《殘念変態ヒロインはお好きですか? ~學校一のが「奴隷にして」と迫ってくる!~》2.ツンデレ馴染はお好きですか?

その教室は、後方に古びた機やら椅子やらが散している。何でも、置代わりとして使われているらしい。

右側の壁際には絵のの跡で汚れた手洗い場が設置されている。

前方には描畫に使う道々と、新型ノートパソコンが一臺。それに加えてたった二セット、機と椅子が置かれていた。それは、我が校の部に部員が二人しかいないことを表している。

一人は俺。もう一人は小學校の同級生、長瀬結《ながせみゆ》だ。

長瀬はポニーテールにした髪を茶に染めているイマドキ子で、格を抜きにすれば中々のである。何でこいつが部なんかにいるのかてんで分からない。

気を出そうとでもしているのか、スカートはかなり短く元のボタンは大きく開いているが、こいつは貧なので完全に無駄な努力。

長瀬は椅子に座ってイーゼルとしかめっ面で向き合い、傍の機に置かれているリンゴのぜっさんだかデッサンだかしている。や、ぜっさんは銀魂の腐向けカップリングだったわ。

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こいつは絵を描く時だけは集中力が高く、今も一心不に──いや、何かチラチラこっち見てくるんだけど。何? ケチャップでもついてんの? 今日の晝に食べたハンバーグのコンビニ弁當、旨かったっす。

あれから室に到著した俺はそんな長瀬を橫目に、彼から隨分離れたところにある椅子に座ってスマホをいじっている。決心したことはしっかり行うって大事だよな!

「さっきからスマホばっかいじって何やってんの? もっと私と喋っ──じゃなくて真面目に部活しなさいよ! こっから追い出すわよ!」

が、即座に長瀬に絡まれてしまった。この通り、長瀬は特に俺に対して當たりが強い。完全に嫌われている。

お前、俺の行監視しすぎだろ。何? 俺の事好きなの? ツンデレなの?

