《婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪》ダニエル=コンロイ
俺の婚約者、ミスト=レイン=ドラクルは名前からもわかる通り神殿出の令嬢だ。巫として確固たる地位を築いていたはずなのに、家から婚約という理由で呼び戻された気の毒な令嬢だ。
7歳から神殿にっていたせいで世間知らずもいいところで、俺が傍にいなければ何もできない、そんな令嬢だった。
そんなところが可いと思ったしおしいとも思っていたのだが、たった1年間でその意識も変わることになってしまった。
優秀な我が婚約者様はたった1年ですっかり貴族の令嬢らしい笑みの仮面をつけるようになってしまったのだ。
それに、連れ歩いている友人という名の取り巻きも、學園では一癖も二癖もある人ばかりで、生徒の中では一大派閥を築いていると言っていいのではないだろうか。
そもそもミストというは、年齢の割には魔をじさせるような瞳だったり、夜を閉じこめたかのような藍の髪だったり、薄化粧のはずなのに蠱的なをしていたりと、何かと目立つなのだ。
これが巫とは聞いてあきれるというものだと最初は思ったほどだったのを今でも覚えている。
最近ではいよいよその本を現してきたと言うべきところなのだろう。最初はそれこそ戸いを浮かべた小のようならしさで周囲や俺をわし、懐にれたらその怪しげな魅力で魅了していくのだ。
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幸い、俺には効かなかったようだがな。
そう俺には効かなかった、それはなぜか?俺は運命の相手に出會ったからだ。
パメラ=タミラス。彼は學式の日に家の事で遅れて來て會場に遅刻してりそうになったところを助けたところから出會いが始まった。
その後も何度か出會い、あの時のお禮だと言ってクッキーを貰った時は、ミストにはこんなことをされた覚えがないとすらじてしまったほどだ。
そうしているうちに、時折パメラの顔が曇ることが多くなっていくようになった。理由を聞いても何でもないと言うだけだったが、俺は見てしまったのだ。
ミストがパメラにつらく當たっている現場を。
「突然ぶつかって來て、しは謝ることもできないのですか」
「も、申し訳ありません。でもっぶつかってきたのはそっちで」
「まあ!立ち止まっていた私たちがぶつかるだなんて用な真似をしたとでもおっしゃいますの?驚きですわね」
「そんなっ」
「一度醫師にその目を見ていただいたほうがよろしいのではありませんか?以前から貴は私たちに対して々と邪魔ばかりなさっていますがいい加減になさいませ」
「酷いっ」
「皆様、ここにいても気分が悪くなってしまうだけですわ、參りましょう」
そういってミストたちはその場を去っていったが、床に倒れこんでいるパメラは立ち上がれないまま泣いているように見えた。
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「パメラッ!」
「ダニエル様っあ、違うんですこれは転んでしまって」
「噓を言わなくていい、ミストたちに何かされたんだろう?ちゃんと見ていたから安心してくれ」
「ぅ、ぐすっダニエル、様」
「可哀そうに、今までもこんなことを?」
「私が、私が不相応にもダニエル様に甘えているから、きっとミスト様のご不興をかったのがいけないんです」
「そんなことはない!」
こんな理不盡な真似をするミストが悪いに決まっているじゃないか。
いくら序列が高いからと言ってやっていいことと悪いことがある。神殿育ちとはいえ、いいや神殿育ちだからこそわかっているべきことじゃないか!
