《婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪》05
「司祭様、私は婚約破棄、いいえ、婚約の白紙撤回は喜んでおけ致しますが、ヨハン様との結婚に関しては、し考える時間を頂きたく存じます」
「なぜだ?」
「それは…ヨハン様にも想う方がいらっしゃいますので、その方との仲を引き裂いてしまうような真似をするのは心苦しいのでございます」
「で、あるか」
「ルイよ、そなたはどう思う?」
ヨハン様と共に司祭様の執務室に室して挨拶も省略していうと、司祭様は顔をしかめてヨハン様に問いかけてしまわれました。
これはいけません。ヨハン様はきっと承諾なさいますもの。
「私はかまいま」
「司祭様っ私に罪を犯せをおっしゃるのですか?」
「レイン、そなたは何か思い違いをしておるようだ。今一度ルイとよく話し合いをするがよい。それが終わるまでこの神殿から出ることは許さぬ」
「司祭様っ!」
そう言って司祭様は出ていってしまわれました。
部屋には私とヨハン様だけが殘されてしまいます。従者もいないこの狀況は何とも居たたまれませんわね。
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先ほどの念の浮かんだ目を見た後ですと特に…。
「あ、あの何かお飲みになりますか?」
「では紅茶を」
「はい」
しでも間を持たせるために立ち上がってカートの方に向かいポットを確かめましたが、しお湯が冷めてしまっているようですね。
「火の神よお力をお貸しください」
簡単に呪文を唱えてお湯を沸騰させて紅茶をれます。癒しに特化していますが他の魔法も使えるんですよこれでも。
とりあえず、こうしている間は無言でも不思議ではないですし、この重苦しい空気も紅茶を味しくれられればしは和らぐかもしれませんわよね。
「……」
「……ミスト様」
「ひゃいっ」
いけない、聲が思わず裏返ってしまいました。
「そのままでいいのでお話を聞いてくれますか?」
「は、はい」
「私が今回の結婚をけれたのは私にとっても都合がいいからです」
「はい…」
「確かに私はミスト様のことを妹のようにかわいがっていますが、い焦がれる方は別にいます または おります」
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「……はい」
わかってますけど、改めて言われるとショックですわよね。なんでしょうか、乙心をもうし考えてしいですわよね。
「ですがその方は私などでは手の屆かない高嶺の花。それでしたらいっそのこと結婚してしまったほうが踏ん切りもつくと思ってけたのです」
「そうですか」
…なんでしょうか、この、初が失に変わってむしろ憎々しくさえ思えてくるこのはいったい何なのでしょうか?
ダニエル様にはじませんでしたけれども、やはりい焦がれる方へのというのは別になるのでしょうね。
それにしてもヨハン様をもってして高嶺の花というのはどなたの事なのでしょうか?想像もできませんわ。
ヨハン様はこのままいけば、冒険者にもコネを作っている司祭様になることは間違いございませんし、上手くいけば樞機卿になることもできますでしょうに、いったいどなたなのでしょうか。
「いったいどなたかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「え?」
「ヨハン様の想う方ですわ」
「……第一王殿下です」
「まあ!」
それは確かに高嶺の花でいらっしゃいますわね。文武両道品行方正、まさしく王家の花と呼ばれる第一王殿下は確かお兄様、ひいてはヨハン様と同じ學年でいらっしゃいましたわよね。きっとそのころからの想い人なのでしょうね。
ああ、私が勝てるはずもないではありませんか。
けれど、これで白紙撤回になったとはいえ、婚約者2人に浮気されているということになってしまいましたわね。
「……」
「ミスト様?」
「…ばからしくなってきましたわ」
「はい?」
「私、ヨハン様が好きでしたのよ!ですけれども今は好きではなくなってしまいました。所詮は初は実らないというものでございますわよね!」
「は、はあ」
「もう結構ですわ。私も好きな方を探して見せますわ!結婚もちゃんとおけいたしますのでご安心くださいませ。ええ、逃げも隠れも致しませんとも!」
どうせ逃げられない運命なら、楽しんだもの勝ちですわよね。
まずは學園のお友達に殿方を紹介していただくことから始めましょうか?それとも巫仲間にいい神様や司祭様を紹介していただきましょうか?
