《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》37……心の変化

ところで、ティフィはいつもと変わらず仕事をしていた。

その執務室の扉が、

トントン

とノックされた。

扉は重厚な為、近衛か職務の決済を頼んでくる文かと思っていたのだが、

「失禮します。殿下。姫様のお越しにございます」

衛兵の聲に一瞬、えっ?と首をかしげる。

姫というのは國王の娘であり、父にはすでに嫁いだ妹たちしかいない。

すると、

「ひ、姫様!ワゴンは私どもが!」

「大丈夫です!リティは力持ちなので……」

「いえいえ!姫様!力持ちとかの問題ではなく!」

白い上品なワゴンがってくるが、押しているのではなく、どう見ても後ろから近衛がワゴンに乗るリティをたしなめている姿にしか見えない。

『危ないから、ワゴンで遊んではいけません!』

と昔、妹たちが、今現在は弟のラディエルが叱られている姿に似ている。

「ティフィお兄ちゃん。お菓子食べませんか?」

びをするリティは、昨日聞いたが、骨や関節がまだしっかりしておらず、シェールドのファッションデザイナー一族の當主のウェイトと主治醫のアルスの2人によって、ハイヒールにレディーの正裝も最低2年は止されたらしい。

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それを教えてくれたのは、シェールドでの上司であり同時にルーズリアの王太子であるティフィの警護を兼ねていたカイである。

しかも、何故かメイドの格好をしている。

普通のメイドの裾の長いものではなく、ミニスカートにレースフリフリのエプロンドレス、ヘッドドレスも可らしい……と一瞬考えたが、誰がこの格好をさせたのか……に、思い至り、

「あの、ローズ様か……」

と呟く。

ローズ様こと、マルムスティーン一族のウェイトは、潛捜査の第一人者であり、裝を得意としている。

ウィリアムと言う名前があるものの、男裝の際にはウェイト、もしくはウィリーと呼ばれ、裝の際にはローズ様と呼ばれる。

にとってのローズ様は、恐ろしい完璧主義者で徹底的にしごく鬼教兼、になりきり、數限りなく男を騙し報を収集する天才詐欺師……であり、からすると、定期的にローズ様のお屋敷などで行われるマナーレッスンを兼ねたお茶會で流行について、男についての相談事などに真摯に聞いてくれる『お姉様』である。

結婚しており、子供も孫もいると言うのに、裝を止めようとしない……と言うよりも貌に磨きがかかり、ますますおモテになるらしい。

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一時期潛捜査の勉強をした際には、従兄弟のデュアンとティフィは顔であることを理由に、徹底的にのドレスコードのいろはを學ばされた。

その教育は所作に始まり、自分での化粧、同僚との著替え……同僚にはも當然いるが、逆に恥ずかしいというよりもけなく先輩に教わるのだが……。

「地獄……うん……」

遠い目をする。

むさ苦しい著替えに、ローズ様の命令というか指示に従い柱にしがみつくと、問答無用でコルセットの紐を締め上げられる。

「息を吐いて、柱に摑まれ!」

その通りにするが、同期たちが気絶や悲鳴、最後には凄まじい締め上げに文句を言う者には、ローズ様はにっこりと、

「その程度で喚くなって言ってんだろうが!まだあぁん?俺は今、一応軽〜く60まで締め上げているが、うちの嫁は48センチだ!そこまで締め上げてやろうか?」

と言ってくれた。

48センチ……母にそれとなく聞いたが、

「よ、48!無理よ〜!」

「というか、カズール伯爵のご令嬢は、45センチだって聞きました」

「何でウェストのサイズを聞きたがるの?」

「……いえ、今潛の為に、まだ若くて顔の私やデュアン兄さんを中心としたメンバーにドレスを著て、どれ位けるかの訓練です。ピンヒールもローズ様は、12センチも履いても大丈夫と豪語されてましたが、私には6センチでも苦行で……あれでダンスを踴れと言われたら……母上や方は恐ろしい……いえ、素晴らしいなと思いまして……」

