《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》30……と罪の代償

アルスは腕のいい醫薬師である。

基本、薬と手當てで済ませ、を使うことを嫌う。

何故ならは、強い力を持つ上に治りは早いが、後々になると回復力が一気に落ちる。

つまり、醫け続けると、元々100ある回復力が、醫によって回復されることに慣れ続けてしまい、自分自の元々持っている治癒力を使うことを怠ってしまう。

そうすると、同じ回復を用いても半分しか回復しなくなることもあった。

回復の名手だったアルスの師匠であり、師だった人が、ある時命に関わる患者に度々をかけ、一旦は回復はしたものの、その後一気にが弱くなり、寢たきりとなり亡くなってしまった。

師匠は懸命な、適切な治療をしたのだが、その代償は重かった。

特に、その患者だった人が彼の父だったのだから……。

一気に老け込み、朦朧とした意識で、亡くなった家族や友人の名前を呼ぶ父の姿に、彼は嘆いた。

そして、必死に國全土が戦場と化してしまった為、散失した書や資料を探し回り、治療法はなく、しかし父を助けたいとを使い……結果的に、

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は使わず、なるべく本人の回復力が戻るのを待つのがいい、を繰り返すと、毒と同じになる』

と解ったのは、父の臨終の時。

苦しんで苦しんで……自分の力を憎み、それからはを用いぬ方法を探っていた師匠の弟子となり、薬と回復力を手助けする方法を探し続けた。

料理やマッサージなど多岐にわたる資料を、アルスはけ継いだ。

師匠の家には、殘せなかった。

師の家系……その家に、を否定する資料は置けない……それが師匠の言だった。

だから、アルスはを封じた。

だがしかし、今回はを用いた。

デュアンを助ける為に……それが本當に良かったのか、こんこんと眠り続ける青年を見つめる。

「多分、師匠のしていた資料には、強い力を持つ人間がを患者に繰り返すと副作用が起こる。でも、一回だけで……でも、死にかけていたデュアンに結構を使ったな……」

躊躇いは患者の死に繋がる。

即斷した。

もうすでに手ができる狀態ではなかったからである。

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「デュアンにどんな副作用になるのか……」

命がむ事は避けられたらと祈る。

一度、弟が死にかけた時にはは使わなかったが、ある薬を用いた。

その時は副作用で髪と瞳のが変わっただけだったが、今回はどんな副作用かはわからない。

何回にも分けて與えるを一気に流し込んだ。

中毒になっては困ると思ったことも理由である。

「吉と出るか兇と出るか……」

呟いたのだった。

しばらくしてアルスに案され、部屋にっていったのはミューゼリックとアリア。

眠ってしまったリティは隣室でティフィが膝枕している。

「……一応伝えておくと、手や薬の投與では間に合わないと判斷した。その為に、醫を用いた」

「醫……普通、師は扱えますね?」

「まぁな。でも、言い方を変えれば、何度も癒す行為を続けるとが慣れてしまい、副作用として回復力が落ちる……最初は100%の力まで回復していたものが、何度かかけていると50%に落ちてしまう。の自分の回復の力を怠り、に頼りきりになる。だからなるべくは使いたくはなかった。でも今回は本當に危険だった。一回だけ本當に強いをかけた。その副作用がどう出るか……心配している」

「死ななければ大丈夫です!アルスさま」

幾度も家族の死に直面し続けたアリアは告げる。

「生きていてくれるだけで、いいんです。どんなデュアンでも、私のデュアンです」

「そうだな。アリア。どんなデュアンでも、生きていてくれるだけで構わない」

カーテンでベッドの中は隠されていて、傷の合なども見られないが……2人は頷く。

「それならば……デュアンはまだ眠っているが……見てやってくれ……副作用の結果だ」

アルスがカーテンを開けると、すやすやと寢息を立てている息子に絶句した。

しばらくして戻ってきたミューゼリックは困した顔で、

「あ、の……なぁ……兄貴」

「なぁに?」

甥っ子をからかって遊んでいたリスティルが、弟を見る。

と戸いの眼差しで告げる。

「ちょっとこっちにきてくれないか。ティフィもクシュナも」

「何かあった?」

「あったと言うかなんと言うか……」

言葉を濁し、隣室に案する。

ちなみにティフィはリティを抱いている。

そこにはアルスとアリアが付いており、ベッドの中に眠っているデュアンがいる。

が、すぐに、

「あれ?デュアン何か小さくない?」

リスティルの一言に、ミューゼリックが、

「高度なを使ってアルスさまが助けてくれたんだ。で、副作用で……多分、リティと変わらない位……15歳位に戻ってしまったらしい。記憶とかは判らないが、はこの狀態。アルスさまはを使い始めると段々小さくなって、をやめると止まったと言っていた。どうしようかと思うが、まずは命があったことだけでも謝したい」

「まぁそうだよね。でも小さくなるかぁ……目を覚まして記憶とか確認しないとね。アルスさま。時間逆行なのですか?」

リスティルは問いかける。

「いや、それは判らない。ただ解るのは、師匠に聞いたのは何回もかけると副作用で回復力が落ち、寢たきりになると聞いた。だから一気にをかけ続けた。そうするとが強かったのだろうな。自衛の為に年齢を下げていったのかもしれない」

