《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》39……しさの卵

ティフィはスヤスヤと腕の中で眠るリティを起こさないようにしつつ、お茶を飲み、そしてリティが持って來たお菓子に手をばす。

「……えっ?何で?」

普段は長方形に切られているものが、様々な形に抜かれて並んでいる。

「『志ぐれ』をクッキーの型で抜いたんでしょう?良いアイデアね。とても素樸なお菓子だから、清影せいえいさまのお茶のお時間位よ。出されるのは。でも、本當に地味だけど味しいのよ。クレスの子供達と食べるから、リティが考えたんでしょうね」

「形が違うと……食べる?」

「そうよ。うちの子供たちは、特に次男が好き嫌いが激しくて、野菜を食べないからどうにかして食べさせようと苦心したものよ?陛下は逆に食べられないから可哀想だったわ」

「そう言えば、アルドリー陛下の拒食と言うか、食べられないものが多いのは……どうしてですか?」

すると、ローズ様は険しい顔になり、

「拒食じゃないのよ〜!あれは待!私がいたらまだマシだったと思うけれど、私もその頃幾つだったかしら……?」

「えっ?陛下と15違いって聞きましたよ?」

「違うわよ。陛下は私たちの時間で7年間……殿下の時間では13年間、グランディアで育ったのよ。そう、私は21で、諜報活いていたのよ。フィアとファーは騎士の館。本當はアルドリー陛下の側近はフィアって決まっていたの。でもまだ14だったから、學業重視って館にいたの。でも、フィアを館から一時的にでも陛下の元に行っていたら、陛下の質はなかったかもね」

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質はなかった?」

「そうよ。雙子で生まれた陛下たちだけど、弟王子は大きかったのよ。健康そのもの。でも、陛下は小さくて泣かなかったの。それに母親のセイラさまは調を崩して靜養中で、最初はアンディール兄上……今のマルムスティーン侯爵のお父さんよ……その方が面倒を見ていたの。でも、先代がね……」

額を押さえる。

が弱いから近づくなって言ったのよ。叔父上方が。そうしたらどう勘違いしたのか『が弱いなら、薬を飲ませたら良い』って、々な薬草の効能も何も関係なく煮出して、飲ませたのよ。赤ん坊の陛下に!」

「……げっ!」

真っ青になる。

ティフィは植學者だからある程度解る。

薬草には効能が様々あるが、その効能を最大限に用いるには醫師や薬師の診斷と処方が必要である。

一応ティフィも今度、短期で留學し、薬師の資格を得る試験をける予定である。

その為に執務の合間に書を読んだり、薬草園で様子を確認したりと余念がない。

それだけ量を間違えたり、判斷ミスで命を脅かす場合もある。

薬は過ぎれば毒となり、毒は量ならば薬となることもあるのである。

それなのに……。

「ぎゃぁぁって、ほとんど泣かない陛下が大泣きすることが度々あって、兄上が気にしていたけれど仕事もあって、忙しい時を狙って、陛下がぎゃぁぁって大泣きするから、兄上が叔父上方に相談したのよ。で、マルムスティーン侯爵邸で育てられることになったんだけど、それからは何ともなくて、1歳になってから王宮に戻したのね。そうしたら、數日もしないうちに食べを口にしなくなって、痩せ始めたの。もうこれはおかしいって、私とルーとフィアが陛下につききりで面倒を見ていたの。そうしたら……私とフィアはルーに頼んで食事を取りに行って、ルーは水を取りに行ったのよ……うぎゃぁぁぁ!って、凄まじい泣き聲が響いて戻って見たら、ルーが先代をしばき倒してたわ。『何やってんだ、馬鹿!』って、フィアと陛下に駆け寄ると、あの可い顔や全に発疹と嘔吐した跡があって、全部吐かせようと水を飲ませようとしても、イヤイヤって大泣き。フィアがお水は大丈夫って目の前で飲んで見せて、ようやく口の中のものを全部吐かせて、服を著替えさせて、アルス先生を呼んだのよ。そうしたらアレルギーですって」

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「アレルギー……それは薬草ですか?」

「と言うか、あの馬鹿先代は水にも薬草、お菓子にもパンにもスープにも……全部よ全部!特にクッキーとかには必ず練りこんでいて、そのせいでお菓子は刺激って反応するらしくて、今でも見ただけで発疹よ。しばらく點滴で、食べられるものをチェックしたけど、ほとんどダメ。も野菜も大半ダメ。香辛料もダメ。食べられるのは魚と野菜々。それに食べ過ぎると戻すのよ……もう、小さい陛下が高熱出してヒィヒィって、を鳴らして寢てるのも見るの辛いわよ……が渇いているだろうって飲ませると吐くから、らせたタオルで口を拭くのが一杯。今でも食で、あの量であの長までびたのはグランディアの食事のおだと謝したわ……」

