《家庭訪問はのはじまり【完】》第17話 家庭訪問される

翌日、土曜日

私は6時に起きて、掃除を始めた。

9時まで頑張って、それから、著替えて化粧をする。

いつもは、子供しか見ないから、ファンデと口紅と眉くらいなのに、今日はちゃんとチークもアイシャドウもマスカラもつけた。

つけた後で思う。

私、何、張り切ってるんだろうって。

でも、しでも綺麗に見られたいって思うんだもん。

これは、子の本能だと思う。

10時

攜帯が鳴る。

「はい」

『瀬崎です。

今、駐車場にいるんだけど、今から行ってもいい?』

「はい」

『何號室?』

「あ、105です」

『了解。すぐ行く』

ピンポーン

ほんとにすぐにチャイムが鳴った。

「はい」

私が玄関を開けると、瀬崎さんが買い袋を下げて立っている。

「どうぞ」

私が言うと、

「もしかして夕凪、張してる?」

と聞かれた。

そんな事、聞かれても、正直に張してるなんて、言えるわけない。

「大丈夫。

  何もしないから、安心して」

瀬崎さんは、そう言うと、私の頭をくしゃっとでた。

「晝飯、作ろうと思って、材料買ってきた。

  冷蔵庫、開けていい?」

「え!?」

私は固まる。

だって、見える所しか掃除してないもん。

「くくっ

開けない方がいいんだね。

じゃあ、これ、夕凪がしまってくれる?」

瀬崎さんは全てお見通しみたい。

うろたえる私を見て、楽しそうに笑う。

「それとも、冷蔵庫、掃除しようか?」

私はブンブンと首を振る。

「ダメです!

ぜぇったい、ダメ!」

私は瀬崎さんから袋を取り上げて、冷蔵庫に向かう。

「瀬崎さんは、座っててください」

私は、食材を冷蔵庫にしまって、お茶を用意する。

「どうぞ」

ダイニングテーブルに湯のみを置いて、私も向かいの席に座る。

「ここ、メゾネットなんだな。

の子が1階なんて危ないって思ったけど」

瀬崎さんはダイニング傍の階段を見て言う。

「そうなんです。

これなら、來客から寢室も見えないし、下の人に気を使って生活しなくてもいいかなと思って」

「大丈夫?  覗きとか出ない?」

「はい。

これ、中がけないレースカーテンなんです。一応、防犯ガラスになってるし」

「そうか。

々工夫があるんだな」

瀬崎さんは、しほっとしたように言う。

「はい」

私は返事をしながら、なぜかし嬉しくなった。

なんでだろう。

瀬崎さんが心配してくれたから?

しばらくして、今度はお茶を飲みながら、

「一人暮らしなのに、テーブルは4人掛けなんだね」

と瀬崎さんが不思議そうに言う。

「普段は必要ないんですけど、家族とか友達とか來た時に、これくらいないと不便だから」

私は説明をした。

「そうか。家族はよく來るの?」

「たまに。野菜とか食べきれないくらい持って」

「くくっ

で?  夕凪はそれ、ちゃんと食べるの?」

うっ…

痛い所を…

「食べる時もあれば、學校へ持って行って、皆さんにお裾分けする時もあります」

「夕凪、料理、好きじゃないんだ?」

瀬崎さんがくすくす笑ってる。

「そうですけど、何か?」

私はむくれる。

「いや、別に、いいと思うよ。

じゃあ、料理は俺の係な」

「え?」

「だって、苦手な事、やりたくないだろ?」

それって、どういう意味?

將來の話をしてる?

結婚とか?

いや、いくらなんでも、まさかね。

「瀬崎さんは?  苦手な事、あるんですか?」

「んー、そうだなぁ、何にも出來ない奴とずっと暮らしてたから、だいたいできると思うよ。

ま、あえて言うなら、洗濯とアイロン?

ワイシャツとかめんどくさいから、

全部クリーニングに出してるし、

他の洗濯も、乾燥まで機械任せ」

「そのくらいの手抜き、普通ですよ。

仕事しながら、家事をして、子育てしてるんですから。

つまり、瀬崎さんに弱點はないって事ですよね。

私の方が子力なさすぎて、落ち込みます」

はぁ…

「くくっ

   ありがとう」

瀬崎さんは嬉しそうに笑う。

「え?  何が、ありがとう?」

意味、分かんない。

子力なくて落ち込むって事は、俺に好かれたいって思ってくれたって事だろ?

  すっごく嬉しいよ」

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