「パメラ、君のことは俺が守る」
「ダニエル様っ」
涙目で見上げてくるパメラは、とても儚げで守らなければ折れてしまう花のように可憐だった。
その日から俺はパメラと共に行するようにした、最も學年が違うからできるだけ、だが。それでもパメラはミストたちからいじめをけてしまうようで、時折泣きながら俺の前に現れることがあった。
何があったのかと問いただしても、大丈夫だとか自分が悪いとしか言わないパメラの何て健気な事だ。ミストたちにも見習ってほしいものだな。
そんな中、パメラが怪我をしたという知らせをけた俺が醫務室に跳んでいったら、足首に包帯を巻いたパメラがいた。
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「パメラ!」
「ダニエル様っ」
「何があったんだ!ミストに何をされたんだ」
「いいんです、私が悪いんです」
「良くない!こんな怪我までして…可哀そうに」
白いに包帯が痛々しい。
「ゆっくりでいいから話してくれ、何があったんだ?」
「……歩いていたら突然上から植木鉢が落ちて來て、それでその破片でケガを。でもいいんです、初めてじゃないですから」
「なんだって!」
その言葉に耐え切れずに俺はパメラの手を取ると早足で車止めのところに向かった。この時間ならまだミストは登校していないはずだ。
実際、車止めのところに到著したときにミストの家の馬車が見えたので間に合ったと俺は荒くなった息を整える。
そして、ミストが馬車から降りてきたタイミングを見計らって大きく聲を上げた。
「お前が権力をかさにきて、いたいけなをめるだとは知らなかった!」
俺の言葉に足を止めたミストが、冷たい視線をこちらに向けて來た。
「失禮ですが、私には心當たりがありませんわね」
「言い逃れできると思うな!パメラにしてきた數々の仕打ち、忘れたとは言わせない!パメラがどれほど苦しんできたか…お前にはも涙もないのか!」
「…はぁ」
なんとも気乗りしない返事にイラつきが増していく。パメラはこんなに苦しんでいるのに元兇たるミストが平然としているのが気にらない。
「ぐすっいいんですダニエル様。私が悪いんです。きっと、私がダニエル様に大切にされているから嫉妬して…。だからあんな風にっ…ぐすっ」
「ああパメラっ君はなんて慈悲深いんだ!…それに比べてミスト!お前には心がないのか!」
昔はあんなにかわいかったのに、いいやあれもすべては演技だったのかもしれない。
「……もう行っていいでしょうか?」
罪を認めようとしないミストに堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がする。
「お前との婚約は今この時を持って破棄する!」
俺はそう高らかに宣言をした。パメラを守るにはもうこれしかないのだとそう思って。
「婚約破棄、ですか…それは私の一存では承服することは出來かねます」
「この期に及んでなんだというんだ!」
「私共の婚約は家の利害関係が関わってきますので、互いの両親の許可が必要となりますでしょう」
「親の威を借るつもりか!」
「事実です。ですが、私個人と致しましては婚約破棄に対してどうこういうつもりはございません」
「なんだと」
「お好きになさってくださいませ、ということでございます」
「そんなことを言って、よくもパメラをめてくれたな!」
「そのような覚えはないと申しているのですが、お聞き屆けくださらないのですか?」
「黙れ!お前のような卑怯なが婚約者だったなどとは我がの恥だ!」
コンロイの家には苦労を掛けてしまうかもしれないが、こんなを家にれてしまえば家の名に泥を塗ることになってしまうのだから許してほしい。
婚約破棄が実際に整うまでは時間がかかってしまうだろうが、俺がその間パメラを守っていればいいだけの話しだ。大丈夫だ守りぬいて見せる。
そう思っていたのに、一か月後に事件は起きてしまった。なんとパメラがミストに階段から突き落とされたのだ。
婚約破棄が順調に進んでいることに、焦りをじたミストが強手段に出たに違いない。
慌てて現場に行けばそこには足首を押さえてうずくまっているパメラと、階段の上には何人かの生徒がいた。そして立ち去る宵闇の髪の。なんということだろう。
「パメラ、大丈夫か」
「いたっ…だい、じょうぶです。このぐらいどうということはありません。いたっ」
「大丈夫じゃないな、俺の背中に乗れ醫務室まで運ぶ」
「え、……そんな私重いですし」
「いいから乗れ」
パメラを背負うと傷にらないように慎重に醫務室まで運ぶ。
醫務室に行くと校醫がすぐさま回復魔法を唱えようとしたが、パメラはこのぐらいすぐに治るからと遠慮してしまった。なんて遠慮深いのだろうか。
それにしても、今回のことは流石に許すことが出來ない。一歩間違えれば死んでいたかもしれないんだぞ。今までの嫌がらせとはレベルが違う。
今回は証人もいることだし、今度こそミストを追い詰めてやる。
そうと決まったらさっそく証人に聞き込みだ。
「さっきのことなのだが、詳しく狀況を教えてしい」
「さっきのってパメラ様が落ちたことですの?それでしたらパメラ様が大量の本を抱えていらっしゃったので、ミスト様が後ろから聲をおかけになろうとしたところでパメラ様が足をらせたのですわ」
「つまりパメラが落ちたのはミストのせいなんだな」
「はい?」
「よくわかったありがとう」
