《家庭訪問はのはじまり【完】》第3話 嘉人くんのお父さん

それから、數日後、ゴールデンウィーク明けの今日、嘉人くんのお父さんから、學校に電話があった。

「お電話変わりました。神山です」

『嘉人の父です。

いつもお世話になっております』

うわっ、低音の渋い聲。

「いえ、こちらこそ、お世話になって

おります」

『実は妻から、嘉人が障害児の可能があると聞いたので、詳しい話を伺いたいと思いまして。

仕事が終わった後、學校に伺うので、先生のご都合のいい日にお時間を取っていただけませんか?』

「はい。

何時頃になりそうですか?」

『7時には伺えると思うのですが、大丈夫でしょうか』

腰の低い、じのいいお父さんだな。

「構いませんよ。

今週なら、いつでも大丈夫ですが、何曜日にしましょうか?」

『では、金曜の夜に伺ってもよろしいですか?』

「はい。

では、金曜日にお待ちしております」

◇ ◇ ◇

金曜日の放課後

私は今日やったひらがなプリントの丸つけをしながら、嘉人くんのお父さんを待っていた。

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嘉人くんは、消しゴムがまだ上手に使えない。

力いっぱい消して、くしゃっとなったり、ビリっと破れたり。

すると、そこで癇癪を起こして、もう書かなくなってしまう。

それまで、どんなに上手に書いていても、鉛筆でぐしゃぐしゃと八つ當たりの落書きをして、丸めて投げたり、破って捨てたり。

それはいけない事だと言い聞かせても、自分のイライラを抑える方法を知らないから、どうしてもそうなる。

それでも、嘉人くんのいいところは、時間が経って落ち著けば、ちゃんと謝れるところ。

嘉人くんは、良い子ではないかもしれないけど、いいところはたくさんあると思う。

18時45分

「こんばんは。

瀬崎嘉人の父です。

神山先生はいらっしゃいますか?」

職員室のり口で聲が掛かる。

かっこいい…

178㎝あると言ってた木村先生より、背が高い。

切れ長の目は、男の気を湛えて今にも零れそう。

スーツ姿が、大人の男をじさせる。

あ、いけない、いけない。

思わず、見惚れてから、自分を戒める。

彼は、嘉人くんのお父さん。

他人ひとのものだし、対象外。

教師と保護者のは、タブーだ。

「神山です。

わざわざ、ご足労いただいて、

申し訳ありません。

こちらへどうぞ」

私は、誰も使っていない會議室にお父さんをお通しする。

「はじめまして。

嘉人さんの擔任の神山です。

お世話になっております」

改めて挨拶をする。

「嘉人の父です。

いつもお世話になっております」

型通りの挨拶を済ませ、早速、本題にる。

「まず、こちらを見ていただけますか?」

私は、今日、嘉人くんが頑張ったひらがなプリントを見せる。

「嘉人さんは、毎日、頑張ってます。

これは、今日、嘉人さんが頑張ったプリントです。

上手に書けてると思いませんか?」

そこには、嘉人くんが頑張って書いた『り』の文字。

「はい。そうですね」

「ただ、嘉人さんのプリントは、みんなと違って、カラーコピーしたものです。

なぜ、嘉人さんだけ、正規のプリントじゃないかと言いますと、嘉人さんのプリントがこうなったからなんです」

私は、破れ、八つ當たりの落書きをし、丸めて投げられたプリントを広げて見せた。

そして、そうなった経緯を説明する。

「ADHDという発達障害は、やりたいと思った事は、その場でやらないと気がすみません。

逆に、やりたくない事は、周りがいくら言ってもやろうとはしません。

このプリントも、初めはやろうとしました。

でも、消しゴムで失敗した事で、やる気を失くし、やりたくないのにやらされる事で、イライラを抑えられなくて、癇癪を起こしたんです。

それでも、嘉人さんは、授業の終わりにちゃんと謝りに來ました。

だから、コピーですが、新しいプリントを渡したところ、休み時間も集中して、このプリントを仕上げました。

嘉人さんには、無限の可能があります。

ですから、きちんと専門醫の診察をけて、今後の方針を決めて、ご家庭と學校と病院と連攜して嘉人さんの未來に向けて協力して行きたいんです。

どうか、ご協力いただけませんか」

すると、お父さんが口を開いた。

「私なりに、ADHDについて調べてみました。

蕓能人にもそういう人達がいて、常識人ではないけれど、個的な魅力ある人だと、私はじました。

先生は、嘉人もそうなれると思われますか?」

この人、お母さんとは全然違う。

落ち著いてて、思慮深くて…

「もちろんです。

嘉人さんは、とても素直です。

自分のに素直すぎて、社會の枠から飛び出してしまう事もありますが、今から、きちんと対応策を教えてあげれば、將來、自分の障害と上手に付き合っていけると思います。

嘉人さんのために、一緒にご協力いただけませんか?」

「もちろんです。

明日にでも、嘉人を連れて病院に行ってみます」

「あ、まずは予約をしてください。

普通の病院と違って、診察に時間がかかるので、すぐには見てもらえないんです。

早くて2週間後、この時期は嘉人さんと同じように進學に伴って診される方が増えるので、もしかしたら一月後になるかもしれません」

私が申し訳なく思いながら言うと、

「分かりました。

では、明日、電話してみます。

先生も、どうか、嘉人をよろしくお願いします」

とお父さんが頭を下げた。

「こちらこそ。

ご理解くださって、ありがとうございます」

私も頭を下げる。

そして、お父さんは、スーツのポケットから、名刺を取り出すと、裏に何か書き始めた。

「私の攜帯です。

番號とアドレスを書いておきましたので、何かありましたら、こちらにご連絡ください。

妻は、嘉人が障害児かもしれないという現実をけ止めきれずにいますので、もし、話が通じないような事がありましたら、ぜひ、遠慮なく私に連絡ください」

そう言って、名刺を差し出すので、私はありがたくそれを頂戴した。

「では、嘉人のこと、くれぐれもよろしくお願いします」

お父さんは深々と頭を下げる。

「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」

私もお父さんに負けないくらい頭を下げた。

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