《家庭訪問はのはじまり【完】》第6話 ママになって

その後、教頭先生や嘉人くんのお父さんとも話し合って、嘉人くんは毎週木曜日の3時間目に通級に通う事になった。

これで、嘉人くんが、しでも落ち著いてくれたらいいな…

そんな事を思っていた7月中旬の金曜日。

下校時刻を過ぎてるのに、嘉人くんはなかなか教室を出ようとしない。

連絡帳には、今日からしばらく、嘉人くんの近所に住むおばあちゃん家に帰ると書いてあった。

「嘉人さん、今日からおばあちゃん家に帰るんでしょ?

遅くなるとおばあちゃんが心配するから、早く帰りなさい」

私は何度も聲を掛けるが、何をするでもないのに、一向に帰ろうとしない。

どうしたんだろう?

疑問に思いながらも、とりあえず、下校させなければいけない。

「嘉人さんが帰らないなら、先生、嘉人さんの事、もらって帰るよ」

『いやだ〜』とんで帰る事を想定して言った発言なのに、想定外の答えが返ってきて驚いた。

「いいよ」

へ!?

どういうこと!?

「嘉人さん、先生に貰われてもいいの?」

「うん。

先生、僕のママになってよ」

は!?

「なんで?

嘉人さんには、素敵なママがいるでしょ?」

「………ママいない」

いない?

あ、旅行?

だから、おばあちゃん家に帰るのか!

「お母さんがいない日に嘉人さんが帰らなかったら、お父さんが寂しがるでしょ?」

「じゃあ、先生が僕ん家に來ればいいよ。

きっとパパも喜ぶよ」

「そういう訳にはいかないよ。

お母さんは、いつ帰ってくるの?」

「………分かんない」

ん?

旅行じゃないの?

「どこに行ったの?」

「分かんない」

どういう事?

「なんで?

嘉人さん、聞いてないの?」

「……昨日の夜、僕が寢てる間に出てった」

え!?

「お父さんは、なんて言ってた?」

「……ママ、もう帰って來ないかもって。

ねぇ、先生、僕のママになってよ」

それは…

「嘉人さん。

嘉人さんの気持ちはとっても嬉しいんだけど、先生はね、嘉人さんの先生だから、お母さんにはなれないの。

それにね、嘉人さんのお母さんになるには、まず、お父さんのお嫁さんにならなきゃいけないのよ。

だから、ごめんね」

嘉人くん、こんな下手な説明で分かってくれるかな。

「じゃあ、先生が僕の先生じゃなくなったら、パパのお嫁さんになって。それまで、僕、待ってるから」

うーん…

困った…

「パパがお嫁さんにしてくれるって、言ったらね」

「うん、分かった!

パパに頼んでおくね」

嘉人くんは、そのまま元気よく帰っていった。

はぁ…

どうしよう…

これで良かったのかな…

子供の事だし、春までには忘れるかな。

そこへ、2組の教室から木村先生が現れた。

「神山先生」

「はい」

今の聞かれてたかな?

「今夜、飲みに行きませんか?」

「え?」

こんななんでもない時に木村先生にわれるの、初めて。

「1學期もあと1週間です。

績も付け終わったし、息抜きしてもバチは當たらないと思いますよ」

そう言って木村先生が優しく微笑むから、私はなんだか嬉しくなる。

「はい!

そうですね」

そのあと、私は、返卻の整理やたまった仕事をハイペースで片付けた。

いつも家と學校の往復ばかりの変わりばえのない生活。

たまには誰かと楽しくお食事してもいいよね。

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