《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》3……とても素敵な……親馬鹿パパです?
しばらくして、再び目を覚ますと、金髪が年を経てプラチナブロンドになったらしい可らしい貴婦人と、がっしりとした祖父に雰囲気の似た男がいた。
「あぁ、目が覚めたか。ティフィリエルは王宮に帰ったので、代わりに。君のおじいさんのルイス兄さんにはお世話になったんだ。私はミューゼリック。ミュー叔父さんとでも呼んでしい」
「お食事も準備ができていてよ?もうすぐ來ますからね?あ、私はアリアです」
二人の目の前で痩せこけた、瞳の大きながピョコンとを起こす。
「ラルディーン公爵閣下!夫人!わ、私はマリアと申します。大変失禮致しました」
禮儀正しいが、警戒心が強いに、ミューは微笑む。
「今日は大変だったね。しばらく、が良くなるまで……それともずっとここにいてもいいから」
「それは、勿ない!あっ!働くのでしょうか?頑張ります!」
「いや、それは屋敷には充分人はいる。あぁ、本當はルイス兄さんには良くして戴いたんだ。兄さんが支えていた子爵家に泥を塗る訳じゃないが……」
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しばらく考え、控えていた護衛に、
「デュアンを呼んできてくれるか?」
「はい……あの、ですが、若君は先程向こうから便りが屆いて……」
「……あぁ、そうだった。でも、取っ捕まえて來てくれるか?」
「かしこまりました」
下がっていく。
ベッドの上でマリアは、その名前に思い出す。
デュアン……サー・デュアンリール。
ラルディーン公爵家の長子。
子沢山のラルディーン公爵家だったのだが、8年程前、國王が友好國の別大陸のシェールドに外に行っている間に、ミューゼリックはデュアン以外全ての子供からラルディーン公爵家の継承権を奪い取った。
最初は何が?
この王佐であり、國王の一番下の弟のミューゼリックの暴挙に周囲は騒然としたが、帰國した國王が、
「ラルディーン公爵家の長子、サー・デュアンリールの暗殺未遂が発覚した。デュアンリールは命は助かったが毒をけ靜養中。暗殺者を拘束し追求すると、數名の名が上がった。まだ他にも首謀者がいる可能がある」
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と発表した。
國王の甥、そして王妃の従弟の暗殺未遂事件に國中騒然となった。
數日して、王太子ティフィリエルが、
「事件は終息した。これ以上の処罰はサー・デュアンリールがまない。サー・デュアンリールの溫により、首謀者の命は助かったが、公爵の希によりそれぞれ罪を償って貰うことになる」
と発表。
そして、人していた年長の數人は爵位を奪われ、ラルディーン公爵家の親類筋にて幽閉。
年の子供たち……それでもマリアより年上……は、遠方の辺境伯の婿養子や、公爵家と分の釣り合わない子爵家などに嫁に出した。
マリアはかったが、一度デュアンリールに會ったことがある。
祖父が生きていた頃である。
ふわふわとした銀の髪に、瞳は丸く淡いブルー。
顔立ちはアリアに瓜二つの溫厚な、そして誠実そのものの青年。
その頃は事件の直後、いや、その前だ。
でも、哀しそうな顔をしていた。
もうその頃から暗殺までは計畫しなくても、兄弟だった人々に嫌がらせをけていたのかもしれない。
屋敷にお邪魔をして、祖父とミューゼリックがずっと話しているのが退屈で、ソファから飛び降り、近づいて顔を覗き込むと微笑んでくれた。
しばらくして、何故か食事をのせたキャスターを押しながら現れたのは、デュアンリール本人で……。
「父上、母上。こちらに運んでいたので代わりに」
「デュアン、メイドも困っただろう?あぁ、リナ、レナ」
姿を見せたのは、瓜二つの顔だが、髪が金で一人は瞳がブルー、そしてもう一人は紫の瞳のメイドたちである。