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ものには言いようと、言い方がある。

すると、橫で聞いていた父のリスティルは、

「潛捜査……お前はするの?」

「いいえ。カズール伯爵閣下に反対されました。私たちの先輩の1人がかなり無謀な潛捜査をして、死にかかったとか……それに、私の場合はルーズリアの王太子で、普通は同期とも差別はしてはいけないけれど、私は大學院にも籍を置いているので、免除されるのだそうです」

「まぁ、それならいいよ。それより、潛捜査で死にかかった無謀なお前の上司っていうのは、カズール伯爵の娘婿で、先代マルムスティーン侯爵の息子のリュシオン・フィルティリーアだよ。あの子、12歳で騎士の館に學して3年で卒業したら、2年の間に幾つもの暗殺者集団とか人売買の組織とか、竊盜団とかを潰して回って、逆に捕まって、何回か拷問に、両手足を縛られて冬の川に投げ込まれて、死にかかったらしいから」

「……えっ?」

リュシオン・フィルティリーア……國王アルドリーの側近であり、妻である六槻むつき……これはグランディアの名前で、本名はアエラ・アルカサール皇

父方はカズール伯爵家、マルムスティーン侯爵家のを引き、曽祖母は當時の王と言う高貴な分であり、母方はグランディアの國王である現在の騎士の館の館長の姪の子。

の地位は母方の地位を示す。

ちなみに、グランディアでは國王……皇上こうじょうと訳される……は、一族で最も能力のある存在を言い、それは一族に続けて出ることは稀である。

しかし、現在の當主の清影せいえいは當時の皇上の末息子で、さほど能力に優れていると言われていなかった。

年の離れた兄が皇太子だった。

清影は生まれてすぐ母を亡くし、父は忙しく兄に可がられて育った。

しかし、3歳の時に兄が戦死し、周囲は大人しく、表のない子供だったので、たち以外は気味悪がり屋敷の奧に放置していた。

だが、兄が戦死した為、すぐに能力者の子供……後継者候補が集められ、おまけのように呼び出された清影は周囲の年たちの一言に文字通りブチ切れた。

「あの皇太子は雙子だった、やはり畜生腹ちくしょうばらの子供。だから死んで當然だ。その前に母親もろとも殺してしまえば良かったのに」

清影の兄は雙子で、雙子の妹である姉は何者かに連れ去られ、未だに行方不明だったのである。

大好きな兄を、顔も覚えていない母や姉を馬鹿にした周囲の年長の子供達を、清影は容赦しなかった。

力ではない……いや、力ではあるが拳などで毆りつけた訳ではない。

立ち上がり口を開いたのである。

「畜生腹……ならばそなたの妻はどうだ?今、そなたの妻の腹の中にいる子供は雙子だ。生まれたら殺すのだな?可哀想に……お前の一言で、お前の妻と子供の人生は終わったも同然だ」

「なっ……?」

「そう言えば、そなたは分の低い家からの婿養子……だと言うのに、その一族の娘である妻を蔑み、げるのだな」

清影は3歳の割には大人びた言葉を繰り返す。

「それにその者、先日命を絶った巫をここにいる數人の男たちと暴行しただろう?しかも、巫の地位をした自分の姉と、父の命令に従い、この國の日々の安寧を願う巫を穢した。この國にとって害悪の一族だ」

「誰が!証拠はあるのか?」

「証拠?そう問いかけると言うことは、主導したと言うことも同然。よって処分する。風の神よ!あの巫の悲しみを、い慕い、結ばれる日々を待っていた人の苦しみの為に、この一族のが斷たれることを我はむ!」

その瞬間、凄まじい勢いの風が巻き上がり、落ち著いた時には、清影の周囲の年長の青年に達しない年たちの首はなく、巫の地位をしたは無殘に首を切られ、それを命じた父親は切り刻まれ塊と化していた。

皇太子を選ぶ場所での穢れに周囲は騒然となったが、立ったままじっと父親を……皇上を見つめる様に、周囲は……特に分を傘に暴力を振るい、ひいては言葉にできないことを要求する者たちに嫌気のさしていたは、いものの先代の皇太子に瓜二つの清影を歓迎した。

