《婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪》06
「巫長様のおなーりー」
シャランシャランという鈴の音と共に、回廊を歩く足音が響きます。神殿に戻ってから3か月ほど経ちましたが、特にこれといった不都合もなく過ごしております。
私の日課と致しましては、日の出とともに起床し、神の湖と呼ばれる神殿にある湖でを清め、聖堂で神への祈りをささげた後、病気やけが人などへ治癒の魔法を授けるというものでございます。
言葉にすると簡単なのですがこれがなかなかに骨に染みるのですわよね、特にを清める湖の冷たさが…。
この清めに耐えられなくなって、資格を失おうと躍起になる方も出るぐらいだとお伺いしますし、年をとってもこれに慣れることはないのでしょうね。
そうそう、シャルル樞機卿様とはあれ以來お會いすることもなく、平穏な日々を過ごしております。
むしろヨハン様とは婚約者ですので何度かお會いしておりまして、その度に第一王様への想いを聞かされる羽目になっておりますわ。
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なんでも一か月ほど前に冒険者に隨行した際にお忍びで參加していた第一王様と話す機會があったらしく、その気さくな面に再度惚れ直したのだそうですわ。
すっかりノロケを聞かされて食傷気味なのですが、婚約者の浮気を容認している私も私ですわよね。これもかつては惚れていた弱みというものでしょうか?
神の湖でを清めていると周囲がざわつき始めました。普段は靜かなはずですのに、何か急病人でも出たのでしょうか?
そう思って顔を上げましたら、なんとシャルル樞機卿様がいらっしゃっておりました。
思わず湖から立ち上がり禮をいたしましたら、そのままジャバジャバとシャルル樞機卿様が湖にっていらっしゃいました。
「シャルル樞機卿様?」
「お久しぶりですね、しお時間を頂けますか?」
「え?あ……えっと、はい」
視線で侍に確認しましたら大丈夫だそうなので頷きましたら、湖からお姫様抱っこで掬いだされてしまいました。
「シャルル樞機卿様!」
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「ではさっそく私の部屋に參りましょう」
展開が早い!
「シャルル樞機卿様っ!シャルル樞機卿様の禮裝が濡れてしまいます」
「こんなもの魔法ですぐに乾きますよ」
「それはそうですけれども」
それとこれとは話が違うと思いながらも、ボタボタと水をたらしながら通路を歩いていきます。お掃除する皆様ごめんなさい。文句はシャルル樞機卿様に言ってくださいませ。
そのまま、シャルル樞機卿様の部屋まで連れていかれて、ソファに下ろされました。まだ濡れたままなのでソファまで濡れてしまいますがよろしいのでしょうか?
「シャルル樞機卿様?」
「どうぞシャルルとお呼びください、レイン」
「けれど、シャルル樞機卿様を敬稱無しでお呼びするのは気が引けてしまいます」
「私たちは人同士ではないですか、名前で呼ぶことの何がいけないのですか?」
「本気だったんですか?」
てっきりあの場所だけの戯言だと思っておりました。今日までお會いすることもありませんでしたし。
そう考えていると頬に手が當てられてそのままの橫にキスをされてしまいました。
ポッと頬が赤くなってしまいます。
「もちろん本気ですよ。貴がここに來た時からずっと私は貴に見とれていたのですからね」
「まあ…」
シャルル樞機卿様らしからぬお言葉に思わず目を瞬かせてしまいました。シャルル樞機卿様はその容姿から、神殿の関係者のみならず貴族のご令嬢や貴婦人、平民からも慕われてい焦がれられていらっしゃいますので、てっきりもうどなたかと仲になっていらっしゃる、もしくはご結婚為さっているのだと思っておりました。
それなのに私にずっとをしていたなんてなんだかおかしな話ですわよね。
「冗談が過ぎますわ、シャルル樞機卿様」
「本當なのですけどね。今もこうしてのけている著姿の貴を見てるだけで、れたくて仕方がない」
「こっこれはシャルル樞機卿様が」
「ええ、ですから…。春の暖かなぬくもりよ」
シャルル樞機卿様がそう呪文を唱えられた瞬間、ポフン、と音を立てて服が乾きました。とはいえ、著一枚なことには変わりなく、若干心もとないじですわね。
「せめてなにか羽織るものを持ってきてくださればよろしかったですのに」