「旦那様、奧方様」
「お嬢様と、サーシアス様とイーフェ様に、お食事をと思っておりましたのに、若君様が全部」
「取り上げたんですの」
「お手伝いをしただけだよ」
にこにこと笑って近づいてきたが、ぎょっとする。
「ちょ、ちょっと待って!パパ、ママ!この子ってラミー子爵ルイス様のお孫さんのマリア……マリアージュ殿でしょう?」
「あっ!お、お久しぶりです。デュアンお兄様」
「やっぱり……ど、どうしたの?そんなに痩せちゃって……!」
「えっ?そ、そんなに痩せてますか?」
自分はあまり気づいていない……しかし、デュアンリールが絶句する程痩せ細り、頬はこけ、大きな瞳がひときわ目立つようになっている。
肩も首も骨が浮き、膝の上に置いている手も昔のようにらかさがない。
「……二人が運んできてるのが絶食後のスープのはずだよ……辛かったね。ごめんね、私が知っていたら……」
「私も知ったのは今日だ。兄上に呼ばれて、あのルイス兄さんの元に預けた、マリアに譲られているはずの石を持ってきていた年がいた。マリアに似ていたから、跡取りの雙子の弟だろう。でも、太っていたがな。マリアの二倍はあった」
「は?雙子の姉に譲られたものを持っていたんですか?」
「……えと、実は、祖父の品のほとんどを私がけ継ぎ、鍵のかかる祖父の部屋で寢起きしていたのです。祖父の部屋以外のはほとんどを売りました。祖母の品も……昔からあった絵畫も……家に居て貰っていたメイドや庭師もいなくなって……子爵はギャンブル、夫人は新しいドレスに裝飾……ご子息は放……諫めても駄目で、じいやとばあやだけが……」
瞳を潤ませる。
「贅沢を好み、怒鳴り散らす。毎日諌めても、翌日は何かが消えている。私はお祖父様の部屋で鍵を確認して眠り……朝、置いていた箱と手紙が……」
「マリア。どうしてもっと早く手紙と箱を……いや、マリアはかったし解らないか……」
ミューゼリックは頭を抱える。
「ルイス兄さんは自分の死後、お前を心配していた。それで、何かあった時にあの手紙を見せたら、リー兄貴の保護下にれるようにと、リー兄貴が渡したんだが……」
「も、申し訳ございません……わ、私が……ちゃんと……」
涙聲になるマリアに、ミューゼリックはおろおろするが、アリアがマリアの手を取り、
「マリアちゃん。まずはデュアンの持ってきてくれたスープを食べましょうか?リナ、レナ。手伝って頂戴ね。あぁ、マリアちゃん。リナはブルーの瞳、レナはアメシストの瞳よ。貴方付きになっているわ」
「マリアさま、リナでございます。どうぞよろしくお願い致します」
「レナでございます。大丈夫です!サーシアスさまとイーフェ様にお伺いしております。では、を起こすのを、お手伝いさせて頂きますね」
「あ、ありがとうございます」
「マリアさま?私とレナはマリアさま付きのメイドですわ」
リナの言葉に、デュアンは、
「はいはーい。僕が食べさせてあげまーす!」
「若君?何をおっしゃって……」
「マリアさまは生きの子供じゃありませんわ」
「だって、はい、これ位でしょう?はい、マリア、ちょっとずつ食べようね?」
スプーンに溫かい良い匂いのするトロッとしたスープがすくわれ、ゆっくりと近づく。
「あーん、だよ。ちゃんと食べて、靜養しようね?」
匂いと共に優しい聲にわれるように口を開き、し冷ましていたらしいが、口の中に久しぶりに味しいものが広がった。
ゆっくりと味を確認し飲み込むと、頬を涙が伝う。
「……おいしい……です。こんなに味しいもの……久しぶりに……おいしいって……」
「マリアさま」
リナがタオルでそっと涙をぬぐう。
「まだありますわ!マリアさま」
「こらこら、焦って食べるとお腹が驚いてしまうよ。はい、お兄ちゃんが食べさせてあげるから、食べられるところまで頑張ろうね?」
時間をかけて食べたマリアは、再び寢り、
