《婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪》アドルフ=シャルル=ボルドロウ 01
大公家に生まれたというのに、東の森に捨てられた子供、それが私です。生まれた瞬間に母親の腹を食い破って出てきた子供など、忌むのは當然のことと言えるでしょう。
そして私は東の森の魔、ディアナに拾われました。
「面白そうな子、ね」
そう言われて私は何度も死にかけながら魔法をこのに教え込まれました。中でも母親の腹を食い破ったとは思えないほどに、治癒能力の適が高く、10歳になった時に神殿の前に放り出されてしまいました。
ですが、王家に連なる者の証であるこの銀の髪が、すぐさま私の出生を詳らかにしたのです。
大公家はすぐさま捨てたのではなくディアナに預けたと公表し、今まで公表しなかったのは混を避けるためだと大法螺を吹きました。
そのことに笑いがこみあげてきましたが、私は順調に地位を築き上げ、神、司祭となり、勇者一行に隨行して悪しき魔人を倒し、樞機卿へと上り詰めました。
そのころでしょうか、神殿に一人のがやってきました。
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洗禮名、レインの名を神より頂いた娘です。
「レイン、今日もお務めご苦労様ですね」
「シャルル樞機卿様っご機嫌よう」
レインは巫の素質があり、蘇生リザレクションの使い手としてはもっとびるでしょう。まさに神殿の寶と言ってもいいかもしれません。
この子を守ろうと心に決めたのはいつだったかはわかりませんが、いつの間にかおしくなっていました。
それなのに、レインは國の為という名目で神殿より強奪されてしまったのです。
その喪失に目の前が真っ赤になり、世界のすべてに絶し、私は気が付けば東の魔、ディアナのもとに足を運んでいました。
「なんて顔なの、よ」
「私の大切なあの子が國に奪われてしまいました。何とか取り返す方法を教えてくださいませんでしょうか」
「ないこともないけど、ね。危ない、わ」
「かまいません!」
あの子が戻ってくるのなら。
そういえばディアナはクスクスと笑いながら紅い球を一つ取り出して私の前に差し出す。
「種、よ。貴方が耐えられれば願いは葉う、わ」
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すぐさまそれを奪い取り心臓の上に馴染ませるように押し付ければ、の中にり込んでいく。
「うっぐぅ」
が焼け付くように熱くなり、中を百足が這いまわるようなおぞましいが襲ってくる。呼吸が苦しくなり、目からは涙が流れてくる。が沸騰したように熱くなり、が膨張したかのような覚が沸き起こり、胎の奧底でボコリ、と何かがはじけるような音が聞こえました。
「がんばって、ね」
ディアナのそんな聲が遠くから聞こえてくるが、今はそれどころではなく、必死にの中からあふれ出てくる何かに対抗する。
ボコリボコリ、と脳みそが沸騰する音が聞こえて、骨が軋んでいく音が聞こえる。
そうして意識は闇の中に落ちていきそうになるが、そうなってはきっと終わりだと直が告げてくるため必死に意識を繋ぎとめる。
皮を自分の爪でえぐり、をむしっていく。
「sibon erad eativ anrecul te ,mer cnah tacideneb eativ sued enimod .ieiceps eavon etatum da anopuac da em tu tse mungis coh」
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回復の呪文を唱えながら必死に抵抗をすること數日、どれほどの時間がたったのかはわからないが、どうやら私は種を制することに功したらしい。
「おめでとう」
「ディアナ、この種は魔王になる種ですね」
「そう、よ。新しい魔王の誕生、よ」
「……そうか、古の魔王、緑の魔と呼ばれた魔王が貴かディアナ!」
「そう、ね。そう言われたこともあったわ、ね」
もはや數百年も昔の、それこそ太古の昔から存在すると言われる、いや、居たかもしれないとすら言われている魔王がこんなところにいるとは思いませんでした。
けれども、魔王をこうして作りだしているとは意外でしたね。魔王に育てられた子供が必ず魔王になるわけではないでしょうが、私にはその資格があったと言うべきなのでしょう。
「しかしこれでは神殿に戻れませんね」
「じゃあこれをあげる、わ」
そう言って差し出されたのは耳飾り。抗魔の力が備わっているもののようです。
「これを付ければ人間と同じになる、わ」
「ありがたくいただきましょう」
そうして私は南に下り、魔を活化させ、王都に魔王誕生の知らせを広めたのです。
全てはあの子を取り戻すために。
計畫はうまくいきました。
神殿では手放したレインを取り戻す手段を考え、婚約を破棄させてしまえばいいのではないかという案に辿り著きました。
そうして私たちは神殿にやって來た男爵家の娘に囁きました。爵位が上の者の妻になればもっといい待遇をけることが出來る、もっといい目を見ることが出來ると。
頭の軽い男爵家の娘、パメラは疑うことなくそれを実行し、學園で一番序列の高い男子生徒、レインの婚約者であるダニエルに目を付けました。
まさに神殿の思通りです。
問題はレインがダニエルに懸想していた場合ですが、レインは神殿の神であるヨハンに懸想していることは神殿では有名でしたのでその心配もありませんでした。
もっとも、私にはそのことも気にらないのですが、今は仕方がありません。
數か月かけてやっと植えた種が花を咲かせたと知った時は、誰もいない場所で笑いが止まりませんでした。
花は実となり神殿にて収穫されました。
そう、全てはあるべき姿に戻ったのです。
ただ一つ、レインの婚約者には私が名乗りを上げるはずだったのですが、執務に追われているうちにヨハンにその席を取られてしまいました。
しかし、巫の伴となれば白い結婚を貫くのが慣例。そうなれば互いに人を作ることも許されるというものです。
その人の座に私が付けばすべての問題は解決されるのではないでしょうか?
