《婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪》10
私とシャルル様が人になって1年が経ちました。時折いたずらのように弄ばれることもありますが、シャルル様もお忙しい方ですので、それほどお會いすることもなく、平穏な日々を過ごしております。
「ですから勇者様、無理をなさいませんようにと何度言ったらわかるのですか?」
「そうは言いますがミスト様、もうちょっとで魔王城に行けるところだったのですよ」
「だからと言って足を逆方向に砕していい理由にはなりませんからね」
「これは魔が」
「すまないミスト、俺がいながらこんなことになってしまって」
今日も今日とて瀕死の狀態で運び込まれてきた勇者様にお説教をしておりますと、橫からヨハン様が割り込んでいらっしゃいました。
全く持ってその通りだと思います。
「ヨハン様、ヨハン様は勇者様が無茶をしないように隨行なさっておいでなのですよ。蘇生リザレクションこそ回數は減りましたが、これでは隨行している意味がないではありませんか」
「しかし、俺は他の勇者パーティーのメンバーも守らないといけないからな」
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つまりドロテア様を守っていて勇者様を後回しにしているということですね。今もドロテア様は勇者様の橫に座って手を取って心配そうになさっていますから、気が気ではないのでしょうけれど、そのイライラを私にぶつけないでいただきたいものですわ。
「確かに王族であるドロテア様をお守りするのは重要かもしれませんけれども、勇者様がお亡くなりになったらそれこそどうなさるんですか。蘇生リザレクションだって萬能ではないのですよ。間に合わなかったらどうなさるんですか」
「それは…」
……それはそれでかまわないというようなお顔ですわね。はあ、このような方が初の人だなんて、は盲目とはよく言ったものですわね。
「まあまあ、ヨハンだって人の方が大切なのは仕方がないさ、俺だって好きな人がパーティーに居たら理不盡でもその人を優先して守っているだろうしね」
「そういうものなのでしょうか」
私にはわかりませんわ。
「ごめんなさい勇者の貴方にこんな怪我を負わせてしまったのは私をかばったからで…」
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「気にしないでくださいドロテア様。言ったでしょう、好きな人がパーティーに居たら理不盡でも優先して守るって。まあ、俺の片思いみたいですけどね」
あらまあ…。これはどうなってしまうのでしょうか?ドロテア様の本命は勇者様ですが、世間ではこの半年ドロテア様はヨハン様の人として広まっておりますものね、勇者様が片思いとおっしゃるのもわかりますわ。
……まあ、ヨハン様ってば怖い顔になっておりますわ。ドロテア様は、顔が真っ赤になってしまっておりますわね。本命にナチュラルに好きだと言われたのですから仕方がありませんわよね。
羨ましいですわ。私なんて1年も経っておりますのにいまだにシャルル様から好きの一言もいただいておりませんのに…。
「わたっ私が好き!?勇者、それは本當ですか!」
「ええ、片思いですけどね。想って守るぐらいはどうかお許しください、ドロテア王殿下」
「わ、私も」
「ドロテア様、勇者もお疲れでしょうから今は休ませて差し上げなくては」
「……そう、ですね」
今、完全に何かを邪魔しましたね。ドロテア様もそこで押さなくてどうなさいますの。
……と、他人事なら言えるのですけれども私もいまだにシャルル様に気持ちを確認できていないですので、ドロテア様に何か言う権利はありませんわね。
「では勇者様はいつも通りお部屋を準備させますのでお休みになってくださいませ」
「お世話になります」
その日の夜、再び勇者様をえての晩餐となりましたが、その日はドロテア様とヨハン様は參加なさいませんでした。
ドロテア様はお城に帰られて、ヨハン様はそれにお付き添いになったのだそうです。
他のパーティーの方々もなんだかんだと理由を付けて神殿でのご宿泊を拒否なさいましたので、侍や従者がいるとはいえ、勇者様と私の2人っきりの晩餐となっております。
なんだかんだ言ってこのようなことは初めてなのではないでしょうか?
いつもどなたかがいらっしゃいましたものね。
「勇者様、先ほどおっしゃっていたドロテア様のことは真実なのでしょうか?」
「ええ、ミスト様。昔からずっと俺はドロテア王が好きでしたよ。だからちょっとショックでした、ヨハン様と人だと言い出した時は、何を迷ったのかと…。言い方は悪いですが、結ばれても人か人どまり、王のすることではないでしょう?」
「そうですわね」
「だったらミスト様には申し訳ないのですが、婚約破棄してから婚約をしてもらったほうがいっそ諦めもついたんですけど…。まああれです、宙ぶらりんな気持ちのまま諦められなくって、現在に至ってるってじですね。もう半年もたつのにけないです」
「いいえそんなことはありませんわ。私、知っておりますのよ」
「何をですか?」
言っていいのでしょうか?
