《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》38……無意識に探す

ティフィは頭をでながら、空いているソファに腰を下ろす。

テーブルの向こうでは、リティと王様が楽しげに話をしている。

「そうそう。余り痩せているのを気に病むことはないわ。私の妻や私の馴染……前に水鏡で話をしたフィアの奧さんも、そんなに大きい子じゃないのよ。ファーは生活環境……お父様やお母様はちゃんと若くして結婚されたけれど、ファーたち兄弟を立派に育てられたの。でも、小さい頃に住んでいた地域の主食や食習慣なども関係するのね。そんなに背はびなかったわ。フィアの奧さんは、グランディアのお姫様で、元々グランディアの人は小柄なの。男は高くても私位ね。は、姫のお母様位が高い方じゃないかしら……?こちらのティアラーティア王妃殿下はあちらではとても長になるわ。私の主であるあちらの陛下のお母様……先代の王妃殿下は、ティアラーティア王妃殿下は優雅な仕草に上品な言葉遣いに、姿勢も素晴らしいし、ドレスのセンスなども最高なのだけれど、逆に、そっち方面は全くダメで、私と、義理の娘になる今の正妃殿下が必死に特訓するのだけれど、まるでダメ……」

先程は兇だった扇を広げ、ため息をつく。

「それに、醜を文句言いたくはないの。でもね?息子の國王陛下や妹姫たちが本當に端正な上に、禮儀作法がについていると言うのに、ドレスの裾にヒールを引っ掛けるならまだしも、転んで相手の服を摑んでその怪力で破ったり、ダンスの最中に相手である夫の先代の國王陛下と罵り合い、毆り合いの喧嘩を始めたり……もう、あの時は気絶したくなったわ……」

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「私も練習の時に転びかけて、お兄ちゃんやパパに抱っこして貰いました」

「あら、それはいいのよ。家族とダンスのレッスンですもの。でも、うちの先代たちは公の場でですもの。伯父様やお祖父様に連行されていったわ……」

お茶を口にしたローズ様は、

「あら、このお茶は花の香りがするわね」

「一応、今度売り出そうと思っているお茶です、ローズ様。紅茶に乾燥させたこちらのアルディオラスと言う花を混ぜて花の香りを移したものです。アルディオラスも香りはいいのですが、逆に味には癖がないので合うと思って。他にも試しては見たのですが、シェールドのルエンディードやエリオニーレのような香りは出ませんね」

「そうね。でも、これはこれでいいと思うわ。向こうの最高級茶は私ですら數回よ」

「ルエンディードのお茶は、よく飲んでいらっしゃったと思いますけど?」

ティフィは手を止める。

「ルエンディードやエリオニーレのお茶は、陛下の薬のようなものよ。陛下はほとんど食べられないから、無理にでも食べて戴いて、アレルギーが出ないように薬の代わりに飲んで頂くの。薬と言うのも陛下が嫌がるから、ティータイム。でも、それでも調が優れない時には、ヴィルナ・チェニアのお茶を飲むようにされているわ。ヴィルナ・チェニアは花の咲く時期が未確定で、咲いたら即、ホワイトドラゴンが風の魔法でカズールのチェニア宮に送ってくれるのよ。それを乾燥させるのね。滅多に手にれられないわ。それに陛下の為に必要なものだから」

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「高いと言うか貴重なんですね……それに、向こうの陛下のおの為にも必要なんですね」

「そうなのよ。あぁ、そうだったわ。はい。向こうの陛下から頼まれたのよ」

差し出されたのは、小さな瓶に詰められたもの。

「ハンドクリームとリップクリームね。の弱い陛下や小さい子供でも大丈夫なの。陛下は本人は痛いとか言わないのだけど、すぐに手の指の皮が剝けるの。だから、妃殿下が気をつけて指先とかの傷口に塗ったり、毎日これでマッサージよ。そうすると行も良くなるから、デュアンにも伝えておくわ。ティフィは無理そうだから」

