《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》8……ファティ・リティ

帰ってきたミューゼリックは、幾つかの書簡を手にしていた。

「お帰りなさい。貴方」

「お帰りなさい。パパ」

「ただいま。アリア、デュアン」

笑いかける。

「午後に兄貴たちが來るそうだ。その前に、これを渡してくれと渡されたんだ」

「これは?」

「マリアを養に貰うことと、アレッザール子爵サーシアス卿にはラミー伯爵位を。その夫人イーフェどのとの一子クレスール卿は、アレッザール子爵として、ラミー伯爵には舊ラミー子爵領をとなった」

「えっ?クレスールって、あの騎士の?後輩で、辺境にいる?」

「あぁ。元ラミー子爵が爵位を継いだら、追い出したそうだ。その為にサーシアスどのやイーフェ夫人は、手紙や贈りは贈れても、3人いる孫の顔は見ていないそうだ」

「じゃぁ、クレスール……アレッザール子爵は、戻れるんですね?」

デュアンリールは問いかける。

「あぁ、そうだな。もう即、國王陛下の命令として、帰還するようにと使いを送った」

「……そうか……良かった」

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「あ、そうですわ。貴方。デュアンが、マリアちゃんのことで……」

「熱でも上がったのか?」

心配そうな顔になるミューゼリックに、デュアンリールは、

「あのね?パパ。先月、シェールドに行った時に、マザードラゴンさまにお會いしたんだけど……」

「あぁ、あのマザードラゴンさまな?」

マザードラゴンとは、シェールドの王都シェールダムの西にある金の森に生息するブラックドラゴンの長。

他のドラゴンは長が雄だが、ブラックドラゴンは雌が長である。

他の親の子供を育てていることも多く、マザードラゴンとも呼ばれている。

「でね?『ファティ・リティは元気か?』って言われて、誰だろうって思っていたら、マリアちゃんが『ファティ・リティって、お母さんに呼ばれた。お母さんは、黒い目で黒いで大きいの』みたいなことを言ってたの。マリアちゃんが言ってたお母さんってマザードラゴンさまだったの」

「はぁ!ファティ・リティ……」

言葉を失う。

そう言えば、金の森で迷子になったマリアを探し回っていると、國王の側近である後宮騎士団長ヴァーソロミューが、

「金の森に子供がいたって?ブラックドラゴンの群れに保護されているから、迎えに來てくれだって。じゃないと連れていくよって言ってた」

とさらっと報告してくれたのを、兄のリスティルとルイスが真っ青になって金の森に迎えに行った。

そして、スヤスヤと寢っていたがぐずりながら目を覚まし、

「どこぉ~?お母さん~!おかあしゃぁぁん~!一緒にいるのぉぉ!」

周囲を見回し泣きじゃくる姿に、最初は母國の母親のことを言っていたのかと思っていたのだが、今思えばあのような母親ではなくマザードラゴンを探していたのだ。

マザードラゴンが自分の娘といい、マザードラゴンをお母さんと探し回る……異國のドラゴンの守護のある娘……このような存在が今だかつてあるだろうか?

ブルードラゴンやホワイトドラゴンたちがシェールドの王族の守護をしている……現在の國王の守護者である以外、聞いたことがない。

「では……ファティ・リティと呼ぼうか」

「僕たち、リティちゃんって呼んでるよ。リナとレナが一緒にいてくれてるよ」

「リティ……可いな?」

「あ、そうだ。僕とママが作ったお菓子を食べてね?おいしいって笑ってたよ」

「そうか……あ、そうだ。レビュタントの裝飾以外に、々と頼もうと、ギルドに手配をして貰ったんだが、丁度フェルディさまが來られるらしい」

フェルディと言うと、ギルドリーダーの養父である。

細工師、裝飾品の作り手である。

シェールドの王族専門の裝飾師であり、シェールドからの贈りの裝飾等は全て彼からのものである。

いや、1800年も前から、フェルディの名をけ継いだ存在が作り続けているのだ。

「珍しいですね?フェルディさまはシェールドから出るのは滅多にないのに」

「リール王國の鉱山にまた新しい鉱脈が発見されて、新しい石が出たらしい。直接仕れに行くらしい。その合間に滯在して下さるそうだ。公ではなく非公式。大袈裟にしないでくれと言われたそうだ。で、兄貴に頼んで、マリア……リティの裝飾を作って貰えないかとお願いした」

