《寢取られ令嬢は英雄をでることにした》結末と親會
「まあ、こういうじだったかな」
そうフォルト様は話を締め括った。
隣に座ったライリーがわたしの手を握ってくれる。
今回、賢者ワイズマンの捕縛により賢者の首領とされた者と四名の主だった幹部、以下賢者に屬していた者達を一掃した。
そして賢者の実態も判明した。
この集団は結局のところ一人の復讐者によって全員が上手く踴らされ、騙され、良いように扱われていたのであった。
頭領と目された人は十歳の子供だったそうだ。
亡國ガルフレンジアの殘された皇族。
そして影の首謀者であったガイズという男に隷屬させられた哀れな皇子。
彼は未年であることと、隷屬させられていたということも考慮され、そして本人の意思により、毒杯を與えられたそうだ。
眠るように死ねる毒が選ばれたという。
その亡骸は本人の意向により亡くなった母と同じ共同墓地にひっそりと葬られた。
そして皇子や他の者達をったガイズは、ウルグというもう一人の幹部と共に後日処刑されるらしい。
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他にいたヒューイとイリーナという者達はマスグレイヴ王國預かりとなるそうだ。
活化した魔石を抑える魔を知っているこの二人はマスグレイヴにて魔石の研究を行わせ、二度とこのようなことが起きぬよう、終、監視がつけられる。
何故この二人を引き取れたのか。
それは、首謀者の記憶と今回使用された魔についてフォルト様が明らかにする代わりに魔師を寄越せとごり押ししたらしい。
聞くと、ヒューイは未年で、イリーナは元貴族の令嬢であり、どちらもガイズに騙されていたのだそうだ。
それにイリーナは優秀な魔師だという。
ヒューイはライリーとは々違うが、魔獣の能力と特徴をそのに宿しているため、放逐したところで生きていくことが出來ないだろうと判斷されたからだ。
「そうは言っても罪人だから王城には置かずに、ライリーの監視下という名目で面倒を見てもらうことになるんだけど、エディス嬢は大丈夫かい?」
確かに王城に罪人は置いておけない。
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それにヒューイという子はライリーのように魔獣の特徴が現れているのならば、酷く目立つだろう。
「ライリーはそれでよろしいの?」
問うと、頷き返された。
「ああ。二人にも前もって聞いてみたが、俺の下にいることに異論はないようだ。……イリーナの方は俺を恐れているがな」
「そうですか」
本人達がそれで良いというなら、わたしが口を挾むことではないだろう。
そしてライリーが言い難そうに口を開いた。
「その、君さえ良ければ、二人を君の護衛にしたい。すぐにではないが、問題ないと判斷されたらそうしたいと俺は思っている。なかなかに腕が立つんだ」
どこか探るような言い方に考える。
二人は犯罪者である。
その二人をわたしの護衛にするということは、相當腕が立つのだろう。
話を聞くじ、この二人は騙されていた。
「二人は今はどうしておりますか?」
「凄く反省してるよ〜。洗脳の魔がかかってたけど、それを解いたら自分達の行いが見當違いだったって理解出來たみたい」
フォルト様が教えてくださった。
きちんと反省しているのね。
「でしたら、わたしから言うことは何もございません。ライリーがそうすべきと思うのであれば、それに従います」
ライリーがホッとしたように肩を下げた。
「ありがとう、エディス」
獅子の鼻先が頬へ押し付けられる。
口元のもこもこのがもふりとれる。
思わず口元が緩んでしまった。
「いいえ、それを言うのはわたしの方ですわ。護衛を増やしてくださるのでしょう? ありがとうございます」
今回の囮の件もあって、ライリーは以前よりも過保護になった気がする。
ちなみに、宰相とアルブレド様は責任を取って今の職を辭するという。
でもすぐさま後任を指名し、今回わたしを囮とすることに賛した者や、賢者の拠點から見つかった証拠などで彼らと繋がりのあった者、屬していた者達も一緒に解雇されることになったらしい。
その中でも罪を犯した者は裁かれるそうだ。
どうやら最初からそのつもりであったようだ。
既にそう言った者達は職を追われ、新しい者達が引き継いでいるため、國政などに影響はないらしい。
そのあまりにも早い対応にフォルト様が不満そうに目を細めて言った。
「國の膿と一緒に切り捨てられるのを覚悟の上でエディス嬢を囮にしたんだろうね。絶対に問題になる方法だけどさあ、こっちのことも考えてしいよ」
本當に外問題にすれば良かった。
フォルト様はぶつぶつとそうぼやいた。
賢者は解され、関わっていた他の組織や貴族達も処罰されていくらしい。
わたしにはもう関係のないことだ。
繋がったライリーの手を握り返す。
「ヒューイとイリーナでしたよね? 仲良くなれるかしら? 出來れば仲良くなりたいわ」
だって護衛なら、側にいる時間も長いもの。
「なれるといいが……。どちらも気が強そうだった。ヒューイは十四歳、イリーナは二十二歳らしい」
「まあ、歳が近いのね!」
「もしかしたらイリーナは侍になるかもしれないが、教育を終えてから、護衛になるか侍になるか決めてもらうことにしよう」
でも侍はしいわね。
今はリタとユナが代で、二人の手が足りない時はメイドが手伝ってくれているけれど、やはりもう一人か二人くらいいた方が良さそうだもの。
ライリーの言葉に頷いた。
「では二人を連れて帰るのね。旅の仲間が増えるのは楽しみだわ。帰國はいつ頃になるのかしら?」
不貞腐れていたフォルト様が顔を戻す。