「失禮な。私だってできますよ」

「無理無理。やってご覧なさいよ」

「やりますよ」

「姫?ティフィの隣……と言うか、ティフィに膝に乗せて貰いなさいな」

頷き、テーブルを回ったリティはティフィの膝に乗せて貰う。

ローズ様に差し出されたハンドクリームをすくい、

「リティ、手を出して」

「はい!」

差し出された手の小ささにギョッとする。

弟のラディエル並みである。

自分の手で広げつつ溫め、そしてマッサージをしようとするが、小さく細すぎて、どう力をれていいか分からない。

し、ただでるだけもマッサージを見ながら、ローズ様はニヤリッと笑う。

「ダメじゃない。爪も手れしないと、それに指と指の間にも……」

「わ、分かっていますよ!」

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「い、痛いっ!」

「わっ!ごめん!リティ。ど、どれ位なら大丈夫か……」

段々おずおずになり、がっくりと落ち込む。

「無理……です。小さくて細くて、力込めると折れそうです……」

「ほーら覧なさい。見てなさいな」

近づいてきたローズ様が、指先だけではなく親指の下や、手のひらも使いながら優しくもみほぐす。

「ここがツボなのよ。ここが痛いと頭痛がしょっちゅうよ。それに、ここもツボ。それに、手でって解ると思うけれど、行が悪くて、姫……冷え癥じゃないかしら?夜寢る前に足もマッサージをするか足湯をお勧めするわ」

「解るんですか?」

「夜寢る時に寢つきが悪くない?1人で寢てると」

「そうなのです……最近はお兄ちゃんやパパとママと寢てるので、ぬくぬくします」

「寢る前の食事はだけど、溫かい飲みかぬるめのお水を飲んで寢るといいのよ。それと手足は暖かくして寢ること」

両手をゆっくりとマッサージしていると、瞬きをし始め、そしてこくりこくりと眠り始める。

こてんっとティフィにを預け眠るリティは頰も赤く、行が良くなっているらしい。

「……寢てる……」

「元々無理をさせすぎて、自分の疲労の蓄積がどれ位に影響があるか分かっていないのよ。外見年齢の子供と一緒。知恵熱とか、疲れて時々夕食の時に寢てしまったりしているでしょう?が弱い方ではないと思うけれど、寢込むこともあると思うわ」

「靴下とか手袋とか……」

「人間は寢ている間に汗を出すのよ。それに、靴下は足を締め付けて行が悪くなるの。手袋もしていても汗で気持ち悪くなっていでしまうと思うわよ。それよりも足湯とマッサージね」

「半浴じゃダメなんですか?」

「汗をかいて水分を多めにとるから冷えるのよ。足湯ね」

席に戻りつつ、ローズ様はちらっと部下だった青年を見る。

「まぁ、一言言っておくわ」

「何でしょう?」

「……アレコン」

「何ですか!それ!」

憤慨するティフィに、お茶を飲んだローズ様はにっこりと微笑む。

「私の國ではロリコンのことをアレコンって言うのよ。歴史は古くてね?アレクサンダー陛下……先王陛下じゃなく、一世陛下ね?」

アレクサンダー一世……約1900年前のシェールドの中興の祖である。

正式にはアレクサンダー・ギデオン陛下と言う。

ちなみに5000年余りの歴史がはっきりしているシェールド史上、男か不明と言う不思議な國王でもある。

武力に秀で、それでいて才知に長け、混の國を安寧に導く為に武を取った。

しかし最近になり、アレクサンダー一世は王であることが解った。

武力に秀で、戦場を駆け巡り國を平穏に導いたが、戦いが終わると表舞臺からを引いた。

代わりに夫である初代マガタ公爵ミュリエル・レクシア卿が、妻の代わりに政務に勵み國を落ち著かせる為の政策に奔走した。

「資料があるのよ。マルムスティーン家の隠していた書簡で、アレクサンダー一世陛下ね?ご両親である先代アールター國王夫妻が全く子育てできない方だったのよ。あぁ、生まれた子供は可かったのだけど、ご夫妻は若かったし、特に戦場にを置いていたから、ミュリエルさまが面倒を見ていたの。ミュリエルさまは妃殿下の養い子でね?」