「気が利きませんでしたね。これをどうぞ」
そう言ってシャルル樞機卿様は自分が羽織っていたカズラをぐと私にかけてくださいました。ふわりと良い香りがいたします。
「ああ。いいですねよくお似合いです」
「恐れ多い事でございますわ」
「…レイン」
「え?」
ちゅっと音を立てて首筋を吸われてしまいました。何度も何度も吸われてがどんどんドキドキしてきてしまいます。
「あのっ」
「ちゅっ…ん、…し印を、離れていてもこうしておけば私を忘れないでしょう?」
「あの、何をなさっているんですか?」
「後で鏡を見てみるとよいですよ」
「わかりました?」
どうしましょう、のドキドキが収まりません。
「あの、シャルル樞機卿様」
「シャルルですよ」
「シャルル……様、がドキドキします」
「どのぐらい?」
「苦しいぐらいです」
「どれ……ああ本當だ、とてもドキドキしていますね」
シャルル樞機卿様がカズラの下に手をれて著の上からを押さえてドキドキを確認なさっております。
なんだか余計にドキドキしてしまいますね。
シャルル様もお忙しい方ですので、すぐに部屋を出ることになったのですが、侍に連れられて部屋に戻って首筋を見てみると、吸われていた部分が赤くなってしまっていました。
私のは白いので目立ってしまいますし、巫服は首元が開いておりますので隠すことは難しそうですわね。
「きゃぁ、シャルル樞機卿様ってば熱的ですね」
「そういうものなのですか?」
私付きの巫見習いのシーラがをくねくねさせて言うので、若干引きつつ尋ねると、「そうです」とグイっと顔を近づけられてしまいました。
シーラは昨年神殿にった巫見習いの子で、私よりも3つ年が上なのですが、どうにも子供っぽいところがあります。
「3ヶ月も音沙汰がなかったので、てっきり婚約破棄への意趣返しを兼ねた、デモンストレーションか何かだと思ってたのですけれど、聞いた噂によりますと公務を前倒ししていらっしゃったとかで、きっとレイン巫長様との休暇を取ろうとしていらっしゃるんですよ」
「シーラ、そうはいっても私は休めませんわよ。今日も明日も救いを求めていらっしゃる方々がいるのですから」
「んもうっ、レイン様ってばお堅いですねえ。一日ぐらい休んでも罰は當たりませんよ。それに、ヨハン様なんか冒険業だと言ってよく神殿を出ていらっしゃるじゃないですか」
「それとこれとは別です」
まあ確かに、外の世界に行けるのは羨ましいと思ってしまいますけれどもね。
「でもどうします?おしろいで隠すにも限界がありますよ、このキスマーク」
「キスマークというのですね。このままで支障がないのでしたらこのままで構いませんけれど」
「支障はありませんけど…いいんですか?」
「支障はないのでしょう?でしたらかまいませんわ」
シーラは「いいのかなぁ?」と呟きながらも私の髪を結ってくれていきます。心なしかキスマークのある右首筋を隠すような髪型になっているような気がしますが、まあいいでしょう。
そう考えていると部屋のドアがノックされましたのでシーラが対応いたします。
なにやら話し聲が長い気がいたしますが、その間に私は指でキスマークをそっとでます。そうするとおさまっていたドキドキが、またしてくるようなじがしてしまうのです。
「巫長様、シャルル樞機卿様よりお花が屆いております」
「まあ、お花が?」
「ですが、その…ちょっと量が多くて」
「多いのですか?花瓶にらないぐらいでしょうか?」
これでも巫長の部屋ですので調度品はそれなりにあるのですが、それでも足りないとなると借りてくるしかありませんね。
「いえ、その…」
言いにくそうなシーラの視線をたどってみれば納得してしまいました。
神様がお2人腕に抱えきれるかどうかという量の薔薇の花がそこにはあったのです。これは困ってしまいますね。薔薇の花は一本一本丁寧に棘も落とされていて、ケガをしないようにとの配慮がうかがえます。
「……生命の神よ、水の神の力を借りてその霊を氷の中に留めよ」
呪文を唱えて數百本の薔薇の花を一本ずつの氷の薔薇に変えてみます。これで保存は大丈夫のはずです。
けれどもこの大量の薔薇はどうしたらいいのでしょうか?
「そうですわ、今日の診察で皆様にお配りするというのはいかがでしょうか?」
「えっ!?」
「問題ありますかしら?」
「いや、問題っていうか…」
「よくはないんじゃないかしら」、というシーラに私は首をかしげてしまいます。ここには置ききれませんし、きっとシャルル樞機卿様もお許しくださると思うのですけれども、駄目なのでしょうか?