「ドロテア様の本當のお気持ちを」
「本當の気持ち?」
言ったほうがいい気がいたしますわ。
「ドロテア様はヨハン様を好いているわけではないのです。とある方への想いを隠すための隠れ蓑にヨハン様の想いをけれたに過ぎないのですわ」
「どういうことですか!」
勇者様がガタンと音を立てて立ち上がります。
「お分かりになりませんか?勇者様。ドロテア様は勇者様を慕っていらっしゃるのです。けれどもその想いが使命のお邪魔になってはと考えひた隠しになさっておいでなのですわ」
「そんな、じゃあどうしてヨハン様と…」
「ヨハン様が無理強いをしたのですわ。今日この場に2人がいないことももしかして…」
「そんなっ」
「勇者様、世界の平和も大切かもしれませんが、する人を悲しませて守る平和とはむなしいものなのではないのでしょうか?どうか今夜はドロテア様のところに行って差し上げてくださいませんか?」
「……、わかりました」
勇者様はそうおっしゃいますとナプキンをテーブルの上に投げ捨てて部屋を出ていってしまいました。
ヨハン様が悋気を起こして変な真似に出ていないといいのですけれども、いいえ、もしそうだとしても勇者様が間に合えばいいのですけれども、今の私にはこれぐらいしか出來ませんわね。
勇者様が神殿を出ていかれて3時間ほどたった真夜中の時間帯でしょうか、私の部屋のバルコニーに訪問客がありました。
シャルル様かと思いましたが、違いました。
「ヨハン様…」
「やあミスト、月が綺麗だね」
「ええ本當に。そのお怪我はどうなさったのですか?」
「人たちの睦合いを邪魔しに來た奴がいてね、ちょっとやり合ったんだ。負けてしまったけどね」
「そうですの」
私とヨハン様を隔てているのは薄いガラス窓一枚。ヨハン様の魔法をもってすればすぐさま破られてしまうものですわね。
「君が言ったんだそうだね」
「…ええ、勇者様にドロテア様のお気持ちをお伝えしたのは私ですわ。半年でドロテア様のお気持ちが変わるかと思って見守ってまいりましたが、変わらないご様子でしたもの」
「ふっ、自分のもできないお子様に邪魔されるとは思わなかったな」
「ヨハン様、今でしたら若気の至りで済ますことが出來ますわ。婚約者である私も何も申しません。ドロテア様と勇者様とお話合いになって解決の道を」
「うるさい!」
び聲と共にガラス窓がすべて割れてしまいました。
「きゃぁっ」
咄嗟に風の防壁でを守りますが部屋はひどい慘狀になってしまいました。音も大きかったのですぐに神兵が駆けつけてくるでしょう。
「お子様のお前に何がわかる!シャルル樞機卿様に守られてばかりのお前に何がわかると言うんだ!俺はずっとドロテア様をしていたんだ、ももわからないお前に何がわかるというんだ!」
「ヨハン様、神兵が參ります。どうか心をお鎮めになってこの場から離れてください」
「もういい、もう遅い!ミスト、責任を取ってもらおうか」
「責任?」
「婚約者同士じゃないか、一緒に墮ちよう」
「な…」
ぶわり、と闇の魔力が部屋に広がっていきます。
これは人間の魔力というよりも魔人の魔力とでもいうべきなのでしょうか。…ヨハン様、貴方はまさか魔王と契約を結んでしまわれたのですか?