「アルスさまでも判らない事例ですか?」

「幾らをかけても蘇る、アホのアレクと違って、デュアンには何かしら起きるとは解っていたが、それが年齢退化とは思わなかった」

「あのバカとうちの甥を一緒にしないで下さい」

リスティルは基本的に溫和そうだが、嫌いなものには徹底的に嫌い抜く。

隣國の先代國王アレクサンダーとリスティルは、非常に仲が悪かったのである。

「まぁ、生きていただけでもいいですが、記憶とか欠けてたらきついですね……」

「そうならないようにリハビリなどは付いていよう」

「でもアルスさま。お忙しいのでは?」

「私の患者だ。シェールドの患者には定期的に向かうことにする。それと、俺の嫁もしばらく滯在させて貰う」

「ここに部屋を用意しますね」

リスティルは聲をかける。

「それに、私の甥をよろしくお願い致します」

眠り続けるデュアン、しかし、著替えの時には傷もなく本當に眠っているだけのようである。

點滴をして、栄養補助の為に備えている。

いつ目を覚ますのか……家族は不安で仕方がないが、穏やかな顔で眠っていることだけが良かったと家族はめ合う。

その間に、リスティルとラルディーン公爵、ラーシェフ公爵、王太子のティフィを中心に今回の事件の関係者を斷罪することになった。

セントバーグ子爵マナックは捕らえられず、その妻のと姉妹だけが捕らえられている。

「何で私が!私はセントバーグ侯爵夫人よ!」

「元だけどね」

クシュナは冷たく言い放ち、親友のマナから託された離縁狀を突きつける。

「お前はすでに爵位も何もない、ただのだ」

「何ですって!」

「その上、関わりのないお前から自分の名前を語られ、暗殺者を雇われたと相談があった。7年前の暗殺事件もセントバーグ侯爵が関わっていないことが明らかになったよ。今度こそ勘弁するんだね」

「私を何だと思っているの!」

「クズ」

姉妹たちは真っ青で震えながら、

「わ、私たちは知りませんわ!」

「夫たちが勝手に!」

「本當ですわ!お父様!」

「……私には、今、生命の危機に陥るデュアンとリティしか子供はいない」

素っ気なくミューゼリックは言い放つ。

「お父様!」

「……陛下。王太子殿下。私は息子デュアンリールを苦しめたこの者達に厳罰を!もう、溫を與えても無駄です。どうか」

「私のせいではないわ!」

「パルスレット公爵が!」

「パルスレット公爵はもうこの世にいないよ」

リスティルは微笑んだ。

「ついでに、お前達の夫も、兄弟も同様だ。お前達の意見に賛同した貴族も次々捕らえられている。財産は沒収。生まれた子供達は……可哀想だね。まだ小さかったのに……」

「えっ……」

ここに連れてこられる前に、子供達とは別れさせられている。

「子供達はどこよ!」

「返してよ!」

「犯罪者の子供として生きるよりも、普通の家の子供として生きるのがいいだろう。養子に出すことにした。お前達の教育方針では意味はない、子供達の未來はない」

リスティルは告げる。

「お前達は反省しない、逆恨みする。ついでに、ラルディーン公爵家の嫡男デュアンリールはパルスレット公爵に、割れたワイン瓶で、を刺されて今は生死の境を彷徨っているよ。母上の公爵夫人と妹がつききりになって必死に生き殘ってしいと願っている。聲をかけて手を握って……お前達も小さい頃に両親からそういう風に付き添われ、熱が下がったと、怪我が癒えてきたと喜ばれたのではないのか?」

「……っ!」

「自分の子供にそうしてやったことはあるか?私もラルディーン公爵も、ラーシェフ公爵もあったけれど、どうだい?」

問いかける言葉に、返答を失う。

「……生んでくれた、育ててくれた親を苦しめ泣かせ、実の兄を殺そうとまでした。一度でなく今回も。伯父としてではなく、この國の王として、この國になくてはならない逸材のデュアンリールを失うことになることは困るんだ。バカが何人いるよりもデュアンの方が大事だと思わないかな?」

「お前達の子供達が可哀想だね……可哀想だ。そしてマナとデュアンが……」

の従兄弟と親友を苦しめた原因である従姉妹を睨みつける。

「許さないよ、絶対に」

デュアンリールが眠っている間に、親達と引き離された子供達は、10代の子供達はシェールドの騎士の館に男問わず途中館となり、ラミー元子爵の息子のルイも送られた。

まだい子供はそれぞれリスティルの子供の嫁ぎ先とクシュナの家、飲み子はラルディーン公爵家で預かることになった。

リティは、実は近所の子供達の面倒を見たことがある。

でも、はいはいをしたり、まだうつ伏せになったりできない赤ん坊は余り見たことはなかった。

「ち、小さい……こんなに小さいんですか……えっと、えっと可いです。お利口ですね〜?」

頭をでるときゃっきゃと喜ぶ。

「わぁ、らかい……でも、重い〜!」

「ふふふっ、お嬢様もこんなだったのですよ」

慣れたように、イーフェは抱き上げる。

「もうし小さかったですがね。綺麗な子だとおばあさまが喜ばれておられました」

「おばあちゃんが……?」

「えぇ。お嬢様ももうししたら、こんな可い赤ちゃんをばあやに抱かせて下さいませね」

「えっ……えぇぇ!だ、だってまだ早いもん……」

「ふふふっ」

し、デュアンの元から離れ、娘の元を訪れていたアリアは微笑む。

「ママもリティの花嫁姿を見たいわ」

「ママまで?」

かぁぁっと頰を赤くする。

「まだそんな相手はいないもの。それにリティは、パパやデュアンお兄ちゃんやリスティル伯父様みたいな人がいいです」

「リティ!何て嬉しいことを!」

戻ってきていたミューゼリックが娘を抱き上げる。

「もう、相手はいいから、パパ達といるか?」

「この親馬鹿?仕事をしろっての」

リスティルが文句を言うと、扉が開き、

「失禮します。ミューゼリックさま、デュアン先輩が目を覚まされました」

と言うクレスールの聲に、慌てて立ち上がったのだった。

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