り分けて食べている。

ライリーの鹿のソテーも、ソテーというか、どちらかと言えばステーキに近い大きさだった。

の方がよく食べるのは分かっていたけれど、三人の食事を見ると、それだけで満足してしまいそうになる。

小さなスープもついており、そちらはジャガイモのポタージュで、全の量はないものの、どれも味が濃くて量でも十分だった。

それにずっと座ってばかりだから食べ過ぎて、旅の間に太ってしまわないよう気を付けないとね。

最近、やっと健康的になってきたばかりとはいえ、食べ過ぎるのは良くないわ。

食事を終えるとフォルト様に聞かれる。

「二人はこの後、どうする? 僕達はちょっと街を見て回ってから宿へ戻るつもりなんだけど」

し考えてライリーをチラと見やる。

「わたしは宿へ戻らせていただきます。お出掛けは明日の楽しみに取っておきたいので」

「私も今日は特には」

「そっか、分かった〜」

席を立ち、支払いを済ませて、わたし達は店の前で二手に分かれることにした。

フォルト様とレイス様は夜の街へ。

ライリーとわたしは宿へ。

宿ではリタとユナも食事を済ませており、わたしの帰りを待っていた。

わたしを部屋までエスコートしたライリーが自室へ戻ろうとするのを、引き止める。

「ライリー、しお茶でも飲んでいきませんか?」

やはり毎日、ライリーと過ごす時間がしい。

馬車から馬に乗るライリーを眺めるのも好きだけれど、ゆっくりと話をする時間がやっぱり一番だわ。

ライリーは嬉しそうに頷いた。

「ああ、実は、俺もそうしたいと思っていた」

「では中へどうぞ」

部屋へ招きれ、ユナが宿の人に頼んで紅茶を用意してきてくれた。

ソファーに並んで座り、寄り添い合う。

旅に出てまだ二日目だが、今までの生活と違ってれ合ったり話したりする時間が減って、それが寂しかった。

ライリーも同じようにじてくれていたのかしら。

抱き寄せる腕にギュッと力がこもる。

「まだ二日目ですのね。なかなか一緒にいられなくてし寂しいですわ」

何だかもう數日経ったような気がした。

寄りかかってライリーのり寄る。

「さすがに遅くまでの部屋に居座るわけにはいかないからな」

俺も寂しいよ、とこめかみに口付けられる。

に出來ないのも寂しい要因の一つかもしれない。

お返しに頬へ返す。

「でも明日の午前中は一緒に過ごしましょうね」

「そうだな。どこか行きたいところはあるか?」

「そうですね……」

お土産などは帰る時にまた通るので、その時に買えばいいだろう。

あまり大きいものも荷になるから控えるべきね。

本なども嵩張ってしまうし、馬車の中で読むのはちょっと難しそうだわ。

「あ、日持ちのするお菓子を買いに行きましょう」

馬車の中や、外でも気軽に摘めるものがいい。

フォルト様もお菓子は好きだから、買って損になるということもないでしょう。

わたしやリタ、ユナも食べるし、ライリーだって甘いものは結構食べる。

「旅の間はティータイムが出來ませんし、手軽に摘めるものならいいかと思うの」

「確かに甘いものは疲れた時にいい」

二人で紅茶を飲みながら頷き合う。

ドレスが旅用で簡素なものだからか、ライリーの溫がいつもよりずっと溫かく伝わってくる。

このまま眠れたらきっと心地良いでしょうね。

でも婚約中に同衾するわけにはいかないわ。

名殘り惜しいけれど、しばらく取り留めもない話をしてからライリーは自室へ戻っていった。

わたしはユナとリタに手伝ってもらい、部屋に備え付けの浴室で浴し、明日のためにも早めに眠りにつくことにした。

* * * * *

翌日、朝食を宿で摂った後、ライリーと出掛けることにした。

そうは言っても二人きりではない。

ユナと護衛二人もし離れてついて來ている。

それでも初めて訪れる街というのは心踴る。

王都ほど賑やかさはないものの、それなりに人気は多く、ハンターなどを狙ってか食べの屋臺が軒を連ねていた。

時間があまりないので一軒一軒ゆっくりとは見ていけないので、歩きながら店先を覗いていく。

「ドライフルーツもいいですわね。あ、クッキー! こちらには焼き菓子もありますわ!」

どの屋臺からも良い香りが漂う。

「焼き菓子は良さそうだ」

「ではこのお店を見てみましょうか」

腕を組み、二人で屋臺の中を覗き込む。

焼き菓子はクッキーから、小さなカップケーキのようなもの、楕円形に形を整えたものと々ある。

お店の人が「いらっしゃい」と聲をかけてきた。

「どういうのをお探しかい?」

老齢のがゆったりと問う。