「アールター陛下はお幾つだったのですか?」

「えっ?」

遠い目をする。

「……妃殿下は17で、それよりも年下だったとだけ言っておくわ。妃殿下はカズール家のご令嬢で、本人は剣士として優れた腕をお持ちだったけれど、ご自分が相當、當時でも貌の主とは思っていなかったらしいわ。とてもオモテになられたけれど本人は全部スルー。あの暗黒の時代も最初はその妃殿下を妻にしたいという男達から匿った時からだったらしいから」

「當時の醜は……どうなんでしょう?」

「何を言っているの?カズール家やマルムスティーン家、王家の貌は昔からほとんど変わっていないのよ?アレクサンダー一世陛下のものは殘っていないけど、妃殿下の絵姿は殘っているのよ。うちの陛下のお祖母様……セリカさまの髪と瞳がフィアの蜂の髪に瞳が緑に変わった位ね。剣士だったからもっと凜々しいじかしら?」

「相當な人ですね……」

「そうよぉ〜。まさしく、傾城傾國の。アールター陛下も端正な貌の持ち主で、そのお二人から生まれたアレクサンダー一世陛下は絶世の貌ね。お顔立ちはお母様にそっくりで、瞳と髪は王族の青。でも、そのに生まれたから、男として育てられることになったのよ」

ティフィはキョトンとする。

「どうしてですか?」

「あら?うちの王位継承権の順位はどうやって決まるか知らなかったの?」

「えっと、今の陛下は長男だった……第一王子だったから……」

「違うわよ。國王ってこちらの陛下のようにあらゆることを采配なんてしないわ。ほとんどは五爵が分擔するのよ。國王がするのは、自らの力で國を支えること……そして、このアシエルの神の苦しみを癒すのよ。アシエルの神の直系の子孫……それがシェールドの王なの。その能力の強さは、に帯びるで分かるわ。青が濃い程力が強いの。でも、ほとんどが青みを帯びた銀の髪とか、緑や紫を帯びたブルーアイだけど、アレクサンダー一世陛下は髪も瞳も青だったの。で、カズール家は元は始祖は風の竜王、マルムスティーン家の始祖は水の霊王。風が穢れを祓い、水は清める。だから王になったら國から離れられない。日々ほとんど王宮の奧に籠っているのよ。あぁ、それとアレコンは、ミュリエルさまが両親に抱かれて嫌がってギャンギャン泣きじゃくるアレクサンダー一世陛下を取り上げて、『僕が面倒見ます!だから、僕のお嫁さんにして下さい。じゃないと2人で家出します!』って宣言して、幾ら何でも3歳のミュリエルさまがそこまでしないだろうと思っていたら、本気で家出して、ぎゃぁぁ!って追いかけて捕まえたのですって。それにまだ3歳だし、大きくなってからと言い聞かせても、見張っていてもどういう訳かその目を盜んで逃亡するものだから観念して『良いよ』って言ったそうよ」

「さ、3歳……」

顔をひきつらせる。

「でも、たった3歳で赤ん坊を連れて度々走でしょう?どうやってしたの?って不思議がっていたら、當時のマルムスティーン侯爵が確認したら、水と風だけではなく當時には珍しい大地と樹木の守護を持っていて、『おっきな木に言ったら全部お願いを葉えてくれた。レクスは僕のだって言ったら、そうだって言ったよ』って真顔で答えたらしいわ。マガタ公爵は元々ラディリア公國って言う、カズールの西に小さな國があったの。その唯一の後継者だったのだけど、『もうない國に1人で帰れって言うなら、この國滅ぼします。それに、レクスは私のものです。返しません!連れて行きます!この國にいて良いなら、この國滅ぼすのやめます』って騒なことを言ったらしいの。昔から戦が収まるまでの數々の采配や、溺するアレクサンダー一世陛下に対する執著心にアールター陛下が『じゃぁ、アレクサンダーは武力だけで、帝王學を學ばせようとしても無理だったけれど、一國の國主だからとお前に學ばせた才能で、アレクサンダーの代わりにこの國を統治しなさい。出來るならこの國に殘りなさい』とおっしゃって、一応マガタ公爵の位とマガタ公爵領の一部にラディリア公國を再興させたのね。で、生まれたアーサー殿下に王位を継がせて、自分はマガタ公爵として支えてある程度まで見屆けたら亡くなったとも言われているわ」

