《お久しぶりです。俺と偽裝婚約してもらいます。~年下ワケあり生真面目弁護士と湯けむり婚前旅行~》19. 忘れてるみたいだからもう一度教えてあげます(2)

互いに激へ呑まれ、貪り合ったあと。

力なく開かれた葉月の腳の間で、朔也は絶句していた。

冷靜になってからようやく葉月の破瓜のに気づいたからだ。

「……謝らないで……」

葉月はった布団に橫たわったまま、息も絶え絶えに呟いた。

見上げた朔也の顔は絶に青ざめ、薄暗い橙の照明に照らされているのに真っ白だ。

髪と浴は葉月と同じく汗に濡れてれ、事の痕跡をあらわにしていた。

「葉月さん、俺……」

「痛くないから、大丈夫」

腳の間にし違和はあるが、噓ではない。

きっかけこそ強引だったが、葉月のは朔也を喜んでれていた。

生まれて初めての絶頂まで経験し、今も余韻に下腹部の奧が甘く痺れているほどに。

──……けど、痛いほうがよかったのかもしれない。

──痛がってべば……ううん、ふりだけでもいいからそうすれば、朔也くんは止まってくれてた。止めなきゃいけないってわかってたのに、私はただ、みたいに彼をしがって……。

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ぼやけていた思考が回復し始め、また後悔が湧き上がる。

それから、されて抱かれたわけではない悲しみと、それでも喜んでいた自分への嫌悪も。

「……っ、大丈夫なわけないでしょう。あなたは処まで奪われたんですよ」

「それは……私が彼氏いたって噓ついたから。初めてだって知ってたら朔也くんはしなかったはず──」

「やめてください!」

朔也は悲痛な聲で葉月を遮った。

大聲を出してしまったことにはっとしたのか、表を歪めてうつむく。

そのまま立ち上がって書斎を出ていこうとしたが、途中で力を失ったかのように畳にうずくまった。

「……ごめんなさい。俺……最低だ……」

のはずなのに小さく見える姿と、初めて聞いた泣きそうな細い聲。

葉月はますます放っておけなくなり、起き上がって朔也に寄り添った。

「私もごめん」

「なんであなたが謝るんですか……怒ってくださいよ。許さないでください」

朔也の聲の震えはひどくなり、拳はきつく握られていた。

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彼が罪悪や自己嫌悪に激しく苛まれているのが伝わってきて、葉月のも苦しくなる。

「……謝る理由が、あるからだよ」

予想外の臺詞だったのか、朔也が葉月を見る。

葉月は朔也の手を握ろうとしてためらい、その代わりに朔也を見つめ返した。

「私、朔也くんが好きなの」

懺悔するように告げると、朔也が目を見開く。

「好きだから……一方的に気持ちを押しつけて、言っちゃいけないことまで言った。抱いてもらえたのが嬉しくて、止められなかった。だから、今回のことは私が原因なんだよ」

「……っ、葉月さん、それは」

「違わない。今考えたら、本當の彼に嫉妬してたのもあったのかも。朔也くんを助けられるのは自分なんだ、って思いたくて焦ってて」

自分の愚かさが恥ずかしくて、葉月は朔也の顔を見られなくなった。

こうやって朔也をかばうのも、の押しつけに他ならない。

わかっているが、どうしても彼を責められなかった。

「本當に大丈夫だから。ごめん、嫌味っぽくなっちゃってるけどそうじゃなくて、その、全部私が──」

言葉の途中で、突然腕を引かれる。

たくましいが葉月をけ止め、そのまま抱きしめた。

「……もう何も言わないでください。昔っからあなたは、優しすぎる」

深い悲しみが滲んだ靜かな聲に、葉月の鼓が跳ねる。

「さ、朔也くん……」

「そんなの謝る理由じゃない。葉月さんのせいでもない。しでかしたのは俺です」

「でも、私が」

「いいえ、違います。弁護しようもありません。俺はかっとなって葉月さんを強した。偽裝婚約だって、俺があなたを巻き込んだ」

が離れ、ようやく朔也の顔が見えた。

彼は眉間に皺を寄せ、怖いくらい真剣な表をしている。

「……俺が自分勝手な理由で人を傷つけたりしない、って言ってくれましたね。でも、違うんですよ。俺は私利私のためにあなたを脅して騙しました」

「だ、騙す……?」

「あなたと結婚しないと産が手にらないのは本當です。けど、葉月さんは借金のカタじゃない。家同士の借金なんてありません。俺があなたを協力させるためについた噓です」

はっきりと答える朔也は、真実を言っているようにしか見えなかった。

騙されていたことに衝撃をける一方で、朔也が本心を明かしてくれたことが嬉しいような、複雑な気分になる。

「だから、終わりにしましょう」

「えっ?」

「あなたが偽裝婚約に……俺に協力しなきゃいけない理由なんて、本當はないんですよ。好きにしてください。俺を警察に連れてってもいいし、訴えてもいい。無料でいい弁護士をつけます」

思いもしなかった申し出に、葉月は息を呑んだ。

「もう全部遅くても、あなただけには誠実でありたい」

あまりにもまっすぐな眼差しに貫かれ、がズキンと痛む。

──……嬉しい。朔也くんの気持ち、すごく。

──でも、終わりなんて嫌だよ。偽裝婚約が終わったら、本當の私たちの関係も終わっちゃう……!

