《家庭訪問はのはじまり【完】》第25話 嘉人くん登場

私が困っていたら、どこかから、私を呼ぶ聞き覚えのある聲。

「夕凪せんせぇ〜!!」

振り返ると、大きく手を振り、駆けてくる嘉人くん。

「嘉人さん!

どうしたの ︎」

私は、しゃがんで嘉人くんと視線を合わせる。

「宿題がんばったから、夏休み最後にパパが映畫に連れてきてくれたの。

夕凪先生は?」

「先生も映畫、見たいなぁと思って。

嘉人さんは、何を見るの?」

「あれ!!」

嘉人くんが指差したのは、私たちと同じ映畫。

「こんにちは」

瀬崎さんが、嘉人くんからし遅れてやってきた。

「偶然ですね。

デートですか?」

サラッと爽やかに尋ねるけど、これ、絶対、偶然じゃないよね!?

「いえ、そういう訳では… 」

「ねぇ、先生、一緒に見よ?」

嘉人くんは、無邪気に私の手を取る。

「ごめんね。先生もそうしたいんだけど、席が決まってるから、出來ないの。

また今度、チケットを買う前に會えたら、一緒に見ようね」

「ええ!?

じゃあ、映畫の後で遊ぼ」

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これは…

嘉人くんの多が表れ始めた気がする。

「嘉人さんは、映畫の後、お父さんと何かお約束があるんじゃないの?」

やんわりとお父さんを思い出させてみる。

「うん。お晝ご飯を食べるの。

先生も一緒に食べよ?」

私は、武先生を見上げた。

すると、武先生も屈んで、嘉人くんに向き合い、

「お父さん、せっかく嘉人さんとお出掛けしたのに、先生たちがお邪魔したら、がっかりするだろ?

今日は、お父さんといっぱい楽しんでおいで」

と諭して、嘉人くんの頭をでた。

「大丈夫だよ。

パパも夕凪先生、大好きだもんね」

うわっ!

嘉人くん、無意識ですごい事言ってるんだけど。

「嘉人。

パパは夕凪先生が大好きだけど、きっとこの先生も夕凪先生が大好きだと思うんだ。

嘉人とパパがいたら、邪魔だろ?

ねぇ、先生?」

と瀬崎さんは、武先生を見る。

「いえ、そんな事は… 」

武先生は、そこで肯定する事は出來ず、言葉を濁す。

「ほら、パパ、武先生、邪魔じゃないって言ってるよ。

ねぇ、夕凪先生、僕、邪魔じゃないよね?」

「うん、邪魔じゃないよ。

先生、嘉人さん、大好きだもん」

嘉人くん、こういう素直なとこは、かわいいなぁ。

でも、武先生は、どう思ってるのかな?

私は、どうすればいいのかな?

そこで武先生が口を開いた。

「じゃあ、嘉人さん、とりあえず、映畫を見てから考えようか。

先生、ポップコーンを買ってくるけど、嘉人さんも食べる?」

それを聞いて、嘉人くんは嬉しそうに目を輝かせる。

「うん!!

僕、キャラメル味のがいい!!」

「了解!

じゃあ、買ってくるから待ってて」

武先生が言うと、瀬崎さんは慌てて、

「いえ、嘉人の分は、私が買いますから、大丈夫です。

お気遣い、ありがとうございます」

と言って、一緒に列に並んだ。

結局、私の分も武先生は払わせてくれなくて、また奢ってもらった。

それらを持って、シアターる。

嘉人くん達は、私達の三列後ろの席だった。

私は、昔からついしすぎてしまうところがあり、今日もうっかり泣いてしまった。

エンドロールの間になんとか泣き止もうと努力していると、武先生の手がびてきて、頭をポンポンとでられる。

その手の溫もりが「大丈夫だよ」と言ってるようだった。

でも、これって、小學生にするのと一緒だよね。

エンドロールも終わり、室が明るくなると、嘉人くんの明るい聲が響いた。

「おもしろかったね〜!!」

そうか。

嘉人くんには、おもしろかったんだ。

私がハンカチをバッグにしまっていると、嘉人くんが駆け寄ってきた。

「夕凪先生!  ご飯、食べよ?」

すると、武先生が言った。

「先生、ポップコーンでお腹いっぱいだから、嘉人さんとお父さんで行っておいで」

「ええ ︎

夕凪先生、行こうよ〜 ︎」

嘉人くんが、私の腕を引っ張る。

私は、瀬崎さんと武先生の顔を見比べる。

瀬崎さんの優しい微笑みは、明らかに「おいで」と言ってるし、武先生の強張った微笑みは「行くな」と言ってる。

どうしよう。

私は、意を決して、正直に言う事にした。

「嘉人さん。

実はね、武先生、この前お誕生日だったの。

だから、今から、武先生のお誕生會をするんだ。

だから、嘉人さんとは、また今度ね」

だけど、それで納得できるなら、ADHDなんて診斷はおりてない。

「僕も、武先生のお誕生會する ︎

いいでしょ?」

結局、その後、多憾なく発揮した嘉人くんを無下にも出來ず、一緒にランチをする羽目になった。

これで良かったのか、悪かったのか…

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