「スマホのロックかけてるだけだ。終わったら何か描くから、それでいいだろ?」

「ふ~ん、めんどくさがり屋のあんたが珍しい。明日はミサイルが降ってくるわ」

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何それ怖すぎだろ。金正恩、やめてくれよ……

「まぁさっき々あってな。パスワードの大切さをに染みてじたところだ」

「へぇ~、何があったの?」

「……えっちいイラストを涼風に見られた」

「あははははっ! 傑作ね! 愁傷様っ!」

人の不幸を笑うとかなんて酷い奴なんだ…… 多分こいつは、俺が不幸な目に會うだけで飯を三杯は食えるんだろうな。それくらい嫌われてる。

「……これ以上変に嫌われても良いことないしな。罵倒されるのはお前だけで十分だ」

「それもそうね。あんたは一生私に罵倒されながら生きなさい」

「やだよ、そんなの。大それだと、お前は一生俺の側にいなきゃならんのだぞ」

「なっ……! バッ、バカ! 変なこと言ってないでさっさとロックかけなさいよ!大ねぇ──」

顔を真っ赤にして怒ってくる。完全に激おこプンプン丸狀態。

ちょっとした間違いを指摘しただけで理不盡すぎだろ…… 俺は一日何回長瀬に罵倒されにゃならんのだ……

未だに騒ぎ立てている長瀬は無視して、言われた通りスマホにロックをかける作業を再開した。

♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥

「ふぅ」

一仕事終えた俺は溜め息を吐きながら、3年ほど用しているペンタブを目の前の機に置いた。スマホにロックをかけ終わった後、ちゃんと真備目に描畫したというわけだ。

就職したら毎日溜め息吐くことになんのかな…… やだな、働きたくないな……

描畫には結構な集中力を要する。疲れきったを椅子の背もたれに預け、そのまま首を後ろに傾けると──

──そこには宿敵、長瀬が立っていた。

「うわぉっ」

俺は驚きのあまり、まるで會敵したサイヤ人戦士の様《よう》に反的にを前に倒す。

「何めっちゃ驚いてんのよ…… き、傷つくじゃない……」

後半部分が聞き取れなかったが、恐らく弱蟲なり何なりと罵倒したのだろう。

伊達に長瀬とそこそこ付き合ってきた俺じゃない。こいつの考えていることは何となく分かる。

長瀬はわざとらしく咳をして、質問してくる。

「で、何描いたの?」

「…………な、何でもいいだろ……」

「……何でもはよくない」

「は?」

「い、言っとくけど、あくまであんたの下手な絵を見て優越に浸りたいってだけだし! 裕也と話せるきっかけを作りたいとか、そんなんじゃないし!」

「んなこと分かってるよ」

こいつは俺の頭の中がどんだけハッピーセットだと思っているのか。俺はアイムラビニともランランルーとも言わない。

俺はがいかに夢野ない産なのか、とある事件によってこのをもって知っている。知らされてしまっている。

長瀬もその事件の一端に関わっているので、俺が脳野郎じゃないことは分かっているはずなのだが…… まぁこいつのことだし、これも悪口の一貫なんだろ、多分。

「とにかく、お前に見せるわけにはいかない」

「……何でよ」

「何でもだ」

「見せてよ!」

そう言って、長瀬は機に置かれているペンタブを強奪しようとする。

ダメだ、絶対にこの絵を見せちゃいけない理由があるんだ! 何としてでも死守しないと。

「えいっ!」

だが俺の抵抗も虛しく、一瞬の隙をつかれて取り上げられてしまった。

「お、おいこらお前!返せ!」

「い~や~で~すぅ~」

くっ、何という煽り方だっ……! 毆りたい、このドヤ顔っ!

長瀬は俺の描いたイラストを閲覧していると、みるみる顔を赤くしていく。

ついに耐えきれなくなったのか、ペンタブから目を離し、こちらを凄い形相で睨み付けてきた。

「な、何學校でハレンチな絵、描いてんのよ!」

抗議の言葉を俺にぶつけ、怒りに任せてペンタブを宙に放り投げ──は流石にせず、優しく彼の側にあった機に置いた。

もし投げてたら、で払ってでも返してもらうつもりだったからな。

「バカッ!アホッ!スケベッ!ド変態ィ~~~!!!!」

そう、こんな低俗な罵倒をしてくることからお察しの通り、長瀬はJS子小學生級《レベル》でピュアななのだ。こんな『セフレ二桁います』って言われても納得できるくらいビッチな見た目をしているのにも関わらず、である。完全に見かけ倒しの処ビッチ。

だからこそ、長瀬はえっちな事に対して過剰に反応する傾向にある。

今回の件もその典型例だ。さっき描いていた絵はゴブリンにされている貧のハイエルフである。“ゴブスレが今熱い!”ってことで描いたイラストなのだが、完全にR-18指定。長瀬がまともに見れる容なわけがない。

そんなことは俺も重々承知だから、見せたくなかったんだよな……

だが、今更過ぎ去った事を嘆いても仕方ない。ここは何とか、さっきから罵倒し続けてくる長瀬を鎮めなければ……!

とにかく頼み込もう。

「なぁ、頼むから鎮まってくれよ…… な?」

「……ひとつ條件がある」

「條件?」

どうせ無駄だと思ったのだが、意外と話に乗ってきてくれたようだ。

「えぇ。……私のデッサンを描きなさい。そしたら、許したげる」

「は? いや何それ」

あまりにも突拍子もない條件を提示してきたので、思わずその條件の意味を聞き返した。なんかヤバい裏があるんじゃないだろうな。

「まっ、まさか、裕也にデッサン描いてもらって、しかも全をくまなく見てもらえるなんてすっごい嬉しい──とか私が思ってるって勘違いしてるんじゃないでしょーね!?」

「お、おう。そりゃまあ」

「あくまであんたが私のデッサンを偶像崇拝するのが見てて愉快ってだけだから!オッケー!?」

「オ、オーケー……」

や、そこまでするつもりは無いんだけど。疲れてもいるし、今日はさっさと帰ってアニメでも見てたいくらいなんだよなぁ……

だが、部の平和を守るためには仕方ないか。ヒーロー裕也は今日も疲労と戦うぜ……!