しかし、皇上はそのさで怒りを以って処斷する息子を恐れると言うよりも、將來を心配した。

その為、皇太子には認められたものの、信用に足りうる青年に息子を預けたのだった。

ちなみに、清影の予知は當たり、妊娠していたは雙子を産んだ。

しかし、その前に、皇太子を怒らせた婿を一族から追い出していた當主が、人を失っていた青年を婿に迎え、彼は雙子を実の子として可がったのは別話である。

そして、六槻は能力者だが、が弱く、能力を封印している。

その夫のリュシオンは、10歳下の妻を文字通り溺しまくり、妻と娘の為なら害悪は問答無用で抹殺しますが口癖である。

「フィア先輩……そんなことしてたんですか?」

「ん?本人15から17の頃の記憶全くないから。17歳の時死にかかった時記憶喪失で、5歳から後の記憶がすっぽり抜けて、それから3年間は靜養してたんだよ。20歳になって、普通の生活に戻れることになって、白騎士団長に就任したから」

「……外見と面が違う……んですね」

面と外面が一緒なのはカイ位じゃないの?」

と、父親は言っていたのだが……。

ワゴンは取り上げられたリティは、ちょこちょこ近づいてくる。

「お兄ちゃん。休憩しませんか?リティの作ったお菓子持ってきました」

「あぁ、ありがとう。そうしようかな」

立ち上がると、普段よりも小さいリティに、あれ?となる。

「リティ?今日はヒールを履いてないんだね」

「はい。普通の靴なのです」

ティフィも叔父のミューゼリックやカイほど長ではないが、顎を上げて必死に見上げる従姉妹が可哀想になり、ヒョイっと抱き上げる。

脇の下を持ち上げ、お姫様抱っこにするのだが、を安定させる為腕を回すと、リティのウエストに無意識にれる。

細い……。

先程思い出した母との會話でも、45センチだのあったが、長していないリティはそれ以上に細いらしい。

と、

「ねぇ、ティフィリエル殿下!何していますの!」

背後から聲が聞こえた。

振り返ると裝姿が恐ろしい程よく似合うローズ様である。

「えっ?ローズ様。何がです?」

「公然セクハラですの?騎士の端くれが、このむっつりすけべに〜!」

「セクハラって何ですか?」

「従姉妹とは言え、どこっていますの!」

「えっ?」

見ると、無意識にウエストや細い手足をっていたらしい。

「あ、ごめん。前に、ローズ様がの格好をする時ウエストを絞るって聞いて……リティがこれ以上絞ったら大変だと思って……あたぁぁ!」

「言いながら、ベタベタさわさわ、姫のお腹をらないで戴きたいわ!」

バシッと頭を叩かれ、リティを奪われる。

ちなみに、普段は剣を佩くものの裝時は、金屬で作られた扇を主な武に戦う。

その武で思いっきり毆られ、頭を押さえる。

「ほんっとに、男ってこう言う所が嫌なのよ。姫?大丈夫?」

「ありがとうございます。えっと、痩せてるのが変ですか?ごめんなさい……」

「違う違う!これ以上締めたら、リティが気絶すると思って!それに、自分の両手で、十分ウエスト周りのサイズが測れる……だぁぁ!」

もう一度問答無用で、ローズ様に毆られたティフィは悶絶する。

「全く……失禮な。放っておいて、姫。お菓子を食べましょう」

ソファに準備されていたティーセットで、ローズ様はリティに微笑む。

「痩せているのを気にしなくてもいいのよ。私の妻も、本當に小さくて痩せていたの。10歳だったわ」

「そうだったのですか……」

「そう。私は19で、本當は騎士として勤めるはずだったのだけど、騎士の館に2人の問題児がるから、指導教として殘ってくれって言われたの」

「問題児?」

「1人は13歳だって年を偽って騎士の館にろうとしたファー……私の奧さんね。そして、もう1人は12歳だけど、平均年齢14歳の新人の中で一番筆記試験も力試験も、実技も満點だけど人見知りの激しいフィア……馴染だったのよ……何ぼさっと突っ立っているの?座って食べなさいな」

ローズ様は、王太子すら顎で命令できる王様である。

この部屋の本來の主人ティフィも、反論はできないのだった。

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