《寢取られ令嬢は英雄をでることにした》賢者(1)

* * * * *

荷馬車に揺られながらライリーは腰に帯びた剣にれる。

マスグレイヴ王國の國王陛下より賜った特別なその剣は五年間、ライリーと苦楽を共にしてきた。

度の高さで有名な鋼を名匠が打ち、柄には魔石がはめ込まれ、王族専屬のデザイナーによって柄も鞘も裝飾されたそれは実用的だがしい逸品でもあった。

魔石をはめ込んでいるおかげで、ライリーが魔力を纏わせても傷まず、そして魔力によってライリーの怪力にも耐えうるようになっている。

今では命を預けられる大事な相棒である。

「ライリーはレイスとシェルジュ國の騎士団と共に正面から派手にって。盛大に蹴散らしてくれれば、僕は我が國の騎士団の半數を連れて裏からひっそりとる。……殘りの騎士はこちらの國の騎士と協力して周辺の警戒と討ちらしの確認ですかねえ」

フォルトの言葉にレイスとライリー、騎士達が頷いた。

そしてシェルジュ國の騎士団長が言う。

「私はフォルト殿と共に裏手に回ろう」

そうして騎士達に指示を出す。

それを目深に被ったフードの下から眺める。

ガタゴトと揺れる荷馬車はお世辭にも乗り心地は良くないが、馬に乗って行けば目立ってしまう。

それ故にあまり目立たない荷馬車に乗り込んで、王都にある賢者の拠點へ向かっていた。

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者は老齢の和そうな男だが、長年主人の耳・を務める者らしい。シェルジュ國の者はそれを知らない。

