《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》54……マクシムという年。

王宮に戻ったラルディーン公爵一家と共に來ていた、ネグロス家の嫡子マクシムは決意していた。

知人であり、兄のように慕っていたルーベント家の三男カークが、実はあの1度目のデビュタントの直前、マクシムの元に來ていた。

たわいない、馴染だった……母親同士が仲が良く、行き來していた。

あの前日、會いに來たカークはどことなく苦しげだった。

「どうしたの?」

普段は大らかで、兄貴分だと言いたげにマクシムを弟扱いするカークが、暗い目でため息をついたのだ。

「あ、いや……何でも……ないことはないな」

「じゃぁ、どうしたの?カーク」

カークは天の勘というか、荒っぽいが剣を極めたら凄くなると小さい頃、マクシムは思っていた。

マクシム自はさほど剣に向いているとは思わず、一応こちらの學校から留學できるシステムがあり、運良く剣ではなく、マクシムがこの國では珍しいの力を持っていたこともあってシェールドに行くことができた。

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ネグロス家の家計では出來ないこと……返済金のない奨學金制度のある學校に行き、そして勉強がしたかったのである。

シェールドの騎士の館では、分を問わず績優秀者をれるようになっており、館にれば、生活費を毎月1ルード……人してから働く給金とほぼ同様の額、ちなみに、シェールドは他のどの國よりも収が高いが、稅金は低いと言われる。

ここルーズリアもほぼ同じ収だが、ある程度稅金で取られる。

兎も角、全員、館にる時に、持って來ていたお金は卒業するまで出すことのできないナイトバンク(カズール家が運営する銀行)に預けることになり、代わりに、朝食夕食付きの寄宿舎で分関係なく、騎士見習い以前の、騎士の卵として2年間みっちり勉強することになる。

ちなみに晝食や筆記用、服などは館の中にある學食や店、もしくは館長や、教に許可を得て船で渡ったカズールの街で買いや食事ができる。

しかし、って3ヶ月は外出許可は與えられない。

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里心がついて家出したり、マナーや言葉を話せず、街の人に迷はかけられないのだ。

だが、騎士団総帥のカズール伯爵の義兄である館長や、その家族や、元騎士と言う教がたは優しく厳しく真摯に思春期の生徒たちと向き合い、育ててくれた。

館長の息子である隼人教を、実はマクシムは父と呼んでいた。

の扱いはさほど目立たないが、代わりに座學と時々自分では持て余す何かがあったマクシムの元に、時々便りが屆く。

それは、今ではもう離婚してしまったが、母からのもので、

『マクシム

元気にしていますか?

お父様が又、借金をして領民に稅を押し付けようとしています。

何度もやめるように言っても、聞きれて下さいません。

それに、カークくんのお父様のところに行ったり、パルスレット公爵のお屋敷に出向き、帰ってこないこともあります。

借金の返済を催促する商人が日々來ては、お金を工面することもしばしばです……私は、もう疲れてしまいました。

カークくんのお母様……にお會いしたい……』

と言ったような容だった。

父の浪費は心つく前からあり、一人息子のマクシムは、父の跡を継ぐというよりも借金を継ぐのではないかと思っていた。

どうすればいいのかと思い、自分自もまだ勉強がしたい……そうすれば何とかなるのではないかと必死だった。

しかし、ある日、

『マクシム

もう耐えられません。

お父様と離婚します。

貴方を殘し、去る私を許してね』

と言う手紙に、力が暴走し、それを救ってくれたのが館長と教だった。

ベッドに橫たわるマクシムの握っていた手紙を取り、館長はじっと読んだ。

そして、教に手渡すと、

「マクシム。この封筒の手紙は確か、ここにってから毎月のように屆いていたね?お前の母親からだと言うことで、手渡していたが、容を聞いてもいいかな?」

澄んだ聲が響く。

「……父が……借金を繰り返し……母は父と喧嘩をしていました……僕は、一人息子で、跡継ぎだと言われていました……でも、父は爵位を持っているのをいいことに遊び歩き、母が借金を払う日々で……僕は頑張って、お金がないことは周囲に言えないから、績優秀者になって奨學金を得て……家の為に……嘆く母の為に頑張って……」

「家の為に、母親の為に……騎士はそんな理由でなるべきではない」

「……っ!」

館長の聲が突き刺さる。

我慢していた涙が溢れた……。

「父上!言葉が足りませんよ!マクシム」

隼人はマクシムの涙を拭うと、穏やかに微笑む。

「マクシム……館長が言いたいのは、騎士だけではなく、誰かの為に生きるのはいいことだけれど、マクシム。お前は自分を抑え、周囲に気を回して、我慢しすぎだよ。ここは騎士の館。でも、騎士だけじゃない。他の道を選ぶ子もいる。マクシム。今まで屆いた手紙は私が預かるよ。そして、お前は一応私が、叔父たちに頼んでおくから、ルーズリアに休暇の時も戻らなくていい。休暇は私の家で過ごしなさい……父上。館長、構いませんよね?」

