《家庭訪問はのはじまり【完】》第9話 夜の家庭訪問

16時半

石田先生から連絡があった。

検査の結果、脳には大きな損傷は見られないとの事。

ただ、頭皮を3針ったとの事だった。

それくらいで済んで、よかった…

18時

私は、校長先生と禮央くん家を訪問した。

謝罪と経緯の説明をし、禮央くんもブランコを譲らなかった事を認めたので、お母さんも、明日、子供同士で仲直りさせてもらえればそれでいいとおっしゃってくださった。

いいお母さんで良かった…

そのあと、19時過ぎに帰宅するという嘉人くんのお父さんのもとへ向かった。

私は2ヶ月半ぶりに、瀬崎家のインターホンを押す。

前回は、終始ため口のお母さんにADHDの話をして、ご機嫌を損ねて帰ったんだったな。

今日は、お父さんも一緒だから、大丈夫かな?

『はい、どうぞ』

インターホンに出たのは、お父さんだった。

玄関の鍵が開き、ドアが開くと、そこにはにこにこ笑う嘉人くん。

「嘉人さん、こんばんは。

お父さんは?」

「今、ご飯作ってるから、上がってください」

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とお父さんからの伝言を伝えてくれる。

言われてみれば、玄関まで漂ういい匂い。

「そうなの?

じゃあ、先生、ご飯が終わった頃にまた來るよ」

嘉人くんにそう言うと、奧からお父さんが顔を出した。

帰ったばかりなのか、ワイシャツの袖を腕まくりして、黒いエプロンを著けてる。

なんか、かっこいい…

「すみません。

嘉人が何かやらかしたみたいで。

どうぞ、上がって一緒に召し上がってってください」

そんな訳にはいかない。

「いえいえ、それはご迷だと思いますので、時間を改めて出直します」

私が斷ると、

「いえ、嘉人にご飯を食べさせたら、風呂にもれなきゃいけませんし、時間がないんです。

申し訳ありませんが、一緒に食べながらお話を聞かせてください。

先生の分も用意してありますし、嘉人も先生との晩飯を楽しみにしてましたから」

そう言われると、斷りにくい。

今から、食事をしてお風呂にれて寢かせて、その後に私がお邪魔するのは、また違った意味で非常識だ。

「では、お言葉に甘えて」

私が嘉人くんに手を引かれて、ダイニングにると、お父さんはカウンターの向こうのキッチンに向かった。

「嘉人、テーブル拭け」

「うん!」

お父さんは、絞った布巾を嘉人くんに投げる。

嘉人くんは、それを上手にキャッチしてテーブルを拭く。

なんだかあたたかい親子関係を垣間見た気がして、心がほっこりする。

「何かお手伝い出來る事があれば」

私はお父さんに聲を掛ける。

「いえ、もう出來るので、先生は座っててください」

お父さんは優しく微笑む。

どうしよう。

それだけでキュンとする。

イケメンって、それだけで罪だよね。

「嘉人、茶碗出せ」

「うん!」

嘉人くんは、ご機嫌でお手伝いをする。

ふふっ

嘉人くんは、お父さんが大好きなのね。

嘉人くんがキッチンから、ひとつひとつご飯やおかずを運んでくる。

「おいしそう!」

私の目の前に熱々のハンバーグが置かれた。

「これ、お父さんの手作りですか?」

私より上手…

「はい。

數年前まで、レストランの廚房にってましたから、料理は好きなんです」

ああ、奧さんと職場だって言ってた。

「あの、今日、お母さんは?」

まさか、金曜日から帰ってない?

「あ、ご報告が遅れてすみません。

妻とは、昨日、正式に離婚しました」

「え?」

「先生に言われて確認したら、嘉人が小さい頃から、手を上げてたらしくて。

ダメだと分かってても、衝的に手が出てしまうみたいで、自分でも止められないって言ってましたから、話し合って嘉人から距離を置いてもらう事にしました。

本人も自分で自分を止められないのが辛かったみたいなので、その方がお互いの為だという結論に至りまして」

そんな…

じゃあ、嘉人くんは…?

「嘉人くんは、このままお父さんが養育されるんですか?」

「はい。

先生には、ご迷をお掛けする事も多いと思いますが、よろしくお願いします」

そう言って、お父さんは席に著く。

「じゃ、どうぞ、召し上がってください。

嘉人、食べるぞ」

お父さんは、私の隣に座った嘉人くんに聲を掛ける。

「うん!  いただきます!」

元気よく手を合わせて、嘉人くんは食べ始める。

「いただきます」

私もいただく。

「ん!!  すごく、おいしいです!!」

優しい味付けで、が口の中いっぱいに広がって、幸せな気分になる。

「それは良かった。

ぜひ、また食べに來てください。

週末なら腕に縒りをかけて作りますから」

「先生、また一緒にご飯食べよ。

パパのご飯、なんでもおいしいんだよ」

嘉人くんは、得意気に話す。

「嘉人さん、ありがとう。

でもね、先生は嘉人さんだけの先生じゃないから、嘉人さん家でほんとはご飯を食べちゃダメなんだ。

だって、明日嘉人さんがみんなに、『昨日、夕凪先生とご飯食べたんだ』って言ったら、みんなが『うちにも來て!』って言うでしょ?」

私は、嘉人さんに説明する。

「じゃあ、緒にする。

先生がうちでご飯を食べたって言わなきゃいいんでしょ?」

「いや、そういう訳じゃ…」

私は困った。

なんて言えば、納得してくれるんだろう。

「嘉人、先生を困らせるんじゃない。

男はを守るものであって、困らせるものじゃない」

お父さんが嘉人くんをたしなめる。

「先生、すみません。

俺が迂闊においしたばかりに…」

「いえ 」

お父さんに真っ直ぐに見つめられ、どうしていいか分からない私は、視線を彷徨わせる。

なんだろう?

自宅だから?

學校でお會いした時は、溫厚で和なイメージだったのに、今日はなんだか男くさい。

「本題にりましょうか。

さっき嘉人から聞きました。

學校でブランコに乗ってる友達を押してケガをさせたそうですが、その件ですか?」

お父さんが尋ねる。

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