《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》6……新しい名前。

こちらは食事をとって寢ったマリアを雙子に頼み、デュアンリールとその母アリアは、余り離れていない部屋で靜養するアレッザール子爵サーシアスとその夫人イーフェの元に行く。

ちなみにミューゼリックが帰ってくるまでは、爵位に領地のことは知らない。

ただ、お見舞いと二人の様子を伺う為に向かったのである。

扉をノックし、

「失禮致します。私は、デュアンリールと申します。母と一緒です。お邪魔しても構いませんでしょうか?」

「えっ!えぇぇ!」

部屋の向こうでドタバタとする音と共に、著いていた侍が、

「サーシアスさま、イーフェさま。お休み下さいませ。奧様、若君さま」

扉を開けると、初老の夫婦がソファに座っていた。

無理をして起きているか、もしくはやつれているが倒れる程ではないのかもしれない。

立ち上がろうとする二人に、

「立ち上がらなくて構いませんよ。それよりも、起こしてしまうことになりまして申し訳ありません」

「大丈夫でしたか?」

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「本當に……王太子殿下が、私達も連れ出して下さり……その上、ラルディーン公爵閣下や奧方さま、サー・デュアンリールにも」

「本當に、本當に……ありがとうございます」

ほぼ著の著のままの二人に、侍は屋敷にあった服を選んだらしい。

だが、シックで上品な服は二人によく似合っている。

「お怪我などはございませんか?手當ては?」

「いえ、こちらに來て下さる皆様が、本當に親切にして頂いて……」

「無理はなさらないで下さいませね?」

「はい。あの……それと、お嬢様は……?おが?」

心配そうにイーフェは問いかける。

「食が細くて……いいえ、自分の分も私どもに分けて下さって……本當に、優しいお嬢様なのです!」

「足腰が痛むと、マッサージをして下さり、書斎の本を探しては、ハーブを育て、私達に……」

「マリアさまは、熱があるのと過労だと思うの」

「先程、家の病人が絶食後に口にするスープを食べられるだけ、口にして又眠っています。お二人のことを心配していました」

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「お嬢様……」

二人は涙ぐむ。

二人にはただ一人息子がいるが、先代のラミー子爵に気にられ、留學までさせて貰った。

しかし、今の子爵に追い出され、現在辺境の護衛団に配屬されている。

留學先で結婚もして、孫も3人生まれている。

嫁も、ろくに顔を會わせることすら出來なかった。

マリアにも申し訳なかったが、それ以上に息子夫婦に孫達に謝りたい。

「あの……これから、私は……私たちは、どうすれば……」

「あ、先程、國王陛下に父が呼ばれました。マリアどののお祖父様、亡きルイス卿と陛下は臣下と主君を越えた友人でもあったそうですね?」

「私たちは、元々、私の父の世代に、先代陛下の命令で土地を失った名ばかりの貴族でした。父とルイスさまのお母上が従兄妹だったこともあり、を寄せさせて頂いたのです。ルイスさまは、私を弟のように可がって下さり、生まれた一人息子に剣を教えて下さったり、學校に通うのを支援して頂いて……。それが、今の子爵には許せなかったのでしょう。ルイスさまの亡き後、息子は追い出され……」

「私たちはお嬢様の養育を続けながら、何とか出來ないかと……無理でしたが……」

涙ぐむ。

「それに、お嬢様には、本當に本當に幸せになって頂きたいのです。あの屋敷に戻したくないのです」

「あの……マリアージュどのをもし、養にと言うことになったとしたら、賛して頂けますか?」

「養……ですか?そこは遠いところでしょうか?私どもは……」

「いえ、ご一緒でも大丈夫です。正式には、今、父が申し述べに行っておりますが、この家の……私の妹となって貰えたらと……」

「えっ!ラルディーン公爵家の!」

絶句する。

ラルディーン公爵ミューゼリックは、國王リスティルの3人いる弟の中で一番年下。

長兄のリスティルはオールマイティーな萬能型で、何をさせても吸収し、応用できる天才。

もう亡くなったが次兄パルスレット公爵は政治家だったが金銭にルーズであったことと、今現在のここ、ラルディーン公爵家は兄弟の実家であるレアンベルジュ大公家のものだったが、屋敷に居座り、元々父の亡きハインレッド大公……先々代の國王の雙子の弟……の屋敷を預かっていたミューゼリックに無斷で家や寶石を持ち出したり、厳選したメイド等を勝手に辭めさせたりと勝手を盡くした為、怒ったミューゼリックに叩き出された。