「わ、私の好きにしていいなら、最後まで協力させて」

「……葉月さん、そこまでしてくれる必要はありませんよ」

産が必要なのは本當なんだよね? 許嫁と結婚しなきゃもらえないなんて私も変だと思う。だから……」

珍しく必死で食い下がる葉月にたじろいだのか、朔也は口ごもった。

──朔也くんを助けたいなんて思い上がった願いだってわからされた。でも、近くにいたい。誰かが見てなきゃ朔也くんは自分で自分を責め続けちゃう。それに……。

──それに、まだ離れたくないよ。この気持ちが迷だってわかってるけど、せめて旅行が終わるまでは……!

「どうして」

朔也の低い聲が、葉月の思考を遮った。

「どうして俺に盡くすんですか。嫌いになってください、俺はクズですよ。あなたに痛いところを突かれたからって、全部ぶち壊そうとした。力に任せてあなたを踏みにじった」

彼の眉はひそめられ、しい顔を自への怒りに歪ませている。

葉月はますます放っておけなくなり、ぎこちなく笑いかけてみた。

「……だって、朔也くんは朔也くんだから」

そう告げた途端、朔也の眉間の皺がさらに深くなる。

「わ、わかってる、気持ち悪いよね。私もそう思う。でも、私は自分より朔也くんのほうが大切で……その、ごめん。ええと、彼がいるって知ってるから大丈夫だよ。応えてもらおうなんて思ってない……」

喋れば喋るほど墓を掘っている気がして、どんどん聲が小さくなっていった。

──私の馬鹿、言わなくてもいいことばっかり言ってる。こんなんじゃもっと引かれるだけだよ……!

「……いませんよ」

「えっ?」

「もう葉月さんに噓をつきたくないので訂正します。今、人はいません」

その言葉に、葉月は目を丸くした。

そんな狀況ではないのに、抑えきれない嬉しさが湧き上がる。

「でも、俺はあなたの好意にふさわしくない」

しかし、すぐにみは絶たれた。

「……う、うん。そうだよね……」

沈んだ表で瞼を伏せている朔也から、葉月も視線をそらす。

切なさや悲しさでがいっぱいになって、の奧まで詰まった。

「大丈夫だよ、朔也くん。もう言ったりしないから安心して」

朔也が何か続けて話そうとしたのが視界の端に見えたが、これ以上傷つきたくなくて笑いかける。

「とにかく、今日あったことはこれでおしまいにしよう。私、部屋に戻るね」

「……わかりました。ありがとうございます」

重い沈黙のあと、朔也が頭を下げる。

「本當にすみませんでした。、大丈夫ですか」

「うん、平気平気──」

葉月は顔に笑顔をり付けたまま立ち上がろうとした。

だが、ぺたん、と腰が畳に落ちる。

「葉月さん!?」

「あ、あれ……?」

朔也が相を変えて抱き起こしてくれたものの、やはり力がらなかった。

気づけば膝が震えているし、腰や太の筋がじんわり痛い。

すぐに理由に思い當たり、葉月は頬が熱くなった。

「どこが痛いですか……!? それともめまいとか」

「えっと、大丈夫だよ。そういうのじゃないから」

「でも!」

「……そ、その……へろへろになってるだけ。いま気が抜けたし、さっきすごく気持ちよくなってたから……だと思う」

恥ずかしくてたまらないが、歯切れ悪く白狀する。

すると、青ざめていた朔也が心配した表のまま直した。

徐々にその頬が、赤くなっていく。

──……可いリアクション。

──なんか朔也くんのこういう顔、久しぶりだな……。

迫した雰囲気がし和らぎ、葉月はようやく自然に笑えた。

「……わかり、ました。じゃあ、俺が寢室に行きます」

「待って」

ぎこちなく立ち上がる朔也を見て、思わず聲をかける。

「ここにいてほしい」

「…………」

「あっ、違う、いやらしい意味じゃなくて……! 朔也くんがどこか行っちゃいそうで怖かったから。や、やっぱり駄目かな」

途中でとんでもない臺詞を言ったことに気づき、慌てて訂正する。

朔也は眉を寄せ、また葉月の隣にしゃがんだ。

「……どうかとは思います。でもあなたがむなら、俺は何だってしたい」

明らかに気乗りしていない様子だが、やはり彼は優しい。

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