一人だけの証言では心許ないな、もう一人ぐらいに聞いておこう。
「あーおれは下から見てただけですけど、ミスト様がパメラ様の方を振り返った瞬間パメラ様が落ちたじがしましたね」
「そうかよくわかった」
やはりミストが原因で間違いはなさそうだ。
証拠も集まったし、明日ミストを糾弾することにしよう。
以前のように車止めではなく教室でミストを捕まえることに功した。
「ミスト!お前にはほとほと呆れた!この度の所業、許されるものではない!パメラの命を狙うとは何てなんだ!」
「とおっしゃられましても」
言い逃れをするつもりか!だがこっちには証人と証言が、そしてなによりもパメラが怪我をしているという事実があるのだから言い逃れなどさせるものか。
「いいんですダニエル様っ私がきっと、ミスト様よりダニエル様にされていることが気にらないから、きっとだから背中を押したんです」
「そのような記憶は一切ございませんが」
「パメラっなんて慈悲深いんだ!それに比べて…ミスト!お前は悪魔のようなだな!」
本當にパメラはなんてすばらしいなのだろうか。
「今回は証人がいるんだ!パメラが階段から落ちた場所にお前もいたという証人がな!」
「はあ、そうですか」
「言い逃れが出來ると思うなよ!」
「言い逃れも何も、パメラ様が勝手に転んだのであって、私は何もしておりませんのよ?むしろ本をたくさん抱えていては危ないですよ、と聲をかけようと思っていたぐらいですもの」
「ふざけたことを言うな!お前でなくて誰が背中を押すというんだ!」
「ですから、勝手に落ちていったのですが」
「黙れ!言い逃れもそこまでにしてもらおうか!」
「ダニエル様いいんですっ、このケガだって大したことありませんし、私はいいですから」
「パメラ、こんなにまで慈悲の心を向けるなんて君こそ聖だ」
そう口にした途端、ミストの方から冷気のようなをじた。ミストの目が冷たくこちらを向いてい居る。
「お言葉ですが、簡単に聖だなどと口にしないでいただけますでしょうか?」
「何?」
「聖、聖人という呼び方は偉業をし遂げた方々に死後・・贈られる稱號でございます」
「そ、そんなことはわかっている」
「では今のお言葉を撤回していただけますね」
「……うるさい!」
ミストが本気で怒っているとじた俺は、けなくも教室を出ていくことで難を逃れてしまった。いや違う。パメラを守るためだ。あんな冷気の中にパメラを置いておくわけにはいかないからな。
その後もなかなか進まない婚約破棄の間にも、パメラはなんどもミストたちにめをけてしまい、俺はその度に駆け付け庇うことを繰り返していた。
いい加減にしてくれ、と思ったそのころ、父親から婚約の白紙撤回の話しを聞かされて心小躍りすることになった。
だが、同時に俺が傍系の男爵家の養子になることも言い渡されてしまい、目の前が真っ白になってしまった。
一どういうことだ?
理不盡な養子縁組を言い渡された翌朝、俺は早速と言わんばかりに教室にいるミストにかみついた。
「ミスト!」
「……まあいやですわ、婚約者でもない令嬢を呼び捨てになさるだなんて、なんて常識がないのでしょうか」
「仕方がありませんわリーン様、ダニエル様でいらっしゃいますもの。きっと婚約が白紙撤回になった意味すらお分かりになりませんのよ」
「ではジャンヌ様がご説明なさいますか?」
「まあ、ロベルタ様ってばお人が悪いですわね。でも私も今回の白紙撤回には驚きましたの。それに、白紙になった補填もすべてコンロイ家が負擔してくださるとのことで決著がつきましたでしょう?余程のことがなければそのような事にはなりませんのにね」
「まあ、ミスト様。あのように堂々と浮気をしていたのですから當然のことですわよ」
俺はすっかり馬鹿にされているのだとわかり顔が熱くなっていくのをじる。思わず毆りかかりそうになるのを周囲の男子生徒が止めにって來る。
全く持って邪魔だ。お前たちはあのミストに騙されているんだぞ。
「ああ、ダニエル様はパメラ様と正式に婚約がお決まりになりましたのよね、おめでとうございます。なんでも國王の勅命だそうで、よかったですわねぇ、侯爵家は継ぐことが出來ませんけれども、分家の男爵家の養子におりになるのだとお聞きしましたわ」
「貴様がっ貴様が何かしたんだろう!」
「私は何もしてはおりませんわよ、家の者が何かをしているかもしれませんが預かり知らぬことでございますわ」
「パメラが今朝から俺に対してそっけないのもお前がなにかしたんだろう!」
「まあそうなのですか?申し訳ありませんがそれこそわかりかねてしまいます」
そう、朝にパメラを見つけて聲をかけたが、なんともよそよそしい反応を返されてしまったのだ。
やっと婚約が出來て照れているだけかとも思ったが、こいつらが何かをしていたのかもしれない。
男子生徒に無理やり教室から追い出されて、俺はパメラを探しに行く。
教室にはいなかったので學園のあちこちを歩き回ってやっとたどり著いたところが醫務室だった。
中からはパメラの明るい聲が聞こえて來て、ほっと一息吐くとそっとドアを開ける。
「先生、ほんとありがとうございます。痛みもすっかり取れました」
「この間のに治しておけば苦しまなくて済んだんですよ」
「だってぇ、こうした目に見える証拠でもなくっちゃあ、あのミスト先輩を陥れることは出來ないじゃないですかぁ」
「あまり褒められる行為ではありませんね」
陥れる?何のことを言っているんだ?