それで懲りればいいものを、再び金銭を懐にれようとした為、爵位こそ奪われなかったものの、長兄で國王となったリスティルに政治に口を挾むなと権力を奪われ、王宮にも、現在ラルディーン公爵家となっている実家にも出止となってしまった。

3兄のフェルナンドは、い頃に暗殺者に襲われ、足が不自由になった人である。

暗殺者を雇ったのは、リスティルの叔母。

リスティルの母は北東の隣國の第一王で、本來王位につく父の雙子の兄の伯父に嫁ぐはずだったが、第二王であった叔母が王妃になりたいと言い、権力よりも幸せになれる方がいいと、王太子である兄の代理で母國に來た青年にをした第一王は、弟王子の元に嫁ぎリスティルを出産した。

ほぼ同時期に生まれた従兄弟の第一王子は、オールマイティーなリスティルに比べ、劣る存在だった為、父である國王が『努力を惜しまず続けなさい』と諭しても、母后が庇い、甘やかし愚かな王子に育った。

夫と共に、息子を厳しく育て上げていたら良かったのだが、王妃は姉夫婦にリスティルを逆恨みし、次々に暗殺者を放った。

その時、7歳下の弟の子守りをしていたリスティルに襲いかかり、不幸にもその逸れた刃によって命は助かったものの、一生の障害をおった弟に負い目があったリスティルは、8才にして家出を敢行。

當時の剣の名手に師事を仰ぎ、ミューゼリックが生まれた頃の大陸の爭では、11才になるかならずかで戦場に立ち戦い抜いた。

噂によると、その間もずっと暗殺者に狙われ続け、一人ずつ潰していったと言う。

殺さなければ、周囲の人々が弟のようになる。

それだけは許せなかったのだ。

16歳下に妹が生まれた時も帰ってこず、生き抜いたリスティルは父によって捕獲され、ミューゼリックと共に安全な隣の大陸のシェールドに留學し、剣と魔法の國であり、學問も進歩したシェールドで學者の道を選び、放浪していたのだが、母國の、従兄の専橫に反抗し、王位を奪った。

いや正確には自分が正統な後継者であると宣言したのである。

伯父は自分の愚かな息子に王位を與えるのを心配し、弟と相談の上、後継者にリスティルを指名したのだが、正妃と息子がそれに腹をたて、夫であり父であり、國の王を毒殺したのである。

それをおくびにも出さず王を僭稱した従兄に、伯父から屆けられた正式な王位継承の権利を主張し、リスティルは王となった。

が弱かった3兄のラーシェフ公爵フェルナンドは、爵位よりも蕓や文化流等に興味を持ち、そういった活をしていたが、爵位を息子に譲ると數年後には逝去。

しばらくギスギスしていた次兄パルスレット公爵も數年前に息を引き取った。

ミューゼリックは、小さい頃から家から走する長兄や、はっきり言って愚兄と呼んで憚らない、まかり間違えば従兄の二の舞となっていたかもしれない権力と金に弱い次兄、の弱い3兄の後に生まれた至極全うな努力家である。

も大きく、父の言う通り剣と母に勧められた勉強を熱心に學び、父がようやく捕まえた兄と共に留學し秀才の騎士となった。

兄王の側近中の側近と呼ばれるのも、兄の考えていることが手に取るように理解でき、それを采配できるからである。

兄弟であるのと同時に、それだけの才能があったと言うことである。

「お嬢様……ですが、ラミー子爵家は……!」

「それはどうなるか解りませんが、私たちは、マリアージュどのを政治の駒として引き取りたいのではないのだけは、理解して頂けたらと思います。私の妹として、可がってあげたいと……そう願っております」

「……ラミー子爵に返したくはありません。それ以外でしたら陛下の決定に……お任せ致します」

「ありがとうございます。あぁ、お二人共、お疲れでしょう?お休み下さい。私と母は失禮致しますので」

デュアンリールは母のアリアを促し、立ち上がる。

「では……マリアージュどのは、近くの部屋に休んでおります。し熱がありましたが、スープを口にして眠っております。合が良ければ會いに行ってあげて下さい」

「あ、ありがとうございます」

「よろしくお願い致します」

親子は部屋を下がる。

「ねぇねぇ、ママ」

「なぁに?」

「マリアにね?新しい名前を付けてあげられたらいいなぁって。パパが帰ってきたら相談する?」

「それもいいわね。マリアージュと言うと、『結婚』と言う意味になるし……」

「どんな名前がいいかなぁ……ワクワクするね」

父が帰ってくるのと、名前を決めるのが楽しみな母子であった。

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