《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》27……微笑み魔王クシュナ

ちなみに調は良くなったが腰痛に悩むラミー伯爵は、連れ去られた大事なリティに真っ青になる。

「お嬢様……!」

「貴方!お嬢様!リティ様!」

「父上、母上!お待ち下さい!」

「クレスール!だが、だが……!」

クレスールは止める。

「私が向かいます。父上、母上とリズを頼みます」

「だが……」

「まずは、己のを守ること、です。私は伯父上に裏道なども伺っています。行って參ります」

父に妻と母と共に安全な場所に避難させ、アレッザール子爵、クレスールは伯父に教わった通路に移していく途中、蝶々の飾りが落ちているのに気がついた。

「これは……リティのにつけていたものだ!」

頑丈なのか運が良かったのか無傷である。

「多分連れ去られた時に落としたんだな。リティが泣いているかも……持って行って……?」

手にした蝶の髪飾りがポンっと姿を変え、ひらひらと飛び始めた。

か?もしかして、リティか犯人の行方が解るのか?」

蝶にしては早い速度で飛んでいくそれを追いかけ、早足で進む。

すると、相を変えたデュアンが必死に走る姿に気がついた。

確か、怪我を負っていた筈と見ると、簡単に手當をされていた包帯にはが滲んでいる。

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「先輩!」

「クレス!リティが!リティはどこか分からないんだ!」

「先輩!冷靜に!」

その言葉にハッとするデュアンに、ポケットにれていたスカーフを包帯の上から巻いた。

「リティは子供ですが、判斷力はありますし、俊敏です。逃げて、助けを求めるでしょう。まずは落ち著いて、近くの衛兵に……」

すると、セントバーグ子爵のマナックが、疲れ果てたように衛兵に支えられて現れる。

マナックは従兄クシュナの親友で、父が縁を切った妹の夫……クシュナは何度か親友に使いを送り、離婚を勧めた。

「陛下も、ラルディーン公爵閣下も判っていらっしゃる。誠実な君は絶対に陛下を裏切ったりしない。デュアンを殺そうとしない。だから、罪人と離婚しなさい」

しかし、い子供達には母親が必要だからと、それを斷り、距離を置いたのだとクシュナは一度デュアンに言った。

「デュアンには分かってしいんだ。マナは本當に優しい人なんだ……その優しさを甘さと弱さだと思い込んでいる。優しさは強さだと、子供や領民、家族を思うなら、全てを選ぶのではなく、何かを切り捨てるべきだと……悔しいよ」

マナックに聲をかける。

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「マナ兄さん……」

も、それよりもクシュナと同じ歳だと言うのに、會わなかった7年の間に一気に老け込んだ義兄は、顔を上げ、涙を浮かべた。

「デュアン……サー・デュアンリール……申し訳ありません……私は……!」

「兄さん。ここにいると言うことは、クシュナ兄さんがリティの祝いに來てしいと言ったのでしょう?本當にすみません。このような事になって……サー・クレスール。兄さんを……」

「私は、先輩と行きますよ。皆、セントバーグ子爵を安全なところに」

「待ってくれないか!クシュナ……第二公爵閣下が、殘られているのです!」

「何処に?」

マナックは、來た道を示す。

「塔に……」

「妹はいるのですか?」

「いない!君の妹はいない!いるのはパルスレット公爵、そして、それに追隨する愚か者だけだ!」

「……潛捜査までしていたのですか!」

敢えて聲を大きくする。

集まってくる周囲にマナックが反逆者でなく、國王に敬意を払う存在だと認識させる為。

「……大変申し訳ありません。本當は私の仕事だったはず……兄さん。本當にお疲れ様でした。皆、兄さん……セントバーグ子爵を頼む」

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「デュアンは、何処にいくんだ?」

「クシュナ兄さん……が、心配・・なので行って來ます」

微妙な顔になったデュアンに、橫でウンウンとクレスールも頷く。

マナックや周囲は正直にその言葉をけ取ったが、二人が含みをもたせたのは、そちらではない。

表向き溫厚なクシュナだが、武を握ると鬼神と化す。

その恐ろしさを知っているデュアンたちは、ちらっと顔を見合わせる。

「止めないと、命がない……特に主犯者……」

「そうですね」

會話をした二人は、歩き出す。

「あっ!リティの蝶の髪飾り……何処に行ったんだ?」

「蝶の髪飾り?落ちてたの?落としたの?」

「いえ、ちゃんと拾いました。でも、がかかっていたようで、蝶に変化して私をあちらまで連れて來てくれたんです」

周囲を見回すクレスールは、デュアンの怪我をした手に巻いた自分のスカーフに止まっている事に気がつく。

「先輩、それ」

「あっ!気がつかなかった……それに、あれ?」

蝶の止まっている手を見つめる。

「痛みがない……?」

と、蝶から聲が響く。

『パパ!ママ!』

『リティ!』

『あぁぁ!リティ、怪我は?良かった……ティフィくんありがとう、本當に……』

『リティが頑張ったんです。私は戻ります』

妹と両親、そして従弟の聲に、つい、

「リティ!無事だね!」

『お、お兄ちゃん……お兄ちゃん、ふあぁぁん!蝶々の、飾り……』

『デュアンか?』

「父上、母上。クシュナ兄さんが、一人で乗り込んで行きました!クレスールと合流しましたので、追いかけます」

蝶に呼びかけると、

『何処に行ったんだ?クシュナは?』

「塔です。封印の塔。そこにいます。パルスレット公爵が……」

『私も行きます』

「ティフィは來ないで。それよりもそちらの安全を。私は大丈夫だから。それと、クシュナ兄さんの親友のマナック兄さんが、潛捜査をされていたようです。かなり疲労が溜まっているようで、安全な場所に向かっています。父上。よろしくお願いします」