フォルトと騎士団長の話に耳を傾ける。

ライリーは基本的に外の席では會話をしない。

揚げ足を取られないようにするためというのもあるが、何より、殆どの場合相手がライリーに話しかけないからだ。

そしてライリーも言葉ない返事だけだからだ。

それに戦う前のライリーは々気が立っている。

本人は集中しているつもりなのだが、周囲から見ればそのように見えるため、話しかけようとする猛者はない。

「抵抗されたらどうしますか」

「頭領、もしくは魔師は生かして捕縛したいですねえ。他はどうでもいいですけど、そちらが捕縛したいというのであればそうします」

「いえ、こちらとしても捕縛してもどうしようもありませんから、抵抗するようであれば切り捨てて構いません」

「ではそのようにしましょう」

ガタリと荷馬車が大きく揺れる。

そして者臺の方から三度、床板を叩く音が響いた。

目的地に到著したらしい。

全員が顔を見合わせ、頷いた。

外を覗けば目的地のすぐ近くの路地裏に停まっているようで、和な顔立ちの者が無言で角を指し示した。

そっと角を覗けば堅牢そうな石造りの倉庫らしき場所がある。

フォルトも同じように様子を見た。

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「あそこですか」

「報告によるとそうだね」

小聲でフォルトが返事をする。

手で指示を送り、極力音を立てないように騎士達を配置につかせる。

フォルトは騎士団長と共に裏手へ回った。

普段ならば主人の側を離れないレイスだが、今回ばかりは戦力の分配的にこちらへ來ざるを得なかった。

ライリーは強いが魔が使えない。

そのため、相手が魔師で、それも相當な手練れだった場合は危うくなる。

そのためにレイスを支援要員としてこちらへ回したのだ。

フォルト抜きで共に戦うのは初めてだ。

「準備はいいか?」

「ええ、いつでも」

互いに短く問い、答え、背後の騎士達に視線を向けると、騎士達も頷いた。

自國の騎士はライリーを頼もしく見ていたが、シェルジュ國の騎士達は表がやや強張っていた。

その表をライリーはもう見慣れており、特に何かを思うことはなかった。

視線を前へ戻す。

「行くぞ」

路地裏からライリーは飛び出した。

その後をレイスと騎士達が追う。

走りながらライリーは全に魔力を巡らせる。

そしてその勢いのまま、分厚い鋼鉄製の扉へ強烈な蹴りを食らわせた。

耳をつんざく派手な轟音が響き渡り、分厚いはずの鋼鉄の扉が蹴りをれられた真ん中辺りから側へひしゃげ、壁に叩きつけられていた。

その轟音に慌てて出てきたならず者達が見たのは、出り口の前に立つ大柄な獅子の姿だった。

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「邪魔するぞ」

見たこともない存在にならず者達は一瞬揺したが、すぐに持ち直す。

「何者だテメェ!」

「ぶっ殺してやる!!」

男達が口々にびながら剣を抜く。

だがライリーは剣を抜かずに、袖をいくらか捲ると悠然とした足取りで中へ踏みった。

先頭にいた男がびながら剣を振り下ろす。

ライリーが腕を上げる。

剣はライリーの腕を切り落とすような軌道で振られ、そしてガキィンと音を立てて止まった。

「な……、はあっ?!」

袖を捲った腕で剣を止められた男は、目の前の景が信じられず驚愕に目を見開いた。

だが次の瞬間、その腹部にライリーの拳が沈んだ。

鈍い音とくぐもったき聲と共に男が崩れ落ちる。

ライリーは剣を止めた方の腕を軽くかして異常がないかを確認すると、奧へ進むために歩き出す。

その一連の流れを見ていたならず者達は悲鳴を零し、ある者は無謀にもライリーへ突っ込んでいき、ある者は怯えて奧へ逃げ込んだ。

突っ込んできた者の頭を長く太い腕でわし摑み、ライリーは壁へ叩きつける。

通路は狹く、ライリーが両手を広げようとすればすぐに壁に當たってしまう。

そんな広さの場所で長剣を振り回しても、壁に邪魔されて思うようにはけない。

それならば強化をして応戦した方がいい。

音を聞きつけたのか前方の扉が次々と開いていく。

「オイ、侵者だ!!」

「見張りは何をしてる?!」

「何だアイツは?!」

明らかに混している様子の男達にライリーは手にしていたものをひょいと放り投げた。

「見張りというのはこれか?」

今、壁に叩きつけられたばかりの男のが、奧にいる男達の上へ落ちる。

気絶した男が降ってきたものだから、男達は逃げ道もなく、それをけ止めるはめになった何人かが床へ餅をつく。

その瞬間、床からぶわりと黒い影が立ち上がり、襲いかかる。

「な、何だこれ?!」

「ぎゃあ! イテェ!!」

「く、くるしい……っ」

襲いかかった影は男達を飲み込むとギュウギュウにそれらを締め上げる。

ライリーの後ろからレイスが前を覗き込んだ。

「これでは進行の邪魔になりますね」

そう呟いて手を振れば、近くの扉が開き、影に締め上げられていた男達は勢いよくそこへ放り込まれた。

ライリーはし通りやすくなった通路を進む。

用心棒なのか賢者の一員なのかは知らないが、湧いて出てくる男達を派手にのしていく。

進んでいくといくつかの部屋の中に、傷だらけの商売が怯えて隅に蹲っていたり、奴隷らしきボロボロの姿の者が檻の中に閉じ込められていたりして、ライリーは不快さに小さく唸った。

途中から通路が広くなり、そこでようやくライリーは剣を抜いた。

レイスは先ほどから闇魔以外にも、風魔で脇の部屋にいた者達を窓の外へ弾き出したり、防用の結界で見えない壁を生み出して男達がそれにぶつかったりと、なかなかに嫌な戦い方をしている。

