《殘念変態ヒロインはお好きですか? ~學校一のが「奴隷にして」と迫ってくる!~》1.學校一のはお好きですか?

窓から差し込んでいる斜が、廊下の床を紅に染めている。この塩梅だと、もう5時を回っているな。この時刻まで部活にも行ってなけりゃ、帰宅もしてないなんてことは滅多にない。異例の遅さだ。

何故俺、柊裕也ひいらぎゆうやともあろう者がこんな遅くまで殘っていたか? それは──の時間に18イラストを提出したからだ。

や、待て待てし弁解させてもらいたい。ミロのヴィーナス像ってあるだろ? あれを寫生することになったのだが、先生ご本人がデフォルメしていいと言ったのでお言葉に甘えさせていただいただけだ。ちょーっと萌え分を足したり、卑猥なを付け加えてやっただけである。

しかし、擔當のハゲジジイはこともあろうか俺の高等で崇高な作品にいちゃもんを付け、説教の後《のち》描き直せと命令しやがった。まったく、頭の固いセンコーである。髪のでも生やしてらかくなりやがれ。

ちなみに描き直すつもりは頭ない。めんどくさいからな。

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やっとのことで怒鳴り聲から解放された俺は今、自分の所屬している3-5の教室の前に到著したところだ。通學鞄を取ってさっさと部室に向かおう。

俺は勢いよく引き違い戸を開ける。ガンッという大きな音が鳴った。

その音で教室にってくる男《おれ》の存在に気付いたのだろうか。誰もいないと思われた教室の中にいた一人の──若葉葵《わかばあおい》がこちらに振り向いた。

綺麗──俺は初めに、そんな想を抱いた。

窓を背にもたれ掛かっている彼は、酷く幻想的で。窓から差し込む夕日が逆になって彼を照らし出しており、その景はさながら大天使が降臨している場面の様《よう》である。実際に彼は、「天使」と裏で呼んでいる生徒もいるくらい、格も顔も素晴らしいと評判の生徒だ。學校一のとも言われている。どちらにせよ、冴えないぼっちおれとは大違いだな。

そんな圧倒的が、その顔にあるくりくりとしたライトブラウンの大きな瞳で、こちらを見つめてくる。彼の表は、どこか勘繰るような、心配しているような、そんな儚げな表で。

もし俺がそこら辺にいる一般ピーポーだったなら・・・・・、きっと心底見惚みとれていたことだろう。

と大した接點も持たない俺は、特に挨拶等をすることもなく俺の席へ向かう。

も俺に興味を失ったのか、手に持っていたスマホに目を向けた。

ん? あんなだったっけか、あいつのスマホ。……まぁあいつのスマホが何だったかなんて覚えてもいないし、気のせいだろ。

俺も涼風から目を離し、機の中からエロフが服をひん剝かれている表紙のラノベを取り出す。タイトルは『ヤればヤるだけ強くなれる俺は、國王命令でを強しまくる』。なげぇしヤベェな。

それを機の上に置かれている鞄に突っ込んで、鞄を肩にかける。それから「ユウヤ、行っきまーす!」(CV.古谷徹)と脳再生しつつ、出口へと足を向けた。

「ねぇ、ゆうっち」

しかし、実際に數歩ばかり前進したところで、涼風に呼び止められてしまう。俺は仕方なく足を止めた。

「あ? ゆうっちって誰だよ」

「反応してる時點で分かってるじゃん!」

なるほど、それも一理あるな。だが、ロクに話したこともない奴に名前つけるとか、俺からしたら考えられないんですがそれは。

そもそも俺は普段、子はおろか男子からもあまり話し掛けられることはない。ましてや接點ゼロの人間から話しかけられるなど、普通はあり得ない。

故に、全國のぼっちは『誰にも話しかけられるわけがない』と戒めているのだ。そうでないと、他人に向けられた言葉に反応してしまい、かなり恥ずいことになる。ソースは中學生の俺。

というわけで、念のため誰に話しかけているのか問うのも當然と言える。 ……結局反応はしてるじゃないかというツッコミはよせ。

「へいへい。で、何の用だ?」

「ん~っとね……」

そう返答しながら、彼が持っていた黒のスマホを俺に差し出してくる。どことなく顔が俯きがちなのは気のせいだろうか。ほんのり頬が赤くなってるような気もするが……

「このスマホ、ゆうっちのじゃないかな?」

「何!?」

俺はしばかり強引に、彼の手元からスマホを奪い去る。

電源ボタンを押すと、なるほどスマホの畫面は見覚えのある夏服時雨(水著姿)の壁紙を映し出す。ロックはかけてないので、瞬時に表示された。防犯? 知らんな。……めんどくさいことは嫌いなんだよ!