『……解った。では、気をつけて行くんだぞ』

ミューゼリックは息子に伝え、

『リティ。パパはちょっと出て行く。ティフィがいるからまずは顔を洗って、口をゆすごう。いいね?』

『うぇぇぇ……パパ。お兄ちゃん』

『ママといましょうね?ママも怖いからギュってしましょうね』

アリアの言葉に、涙聲でリティが答える。

『ママといる……パパ、お兄ちゃん、帰って來てね』

「必ず戻るから、それと、リティの蝶々は、クレスールが見つけてくれてお兄ちゃんが持っているからね」

『本當?』

「はーい、兄ちゃんが見つけたんだ。リティ。先輩……デュアンお兄ちゃんが無茶しないか見張ってるから、安心しろ。それと、ミューゼリック様、ティフィリエル殿下。両親と妻を一応父の知る一の扉に避難させております。出來れば……」

『解った。二人とも無茶はするな……自分のを第一に考えろ』

「はい、リティ。蝶々は一緒に帰るから、借りておくね?」

問いかけを終え、蝶をそっととるとし考え、耳につける。

自らのピアスに沿わせようと思ったのである。

すると、繊細な蝶の足がき、デュアンのピアスにくっついた。

「フェルディさまは、本當に凄いな……」

呟きながら歩いて行く。

そして、叔母であり、従姉でもあるティアラーティアが怯える為、伯父が封印した筈の塔に向かう。

すると、塔のり口だけでなく、數ない塔の窓を警戒する者たちが引きつりながら見守っている。

「誰か、中から出て來た者は?ラーシェフ公爵閣下は?」

「い、いえ……」

兵たちの最も上らしい男が、振り返り口を開こうとした背後の塔の上の小さい窓が開き、

「た、助けてくれぇぇ!誰か、誰か!」

「うるっせぇよ!てめぇが、何度言っても伯父上の言うことを理解できなかったんだろうが!クズが!死ねや!オラァ!」

聲とともに部に消えていった後、バキバキと言えばいいのか、ボコボコと言えばいいのか、凄まじい音が響く。

「……あははは〜、先輩、何か溜まっていたんですかねぇ……?」

「……多分。兄上!兄上!リティが見つかりました。出て來て下さい!」

デュアンは呼びかける。

「リティが怯えてるんです。それに泣きじゃくっています」

「先輩。クレスールです。あのどさくさで、リティの髪飾りが落ちていて拾いました。今デュアン先輩が持ってますよ〜。それにこの飾り、通信機能もあるみたいで、リティに繋がるんです〜。先輩、私の可いリティがこれ以上泣くのは辛いので、そろそろ終わりにしませんか?」

「もうし待てや!まだ毆り足りねぇんだよ!このクズ!俺のデュアンを傷つけた上に、今度は俺の蝶々姫を!死んで結構!親父とじいちゃん、ばあちゃんの墓に報告してやらぁぁ!」

ドガッ、

壁に叩きつけたのか、古い塔からパラパラと破片が落ちた。

これは本格的にキレているらしい。

ついでに、デュアンの名前の前に『俺の』が付くのは、クシュナが留學するまでデュアンと共に育っていた為である。

デュアンは扉に近づき、

「中から出てきた者を捕まえろ。々手荒くともいい。転落だけは厄介だ。よく見ておくように、サー・クレスール。頼む」

「かしこまりました」

「……あぁぁ……兄上。お願いします。これ以上壊すとパパよりも怖い人が……」

呟きながら開ける。

すると、だらけの男たちが出てくる。

「た……助けてくれ!」

「魔……」

「人間じゃない!」

びながら手をばしてくるのを避けながらり、螺旋階段を登って行く。

途中の部屋はワインや食料などが溜め込まれ、前々からここで潛伏していたことが解る。

「姉さんの為に封印したのに、伯父上も自分の足元にとは思わなかっただろうね」

呟くと、上から、転がるように降りてくる男と真正面から見つめる。

それは、すぐ下の……9歳下の弟。

自分が三十路後半だから、まだ二十代の筈だが、不節制のせいか型は小太りで顔が悪く、自分より老けて見える。

「……っ!」

立ち竦むその男を見つめ返し、過去、言えなかった言葉を告げた。

「……お前を可いと思えたことはなかったよ。ティフィやクレスの方が素直で可い僕の弟だ」

「……!」

目を見開いた男に、繰り返す。

「僕の弟はティフィとクレス。妹はリティ。それに、僕はパパやママに似てるけど、お前は誰に似てるの?似てない癖に、パパやママがどれだけ苦しんで來たか解らない癖に、何をしたの?何をして來たの?」