「じゃ、早速描くから、椅子に三角座りでもしてくれ。あっ、あと顔を膝に付けて上目遣いするのも忘れずに、な」

「こ、こう?」

反発するかとも思ったが、案外素直に従ってくれた。何かに怯えるような弱々しい上目遣いは、思わず守ってやりたくなるほど可くて。……格を知らない奴に限るが。

それにしても、長瀬が俺の命令を遂行するとは、明日は核兵が降ってくるな。……金正恩、マジのマジでやめてくれよ?

まぁ子なら誰しも、せっかくなら自分を可く描いてもらいたいものなんだろ。

「んじゃ、描きますかー……」

俺は気だるげに決意し、彼の側に持っていかれてしまったベンタブを奪還しに行く。

ちょうどそれを手に取った時、長瀬が控え目に口を開いた。

「ねぇ…… 私、可い?」

不安そうな、けれど、どこか期待している、そんな表の様にじられて。

「……可くなかったらデッサンしてない」

曖昧で、どこか誤魔化すような返答。ちょっと捻くれている俺にとって、最大限の譽め言葉。

けれど、目の前のには伝わったようだ。

「キモ」

そんなありふれた誹謗中傷を、小さな笑みを湛えながら言い放った彼に──俺はちょっとだけ可いと、思わないこともないこともないこともなかった。や、どっちだよ。

♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥

「よし、これでいっかな」

俺はそこそこ手間をかけて、デッサンを完させた。一日に二つも絵を完させたのは始めてだ。おかげでもう七時近い。

疲労のあまり機に寢そべりそうになるが、寸前のところで思い止まる。早く帰らないと、妹を待たせてしまうからな。さっさと長瀬に見せて終わらせよう。

「ねぇ、見せて」

幸い、向こうから見に來てくれたようだ。長瀬の側まで歩いて行くだけでも疲労のには堪えるからな。ありがたい。

「はいよ、これだ」

ペンタブを長瀬にパスする。彼はなかなか強引に奪って一目散にペンタブに目を通した。そんなに楽しみだったのかよ……

「こっ、これは──!」

我がイラストを前に嘆を溢す長瀬。俺の事が大嫌いな長瀬も、しくらいは喜んでくれたのだろうか?

──いや、恐らく否だ・・。

「何で関係ないイラスト描いてんのよおぉぉぉ!!!!」

二度目の激昂を起こし、ペンタブを俺に向かって投げつけてきた。

おいっ、危ないな! キャッチできたから良いものの、壊れてたら本気で弁償、で払ってもらうぞ!?

俺は描いたイラストに目を通す。我ながらそこそこ上的だ。

……なかなか可ちゃんを描けてるな、うん。こう、服が大きくはだけてるけど、ギリギリ大事なものは見えないってのがギリギリR-18じゃなくてそそるんだよな。

それに、だ。

「おい、ちゃんとデッサンはしてるぞ」

「は!? 何言ってんのよ!!」

再び騒ぎだした長瀬に、心外だと言う風に弁解する。

そして、ペンタブの畫面を長瀬の方に向けて、デッサンした部分《・・》を指差す。

「お前、今日は赤の縞パンなんだな」

一瞬の、沈黙。

「あ、あほおぉぉぉ~!!!! 死んじゃええぇぇぇ~!!!!」

怒りを通り越して涙の域にまで達した縞パンは、一目散に部室から逃げ出して行った。

三角座りしたらパンチラどころかモロパンなのは當たり前なんだよなぁ……

かなり怒っている風だった長瀬だが、別段こういういさかいは今日に限ったことじゃない。それどころか、これが犬猿の仲である俺達の日常だ。

だからこそ、また明日になれば長瀬は澄ました顔で罵倒してくるのだと、こんな日常が永遠と繰り返されていくのだと、俺はそう信じている。

証明なんてできない。証拠なんてない。明日終わりを迎えるかも知れない。

──けれど、一方的で勝手で傲慢な信用は、期待と言う名の強の下、漠然とり立っていた。

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