そもそも、あのように純粋なレインの人になって、最後まで白い結婚や純潔を守ることが出來るとは思えません。ここは私が人になるのが道理ですね。
レインの送迎會に私はルイと司祭を連れて足を運びました。と言っても忙しい執務の間ですのですぐに帰らなければならないのですけれどもね。
會場にるとすぐさまレインがこちらに駆け寄ってきます。本當に可らしい。
「シャルル樞機卿様、ようこそお越しくださいました。まさかシャルル樞機卿様にお越しいただけるとは思わず、大したおもてなしもできませんが…」
「いやいや、この度巫姫になるレインの送迎會となれば我が神殿に來る歓迎會を兼ねているも同義。參加しないわけがないでしょう」
「そう言っていただけると我が家としても大変な譽れでございます。シャルル樞機卿様、何かお飲みになりますでしょうか?」
「ええ、では水を」
すぐ帰るという意味を暗に伝えれば、戸いながらも水を用意してくれます。
「そういえばルイ」
「なんでしょうかシャルル樞機卿様」
「貴殿は第一王殿下とお付き合いをなさっているそうですね」
実際はそんなことはないのですが、ここですこし種をまいておくのも悪くはないかもしれませんからね。まあ、実際問題付き合っていなくとも、い慕っているというのは事実なのですからね。
「はっいえ、そのような、ことは…」
「ああ構いませんよ。巫姫のご夫君はいくら浮気をしても罪に問われることはありませんからね。しかし、そうすると私にはレインが気の毒でなりません」
あくまでも不公平でレインが可哀そうだということを強調します。
「レイン、私の人になりませんか?」
「はい?」
「おお承諾してくれるのですね」
疑問形でしたが、「はい」の言葉は頂きましたし今日の用事は済みましたね。
困するレインの耳元に顔を近づけて囁く。
「浮気には浮気を、ですよレイン」
これですべてがうまくいくとは思いませんが、種は出來るだけ蒔いておいた方がいいですからね。多すぎれば間引けばいいだけですから問題はありません。
それにしても、魔王の噂を流している間、執務を放り出していた付けがまさかこんな形で襲い掛かって來るとは思いませんでした。
人になろうと宣言してから約3か月もレインに會うことが出來ないとは思いませんでした。
しかし、3ヶ月という時間、日中こそ會えませんでしたが、夜レインが寢てしまった頃にこっそりと部屋にってレインの寢顔を見ることが私の習慣になってしまったのは、何とも背徳的ですね。
3か月かけて執務を終わらせてやっと日中にレインに會いに行くことが出來るようになりました。
水行中のレインは、シュミーズドレスがけてに張り付いて、なんとも能的な姿をしていました。
思わずそのまま湖の中にってしまいまじまじとその姿を目に焼き付けます。
「シャルル樞機卿様?」
「お久しぶりですね、しお時間を頂けますか?」
「え?あ……えっと、はい」
その言葉にすぐさま湖からレインを掬い取り、両腕で抱えあげると自分の部屋に連れていくことにします。
「シャルル樞機卿様!」
「ではさっそく私の部屋に參りましょう」
「シャルル樞機卿様っ!シャルル樞機卿様の禮裝が濡れてしまいます」
「こんなもの魔法ですぐに乾きますよ」
「それはそうですけれども」
ソファにレインを下ろして閉じこめるように覆い被されば、キョトンとした目をされてしまいました。
「シャルル樞機卿様?」
「どうぞシャルルとお呼びください、レイン」
「けれど、シャルル樞機卿様を敬稱無しでお呼びするのは気が引けてしまいます」
「私たちは人同士ではないですか、名前で呼ぶことの何がいけないのですか?」
「本気だったんですか?」
冗談だったと思われていたのでしょうか、心外です。
そっと手を頬にあてての橫にキスをします。にしたら理が飛んでしまいそうですからね。