「私は!」

「僕は僕なりに、パパの息子として努力をして來た。して來ていないお前に僕を否定する資格はない!ラルディーン公爵家、ひいてはこの國に対して、お前は反逆しこの國中に陛下や公爵閣下に恥をかかせた!けない!」

「……」

「ラルディーン公爵家の人間として、僕はお前を許さない」

デュアンは目を背け、橫を抜けて登っていく。

そして登っていった先で、目の前を飛ぶに驚くよりも心する。

クシュナがどれだけ鬱憤を貯めて來たのか、良く分かる。

れ違いに出ていったボロボロの男たちだけでも10人は超えていた。

吹っ飛んだ人間以外に、數人がけなくなっており、その奧で震えているのは、パルスレット公爵だった男。

頰が腫れているのは、一発毆られたらしいが、それ以降、自分が顎でこき使って來た男たちを突き飛ばし盾にし、逃げ回っていたらしい。

「さぁて……前菜はたっぷり味わわせて貰ったし……メインディッシュに行かせて貰うかぁ」

普段穏やかな風の従兄弟がキレると、形相が一変する。

昔はこんなことはなかった筈なのに……。

それにはコントロールして戦うようにと、シェールドの騎士の館で徹底的に館長に……國王アルドリーの祖父に常々言い聞かせられたのに……多分。

デュアンは息を吸った。

「パルスレット公爵……いや、元だね。國王陛下の住まわれるこの王宮に許可なく侵し、本日のデビュタントを妨害した罪、我がラルディーン公爵家の娘……妹を害しようとして連れ去ろうとした罪、そして、今まで國王陛下、ラルディーン公爵閣下、そしてラーシェフ公爵閣下を悩ませ、苦しませ続けた罪、叛逆と捉えても良いだろうか?」

「私は、私が當然け取る筈のものを返して貰おうとしただけだ!何が悪い!」

「お前がけ取るべきは、陛下が躊躇ってきた數々の溫を踏みにじった罪を償うことだ!この國を破壊しようとした罪、簡単に償えると思うな!」

クシュナ以上に大人しいデュアンの聲に、後ずさり、そのまま気絶した男。

そして、まみれの従兄弟に近づくと、

「兄さん、ちょっと」

「何だ、デュアン」

を浴び、使用前の姿が想像できないクシュナは首を傾げると、その頰に思いっきり平手打ちした。

「なっ……!」

「何考えてんですか!兄さん!どれだけ自分を大事にできないんですか!一人で敵地にり込むなんて!自分が誰か解っているんですか!あれだけ何かあったら兄さんを手伝いますと……一人で全てをけ止めることはできないって僕に言ったのは、兄さんでしょう!」

デュアンに頬を叩かれ、呆然とするクシュナ。

「兄さんの今の姿を、フェル伯父さんは見たら涙を流すと思います。伯父さんはは不自由でしたけど、心は自由な人でした。だから蕓的なものが好きで、兄さんは蕓的なものは苦手だったけれど、しい蝶や生きを家にいる伯父さんに見せたら喜んでくれたから、昆蟲の研究を始めたんでしょう?研究はしても、溫室に放して、育てていくことを続けていたんでしょう?溫室に、伯父さんを案して見て貰う為に」

「……っ……」

「伯父さんだけじゃない。エスティも子供たちも、リー伯父さんたちもパパもママも、リティや僕も、兄さんにはいるでしょ?泣くのは恥ずかしいとか言ってますけど、兄さんの今の姿を見る僕の方が泣きたいです!兄さんが本當にしたいのは、伯父さんに生きていてしかった……そう言って泣きたかったんでしょう?」

「……」

「僕は泣いてばかりで、兄さんは泣けない。僕が弱いんだと思ってた。でもこの行為は、騎士としてしてはいけない!ただの、兄さんのように戦いに出ていない人間に手を挙げるのは、絶対にいけない!幾ら伯父さんの死をれられないとしても!逆恨みは兄さんの、あの剣舞を穢すものです!」

デュアンは涙を流す。

「あんなに、必死に何年もシェールドに殘って、館長に稽古をつけて貰って、卒業した後も度々通って認められたんでしょう?で、伯父さんの前で舞った時、伯父さんは本當に喜んでたじゃないですか!忘れたんですか?僕はあの剣舞を覚えています。兄さんは本當に嬉しそうに、笑ってたじゃないですか!」

「デュアン……」

「忘れないで下さい!兄さん」

必死にクシュナに訴える……と、その背後から忍び寄る姿に気づく。

「兄さん!危ない!」

「えっ!」

突き飛ばされ、をとって振り返ったクシュナが見たのは、デュアンの背中……。

デュアンは、容赦なく手刀で気絶させたものの、立ち竦んだまま……呟いた。

「兄さん……忘れないで……」

崩れるように倒れこんだデュアンのには、割れたワインの瓶……。

「デュアン……デュアン!」

クシュナのび聲が響き渡ったのだった。

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