《家庭訪問はのはじまり【完】》第12話 夏休みスタート

夏休みにり、穏やかな日が続いている。

いや、気候的には、猛暑続きで、全然穏やかじゃないんだけど、問題を起こす子供もいなくて、日々、職員室で他の先生方と雑談をえながら、のんびりと仕事をしている。

今日は金曜だし、殘業もないし、毎日、コンビニ弁當も味気ないし、何か食べて帰ろうかなぁ。

私は2年前にこの小學校へ赴任した時から、一人暮らしを始めた。

実家から、50km離れたこの小學校は、同じ県ではあるけれど、とても毎日通うのは不可能だったから。

だけど、子供の頃から私は食べるのが専門で、お料理はほとんどした事がない。

だから、毎日、コンビニ弁當、レトルト食品、冷凍食品、インスタント食品のお世話になりっぱなしだ。

お料理ができなくても生きていけるなんて、いい時代だなぁ。

そんな事を思いながら、のんびり仕事をする。

2學期の授業準備をするにはまだ早いし、1學期の掲示の整理も終わったし、來週の研修の準備も終わってる。

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「夕凪先生、暇そうですねぇ」

思わず欠をした私を見て、武先生が笑う。

「もう、武先生!

そこは見ないふりですよ!

いつも変なところばかり見るんですから」

私が口を尖らせると、武先生は「くくっ」と笑う。

「それは夕凪先生、認識の違いですよ」

「認識の違い?」

「僕は、夕凪先生の変な所を見てるんじゃなくて、かわいい所を見てるんです。

目が止まるのは仕方ないと思いませんか?」

は?

最近、武先生は変だ。

この前、飲みに連れて行ってもらってから、時々、こんな風にかわいいとからかってくる。

私はそんなにからかい甲斐があるんだろうか。

「くくっ

夕凪先生、顔が赤いですよ。

かわいいですね」

っ!!

「誰のせいですか!」

もう!

やっぱり、赤面するから、からかい甲斐があるのかなぁ。

好きで赤くなる訳じゃないのに。

もう5年も人がいないのがいけないのかな。

誰もかわいいなんて言ってくれないから、軽く言われた一言に反応してしまうのかも。

「夕凪先生、今夜は予定あります?

良かったらお食事でもどうですか?

奢りますよ?」

「結構です。

武先生と食事に行ったら、その間、ずっとからかわれそうですから」

私は、ぷいっとそっぽを向いた。

「ひどい…

僕は本當の事しか言ってないのに」

武先生が泣き真似をする。

「じゃあ、夕凪先生をかわいいと思っても口にするのは我慢しますから、お食事いかがですか?」

「ふふっ

もう、武先生ってば!」

私は、思わず笑ってしまった。

「奢りですからね!」

私が言うと、

「はい」

と武先生も笑う。

17時。

私たちは、學校を後にする。

行き先は、ちょっとお灑落なフレンチレストランチェーン店Accueilアクィーユ。

今日も「せっかくだから、ワインを飲みましょう」と武先生に言われて、車を置いてきた。

「今日は私が…」と言ってはみたが、武先生が「助手席より、運転席の方が落ち著く」と言うから。

2人で店り、奧の席へ案される。

「ほんとにいいんですか?

ここ、安くないですよ?」

私は聲を潛めて尋ねる。

「くくっ

ご心配は無用ですよ。

これでも夕凪先生よりはお給料もいただいてますし、扶養家族もいませんし」

確かに、そうなんだけど…

席に著いて程なく、店員さんがメニューを持って現れた。

「あっ」

私は思わず、聲を上げてしまった。

「いらっしゃいませ。

お客様は先生でしたか」

その人はにこやかに微笑む。

「こちらのお店で働いていらっしゃったんですね」

「いえ、普段は本社勤務なんですが、今週はギャルソンが夏休みなので、応援に駆り出されてるんです。

先生はデートですか?」

「いえ、こちら、學年主任の木村武先生です。

先生、こちら、瀬崎嘉人さんのお父様です」

私は雙方を紹介する。

そう、店員さんは、嘉人くんのお父さんだった。

「そうでしたか。

嘉人がいつもお世話になっております。

うちは、デートに利用していただく方が多いので、てっきり先生方もカップルなんだと思ってしまいました。

失禮いたしました。

ご注文がお決まりの頃にまた參ります。

ごゆっくりどうぞ」

一禮して嘉人くんのお父さんが下がっていく。

武先生は、それを目で追っていた。

「先生?」

私が聲を掛けると、はっとしたように顔を戻して、いつものにこやかな武先生に戻った。

「夕凪先生、好き嫌いはなかったよね?

コースでいい?」

「はい、構いませんけど、いいんですか?」

「もちろん。

瀬崎さんもおっしゃってたよね?

ここはデートコースだって。

侘しい獨男のために、擬似デートに付き合ってください」

武先生はいたずらっぽく笑う。

「またまたぁ。

武先生なら、聲を掛ければいくらでもの子、寄ってきますよ」

「そういうのは、好きじゃないんだ。

デートは、やっぱり好きな人とじゃなきゃ」

まぁ、確かに。

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