「涼風が拾ってくれたのか?」

俺はスマホを鞄に投すると、涼風に向き直って質問する。

見ると、彼は先程スマホを奪い取られた手をさすりながら、掌を凝視していた。はぁはぁと息切れすら起こしている。そんなに痛かったのか? それはちょっと罪悪が湧いてくるな……

ん? いや、地味に口元を緩めてる? 流石にそれはないか。

俺が涼風を観察している間に痛みも取れたのか、彼らしい元気な笑顔を俺に向けてくれる。

「んん~……まっ、そんなじかなっ!」

「そりゃセンキューな」

簡単な禮だけ言うと、今度こそ教室から出ようとする。もう話すこともないだろ。だが、そんな予想は殘念ながら裏切られた。

「あっ、ちょっ! ちょっと待ってよ、ゆうっち!」

「あ? まだ何かあんの?」

「うん。あのね、単刀直に言うとね──」

そこで涼風は言葉に詰まる。何か言いにくいことなのか?

しばらくして意を決したのか、俺の目を見つめながら真剣に問いてくる。

「ゆうっちって絵師さんなのかな?」

「は?」

意外な質問だった。しかもそれが正解しているので、驚いたもんだ。

そう、彼の言う通り、俺は『Yuu』というユーザー名でピクシブを中心に活する中堅絵師である。この中堅というのが肝で、そこそこ見られるけどプロデビューは出來ないという塩梅である。フォロワー數は1000人。ビミョーすぎて悲し……

「え~っと、ごめんね。ちょっとスマホっちゃって……」

申し訳なさそうに、上目遣いで暴する。さっきからどこか遠慮がちだな……

「あ~…… そういうことか。まぁ、その通りだな。一応絵師だ。」

「じゃ、じゃあ、あのえっちいイラストも、ゆーっちが描いたの?」

「…………お、おう……」

そこまで知られてしまったのか……

恐らく、ピクシブかニコニコ靜畫のユーザーページでも見られてしまったのだろう。俺は18イラストを中心に投稿しているので、ユーザーページに行きつけば嫌でもえっちなイラストが目にる。

もしこの予想が正しければ…… 弁解すら不可能無理難題だな。最悪だ。

「えへへ、そーなんだ…… えへっ」

何か小聲でつぶやきながら、涼風は俯いてしまった。今度は誰の目にも明らかなほど顔全が赤くなっている。

意外にも、涼風は近年増えてきた所謂《いわゆる》“リア充オタ”というやつで、結構深夜アニメもたしなんでいるようだ。

しかしそうは言っても、の子に18イラストは目に毒だろう。恥ずかしがるのも當然というものだ。多分、心引いてる。

ちなみに、俺は普段から學校で堂々と18イラストを描いているので、流石に多數の生徒から引かれてる。べ、別に悲しくなんかないんだからねっ!/// ……や、ガチでどーでもいいんだけど。

その後、黙って二人で見つめ合うという何とも言えない空気が流れる。

黒板の上に掛けられている時計が刻む秒針の音だけが、教室を支配していた。

涼風は気まずさからか、何か言おうと薄桃かそうとする。しかし、何も話題が出てこないようだ。目も泳いでいる。

一方俺もしくらい気まずくじはしたが、まだ無言というものに慣れている分マシだ。

ぼっちの特技その一、沈黙を切り抜けられる。その二? 知らんな。

「え、え~っと、あたし、帰るね。じゃあね、ゆうっち」

「あ、あぁ。じゃあな……」

しばらく経って何とか沈黙を打ち破ってくれた涼風は、小さく手を振りながら俺と挨拶し合った後、一目散に教室から出て廊下を走り去って行った。

よっぽど俺の側にいたくなかったんだろうな。あいつの顔、夕焼けより赤くなってたし。ガチガチのガチ。

さて、さっさと部活に行くか…… それと、後でスマホにロックかけとこっかな。

そう決心した俺は、教室を後にする。涼風の姿はとっくに消えていた。

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