もし前にライリーがいなければ風魔で通路にいる人間を全て奧まで吹き飛ばしていたかもしれない。

ライリーは襲いかかってきた男の剣をけ流し、その男を袈裟懸けに切り捨てる。

の臭いが充満し、それにライリーはフンと小さく鼻を鳴らした。

コツリと聞こえた足音にライリーが振り向く。

そこにはローブを纏った人影があった。

「……化け

そう聞こえた聲はのものだった。

そして詠唱が聞こえる。

ライリーは足に力を込めると跳躍するように間合いを詰めた。

一瞬で近付いたライリーにが詠唱を口にしながら、後方に下がり、片手を向ける。その手から風の斬撃が放たれる。

それらをライリーは剣で弾いて打ち消した。

更にもう一歩踏み込もうとしたが、火の玉が正面から飛んでくる。

それをレイスが水魔で壁を作り消す。

から舌打ちがれた。

「大人しく投降しろ」

「斷る!」

の言葉と共にもう一度火の玉が放たれた。

ライリーはぐっと床を踏むと、再度勢いよく前へ飛び出した。

火の玉に真正面から突っ込む姿にが口角を引き上げた。

だが、火の玉の直撃をけたはずのライリーはその中から飛び出すと薄する。

が目を見開き、次の魔を行使しようとばした腕を、ライリーは下から斜めに切りつけた。

「あああっ!!」

が切りつけられた痛みにぶ。

數歩下がったの足元に真っ二つに切られた腕がごとりと落ちる。腕には小さな魔石がいくつもついていた。

そしての首にライリーの剣先が突きつけられる。

「これで無詠唱では使えまい」

の魔力量は大したものではない。

それなのに詠唱をしながら、無詠唱で別の魔を行使出來たのは、魔石があったからだ。

ライリーは魔石の魔力をじ取って、それを的確に排除したのだ。

が切られた腕を押さえながら唸る。

「お前らに捕まるくらいなら死んだ方がマシだ……!」

「そうか。では仕方がないな」

「っ……」

ライリーが剣を構えたことでが目を瞑る。

しかしライリーはの腹部に加減して拳を叩き込んだ。

「ぁ、」

小さな悲鳴を零してが気を失った。

レイスが取り出した魔を拘束する。

には魔石がはめてあり、裝著すると対象の魔力を吸い取り、封じることが出來る。

「なかなか本命が出て來ないな」

「隠れているのか、それともフォルト様の方が既に捕らえたか、どちらにせよ全滅させる必要があるでしょう」

「そうだな、全員炙り出すか」

耳を塞げ、とレイスと後方の騎士達に言い、ライリーはすうっと大きく息を吸い込んだ。

そして腹に力を込めると咆哮をあげた。

野生の獣を思わせるそれが空気を震わせる。

先ほど気絶したはずのが間近での咆哮に飛び起きたが、その目は恐怖に染まっており、哀れなことに失してしまった。

咆哮は石造りの通路を通り建中に響き渡ったことだろう。

近くの扉が開いて人影が飛び出そうとしたが、開いた扉をライリーは瞬時に摑んで押し戻したため、出ようとした人間が強かに頭を打ちつけたのが扉越しにライリーの手に伝わった。

靜かになったので恐らく気絶したと思われる。

レイスがライリーに呆れたような視線を向けたが、ライリーは気にせず奧へ向かう。

先ほどのライリーの咆哮を聞き、気の弱い者は恐怖で逃げ出し、耐え切った者も、ライリーの姿を目の當たりにするとを震わせた。

ライリーは覚えのある魔力をじて顔をあげる。

「あれ、ライリー?」

通路の先から姿を現したのはフォルトだった。

どうやら表と裏の両側から互いに突き當たってしまったようだ。

フォルトとライリーは顔を見合わせ、そして同時に足元を見遣った。

「……じた?」

「ええ、地下にいるようですね」

魔力の気配が足の下にある。

どこかに地下へと続く道があるはずだ。

今まで気付かなかったのであれば、恐らくり口は隠されているのだろう。

そういうことに得意な人へ視線を向ける。

フォルトとライリーから視線をけたレイスは一つ頷き、目を閉じると詠唱を口にする。

彼の足元の影が小さく蠢くと弾けるように広がった。

それは床へ染み込み、倉庫中の床へ広がると、レイスが目を開けた。

「それらしき場所を二つ見つけました。一つはこちらの通路を戻り四つ前の扉の部屋の床に、もう一つはそちらの通路を進んで右に曲がり、三つ目の扉の部屋の床に仕掛けがあるようです」

レイスの足元に影が戻っていく。

「じゃあ僕達はこっちからだ。ライリー、る前にもう一回咆哮よろしくね」

「分かりました」

ライリーの咆哮は威圧効果がある。

獅子の魔獣がそうであったように、明確な意図を持って威嚇の咆哮をあげると威圧だけでなく恐怖も相手へ植えつけることが出來る。

それによって神面が弱い者を混させたり戦意を失わせたりも可能であった。

ライリーとレイスはフォルトと分かれ、元來た道を戻る。

「ここです」

レイスの言葉にライリーはその扉を開けた。

倉庫として使われているのか、室には木箱がいくつか積み上げられている。床が妙に綺麗だった。

部屋にったレイスが部屋の中央右側に置かれた木箱の前辺りを指し示す。

「この辺りに恐らく隠し通路があります」

ライリーは頷くと床に手を這わせた。

すると一部に指を引っ掛けられそうな場所を見つけ、そこに指を差しれて、摑むと引き上げた。

ギィと小さな音を立てて床板が持ち上がる。

瞬間、式が展開して氷の矢が數本放たれた。

ライリーが剣で叩き落とすよりも早く、レイスが風魔で軌道を逸らし、氷の矢はライリーの脇を抜けてその先の壁へ全て突き刺さった。

「助かる」

「いえ」

互いに短く會話し、ライリーは持ち上げた床板を木箱へ寄りかからせた。

そしてそこに現れた階段を見る。

二人は頷き合い、ライリーが息を吸う。

レイスが耳を押さえた。

隠し通路へ向けてライリーが咆哮をあげた。

それは空気をビリビリと揺らしながら通路の中を駆け抜けていった。

そして二人はライリーを先頭にして階段を降りていく。

明かりがないためレイスが球を作り出したが、あまり大きくはない。レイスはが不得意であった。

それでも足元やし先は見えているし、ライリーの目は暗闇でもそこそこ見えるので問題ない。

暗い階段を降り、通路を進む。

殆どの扉には鍵がかかっていた。

その中から人の気配はじられない。

そして突き當たりの扉をライリーは開けた。

が、開けた扉の向こうから風魔の斬撃が飛んで來たため咄嗟に扉を閉めれば、木製の扉がライリー達の代わりにズタズタに切り裂かれた。

ライリーはその扉を蹴り開ける。

バキリと音を立てながら壊れた扉と共に中へると、広い空間があり、そこにはローブをに纏った者達が三人立っていた。

「まさかここまで來るとはな。……マスグレイヴの化けめ」

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