そして居心地悪そうに頭を掻いた。
「あー、それなんだけど、三日後の夜會次第かなあ。話は屆いてるよね?」
「ええ、シェルジュ國まで來たマスグレイヴ王國の騎士団との親會であり、もてなしてくださるものだと伺っております」
一緒に來たわたしも當然ながら招待された。
まあ、ライリーの婚約者なので夜會にパートナーとして呼ばれるのは當たり前のことである。
「名目上はそうだろうねえ」
フォルト様がはあと溜め息を零す。
「と、申しますと?」
「多分引き抜こうとしてるんだよ。ライリーを。もしライリーがダメでも、宮廷魔師か、騎士か。マスグレイヴ國の宮廷魔師や近衛騎士は優秀だからね」
「なるほど。夜會でしいをけしかけて、あわよくば優秀な人材を自國に引きれようと考えているのですね」
「僕達もそうだけど、近衛騎士って基本的に忠誠心の高さも評価対象なんだよ。つまり自國や王族を裏切らないと確証のある人材を選んでるの。……騎士達は凄く嫌そうだった」
それはそうでしょうね。
簡単に主人を裏切るような者を近衛にするはずがない。そんな者は騎士には不適合である。
しかしシェルジュ國は上手くすれば懐出來るかもしれないと考えているわけだ。
騎士の忠誠心などや金、地位で何とかなると言われているようなものだ。
騎士達やフォルト様が不快にじるのは分かる。
「でも表向きは親會だから斷ることも出來ない」
フォルト様がもう一度溜め息を吐いた。
「いっそ、婚約者や人がいる方は、その方のをにつけたらいかがですか? それで、夜會の場で折にれて『自分には相手がいる』と吹聴すれば他の方もを勧め難いのではありませんか?」
それでも言い募るなら、不愉快だとはっきり告げればさすがに引き下がるだろう。
「うーん、そうだねえ」
それでもフォルト様の返事は微妙だった。
「何か懸念があるのでしょうか?」
「あると言えばあるんだけど……。いや、うん、まあ、言った方がいいのかなあ」
「?」
わたしの橫でライリーも珍しそうにフォルト様を見やる。
うーんとか、あーとか、言葉を濁したものの、フォルト様は顔を上げると口を開く。
「この前、君達、王族のの子に會ったでしょ?」
すぐに金髪に翡翠の瞳がしいの子を思い出す。
ライリーとわたしは同時に頷いた。
やっぱり王族だったのね。
フォルト様が急に小聲になる。
「どうも、その子、第一王がね、ライリーのことを頻りに気にしてるみたいなんだ。エディス嬢のこともたまに口に出すらしいけど」
「それはこの間會ったからでは?」
「それならいいんだ。でもライリーのことを怖がらないで、しかも地位はエディス嬢よりも高い。……もしシェルジュ國が友好を盾に王を英雄の妻にと言い出したら?」
ハッと息が詰まった。
友好國の王と伯爵家の令嬢。
どちらを優先するかと問われたら、國としては友好國を取るだろうし、地位で見ても王の方が立場が上だ。
もしもライリーが王とわたしの両方を娶ることになったとしても正妻は王で、わたしは側室になるだろう。
「聞いた話では、國王は王太子の子である王を大変可がって、大切にしているそうだ」
それは國王が孫娘可さに無理を押し通す可能があるということかしら。
ライリーが冷たくなったわたしの手を握り返す。
「私はエディス以外を妻にする気はありません」
「それが國の意向でも?」
「……そうなるのでしたら、私は英雄の地位を返上し、一騎士になります。ただの騎士に王が嫁ぐのはさすがに問題があるでしょう」
それはダメよ。
思わずライリーの服を摑んだ。
ライリーは自分の力で英雄になった。
認められて、その地位にいるのよ。
「わたしなんかのせいで、ライリーの立場が悪くなるようなことはしないで……」
服を摑む手が震える。
ライリーを誰かに取られるなんて嫌よ。
誰かと共有するのだって本當は嫌。
でもそのせいでライリーの立場が悪くなるというのなら、その時は、わたしが我慢すれば……。
不意にグイと抱き寄せられる。
「エディス、それ以上考えたら許さない」
ライリーの聲が頭上から降ってくる。
その怒気の滲む聲に不覚にも安心してしまった。
きっとわたしの顔は真っ青だろう。
フォルト様の聲がする。
「分かってるって。そう殺気立たないでよ。これでも僕は君達のことを気にってるんだ。それに國が認めている。そう簡単にこの婚約は覆らないから大丈夫だよ」
不安にさせてごめんね、とフォルト様の申し訳なさそうな聲がした。
ライリーの腕が緩んだのでをし離す。
顔を上げれば眉を下げたフォルト様がいた。
「……はい」
それに、とライリーが言う。
「いざとなったら陛下が婚姻屆を承認してくださるだろう。あれにも書いた通り、俺の妻はこれからも君だけだ。側室や妾も要らない」
そう、ライリーとわたしの婚姻屆にはライリーが一筆添えてあるのだ。
そこには「エディス=ベントリー伯爵令嬢以外との婚姻はせず、どちらかが死別後も、再婚はしない」というものだ。
それはわたしもライリーも話し合って決めたこと。
離婚する気もないし、死別後に、再婚するつもりもない。
互いが互いを唯一にすると決めた。
「そうですわね、それがありましたわね」
ライリーの本気をじ取り、フォルト様とレイス様が苦笑したけれど、わたしはそれが嬉しかった。
「とりあえず、今回は向こうの出方を見よう。もし王がライリーと結婚したいと言い出したら、その時は陛下に婚姻屆を承認してもらえるよう早馬を出すから」
そういうことで、わたし達は頷いた。
そうでないことを願うしかない。
ライリーがもう一度、わたしの頬に鼻を寄せた。
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