《家庭訪問はのはじまり【完】》第10話 得意なこと、苦手なこと
「はい。
相手の子は、頭を3針うけがをしました。
幸い、今日の検査では、脳に異常は見られませんでしたが、一歩間違えば大変な事故に繋がりかねない行為ですので、ご家庭でもしっかり話をしてご指導いただきたくて伺いました」
「大変ご迷をお掛けして申し訳ありませんでした。
嘉人、お前、ママに叩かれてどう思った?
嬉しかったか?  楽しかったか?」
嘉人くんは黙って首を橫に振る。
「ママは、嘉人を叩いたから、大好きな嘉人と一緒にいられなくなったんだ。
嘉人も誰かを傷つけたら、 もう一緒にはいられなくなるかもしれないんだぞ。
嘉人みたいにすぐに暴力を振るう子とは、一緒に學校へ行かせたくないって言われたら、嘉人は引っ越しをしてひとりで遠くの學校へ行くんだぞ?
それでもいいのか?」
嘉人くんは黙って首を橫に振り、目にいっぱい涙を溜める。
「だったら、何があっても手を出すな。
代わってって言って代わってくれないなら、代わってくれるまで言い続けろ。
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それでも代わってくれなければ、先生に相談するんだ。
先生は必ず我慢した嘉人の味方になってくれる。
ですよね?  先生」
そう言ってお父さんが私を見る。
なんだか、全幅の信頼を寄せられてるみたいで嬉しい。
「はい、もちろんです。
今日も嘉人さんが押したりしなかったら、先生は禮央さんを叱ってたよ。
でも、嘉人さんが禮央さんにけがをさせちゃったから、先生は禮央さんより嘉人さんを叱らなきゃいけなくなっちゃったの。
でも、嘉人さんは今日、暴力はダメだって覚えたから、もう大丈夫。
次からは、しないよね?
先生は、嘉人さんを信じてるよ」
私は、嘉人くんの目を見て伝える。
嘉人くんは、涙を零しながら、頷いた。
「人にはね、得意な事と苦手な事があるの。
かけっこが得意な子もいれば、字が上手な子もいるでしょ?
でも、かけっこは遅くても、足し算は速い子もいるし、足し算は遅くても、元気よく挨拶ができる子もいる。
だから、みんな苦手な事だけど、ちょっとでもできるようにするために、育を頑張ったり、算數を頑張ったりするの。
嘉人さんは、かけっこも速いし、算數もできるし、挨拶だってとても上手。
ただ、我慢をするのがちょっとだけ苦手なのかな?
だから、嘉人さんの中の小さな我慢する心をちょっとずつ大きく育てていこう?
先生もお手伝いするから、一緒に頑張ろう?」
「うん」
嘉人くんは、涙に濡れた顔で、にっこりと笑った。
「よし!
じゃあ、明日、學校で謝ってこい。
それができたら、明日の夜、パパと禮央くんちに謝りに行こう」
お父さんは長い腕をばして、嘉人くんの頭をわしゃわしゃとでる。
「え?
禮央さんの家、ご存知なんですか?」
私は驚いて尋ねる。
「はい。
嘉人が何度か遊びに行った事があると言ってますから、嘉人に案させます」
お父さんはにっこりと微笑む。
「そうなの?」
私が嘉人くんに聞くと、
「うん。自転車で何回も遊びに行ったよ」
と得意気に答える。
だったら、個人報、気にしくても良かったんじゃない。
私は思いっきり力した。
その後、食事を終え、私は席を立つ。
「今日は、本當においしいお食事をご馳走になってしまい、ありがとうございました。
來週から、夏休みですけど、私は學校におりますし、何かありましたら、すぐにご連絡ください」
私がお禮を言うと、お父さんは微笑んで答える。
「こちらこそ、先生が一緒だと、嘉人も食事が楽しそうです。
また、機會がありましたら、ぜひいらしてくださいね」
「うん、そうだよ。
先生、また來てよ」
嘉人くんが私の手を握る。
ふふっ
こういう人懐っこいところ、かわいいんだけどなぁ。
「ふふっ
でも、嘉人さん?
先生がまた嘉人さん家に來るって事は、嘉人さんが叱られるって事なんだけど、分かってる?」
すると、嘉人くんが固まる。
その直後、嘉人くんが嬉しそうに笑った。
「分かった!
じゃあ、僕が悪い事したら、先生、また來てくれるんだね?」
嘉人くんは、さも名案を思いついたように言う。
「あ、いや、それは… 」
私は言葉を失う。
嘉人くんは頭がいい。
だけど、普通、そんな事、思うかな。
はぁ…
「嘉人、そんな事をして先生が來てくれても、先生は悪い子の嘉人を嫌いになるかもしれないだろ?
それよりは、嘉人がいい子になって、大好きな嘉人んちへ行きたいと思ってもらえるようになれ」
ほんと、いいお父さんだなぁ。
note+ノベルバ+アルファポリス+電子書籍でエッセイ、小説を収益化しつつ小説家を目指す日記
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