「けれどここには置いておけないでしょう?」
「それはそうですけどぉ」
「でしたら民への贈りにちょうどいいではありませんか」
「まあ、巫長様がいいのならそれでいいんですけど、シャルル樞機卿様も限度ってものを考えて贈ってくださればいいのに」
「まあ、せっかく下さったものに文句を言ってはいけませんわよ」
「はぁい」
その後、3人の神様に頼んで花を運んでいただき、私はいつもよりも多くの患者さんを診察してその患者さんに快癒のお祝いにと氷漬けにした薔薇の花をプレゼントいたしました。
皆様珍しそうに見て喜んでくださいましたが、魔法は一週間ほどで切れてしまう事もちゃんとお伝えいたしましたよ。
さて、いつもよりも多くの患者さんを見ましたが、まだ薔薇の花が殘ってしまっていますね。大30本ぐらいでしょうか?このぐらいでしたら花瓶を借りれば部屋に飾りきることもできますわ。
シーラではありませんが、次からはもうし控えめなプレゼントにしていただくようにお願いをいたしましょう。
と言っても次にいつお會いできるかはわからないのですけれどもね。
その日の夜、私の部屋に訪問客がいらっしゃいました。なんとシャルル樞機卿様です。
それも正面の扉からではなくバルコニーからの訪問で、夕涼みをしていた私は驚きでを固くしてしまいました。
これが賊だったら今頃私は拐されてしまっていましたわね。
「こんばんは、レイン」
「こんばんはシャルル樞機卿様」
「シャルルですよ」
「シャ、ルル…様。こんな時間にどうなさったのですか?」
「いえ、今日贈った花で隨分困らせてしまったようですので謝罪をしに來たのですよ」
そういって魔法で浮いていたシャルル樞機卿様は、とん、とバルコニーに降り立ちました。ふわりと月を反する髪が落ちていく姿はなんて神的なのでしょうか。
「いいえ、私の方こそ勝手に皆様にお配りして怒られるのではないかとシーラに言われてしまいましたけれど、よかったでしょうか?」
「もちろん、貴に贈ったものなのですから好きに使っていただいて結構ですよ」
その言葉にほっとしていると、シャルル樞機卿様が近くにいらっしゃって、頬に手を添えていらっしゃいました。
「ああ、やはりしいですね」
「私がですか?」
「ええ、貴は神にも劣らないしさでいらっしゃいます。この私を捕えてやまない」
「よくわかりませんわ。シャルル、様のほうがよほどおしくていらっしゃいます」
「それはレインが自分を知らなさすぎるのですよ」
「けれど、私がしければ、ダニエル様もヨハン様も他の方に気を移すことなどなかったのではないでしょうか?」
「それはあの者たちが愚か者だから気が付かなかったのですよ」
そういってまたの橫に口づけをされる。この口づけには何の意味があるのでしょうか?
そっと抱きしめられるとまたあの優しい香りがして來てほっとして目を閉じてしまいます。いったい何のお香を使っていらっしゃるのでしょうか?今度教えていただきましょう。
「自信を持ってください、レイン、貴はしい」
「…はい」
本當にそうなのでしょうか?そうだといいのですけれども、婚約者に2度も浮気をされていると致しましては自信がありませんわね。
「ところで、こんな夜更けでなければシャルル、様はお時間が取れないのですか?」
「といいますと?」
「その、人というのは日中にデートと言うものをするものだと聞いたことがありますわ。ダニエル様とも日中にお出かけをしたことがございますもの。もし人とおっしゃってくださるのでしたら、いつか日中にお出かけしていただけませんでしょうか?」
「…人といるときに他の男のことを思い出すのはルール違反ですよ」
「そうなのですか?」
「そうです。けれどもそうですね、私も日中は執務がありますのであまり時間が取れないのですが、近いうちにデートをいたしましょう」
「デートをしていただけるのですか?」
「はい、といっても私たちの分になってしまいますとお忍びということになってしまいますけどね」
「それでも楽しみですわ」
私がそう言って顔を上げると今度は額にキスをされてしまいました。これはもしかして子ども扱いされているのでしょうか?
「…もしかして、子ども扱いをされているのでしょうか?」
「どうしてそう思うのですか?」
「だって、にキスをしてくださらないではありませんか」
人なのに、というと、シャルル樞機卿様はクスクスと笑い私をお姫様抱っこすると用にバルコニーのドアを開けて室にってしまいました。
ソファに私を下すと、上からのしかかるように覆いかぶさって、銀の髪が私を周囲から隠すように垂れてきます。
「シャルル…様?」
「子ども扱いなどできるわけがないでしょう?これでも必死に我慢しているんですよ」
そういってちゅっちゅ、と顔中に口づけをされてしまう。
「この私ともあろうものが、自分のの制で一杯になるとは思いもよりませんでした。キスをしないのはしてしまえばもっと先を求めてしまいそうだからですよ」
「もっと先ですか?」
「ええ、もっと先のことを…」
そういってシャルル樞機卿様は私のドレスの元を開けさせると、そっとを寄せていらっしゃいます。
「もっと暴いてしまいたくなるのを必死に我慢しているんです。あまり煽らないでください」
「……ごめんなさい、よくわからなくて」
「クス、貴は良くも悪くも箱り娘ですからね。そういう知識が乏しいのも理解はしていますよ。だからこそ慎重に事を進めているのです」
「そうなのですか?」
「そうなのですよ」
との間を何度も吸われると首筋と同じような紅い跡が出來ました。ここは服で隠れる部分ですわね。
「キスマークというのでしたわよね」
「シーラあたりからの報ですか?そうですよ」
「昨夜は所有印とおっしゃっていましたが、どのような意味があるのでしょうか?」
「そのままですよ。レインが私のだと周囲に教えているのです」
「私はではありませんけれど…」
「の例えです」
「はあ…?」
いまいちわかりませんね。
ところで先ほどから態勢が変わっていないのですが、シャルル樞機卿様はお疲れにならないのでしょうか?
「シャルル、様」
「なにかな?」
「この態勢、お疲れになりませんか?」
「…ふっ、大丈夫ですよそれに」
「きゃっ」
「すぐにこうして態勢を変えますからね」
今度は私がシャルル樞機卿様をまたぐ形で上になってしまいました。用でいらっしゃいますね、シャルル樞機卿様。
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