私たち巫は白い結婚が前提ですので、こういうことにはなれているのか、割り切って人を作っていらっしゃる方が結構居りますのよね。
今までは理解できませんでしたけれど今は理解できますわ。
「司祭様、お待たせいたしました」
私は決めたら行が早いという自信がございますので、すぐさま部屋を出て司祭様のところに向かいました。
司祭様も何かを察されたのか、無言で婚約屆を私の前に差し出されます。
「私、ヨハン=ルイ=ヒュノー様と婚約いたしますわ。けれど、私も浮気させていただきますわね」
「それは構わぬ。多くの巫がそうして辿ってきた道だからな」
夫とそれこそ相思相なのにプラトニックなのは神衛生上厳しいそうなので、他所に人を作る場合がほとんどなのだそうです。初めて知りましたわね。
「ルイよ、お前もそれでよいな」
「もちろんです」
「ではここに2人の婚約が結ばれたことを私の名のもとに承認しよう」
人生2度目、いいえ記録上は初の婚約と相りましたわ。
ダニエル様?誰ですかそれ、存じませんわね。
翌日、學園にお別れの挨拶をしに參りましたら皆様報が早いのか、婚約白紙のお祝いと、新しい婚約のお祝いをおっしゃってくださいました。
「おめでとうございます、ヨハン様と言えばミスト様の憧れの方でいらっしゃいましたわよね」
「いいえ、今ではすっかり幻滅しておりますの。ヨハン様の想い人は第一王殿下でいらっしゃるそうで、私はいい隠れ蓑に使われるそうですわ」
「まあ酷い!ヨハン様がそんな方だとは思いませんでしたわ」
「まったくですわね。私も言われて驚きましたが、おかげで目が覚めたというものですわ」
「ではどうなさいますの?ミスト様の格上このまま大人しく結婚を引きけるだけではありませんでしょう?」
「もちろん、私も正々堂々と浮気をしようと思いますの。これも巫に許された特権というものでございますもの」
「「「なるほど」」」
私はリーン様達から貴族の優良件を紹介していただきつつ、脳メモに書き留めました。來週には私の送別會という名の夜會が開かれますので、その時にぜひご招待しないといけませんものね。
「ミスト!」
「……まあいやですわ、婚約者でもない令嬢を呼び捨てになさるだなんて、なんて常識がないのでしょうか」
「仕方がありませんわリーン様、ダニエル様でいらっしゃいますもの。きっと婚約が白紙撤回になった意味すらお分かりになりませんのよ」
「ではジャンヌ様がご説明なさいますか?」
「まあ、ロベルタ様ってばお人が悪いですわね。でも私も今回の白紙撤回には驚きましたの。それに、白紙になった補填もすべてコンロイ家が負擔してくださるとのことで決著がつきましたでしょう?余程のことがなければそのような事にはなりませんのにね」
「まあ、ミスト様。あのように堂々と浮気をしていたのですから當然のことですわよ」
ほほほ、と私たちは嗤ってダニエル様を見ますと、ダニエル様は真っ赤になってこちらを睨んできていますが、クラスの男子生徒がダニエル様を押さえてくださってますのでこちらに向かってくることが出來ないようです。
押さえていなければ毆り掛かってきていたかもしれませんわね。これだから堪えのない方は嫌ですわ。
「ああ、ダニエル様はパメラ様と正式に婚約がお決まりになりましたのよね、おめでとうございます。なんでも國王の勅命だそうで、よかったですわねぇ、侯爵家は継ぐことが出來ませんけれども、分家の男爵家の養子におりになるのだとお聞きしましたわ」
「貴様がっ貴様が何かしたんだろう!」
「私は何もしてはおりませんわよ、家の者が何かをしてるかもしれませんが與り知らぬことでございますわ」
「パメラが今朝から俺に対してそっけないのもお前がなにかしたんだろう!」
「まあそうなのですか?申し訳ありませんがそれこそわかりかねてしまいます」
あんなに相思相でしたのに、もしかしてダニエル様の爵位目當てでいらっしゃったのでしょうか?
だとしたらお勉強不足というものですわね、ただの男爵家の令嬢如きが侯爵家の正妻になれるはずもございませんのに。
ですから私は最初からダニエル様はパメラ様を人にするおつもりなのだと思っていたのですが、あの婚約破棄を宣言されるまでは、ですけれどもね。
お母様も人はいても許容することが貴婦人のたしなみだとおっしゃっておりましたもの。
パメラ様も人志願だと思っておりましたのよね、貴婦人になるにはあまりにも明けけな態度でいらっしゃいましたし、マナーもなっていらっしゃいませんでしたもの。
けれども、こうなってしまいますとダニエル様がしお可哀そう……とは全く思いませんわね。
むしろするに捨てられて「ざまぁ」というところでしょうか?もっとも、國王陛下の勅命ですのでパメラ様との婚約が破棄になることは早々ございませんし、上手くすれば以前のような仲の良い人同士に戻ることもできるかもしれませんわね。
パメラ様が本當にダニエル様をしていらっしゃればですけれども。
さて、初という盲目のベールから解放された私はの狩人となっておりますわ。
送別會の夜會ではたくさんの子息をご紹介いただきまして、皆様評判通り素晴らしい方々でいらっしゃいました。
けれども、こう、キュンっと來る方はいらっしゃいませんでしたわね。…いいえ、キュンとくる初じみた思いにはろくなことがございませんと學んだばかりではありませんか。
ここはじっくりと相手の人となりを確認することこそが重要ですわ。なんといっても人になってもキス以上のことが出來ないプラトニックな関係なのですもの!