「……使いを送る。マクシム。眠りなさい」

立ち上がった館長は無表でスッと出て行った。

……その時は泣いていて分からなかったが、後日、教でシェールドで生活する間、養父母となってくれた隼人とその妻の智慧ちえ、そして姉達とその夫……それはそうそうたるメンバーだったのだが……に笑われた。

「あぁ、あの後お父様が激怒されていて、酷く荒れていたわぁ……いつもは、お父様をからかうお母様が、必死に、『やめてぇぇ!エイ!私は、貴方の顔が好きなのぉぉ!なのに、その般若のような顔、絶対に似合わないわ!私のせい?ごめんなさい〜!』って謝っていたわ」

「そうそう。お前の部屋に行って、手紙を全部回収して、全部読んだと思ったら、砕しようとして、シエラ兄さんが、『ダメだよ!兄さん!これは証拠!リー兄さんがしがってたんだから、頂戴!代わりにアレクあげるから!』『いらん!』『じゃぁ、可い可いイズミさんとムツキとお茶會!』『……久しぶりに、コウヤと過ごしたい……』『了解!シルゥ兄様もつける!』って」

「あははは……!シエラ師匠も、何でシルゥ伯父上をつけるのか……」

「お前が言うな!癒されたいんだろ」

笑うのはレイズ・マルムスティーン侯爵家の次男で、紅騎士団長……義理の4人の姉のうち3番目の姉の夫で、毆るのは、末の姉の夫でレイズ・マルムスティーン侯爵家の長男ラファエル。

「館長……お祖父様は本當はかな方なんだ。でも、特に腹を立てたり、自分の子供や孫同然に思っている騎士の館の生徒たちを悲しませたり、苦しめる存在には容赦がない。確かあの後、數日館から消えてただろう?」

「ぼ、僕は寢ていたので知りませんが、館長……お祖父様の授業が別の授業になったと……」

「その間、王宮に居たんだよ。で、しごかれた……俺」

一番上の姉の夫で、國王陛下の側近の一人のチィ……稱らしい……がガックリする。

「まぁ、俺は弱いんだけどさ、実際。兄貴にはぶっ飛ばされるし……でも、コイツと一緒にされたくねぇ……」

示されたのは、有名な聖騎士のカイ・レウェリン卿の長男だと言う青年。

「何で?チィ兄さん。仲間!」

「お前より可いセリが良い」

「俺も同じ。お前帰れ。セリ呼べ」

「えぇぇ!ラファ兄さんまで!俺だってそこそこ……くぅぅ……あいつどこ行ったんだ。母上が泣くし、ツキも真顔で『お前よりセリが良い。濃いんだよ!この変態が!』って、酷い……」

ガックリする彼は端正だが、父のカイ卿の男だが清楚な印象の貌よりも派手な形だった。

本人もその華やかさを自覚しているのか、結構他の3人よりも……いや、ケバい。

一番品があるのがラファで、流行やおしゃれなのはチィ、そしてもう一人はスポーティな格好と言えば良いのか、きやすいものを著てきた印象である。

「お前にはまず謙虛さがない!努力も足りん!セリとチィを見ろ!全く!」

「わぁぁ!やぶ蛇……」

頭を抱える姿にプッと吹き出す。

「す、すみません……先輩達……」

「兄ちゃんだが?そうだなぁ……俺もこの馬鹿より、ヨウの方が可い」

ラファが頭をでる。

ヨウ……萬葉まんようと、祖父の館長はマクシムに新しい名前をつけてくれた。

萬葉と言うのは『萬よろずの世に言の葉が伝わるように』と言う意味だと言う。

萬は、とても數が多い、とても長いと言う意味で、葉は、言葉であり、時代も意味するのだと言う。

そして外部からの連絡を全て祖父と養父母は絶ってくれた。

父と別れた母にも、直々に便りを送り、説教したとも言う。

ルーズリアにも送ってくれるなと國王直々に便りが送られた。

そして落ち著いた年は騎士としての勉強を続けながらも磨き、最後にルーズリアに戻ってきた。

カークのことはショックだった……カークは悪くない。

あの時カークは言った。

「マックス……俺に何かあったら……デュアン団長に伝えてくれ」

と……。

そして、最後に出て行った時、こちらを振り返った顔は、泣きそうだった……。

「じゃぁな!マックス」

あの顔が忘れられない……。

その後、反逆者として捕まったと噂に聞いた。

でも、パルスレット公爵達罪の重い者は処刑されたが、カークは話題にならなかった。

裏に牢獄を探ろうとしたが、警備が厳しかった上に、時間がなかった。

デュアンも調不良でかなり辛いらしい。

どうすれば……會えるだろう。

カークに、デュアンに……。

必死だった。

すると、父が実家で行うパーティにデュアンは出席しないが、その父であるラルディーン公爵夫妻が出席すると言う。

嫌々だが実家に帰ってみれば、父は変わっておらず……その上……。

マクシムは、拳を握りしめる。

そして、扉が開くのを待って居たのだった。

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