「わたし達、旅をしているので馬車や休憩中に簡単に食べられて、日持ちのするお菓子がしいのです」

「それならうちのお菓子はオススメだよ。三、四日は保つからね。しかも卵やミルクを使ってるから栄養もあるよ」

「そうなんですね」

並んでいるお菓子はどれも味しそうだ。

どうやらそれが小袋にいくつかって分けられているようだ。大きさからして多分二つか三つってる。

クッキーもいいけれど、別のお菓子にしよう。

クッキーはお屋敷でもよく食べていたから。

この黃っぽくて焼きのついたお菓子が味しそうね。それに見たところしっとりしていそうで、食べやすそうだ。

「これは何ですか?」

「ああ、それは卵とバターのケーキさ。ミルクも使ってるよ。甘くて、しっとりしていて、子供にも大人にも人気があるねえ」

「わたしはこれにしますわ」

好む人が多いならば味も心配いらないだろう。

ライリーはジャムを挾んだクッキーを選んだ。

「俺はこれを。馬上でも食べられそうだ」

「あら、馬の上で?」

「ジャムクッキーはフォルト殿の前で食べると取られてしまうからな」

「オレンジジャムクッキーがお好きなのは知っておりましたが、ジャムクッキー全般がお好きなのですね」

「ああ、一番オレンジが好きらしいが、ジャムクッキーは大どれもお好きらしい」

それならば、わたしも一つジャムサンドクッキーを買って、それをフォルト様にお渡ししましょう。

は近づいて來たユナが持ってくれた。

ライリーの荷もシーリスがけ持った。

その後、そのお店のおばさまに味しいケーキのお店がすぐそこにあると教えてもらい、そこに行くことにした。

何でも野菜を使ったケーキがあるらしい。

ライリーと共に行けば、開店したばかりなのか人気もなく、窓際の席へ通された。

やって來た店員に野菜のケーキのことを聞くと訳知り顔で頷かれ、勧められたので、それを注文した。

「野菜のケーキとは面白いな」

「果がない時に生み出されたケーキとおっしゃっていましたけれど、味の想像がつきませんわね」

もどんなのが出てくるか」

「緑だったら食べるのに勇気が要りますわ」

味しくないものを出しはしないでしょうし、先ほどのお店の方が味しいと言っていたのだから味は大丈夫だと思う。

二人で何のケーキが出てくるか話していると、それが店員の手によって運ばれて來た。

ケーキは二切れ乗っており、一つは黃味が強く、一つはオレンジがかっていて、どちらにも白いクリームが乗っている。

緑でなかったことに二人で笑った。

「緑じゃないな」

「そうですわね」

そうしてまずは外見を観察する。

味が強い方は全が黃で、上の方にし焼きがつき、表面は艶があった。先ほど買った焼き菓子に近いがそれより味が濃い。

オレンジがかった方は生地にナッツとドライフルーツがっており、黃い方がしっとりと詰まったじだが、こちらはふんわりしているのが見て取れる。

い方をフォークで切り分け、一口食べる。

「! これはカボチャかしら?」

「ああ、かなり甘いな。それにとてもしっとりしていて、カボチャの味が濃くて、でも驚くほど味い」

「ええ、本當に」

カボチャの濃い味にまったりしたクリームが合う。

今までカボチャはあまり口にしたことがなかったけれど、ケーキにしてもこんなに味しいのね。

あっという間に食べ切ってしまった。

これならオレンジの方も期待出來そうだわ。

もう一つのオレンジがかったケーキをライリーが一口食べる。

「ん、こっちは人參だな」

ライリーの言葉に目を丸くする。

「人參、ですか……。苦味はありませんの?」

「ああ、俺はこっちの方が好きだ」

ライリーは五が鋭いから、味や匂いも普通の人より強くじるのだったわね。

それならカボチャのケーキはちょっと濃過ぎるかもしれない。

カボチャのケーキよりもこの人參のケーキの方がライリーの食べる手付きが早いので、かなり気にったのだろう。

そっとケーキの載った皿をライリーへ寄せる。

「良ければわたしの分もどうぞ」

ライリーがキョトンとした。

「いいのか?」

「はい、わたしはカボチャのケーキだけでもうお腹いっぱいですの。食べてもらえたら嬉しいですわ」

「そうか……」

朝食からそれなりに時間は立っているが、それほどお腹も減っていなかったのも事実だ。

カボチャのケーキはかなり胃にずっりしとくる。

それに人參のケーキの方が好きなら、こちらのケーキはライリーに食べてもらいたい。

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