そう、ここが重要なのですわ。巫の先輩方に聞きましたところ、最後まで致さなければ大丈夫だということなのですが、そこまで行くと致してしまいたくなるのが男のだということで、寸止めに失敗して資格を失ってしまった巫や子が多くいらっしゃるそうです。
なので基本的にはキス以上は止、というのが暗黙の了解というところなのだそうです。
そういえば、神殿に還りましたら私はすぐさま巫長に就任することが決定いたしました。
一昨日、勇者様一行を蘇生リザレクションした功績が認められたのでございます。復帰してすぐに巫長になるなど、他の巫の反を買うのではないかと思ったのですが、皆様祝福してくださいました。
まあ巫の世界も実力主義ですので、力が強いものが上に立つのは道理なのでございますわ。
そう考えますと、よくもまあ私を還俗させることが出來ましたわよね。國王の勅命があったとはいえ、神殿も拒否できたのではないでしょうか?それともこうなることは予定調和だったのでしょうか?
そんなことを考えていますと、會場のり口のほうからザワリと聲が上がりました。
何事かと顔を向けてみればそこには司祭様とヨハン様、そして樞機卿様がいらっしゃるではありませんか。
樞機卿様はこの國に5人いらっしゃいまして、それぞれ國の守りに徹されていらっしゃるのですが、この首都にも1人いらっしゃいます。その樞機卿様が私の送別會にご參加くださったのですからざわめきもわかるというものでございますわね。
「シャルル樞機卿様、ようこそお越しくださいました」
すぐさま失禮のない速度で駆け寄り足を折って最敬禮をいたします。樞機卿様になりますと、家名とお名前をお捨てになって、洗禮名だけでお呼びすることになります。シャルル樞機卿様の本名はアドルフ=シャルル=ボルドロウ様とおっしゃいまして、大公家出の方なのでございます。
ただでさえ格上の方でございますのに、樞機卿というお立場になられても、下々の者に分け隔てなく接すると評判の方なのでございますわ。
神殿に仕えるものとして目標にすべき方として日々憧れております。
「まさかシャルル樞機卿様にお越しいただけるとは思わず、大したおもてなしもできませんが…」
「いやいや、この度巫姫になるレインの送別會となれば我が神殿に來る歓迎會を兼ねているも同義。參加しないわけがないでしょう」
……ん?なんだか言葉に別の意味が含まれているような気がいたしましたが、気のせいですわよね。
「そう言ってただけると我が家としても大変な譽れでございます。シャルル樞機卿様、何かお飲みになりますでしょうか?」
「ええ、では水を」
……水!?いえ、いえ、ここはせめて果実水とか言うところではございませんの?水なんて言ったらすぐ帰ると言っているようなものではございませんか。
「お、お水でございますか?」
「ええそうですね」
「わかりました」
お水を持ってこさせてお出しすると、それはもう優雅にお飲みになって、飲んでいるのが水でなくワインであれば絵畫でも見ているようなを覚えたに違いありませんわ。
「そういえばルイ」
「なんでしょうかシャルル樞機卿様」
「貴殿は第一王殿下とお付き合いをなさっているそうですね」
「はっいえ、そのような、ことは…」
「ああ構いませんよ。巫姫のご夫君はいくら浮気をしても罪に問われることはありませんからね。しかし、そうすると私にはレインが気の毒でなりません」
え、こっちに話しをこの流れで持ってきちゃうのでしょうか?
「レイン、私の人になりませんか?」
「はい?」
「おお承諾してくれるのですね」
いやいやいやいや、疑問形だったですわよ?
思いっきり疑問形でしたわよね?ほら、周囲の皆様もそうおっしゃってるような顔ではありませんか。
「浮気には浮気を、ですよレイン」
だからってシャルル樞機卿様はないと思います。
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