「……本當に、ギルドの支部長代理ってのにあぐらをかいていた訳ではないが……」
「あぐら?」
アリアは夫を見上げる。
デュアンはレナに食を渡しながら、
「ママ。『あぐら』と言うのは、グランディアの椅子に座るのではなく、床に座るんだよ。で、『正座』と言う座り方と『あぐら』と言うのがあってね、や子供は『正座』で、分の高い男は『あぐら』が多いんだ。で、『あぐらをかく』と言うのは、何の努力もせずに、あるものに頼って図々しく構えること。自分の分に『あぐらをかく』とか言っていたよ」
「貴方もお兄様もそんなことは!」
「でも、近な子供を不幸にした……もう二度としないと思っていたのに!」
「……ねえ?パパ、ママ」
30を過ぎたデュアンリールが、両親をいまだにパパ、ママと呼ぶ理由……。
子沢山の8人兄弟だったが、8年前に兄弟が全員縁を切られた事件より……昔の呼び方に戻った。
デュアンリールは、すぐ下の弟だった青年とは9才違い。
それから次々に生まれたのだが、年の違いに長男として、騎士として留學していたこともあり、留學から戻ると兄弟とは距離が広がり、弟たちに嫌がらせをけるようになった。
黙っていたのは……心配させたくなかったことと、自分の命まで奪いたい程憎まれているとは思っていなかったからである。
「貴様さえいなければ、俺が親父の跡を継ぐのに!」
「私だよ」
「じゃぁ、この人に死んで貰ったら、財産は分けてよね」
と次々言われ、絶した。
そんな頃に會ったのがマリアである。
祖父に連れられ屋敷に來ていたが、話続ける大人に辛かったのか、ソファを降りてとことこと近づいてきた。
顔を覗き込んでくるはにこにこ笑い、本當にキラキラしていて、可いなぁ……こんな子が妹だったらと思った。
「お兄ちゃん。遊んで?」
と上目使いでおねだりするにふっと笑いかけ、
「うん、良いよ?どんな遊びがしたい?」
「しり取りとね、おままごと!」
可らしく聲をあげたに、隣に座らせ、相手をした。
いや、とても楽しんだ。
兄妹のように……。
失った兄弟は戻らない。
でも……。
「パパ、ママ。お願いがあります」
「ん?」
ミューゼリックは、基本、我儘を言ったりしないし、噓をつけない息子を可がっている。
デュアンリールは昔のように首をかしげ、お願いの仕草をする。
「あのね?マリアちゃん。妹にして?可がるから、駄目?」
「……預かるだけで、爵位はマリアのものにと……」
「爵位は一旦預かって、マリアちゃんの親権をパパとママにだけでも良いんだよ。向こうに返せないように……それに、もう一度お兄ちゃんになりたい……仲良く出來るように頑張るから……」
「「……!」」
二人は顔を見合わせる。
現在、デュアンリールは一人っ子。
そうなったのは弟妹が愚かに育ったからであり、デュアンリールが悪い訳ではない。
逆に、溫厚で大人しいデュアンリールを、深く傷つけてしまったと夫婦は嘆いた。
それからは、甘やかすと言うよりも、兄弟が生まれていなかった頃のように過ごしてきた。
しかし、デュアンリールは言った。
「妹にして」
「もう一度お兄ちゃんになりたい」
と……。
ミューゼリックは、息子を見る。
「……仲良く出來るように頑張るから……じゃなく、お前はお前で良いんだ。お前はずっと良いお兄ちゃんだ」
「……もう、覚えてないよ?」
「ティフィリエルの兄貴だろうに……」
息子の頭をくしゃくしゃとしながら、ミューゼリックはベルを鳴らす。
現れた執事。
「はい、ご用でございますか?」
「早急に陛下と面會を出來るかお聞きしてしい」
「かしこまりました」
靜かに部屋を出ていく。
「じゃぁ、兄貴に言ってくるから、デュアン」
「はい」
「アリアと……妹のマリアを頼んだぞ?」
目を輝かせたデュアンリールは、
「はい!パパありがとう!」
と抱きついたのだった。
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