「私は巫長です。この場を離れるつもりなどございません」
「俺のことが好きだったのだろう?一緒に來てくれ、1人は寂しい。そうすれば俺もきっとミストを好きになるさ」
「そんなものいりませんわ!」
防壁を最大限にあげてを守ります。目くらましの魔法でもかけられているのか、まだ神兵は來ませんね。
「ミストォ!」
「冗談じゃありませんわ!私は貴方などもう好きでもなんでもありませんものっ!」
バチリ、と防壁に魔法がぶつかる音がしてバラバラと散っていく。流石は勇者一行に隨行しているだけあって攻撃魔法もお得意のご様子ですね。
「けれども、私だって巫長なんですのよ!」
攻撃魔法は得意ではなくとも、防魔法は得意なのです。
バリバリと魔力がぶつかり合い部屋の調度品が壊れていき、天井や壁にひびがっていく。
「お前を連れていくっ!」
「お斷りですわ!」
「レイン!」
バァンと魔力がぶつかり合った瞬間、何かに包まれたかのようながして、ふわりといつもの優しい香りが香った。
「シャルル様っ」
「ああ、無事ですねレイン」
「はい大丈夫ですわ。部屋は…大丈夫ではありませんけれども」
「そのようですね。それにしても…」
つ…、とシャルル様の視線がヨハン様に向けられます。
「ルイ、いいやヨハン=ルイ=ヒュノー。魔王と契約して魔人になり果てたか」
「黙れ、黙れ黙れ!」
「去れルイ。今宵は見逃してやろう。今後この國に手を出さなければ我々はお前や魔王に関與はしない」
「ふざけるなっ」
「この私とこの場でやり合うつもりか」
ぶわり、とシャルル様の魔力が膨れ上がったがしました。魔人の侵を許したとはいえ、ここは神殿です。樞機卿であるシャルル様の舞臺上だと言えます。
「くっ…必ずまた來るからな」
負け犬のようなセリフを吐いて飛んでいってしまわれたヨハン様の背中を見つめていると、シャルル様がふわりと抱きしめてくださいました。
「大丈夫ですか?」
「ええ、問題はありませんわ。お部屋以外ですけれども…」
「部屋などどうでもいいんですよ。レインが無事でよかった。もし何かあったら私は、私の心が壊れてしまうところでしたよ」
「……どうしてですか?」
「え?」
こんな狀況ですが、今しかないと思います。
「私のことは義務で人にしてくださったのでしょう?私がいなくなった方がよいのではないのでしょうか?」
「そんな風に思っていたのですか?」
「……はい」
コクリと頷く。
「だって、私はシャルル様から何も言われていませんもの」
「何もとは?」
「好きとか、嫌いとか、をしているとかしているとか、聞いたことがありませんもの。だから、ずっと私の片思いなのだと思って…思って…」
いけません、なんだか涙が出てきてしまいました。こんな時に泣いていては巫長失格というものですのに、もっと毅然としていなくてはいけませんのに、涙が止まりません。
「言っていませんでしたか?」
「え?」
「すみません。それは私の落ち度ですね。…してますよ、レイン」
「……ふにゃ」
「ふにゃ?」
な、な、な…なんという破壊力なのでしょうか。耳元でいきなりのの告白は耐のない私にはヨハン様の魔法攻撃以上の威力です。
「い、言うにことかいて、あ、してるなんて…普通は好きとか、そういうことから始めるものではないのですかっ。そ、そんないきなりしてるなんて、きゅ、急すぎるんじゃありませんか?」
「いいえ、10年以上前から私はレインを好きになっていて、今ではしていますよ」
「そんなに前から!?」
「ええ、貴がこの神殿に來た日からずっと」
だから好きからに、からに心の中ではもう変わっていっていたのだと言われてしまい、私はもう腰に力がらず、シャルル様に重を預けてへたり込んでしまいました。
「ど、どうしてもっと早く言ってくださらなかったのですか?」
「言った気でいました。貴があまりにも素直に私をけれてくださってましたから、想いが通じていたのかと」
「こ、人は皆様ああいうことをするのではないのですか?」
「まさか、違いますよ」
さ、爽やかなお顔で否定されてしまいました。
もっとも、何がいけなくて何が良いのか私もよくわかっていないのですが、シーラたちからの報で、見える場所にキスマークを付けるのはマナー違反に近いということを教えていただいておりますし、人でも、その夫でもない方に足のを見せるだなんて恥ずかしい真似は流石に…とは思っておりましたのよ。
「ところでレインは私のことをしてくれていますか?」
「あ…、かはわかりませんが、好きだとは思っております。他の方々とは違う好きですわ」
「…私が他ののになると思ったらがむかつきませんか?」
「…チクっとしますわね」
これは獨占というものだとリーン様達から教わりました。あまり良いものではないのだとも聞いておりましたので、意識しないようにしておりましたが、改めてシャルル様に言われてしまいますと、やはりチクリとが痛みますわ。
「それは獨占ですよ」
「そうですわね、あまりよくないですわ」
「私はうれしいですよ」
「はい?」
「レインが私に執著してくれている証拠じゃないですか。レインは最初私のことなどすぐいなくなってもいいかりそめの人だと思っていたでしょう?だから時間をかけてゆっくりと、ゆっくりと私という存在を馴染ませておいたんですよ」
…なんだかとっても変態チックなことを言われた気がしますわ。
し思っていたのですけれども、シャルル様ってヤンデレ?とかいうものなのでしょうか…。けれども私にはお優しくていらっしゃいますし、やはりヤンデレではないですわよね。
それにしてもこの際シャルル様とのことは置いておきまして、問題はヨハン様ですわよね。魔王と契約をして魔人になってしまっただなんて、神殿の恥でしかありませんもの。全力を以ての討伐になる事でしょうね。
ヨハン様、そこまで追い詰められていたのでしょうか?
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