「もちろん本気ですよ。貴がここに來た時からずっと私は貴を見ていたのですからね」
「まあ…。冗談が過ぎますわ、シャルル樞機卿様」
「本當なのですけどね。今もこうしてのけている著姿の貴を見てるだけで、れたくて仕方がない」
「こっこれはシャルル樞機卿様が」
「ええ、ですから…。春の暖かなぬくもりよ」
しもったいないですが、このままで風邪を引いてしまっても困りますので、乾かして差し上げることにしましょう。
「せめてなにか羽織るものを持ってきてくださればよろしかったですのに」
「気が利きませんでしたね。これをどうぞ」
私のカズラを羽織ったレインはさを強調しているようで、とても可らしくていいですね。
「ああ。いいですねよくお似合いです」
「恐れ多い事でございますわ」
「…レイン」
「え?」
ちゅっと音を立てて首筋を何度も吸って跡を殘していく。
「あのっ」
「ちゅっ…ん、…し印を、離れていてもこうしておけば私を忘れないでしょう?」
「あの、何をなさっているんですか?」
「後で鏡を見てみるとよいですよ」
「わかりました?」
しっかりと赤くづいたのを確認して、最後にぺろりと舐めてを離せば、レインの顔がすっかり赤くなってしまっていました。
「あの、シャルル樞機卿様」
「シャルルですよ」
「シャルル……様、がドキドキします」
「どのぐらい?」
「苦しいぐらいです」
その言葉に、カズラの下から手をれての上に手を置けば、思ったよりも心臓のドキドキが伝わってきて嬉しさがこみあげてくる。
「どれ……ああ本當だ、とてもドキドキしていますね」
こちらも嬉しくてが溫かくなってきますよ。
それにしても、レインは顔の割にはが大きいですね。先ほどから思っていましたが、年齢の割には的と言いますか、蠱的といいますか、男好きしそうなと言えますね。
これは私が守ってやらなければなりません。
「巫長様、こちらにいらっしゃいますか?」
「シャルル樞機卿様、執務にお戻りください」
もっと2人の時間を堪能していたいのに、お邪魔蟲がやって來たようですね。
しかしここでレインを帰さないと問題が出てきてしまうでしょうし、レインの立場も悪くなってしまうでしょうから仕方がありませんね。
「レイン、殘念ですが今日はお互いに執務に戻ることにいたしましょう」
「そうですわね」
「その前に」
ちゅっと額にキスをします。軽い防魔法をかけておきましょう。私以外の男がれるのですし、このぐらいは許してもらいたいものですね。
レインがいなくなった後は執務室に移して今日の執務を開始します。やはり南の魔王の誕生についての案件が多いですね。まさかその魔王がここにいるとはだれも思わないでしょう。
『言わない方がいい、わ』
「……ディアナ?」
『これは念話、よ。教えたでしょう?』
「ええ」
誰もいない室で1人で話している奇怪な景になってしまっていますね。従者が戻ってきたら大変ですので心の中での會話にしましょう。
『うまくいってるみたい、ね』
『ええ、まあ』
『他の魔王の間でも噂になってる、わ』
『正不明の魔王っていうところですか?』
『そう、よ。人気者、ね』
『まあ私はレインさえ手にればそれでいいんですけどね』
『熱、ね。見ていて興味深い、わ』
『見ているんですか』
『その耳飾りで見えるの、よ。だから、貴方も最後まで手出しなんてできないでしょう?』
全く、変なところで制限がかかってしまいましたね。まあもっとも、巫長であるレインに手を出すはずもないのですけれどね。
それにしても、この耳飾りがないと神殿にれませんが、耳飾りがあるとディアナにこちらの様子が中継されてしまうというわけですね。全く厄介なものをもらってしまったものです。
自分でも抗魔裝飾品を作ったほうがよさそうですね。
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