「亡くなったとも?」

「だって、マガタ公爵家のお墓はないのよ。アレクサンダー一世陛下の陵墓もないの。伝説ではアレクサンダー一世陛下が亡くなって、マガタ公爵が裏に葬ったとも言われているわ。一番知っている存在も無言を貫いていらっしゃるし、私は陵墓とか興味はないもの。で、アレコンは、アレクサンダーコンプレックス。マガタ公爵は素直でらしいアレクサンダー一世陛下を、自分以外に懐かないように育てたらしいわ。まぁ、両親や妹姫たちにはそれなりだったけれど、一緒に寢ていたマガタ公爵がちょっといなかっただけでギャン泣き。仕事で半日いないだけで泣き続けて熱出して、両親や妹姫たちも手がつけられなかったらしいわ」

「うーわ〜……」

「貴方もそこまではならないようにね?私の馴染のアリシアは顔だけ男の癖に、6歳の公を餌付けして婿養子よ。あの馬鹿、外面だけの癖に、その外面も上手く活かせない、タラシ野郎なんだから!」

けっ!

裝姿にあるまじき姿で吐き捨てる。

「えっと〜ローズ様。アリシアと言うのは……?のお名前では?」

「あら?知らなかったの?アリシア・ルイーゼマリア・ランドルフ。カズール家の懐刀、ロイド公爵家の當主のマーマデューク卿の弟よ。騎士としての登録名がルー・ランドルフ。しかも、元々その公が危険な目にあっているのを救出したのはフィアなのに、手柄橫取りよ!」

「あー、あの、ルー先輩ですか〜……えっと〜どことなく、アルドリー陛下に似ていらっしゃいますよね……」

目の前のローズ様こと、ウェイト並みの男子だが、ウェイトとは違い、頭脳派ではなく腕力に訴える別名殘念上司である。

「あら?それも知らないの?ルーのお母様は先先代陛下の雙子のお姉様なのよ。だからルーは先代陛下の従兄弟。お母様のお名前はアリシア・ルイーゼマリア王。お顔は雙子でそっくりだったのだけど、格がルーに瓜二つの殘念王だったらしいわ。元々お父様は先先代陛下の側近として王宮に詰めていたのだけれど、溫厚での弱かった陛下よりも、度々マナーレッスンを走するし、王宮中を足で走り回るし、木登りに喧嘩に、時には陛下の服を著て街で暴れているから、追いかけて行っては連れ戻し、お説教を繰り返して、父王陛下もこれでは弟陛下が可哀想だから、嫁に貰ってやってくれと頭を下げられたのよ。で、生まれたのがマディお兄様で、仕事が忙しくなったお父様の代わりにお母様を見張っていて、マディお兄様が17の時に生まれたのがルーよ。産後の立ちが悪くて亡くなったお母様の代わりというか、それ以上に暴れまわるルーに頭を抱えてたわ。一応名前はお母様の名前をつけられたのよ。恥ずかしいって、騎士の登録名がルーよ」

「……はぁ……そうなのですか……さすが殘念上司……」

「同じ歳で、騎士の館に同期でったけど、馬鹿は治らなかったわ……顔だけでも良いんだから、中も良くなれと徹底的にしごいたのだけど、ダメだったわね……」

本気で殘念そうにため息をつく。

「後輩のカイなんて顔も格もいいのに、災難に巻き込まれ質……だから本當はこちらに迷をかけないようにと思って連れて來たくなかったのよ。……でも、他は役に立つけど胃腸が弱いとか、全に暗殺武を仕込んでる腹黒とか、胃腸の弱い父親の代わりに伯父を見張ってる子とか、私の息子たちでも良いけれど長男は……部下が馬鹿やって、徹底的に鍛え上げるって言うし、次男は、兄ちゃんに全部頼んで潛して來まーすって嬉しそうに行っちゃったわ……ハァ……」

「えーと、ローズ様の長男ってあの紅騎士団長でしたっけ?」

「あれは次男。長男はラファエルよ。白騎士団長。私に似て賢いし武も極めているけれど、どこにあの熱漢な質が……可いのに……」

「……お父上によく似ていらっしゃいます。はい」

鬼団長と呼ばれるラファエルのが、ここから來ていると思い知ったティフィだったのだった。

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