《お久しぶりです。俺と偽裝婚約してもらいます。~年下ワケあり生真面目弁護士と湯けむり婚前旅行~》6. 今日はこの人に婚約指を買いにきたので(2)

「それは駄目です。地味すぎます」

「私の好きなのでいいって言ったのに……」

「葉月さんの遠慮が見えるから駄目です」

數分後、葉月と朔也はショーケースに向かいながら小聲で言い爭っていた。

「カモフラージュに使ったあとの指はあなたにあげます」と言われた葉月が怖じ気づき、指選びが難航しているからだ。

──こんな高そうなものもらえないよ! なるべく安くて、朔也くんも納得できるやつを……値札がついてないからわからないけど……。

隣からは朔也のプレッシャーを、背後からは店員たちの嫉妬と好奇の視線をじる。

葉月は冷や汗をかきつつもショーケースの中を指差した。

「えっと、これはどうかな。寶石もついてるし」

「ついてますね。小さな遠慮の塊が一つ」

「だって朔也くん、高すぎるのは……それに、私にきらきらしたのは似合わないよ。可いとは思うけど」

葉月の言葉に朔也が眉をひそめ、溜め息をつく。

店員から離れて背中も向けているからか、朔也はすっかり元の無想な態度に戻っていた。

「いいですか葉月さん、想像してみてください。俺は有な若手弁護士。まあそれなりに野心もあって、祖父の決めた許嫁とは言え、あなたをしています」

「えっ、きゅ、急になに?」

「いいから想像してください」

「う、うん……」

「そんな俺が、あなたに……大切な婚約者に、ケチな指を贈るでしょうか?」

朔也が葉月に向き直り、尋ねてくる。

偽裝のためとは言え、あなたをしているだとか大切な婚約者だとか告げられ、葉月はつい頬が熱くなった。

「……贈らない、かな」

「そうです。演じるにあたって噓っぽい行は避けたい。それに……」

朔也が優しく葉月の左手を取る。

溫かくて大きな朔也の手のに、がドキッとした。

「葉月さんの手は綺麗ですよ。だから、何だって似合う」

視線が合い、さらに大きく心臓が脈打つ。

「朔也くん……」

頬だけでなく顔全が熱くなり、聲が震えた。

どうすればいいのかわからずもじもじしていると、朔也がぱっと葉月の手を離す。

「失禮しました。急にったりして」

「う、ううん。ありがとう、褒めてくれて。気を遣わせちゃったね」

「……いえ」

朔也の手のを名殘惜しくじてしまって恥ずかしくなり、葉月はうつむいた。

そのせいで、朔也の目が泳いでいるのに気づかない。

「これにしましょう」

を抑えた低い聲に顔を上げたら、朔也がそれまで見ていたのとは別のショーケースの中を指差していた。

示された指を見た途端、葉月のがときめく。

「わぁ……綺麗……」

「本當は最初からこれがよさそうだと思ってたんです」

その指は、ケースの照明に照らされてひときわまばゆくっていた。

プラチナの臺座にダイヤモンドがぐるりと敷き詰められた、エタニティリング。

中央に大きめのダイヤが一粒ついていて豪華だが、全的に細のせいか清楚で可憐な印象もある。

──あれ? このデザイン、どこかで見たことが……。

「葉月さんも気にったなら試著してみましょうか」

「あ、う、うん」

葉月は何かに気づきかけたが、朔也の聲がそれを遮った。

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