《家庭訪問はのはじまり【完】》第5話 嘉人くんのお父さんに

19時半。

そろそろ帰ろうと思っていたところで攜帯が鳴った。

嘉人くんのお父さんだ。

私はスマホを持って、職員室を出る。

「はい、神山です」

『瀬崎です。今、お時間、よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

『今、もうご自宅ですか?』

「いえ、まだ學校におります」

『では、直接お聞きしたいので、伺ってもいいですか?

今、近くにいるので、5分とかからず著けると思いますから』

「分かりました。

では、お待ちしております」

それから、5分ほどで嘉人くんのお父さんがいらっしゃった。

「瀬崎さん、わざわざありがとうございます」

私は席を立って出迎える。

「こちらへどうぞ」

今回もまた會議室にお通しした。

「実は、今日、嘉人さんが顔にあざを作って登校してきたんです。

お父さんは、ご存知ですか?」

お父さんは、目を見開いた。

「いえ、でも、それは、どうして…」

「嘉人さんは、お母さんに叩かれたと言ってます。

おもちゃを片付けなかったから叩かれたと」

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「それくらいの事で…」

「嘉人さんの話だと、日常的に手を上げてるようです」

「まさか…」

「ご存知ありませんでしたか?

保育園の頃にも、児相談所から聞き取りなど、あったと思いますけど」

「児相談所は來ましたけど、妻もそんな事はしていないと言ってましたし、私もまさか手を上げてるとは思ってませんでしたから…」

お父さんの狼狽が伝わってくる。

「一度、ご家庭でよく話し合ってください。

その際、決して、嘉人さんが言ったとは言わないでくださいね」

「分かりました」

お父さんは、大きく頷いた。

その後で、傍に置いてあったブリーフケースから、クリアファイルを取り出した。

「実は、これをお渡ししたくて、伺ったんです」

それは、嘉人くんの診斷書だった。

そこにはADHDの文字。

やっぱり。

「診斷が出たんですね」

「はい」

「では、明日にでも、教頭にも報告をして、今後の嘉人さんの対応を検討したいと思います。

幸い、この學校にも通級指導教室はありますから、週に1〜2時間、授業を抜けて通う事は可能だと思います。

また、ご連絡をさせていただきたいのですが、お母さんより、お父さんにご連絡した方がいいですか?」

「はい。

こんな事は言い訳にしかなりませんが、妻は嘉人が発達障害だと確定した事で、かなり揺してたので、手を上げたのかもしれませんから」

「分かりました。

では、お父さんにご連絡させていただきますね。

今日は、わざわざありがとうございました」

私は頭を下げる。

「いえ、それは全然。

先生は、いつもこんな時間までお仕事なさってるんですか?」

お父さんが優しい笑顔を向ける。

うわっ、ダメだって。

イケメンにそんな風に微笑まれたら、勘違いするでしょ。

「そうですね。

私は要領があまり良くないので」

極力、平靜を裝って答える。

「熱心なんですね。

嘉人の擔任がこんないい先生で良かった。

でも、若いお嬢さんなんですから、あまり無理しないでくださいね。

これからも、よろしくお願いします」

若いお嬢さんって…

「ふふっ」

私は思わず、笑ってしまった。

「私、そんなに若くないんですよ。

多分、瀬崎さんとそんなに変わらないと思います」

私がそう言うと、

「そんな事はないでしょう?

私はもう32ですよ?」

と言われた。

「そうなんですか!?

もっと若く見えますよ」

「くくっ

それは嬉しいです。

先生はおいくつなんですか?」

「私は27です」

「じゃあ、妻のひとつ上ですね」

「じゃあ、奧様は二十歳で嘉人さんを産まれたんですか?」

「はい。

あ、今、未年に手を出した不埒者だと思ったでしょ?」

お父さんは明るく笑う。

ダメだよ。

イケメンが笑ったら、それだけで獨キュンになるんだから。

「そんな事、思ってませんよ。

でも、どうやって知り合ったんです?

あ、ごめんなさい。

こんな立ちった事、聞いちゃダメですね」

「構いませんよ。

妻とは職場です。

私は、當時、外食チェーン店で店長をしてまして、妻は、その時にってきたアルバイトだったんです。

それはそれは、失敗が多くて、世話を焼いてるうちに気付いたら…ってパターンです」

いいなぁ。

私もこんなイケメンにお世話されたい。

「奧様が羨ましいです。

かわいい子と素敵な旦那様がいて、幸せですね」

私が微笑んでそう言うと、一瞬、お父さんの顔が曇った。

「そうだといいんですが…」

あれ?

夫婦円満じゃないのかな?

これは、これ以上掘り下げない方がいいかも。

「では、長々とお引き止めして、申し訳ありませんでした。

くれぐれも嘉人さんの事、よろしくお願いします」

私は立ち上がった。

「はい。

こちらこそ、よろしくお願いします」

お父さんは深々と頭を下げる。

私も、同じように頭を下げた。

お父さんを玄関までお見送りして、私も帰り支度をする。

はぁ…

なんだか、今日は無駄にときめきが多い日だったな。

これが、全くに繋がらないところが、殘念なんだけど…

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