「でもでもぉ、せっかくダニエル先輩と婚約できたのに、男爵家に養子にるとか意味なくなっちゃいましたよ。これじゃ何のために自作自演して怪我したのかわかんないじゃないですか」
「ダニエル様が養子に出されたのは貴のせいだと聞いていますよ」
「そんなの知ったことじゃありませんよ。ダニエル様がもっとうまく立ち回ってくれればよかったんです。それに、もともと顔と爵位以外取り柄がなかったんですから、これからは貴族のおばさん相手にその顔で取りってもらうぐらいしか出來ないんじゃないですか」
「悪い子ですね」
「うふふ、悪い子は嫌いですかぁ?」
途端に甘くなった聲に慌てて中にってみれば、上半を開けたパメラが校醫にしなだれかかっている姿があった。
「何をしている!」
「きゃぁっいきなりってきてなんですか!」
「何をしているのかと聞いているんだ!」
「治療ですよ」
「治療だと!?ふざけるな!」
しれっとした校醫の態度に苛立ち思わずこぶしを振り上げたがよけられてしまい、その拳はパメラの顔に當たることになってしまった。
「ギャッ、酷いっ」
「っ、避けるな!」
「避けますよ。ああ、パメラ様。そんな貧相なには何の魅力もじないのでしようとしても無駄ですよ。それでは失禮しますしばらくお2人でゆっくりお話合いでもなさってください」
そう言って校醫は醫務室を出ていった。外から鍵がかけられる音がしたので誰も中にはってこないだろう。
「毆るなんて、の顔を毆るなんて何を考えているんですか!」
「うるさい!お前こそ校醫に対して何をしようとしてたんだその恰好は何だ!」
「治療だって言ってるでしょう!邪推しないで下さいよ!」
「お前が怪我をしたのは足だろうが、元を寛げる意味はないはずだ!」
「が苦しくなったんです!そのぐらいわからないんですか!?」
「わかるわけがないだろう!あんな風にしなだれかかって、ふしだらにもほどがある!」
「ふしだらだなんて失禮だわ!こんな人が婚約者だなんて最低!」
「俺こそお前がこんなだとは思わなかった!婚約破棄を申し出てやる!」
「そうしてちょうだいよ!顔以外取り柄のないアンタなんかこっちから願い下げだわ!」
鍵は外からかけられていたので中からは簡単に開いた。
すぐさま家に帰って婚約の破棄を父親に申し出たが、國王からの勅令を二度も反故にしてしまってはそれこそ家の沽券にかかわると言って承諾しては貰えず、俺は學園の卒業を待つことなく家を追い出され養子縁組をさせられ、パメラと結婚する羽目になってしまった。
パメラとはあれからも険悪で、今ではれるのすらおぞましくじられる。
そうして俺は、社界では給仕として働きながらも貴婦人の相手をするまでにり下がって家計を支えるしかなくなってしまったというのに、ある日パメラが信じられないことを言い放った。
「妊娠したわ」
「なん、だと!?誰の子供だ!」
「そんなのわかんないわよ。とにかく妊娠しちゃったんだからおろすこともできないし貴方の子供として扱ってよね」
「冗談じゃない!」
「仕方がないじゃないの!こんなことになるなんて思わなかったんだもの!」
「どこの馬の骨ともわからない男の子供なんぞ誰が養うものか!」
「この私の子供なのよ!」
「だからなんだ!」
「あんたはその顔を使っておばさん達にでも取りっていればいいってことよ。ああ、気持ち悪い」
「こんのっ!」
思わず手が出てしまった。
「グフッ」
派手な音を立てて椅子ごとパメラが転げ落ちていく。ギリギリの理で腹は毆らなかったが、のあたりを毆ったがあった。
「なんてことをするのよ!この暴力男!」
パメラはそう言って走って食堂を出ていってしまう。
全くどうしてこんなことになってしまったんだ。全てはミストが俺の婚約者になったのがけちの付き始めだったに違いない。
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