《家庭訪問はのはじまり【完】》第27話 瀬崎さんの職業

私たちが、デザートを食べていると「失禮します」と店員さんがってきた。

「社長、おくつろぎのところ、申し訳ありません。

今、外國人のお客様がいらっしゃってるんですが、林田が晝休憩で外に出てしまっていて…」

社長!?

瀬崎さんが!?

「ああ、じゃあ、俺が行くよ」

瀬崎さんは、そう言って立ち上がると、

「すぐに戻るので、遠慮なく召し上がっててくださいね」

と言い殘して、部屋を出ていった。

私は、武先生と顔を見合わせる。

「嘉人さん、お父さんって、社長さんなの?」

嘉人くんに聞いてみた。

「うん、そうだよ」

「お母さんと出會った時は、店長さんだったって言ってたけど、いつ社長さんになったの?」

「知らない」

そうだよね。

子供がそんな事、知るわけないよね。

「じゃあ、お父さんは、英語話せるの?」

「うん。

僕も話せるよ」

あ!!

そういえば、英語授業でALTの先生が嘉人くんを褒めてた。

私は思わず、武先生を見た。

武先生もこちらを見たので、思いっきり目が合った。

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そして、武先生はひとつ頷くと、英語で話し始めた。

初めは、私でも聞き取れる簡単な英語、「學校は好き?」とか「誰とお友達?」みたいな質問だったけど、だんだん難しい質問になり、分からなくなった。

キョトンとする私を他所よそに會話は進んでいく。

しばらくして、武先生が教えてくれた。

嘉人くんちは、お父さんもおばあさんもおじさんやおばさんもみんな英語を話せて、子供の頃から、嘉人くんに英語で話しかけてたらしい。

近所に住むおばあさんの所には、外國人のお客様も多くて、自然と話せるようになったんだそうだ。

子供ってすごい!

そんな話をしていると、瀬崎さんがケーキを持って戻ってきた。

ホールのお誕生日ケーキ。

「お誕生日、おめでとうございます」

そう言って、瀬崎さんは、武先生の前にケーキを置く。

「そうだ!

嘉人さん、お誕生日の歌、歌える?」

私が聞くと、嘉人くんは元気よく、

「うん!!」

と答える。

私は、立ち上がって、ピアノの蓋を開けた。

私はピアノを弾きながら、嘉人くんと一緒にハッピーバースデーの歌を歌う。

歌い終えて、拍手をすると、武先生は、照れたように笑っていた。

コーヒーと共にケーキを食べ終わると、時刻はすでに4時近かった。

「はぁ…

もうお腹いっぱい ︎

今日は、晩飯もいらないかも」

私はお腹をさすりながら言う。

「くくっ

それは、ご満足いただけたようで、何よりです」

瀬崎さんが笑った。

だけど、満足いかないのは、遊び足りない嘉人くんで…

「先生、遊ぼ!」

と私の橫に立ち、私の手を取る。

「ええ!?

先生、お腹いっぱいで、もうけないよ。

お家に帰ってお晝寢したいくらい」

私がそう言うと、

「じゃあ、僕ん家においでよ。

先生、絵本読んで」

絵本!

そうだ。

嘉人くんは、お母さんがいなくなったばかりだった。

読み聞かせも以前のようにはしてもらえないのかもしれない。

「嘉人さんは、どんなお話が好きなの?」

「今日の映畫みたいなの!

僕ん家にもあるんだよ。

違うお話だけど」

嘉人くんは、にこにこととても嬉しそうに話す。

「同じシリーズの違うお話があるって事?」

「うん」

嘉人くん家に行くのは、立場的にも問題があるし、何より今日は、武先生の誕生祝いに來ているんだから、武先生を殘していく訳にはいかない。

「うーん、嘉人さん。

前にも言ったよね?

先生は、みんなの先生だから、嘉人さんだけ特別にはできないの。

先生が嘉人さんの家に遊びに行ったら、他のお友達も、『先生、遊びに來て!』って言うでしょ?」

私は、嘉人くんの説得を試みる。

「僕、ちゃんと緒にするから!

それなら、いいでしょ?」

うーん、こういう所が、ADHDの子がわがままとか自己中って見られる原因なんだよね。

どうしたら、理解させられるんだろう。

その時、武先生が口を開いた。

「嘉人さん、夕凪先生、困ってるよ。

嘉人さんは、大好きな夕凪先生を困らせて平気なの?」

武先生に言われて、嘉人くんは心配そうに、私を見上げる。

その時、瀬崎さんが言った。

「じゃあ、嘉人、夕凪先生とドライブしようか?」

え!?

嘉人くんは、キラキラと目を輝かせて、

「うん!!」

と返事をした。

「夕凪先生、ご自宅まで送らせていただけませんか?

嘉人もそれで満足すると思いますので」

「え?  あの… 」

それって、武先生とはここで別れてって事?

「武先生、大変申し訳ないんですが、夕凪先生とのデート、嘉人に譲っていただく訳にはいきませんか?」

瀬崎さんは、武先生に向き合う。

いやいや、普通、デート中のカップルに、「彼を譲ってください」は、ないでしょ?

まぁ、幸か不幸か、私達は、カップルでも彼でもないけどさ。

武先生は、一瞬、強張った表を見せたものの、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべて、

「大丈夫ですよ」

と言った。

え?  ほんとに?

私を好きなんじゃ、なかったの?

私はなんだか、拍子抜けした。

まぁ、あとで考えたら、1年生の擔任同士で付き合ってるって噂が流れても困るし、その上、教師を巡って児と張り合ったなんて噂が流れたら、不利益しか被らないんだから、さすがの冷靜な判斷だとしか言いようがないんだけど。

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