「グランディアの料理……ですか?」

「塩とそれと醤油ね。味噌も大丈夫だったわ。こちらのように刺激の強い香辛料はほとんど使わずに、自分たちで作っていたそうよ。それで味付けをした近くの池で釣ったお魚とか、家庭菜園で育てた野菜に主食のお米で生活していたらしいわ。その大半はこちらに戻る時に持ち帰って、陛下の食事はそれを主にされているわね」

ローズ様はお茶を飲む。

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「うちの子供たちは、嫌いな野菜を刻んで、ハンバーグに混ぜ込んだりとか、型抜きで可く抜いて、飾ってとか々したものだけど、先代はやり過ぎよね……本當に。でも、リティからすれば贅沢かもしれないけど、陛下も苦しんでしまわれるから……私は、まぁ、貴族のお坊ちゃんだけれど、潛する時はその場に応じたものを口にするわ。でも、今でも私の國でも貧富の差があるのよ。私たちも援助をしたり、孤児院やの不自由な人たちに住んで貰う家なども建てたりしているわ。それで、もっと良くなるようにと思っているけれど、ろくに食べられなくて、飢えて死んでしまう人もいるわ。そうなる前にと、子供を売ってしまう親も……。その子供の將來を願っていても、ほとんどの場合奴隷として働かされるか、顔の綺麗な子はを売る為に連れていかれる……もしくは、昔のように他の國に売られる……青い瞳は滅多にこちらの地域で生まれないでしょう?ルーの奧方はおばあさまが王族だったから、先祖帰りで青い目なのよ。拐されて、人売買組織に捕まっていたの。売られる寸前で組織から逃げだせたの」

「……!」

「……こちらの人全てが悪いんじゃないわ。でも、あのルーが一度もこの國に來ていない理由は、奧方が怯えるからよ。ルーも青い目でしょ?薄いけど。仕事とはいえ旦那が他の國に行って、戻ってこなかった……なんて……日々囚われて、脅されて、手には手錠のあと……痩せ細って怯えていた、初めの頃を覚えている私には、馬鹿だから連れて來たくないって言って、ルーを奧方の所に置いてくるしかないわ」

首をすくめる。

「まぁ、本當はカイも青い目だけど、あっちはアイスブルーで、それに普段は顔を隠しているでしょ?カイは自分の顔と言うか目が嫌いだったのよ。半分ボケてるけどあれでも複雑な生まれだったの。あの顔は父親似で、瞳は母方のお祖父様のなの」

「そうなんですか……」

「そうなのよ。今は気楽に前髪持ち上げているけど、昔は絶対に見るな!って怯えてたのよ。でも、ある時持ち上げたらびっくりだったわ」

「端正な顔ですか?」

「そりゃそうよ。シエラ……今のカズール伯爵の亡くなった兄上に瓜二つだったんだもの。本人は『普通です』って、ありえないわよ!シエラが真顔で『兄の次男です。認知してますが、爵位継承権の優先順位により、兄の奧さん方の爵位を継承することになりました』よ!」

あのシエラシール卿も強烈な人だよなぁ……と思いつつティフィは志ぐれを口にする。

「……あ、味しい……」

「そうね。姫が必死に作ったみたいね。デュアンにレシピを聞いて、昔お手伝いした時を思い出して、火の様子とか本當に頑張ってたらしいわ。皆に食べてしい、味しいって言ってしい……それに、頭をでてしいって思っているみたいね。本當に可いわ……連れて帰りたいわ〜」

「ダメですよ。リティはそっちにあげません」

「あら、従兄弟ってだけで言ってるのかしら?それじゃぁ、いつまで経ってもお兄ちゃん未満ね」

「……」

ティフィは黙り込む。

「何か言いなさい?言いたいことがあるなら聞いてあげてもよくってよ」

「……父が、譲位したいと……で、父が位を譲るのですから、私が王になるのですが……」

「そうねぇ?で?」

「……父が言うには、自分は賢王じゃない。自分は従兄弟が滅茶苦茶にした國を昔に近く戻しただけ。もう自分の時代じゃない。お前がこの國を導きなさいと言うじで……アルドリー陛下も悩まれたのかなぁと……」

「それはないわね。陛下は悩む暇もなく、即位したもの」

ティーカップをソーサーに戻し、テーブルに置く。

ローズ様は真顔でティフィを見る。

「だって、先代は王になりたかった訳じゃないのよ。王は國を治める為、王宮に留まらなくてはいけない。先代はそう言うじゃなかった。自分は父王の一人息子で、生まれた直後に母君が亡くなって、姉上に育てられたけれど帝王學なんて面白くも何ともなかったみたいよ。あの人、シエラと正反対の天才児だから」

「天才児……?アレクサンダー二世陛下が?聞いたことはありませんでした」

「授業とかは寢てても覚えてたらしいわ。記憶力も半端じゃない。まぁ騎士としては最低ランクでも、剣を武にして、幾つも犯罪組織を壊滅させたのは事実で、自分では手が回らないと、私の父に諜報組織を作らせた。そしてそれも幾つもの果をあげたし、ルーの奧方や、馴染でヴェンナード子爵の弟妹が奴隷として売られ、そこから逃げ出して、ストリートチルドレンとして生きていたのを保護したり、街で悪さをするゴロツキを懲らしめたり……ウサを晴らすように暴れていたのよ。それに、好きで……そう言う噂は絶えない人だったわ。でも、子供はしくないって言って、自分で薬を飲んで、相手にも飲ませる徹底ぶりだったけどね」

