《家庭訪問はのはじまり【完】》第7話 ずっと好きだった

18時すぎ

「神山先生の家は、この近くでしたよね。

帰りは送りますから、車置いてきてください。後ろついていきますから」

木村先生に言われた。

「いえ、そしたら、先生が飲めないじゃありませんか。だったら、私が送りますから、先生こそ、車置いてきてくださいよ」

私が答えると、

「代行を頼みますから、大丈夫ですよ。

そういう時は、余計な心配しないで、素直に甘えてください」

と木村先生は笑った。

木村先生、もう30代も半ばなのに、こんなに爽やかに笑うなんて、反則でしょ。

「ありがとうございます。

じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせていただきます」

私はぺこりと頭を下げた。

その後、木村先生は、私のアパートまで來てくれて、私を助手席に乗せてちょっと小灑落た洋風居酒屋に連れていってくれた。

「予約した木村です。」

店にるなり、木村先生はそう言った。

「え?

わざわざ、予約してくださったんですか?」

驚いた私が木村先生を見上げると、木村先生ははにかんだように笑って、

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「児の話もしたいでしょうから、個室の方がいいでしょう?」

と言った。

「あ、ありがとうございます」

この人、本當に気遣いができるいい人だ。

なんで、結婚しないんだろ?

 

私たちは、奧の個室に通される。

「神山先生は、何を飲まれますか?」

木村先生がメニューを見せてくれる。

「じゃあ、カシスオレンジで。

木村先生は、何にされますか?」

「バーボンをロックで」

私が、注文をしようと、席を立とうとすると、機についた私の手を木村先生がそっと押さえた。

え?

私が驚いて木村先生を見ると、木村先生は優しく微笑んで、

「お酒の注文は、の子がするものじゃないよ」

と言って、2人分のお酒を注文してくれた。

「ありがとう…ございます」

私は、戸いながら、お禮を言う。

「どういたしまして。

さ、もう仕事じゃないから、

敬語もいらないし、楽にしていいよ」

そう言うと、木村先生は、私の頭をぽんぽんとでる。

ぅわっ!

それ、ダメだって!!

この人、無自覚でこれやってるの?

イケメンは人以外に頭ぽんぽんを止する法律を作ってよ。

される方の心臓がもたないよ。

お酒を飲みながら、木村先生が口を開いた。

「そういえば、子供達、神山先生のこと、夕凪ゆうな先生って呼ぶよね?」

「そうですね。

なんか、最近の保育園は、先生を下の名前で呼ぶみたいなんです。

だから、木村先生も武たける先生って、呼ばれてますよね」

「そうそう。

ちょっと落ち著かないけど、その方が子供達が馴染みやすいなら、俺たちもそう呼んだ方がいいかもね」

「お互いに、ですか?」

「うん。

ね、夕凪せんせ」

「ふふっ

そうかもしれませんね、武先生」

私たちは、お互いに顔を見合わせて笑い合った。

「で、瀬崎嘉人は帰りに何をごねてたの?」

「あ、あれですか。

よく分かりませんけど、嘉人くんのお母さんが出てっちゃったみたいなんです」

「それは穏やかじゃないね」

「そうなんですよ。

話したじだと、多分、お母さんもADHDだと思いますから、衝的なもので、今頃、何食わぬ顔で帰ってきてるかもしれませんけど」

「うーん、でも、心配だなぁ。

神的に不安定になると、トラブルも増えるだろうし」

「そうですよね」

木村先生は、いつも親になってくれて、本當にいい先生だ。

その後もいろいろ相談に乗ってくれて、溜め込んでたものを全部吐き出させてくれた。

2時間ほど経った頃、木村先生から聞かれた。

「夕凪先生は、彼氏いないの?」

「ふふっ

いませんよ〜

いたら、金曜の夜に飲んでません!」

「くくっ

そうか。

じゃあ、好きな人は?」

「いません!

初任者研修中に別れてから、仕事だけを頑張ってきたんです。

私のは、全て子供達に注ぎます!」

アルコールが回って、私はご機嫌だった。

明日は休みだし、いい男とサシでおいしいお酒を飲んで、幸せだなぁ。

「武先生は?

なんでこんなにいい男なのに、獨なんです?」

「くくっ

いい男だと思ってくれてるの?」

武先生、笑うと更にいい男だなぁ。

「思ってますよ。

うちの小學校で1番いい男でしょ」

「嬉しいなぁ。

ちなみに夕凪先生は、うちの小學校で1番かわいいですけどね」

「またまたぁ。

そんな訳ないじゃありませんか。

でも、お世辭でも武先生にそう言ってもらえて、嬉しいです。ありがとうございます」

「いえいえ、お世辭じゃありませんよ。

俺、ずっと夕凪先生が好きだったんですから」

「またまたぁ!

じゃあ、いつから好きだったんです?」

その一瞬、武先生は真面目な顔をした。

「んー、もう6年位になるかな」

私はケラケラ笑う。

「ほら、やっぱり!

私、この學校、3年目ですよ?

前の學校も合わせたって、まだ5年ちょっとしか経ってないんですから、6年はあり得ません。

だいたい、武先生だって、この學校2年目じゃないですか。ダメですね〜

どうせ噓つくなら、もっと上手にやってくださいよ」 

「じゃあ、噓じゃなかったら、夕凪先生、俺と付き合う?」

武先生はバーボンを舐めるように飲みながら、切れ長の目でっぽい流し目をくれる。

だからぁ!

それ、反則!!

目の保養じゃ済まなくなるでしょ!?

「もう!

酔ってるんですか?

危うく、本気にするところでしたよ。

やめてくださいよ〜

そろそろ、お開きにしましょうか?」

私がそう言うと武先生は、

はぁ…

と、ため息をひとつ吐いた。

その後、武先生が私からのお金をけ取ってくれないから、大人しく奢られて、送られて帰宅した。

それにしても、嘉人くん、大丈夫かなぁ。

週末の間に円満解決してるといいなぁ。

今までも、教え子に「ママ!」って間違って呼ばれた事はあるけど、「ママになって」って言われたのは、初めて。

あの時、なんて答えるのが正解だったんだろう?

今、考えても、分かんないよ。

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