3年生になって1週間が経つ。

クラスでも大分安定がじられるようになってきた。1人自己紹介の時以來問題発言のせいでハブられている子がいるようだが、それは俺には関係ない。

しかしいつもの場所で過ごした1週間は、〝いつも〟の様には落ち著かなかった。もちろんあの教師...櫻宮さくらみやの影響だ。ずっとまた不意に扉が開くのではないか、という微妙な張を抱えていた。

そして今日もいつもの場所へ向かう。

途中何人かの子生徒とすれ違う度、

「櫻宮先生ってハーフらしいよ、もう私それだけで惚れちゃいそう。」「あれ、クォーターじゃなかったっけ？とにかく綺麗な人だよね、あの聲 忘れられない！」

とかいう會話が耳にってくる。今櫻宮はかなり子人気がある教師になっているらしい。確かに金髪の珍しさはあるが、俺にはいまいち理解できない。

「ふぅ...今日はし窓を開けておくか。」

いつもの場所に著いてから窓を開けると、爽やかな春の風がこの部屋を包み込んだ。

桜の花びらがチラチラと部屋へ舞い込むのを眺めながら制を橫にした瞬間、春風にわれたかのように櫻宮が現れた。

「お、やっぱりいた。」

櫻宮はいかにも嬉しそうに、にんまりと微笑んだ。

「どうしたんですか、また脅迫ごっこがしたくなったとか？」

「キツいね、私は君と話したくなったから來ただけだというのに。」

そう言いながら風にたなびく金髪をかきあげ、俺の隣に腰掛ける。...やはり俳優と言われたら疑い無くそう思えるような容姿が間近にいると、男ながら僅かな張を覚える。真っ黒な髪と瞳と平凡な顔つきの俺にとっては、羨ましくも思う。

「そういえば先生、最近子生徒に人気...って、なんですか急に。」

櫻宮は俺の両手を持って指1本1本を優しくでた。

...擽ったい。

「ああ、確かに子生徒は騒いでいるな。そんな事より君、いい手をしているね。大きくてしっかりしている。私なんかよりピアノに向いている手をしているよ。」

「そんな事言われたのは初めてです。ピアノは駄目だ、ドレミもわからないし。」

すると櫻宮は俺に向かってクスリと笑い、窓辺に立った。

「...ねぇ君はさ...」

「？」

「ラヴェルは好き？」

その問いに、俺は困した。すごく困ってしまった。

そもそも知らない〝単語？〟なのだが...どういう事か、とても答えたいと思うのだ。ここで「大好きです」と言えれば、もっと彼に近づける予がしたから...って、俺は一何を考えているんだろう。

「あ...えっと...」

「ふふ、困った？可い所もあるんだね、君。」

それから俺は熱い顔を恥じつつ、舞い込む桜と音楽用語を口ずさむ櫻宮を眺める事しか出來なかった。

帰宅後。

俺は久しぶりにペンを持ち、スケッチブックを開いた。

ゆっくりと思い出して、手をかす。

多分、今日眺めていた景を忘れたくなかったんだと思う。