「……」

リティがもし聞いていたらと、ちらっと見るが、自分の元を握りしめ眠る姿にホッとする。

「で、五爵は頭を抱えていたわ。暴走する……でも怪我はしない……もみ消すのにも限界があったの。言っても聞かないし、誰よりも隠し通路などに詳しくて閉じ込めても走する。見つけても即逃げ出す。困っていた時に、カズールのチェニア宮から使いが來たの。『私の姪で、グランディアの風の鳥が現れた』最初は小さい世界の小娘とでも思っていたんでしょうね。でもセイラは違った。いきなり先代に飛び蹴りと急所攻撃で気絶させたのよ」

「……えぇぇぇ!急所攻撃……えっと……」

「考えている通り、鳩尾などの急所だけじゃなく男の急所よ。ついでに目潰しも食らわせようとしたのは、必死に止められたわ。弾と言うか破壊兵だったわぁ……。あれを見たら、うちの姉達の可いこと……特にナーニャ姉様は男裝しているけれど、本當に夢見がちで、可いもの……でも、本気でこの恐ろしい最終兵をどうしたらいいのかしらって頭を抱えたわ……。それに、私のこの姿を見て、ドレスをがそうとするし……フィアのことを気にって、連れ出して暴れまわるし……。それ以上したら怒られるわよと言ってもけろっとしているし……実際全然反省しないから、エディお祖父様が怒ったら、真顔で『この程度で怒るんですか?だって、うちの母さま、の敵と変態には徹底的にお仕置きしろって言いますよ?あの程度であの変態が懲りる訳ないでしょう!やっぱり城門に吊るすべきです!にして!で、その橫に垂れ幕で、『この者馬鹿につき、一晝夜このまま放置して置くべし!』って書きましょう!シエラ兄様も良いって言ってました!』ですって」

「……な、何と言って良いのか……」

「言わなくても良いわ、めにもならないし、最低でも二回は吊るされたらしいもの」

折りたたんだ扇のでため息をつく。

「まぁ、変態には変人って言うけれど、先代が自分を容赦無く毆りつけるセイラが目新しかったんでしょう?ちょっかいを出してはぶん毆られ、蹴り上げられ、絞めあげられても追いかけ回すようになって、今度は気持ち悪いって逃げるようになったのよ。セイラが。それがまた気になって……ストーカーだったわね。風呂場とか著替え中に覗くとかしょっちゅうで、それで吊るされたのよ。でも追い回して、周囲にやめろと止められてもやめなくて、で、思い余って寢室に忍び込んで……よ」

「……と言うより、変態ストーカー……えっと、失禮しました。外には……」

「良いわよ。本當に変態だから。でも、そう言うの外に出せないでしょ?で、カズール家の令嬢として先代の婚約者になり、嫌だって逃げるのを追いかけ回し、もう面倒だって子供作ったのよ。同としても最低ランクよね」

「……何か聞くんじゃなかった……です」

「と言うか、ここまではなくても、貴方、ちゃんと自分の気持ちに気付いた方がいいわよ。30って、ルーが結婚した年だわ〜。年の差が14あったから、婚約期間が長かったのよね。で、フィアは姉上が結婚してからってことで、29でだったわね。姫は幾つだったかしら?」

「14ですけど……何でここで聞かれるんですか?知っているでしょうに」

ムッとする。

「聞いたけど、姫はここで滯在した後は、うち……シェールドに両親やデュアンと共に來ることになっているのよ?ミューゼリック閣下にお願いしたら、ドレスとか作らせて戴けることになって、姉様たちに連絡したところよ。喜んでいたわ〜久々に腕がなるって。で、貴方も、良く調べたら、この國、國王に即位する者は、結婚もしくは婚約者がいることが最低條件じゃなかったかしら?」

「……どこで調べたんですか……って、報の爵、マルムスティーン一族ですよね……と言うか、そんな相手いませんよ……それに、モテると思います?」

「自分が解っていないだけじゃない?それに、今更よね」

サラッと言ってのける。

「王になる為に結婚するのが嫌なのか、もしくは結婚したから父親に王位を譲れとけしかけていると思われたくなかったのか解らないけれど、それはただ逃げてるだけよ。いい加減、お子様ぶっているのもやめなさい。もう一度言うけど、貴方も30!おっさんよおっさん!おっさんがうざったいわ。可の子の相談ならまだしも」

「……おっさん……」

「デュアンは外見も面相応になったけど、貴方は面がおっさん!もしくはガキ!いい加減にしなさいな。と言うことで、私は帰るわね。姫は預かるわ。じゃぁね〜」

リティを抱き上げ、ローズ様はさっさと出て行った。

ティフィは、なくなった溫もりに自分の手をじっと見つめていたのだった。

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