「はぁ……リールの王陛下は素晴らしいですよね。王配殿下も時々お越しになられると、お元気そうで、楽しそうですね」

30年程前に、デュアンリールとミューゼリックはこの大陸の北方にある、その當時は貧乏國だったリールに外渉に行った。

當時は現在の王陛下は王太子として、父王を支えていた。

寒い國で當時は観業や、鉱山等も力もれる余裕もなく、飢えはしないが生活もやっとの國だった。

だが、ミューゼリックやシェールドの使者などの協力と國民の支えもあり、數年後國を立て直し、婿を迎え、父王から譲られた王位に驕ることなく國の為に生きている。

王配殿下も王陛下の為に國を支え、そして主であり妻をしている。

現在リールは昔のような弱小ではなく、溫泉やリゾート地、そして世界有數の一年中花の見られる溫室のある國となっている。

そして、この地域でしかとれない希な鉱石が幾つもあると言う。

「で、アリア。どんなドレスがいいだろう?」

「そうですわね。デビュタントは淡いが良いそうです。レティちゃんは14歳に見えないい顔ですから、年相応の可らしいドレスで良いと思いますの。シンプルでそしてリボンとか、髪飾りは生花でも。イヤリングとネックレスはお揃いで」

「そうか……楽しみだな。あの子が元気になって、普段はまだワンピースで良いが、デビュタントに連れていくのが……パールや、マザーオブパールなんてどうだろう?」

「あぁ、そうですわね。私は、ムーンストーンも可いと思いますわ?」

「え?ママ、パパ。ローズクウォーツは?」

親子は楽しそうに話す。

「まぁ、それよりも、まずは、リティの顔を見に行こうか」

親子は廊下を歩いていく。

そして扉をノックすると、

「はい……旦那さま、奧様、デュアンリールさま」

扉を開けたレナに、

「リティはどうだ?」

「はい。熱が下がって、汗をかいているのが気持ち悪そうでしたので、今、リナが浴のお手伝いをさせていただいております。もうすぐ戻られるかと」

「では、隣の居間で待っておこうか」

「そうですわね」

リティ専用の居間に落ち著き、デビュタントの準備などあぁでもない、こうでもないと話していると、扉がノックされ、

「失禮致します」

現れたのは、アリアのメイドであるサーシェ。

その手に肩を抱かれ、うにうにとぐすっているのはレティである。

らしいネグリジェと上著を羽織り、眠たげにまばたきを繰り返している。

眠たいのと多分お腹が空いていることも原因らしい。

「リティ。ただいま。合はどうだ?」

ミューゼリックは立ちあがり、近づいていく。

「あ、えっと……パパ……?」

デュアンリールに教わっていたのか、ミューゼリックをパパと呼ぶ、14才にしては華奢なを抱き上げる。

「あぁ、パパだ。ただいま。合はどうだ?熱が下がったと聞いたが」

「はい、パパ……あ、お帰りなさい。お疲れ様でした」

にこっと笑い、ぎゅっと抱きつく。

その仕草一つ一つが可らしく、ミューゼリックは背中をポンポンと優しく叩く。

「大丈夫だったぞ?兄貴……陛下にリティを養にしたいとお願いしたら、すぐだった。それと、リティ。リティはパパとママの娘になる。ラミー子爵家の継承権は放棄になった」

「……はい。でも、領民の皆さんやじいやとばあや……」

「ラミー子爵とその夫人、子息は辺境追放となった。その代わり、長年の労苦を支えたとアレッザール子爵サーシアス卿は、ラミー領の領主として、子爵位から伯爵となり統治をお願いする。アレッザール子爵の地位は、サーシアス卿の息子のクレスールが継ぎ、戻ってくることになった」

「クレスールお兄さんが!良かった!……でも私は、きっと憎まれてます。謝らないと……」

目を伏せる。

「もっとちゃんと勉強して、お祖父様の言っていたことを出來ていたら……」

「お前はまだ子供だ。無理して大人びようとするな」

ミューゼリックは顔を覗き込みゆっくりと告げる。

「それに、お前はラルディーン家の一人娘。今度のデビュタントでは兄のデュアンと、王太子殿下とのダンスが決まっている。ダンスやマナーのレッスンと、勉強が待っている。爵位は伯爵なら幾つも持っている。伯爵にもなれるがまだい。まだ領地のことについても足りないし、その前にしなくてはいけないことがある。長は良いことだが、無理が過ぎればに悪い。まずはを治しつつ、デビュタントの為に必要な最低限を覚えることを優先しなさい。他のことは又後で、いいね?」

「はい!パパ」

「はい、よろしい。じゃぁ、ここでし話をして、食べられるようなら食事をして休もう。良いね?」

「はい」

リティは嬉しそうに頷いた。

リティは食は細いが好奇心は旺盛で、父や母に甘えるようになっていた。

その甘え方もミューゼリックには足りないのだが、リティには最高のもので、ミューゼリックの膝の上でクゥゥ……と寢った姿に、ミューゼリックはデレデレになる。

「今日は、アリアと3人で寢ようかな」

「あー!僕も!」

「4人だな。ベッドを持ち込むか」

「久しぶりだね!パパ」

アットホームな家族の団らんの時だった。

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