《婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪》魔王と花嫁 01
シャルル様と結婚して2年が経ちました。あっという間のような気もしますが、私とシャルル様も忙しいので月に1,2回しかお會いできないのですよ。
もっともシャルル様曰く私が眠っている間に寢顔を見にいらしているらしいのですが、起こしてくださればよろしいのに困ったものですわよね。
さて、南の魔王についてですが、ヨハン様の件については彼の暴走だったという旨の書かれた書狀が屆けられたということでございます。
王宮ではこれを機會に休戦協定を結ぼうと必死なようでございまして、神殿もそれにお付き合いしておりまして、シャルル様は樞機卿様としてのお仕事がより一層お忙しくなったようでございます。
王宮にお泊りに行くことも何度かございますしね。
そんな中、私の日常は変わらず、と申したいところなのでございますが、変わったことが一つだけあるんですのよ。
「ですから勇者様、毎回のことですが瀕死狀態になるまで頑張ることはないと申し上げておりますでしょう。ドロテア様のことをお考え下さい」
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「だが、魔の侵攻を防げないのも問題だろう。魔王が邪悪ではなさそうだが、まだ休戦協定がしっかりと結ばれていない以上、油斷はできない」
「それはそうですけれども、神殿でも頑張っておりますのよ。しはほかの冒険者の方々にも頼ってもいいのではないのでしょうか?」
「それは…」
「ミスト、ゲラルドは功績を焦っているのですわ。休戦協定が結ばれる前にもう一旗あげて私との婚約を確実なものにしようとなさっておりますの」
「まあ、ドロテア様。それでしたらもう十分だとおっしゃってあげてくださいませ。もう婚約の打診はしているのでございましょう?」
そう、私とドロテア様は親友と言えるほどの仲になったのでございます。
會う比率はシャルル様より多いものですから、自然とこうしてお話する機會が増えたせいかもしれませんわね。
神殿に泊まっていただく機會や、水行をご一緒する機會が増えたのも原因の一つでございますわね。
私も新婚の悩み事などをお話したりもしておりますのよ。巫長をしている関係上、そう言った弱音を吐ける相手があまり居りませんので助かっておりますわ。
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「魔人を倒したのですから功績は確かなものではございませんか」
「魔人はシャルル樞機卿様が倒したじゃないか」
「まあ、一緒に戦ったのですから、功績は同じように分け與えられておりますわよ?私にも褒が與えられましたもの。おかげで神殿の修繕が早く済んで助かりましたわ」
本當に、樞機卿様方のエリアの修繕が早く済んで結界の修復も予定よりも早く済みましたわ。
「南の魔王の件を、神殿と王宮が主導権を握るんなら俺は魔を退治して功績を上げるしかないじゃないか」
「はあ、ミストからも言っていただけませんか?私が言っても意地になってしまわれるのですわ」
「私が言っても無駄なように思えますわね。勇者様もまた蘇生リザレクションまでいってまたドロテア様に泣かれたらしは反省なさると思いますわ。片腕が千切れる程度ではまだ反省してくださいませんものね」
そう考えますと、勇者稼業というものも大変なものでございますわよね。これでもし私がいなかったら數人の巫や子が倒れている頻度でございますわよ。
「さて、治療も終わりましたし、今日もお泊りになっていかれるのでしょう?お部屋を準備させますわ」
「助かる」
「ありがとうございます」
そういえばシャルル様と一緒に夕食を頂いたのは2か月前が最後でしたかしら。本當に時間が合いませんのよね。
「では私は一度自室に戻りますわね」
そう言って部屋に戻ってみれば、私宛の書類の山が出來上がっていてぐったりしてしまいます。巫長ですので、ただ黙って治癒をしていればいいだけではございませんのよね。
書狀を確認していくと、一通普段とは違う意匠の書狀が屆いていることに気が付きました。
差出人を見るとなんと東の魔ディアナさんでいらっしゃいました。いったい急にどういうことなのでしょうか?
早速その書狀を開けてみますと、ポフン、と軽い音を立てて音聲再生が始まりました。これは風魔法の一種でございますわね。
『初めまして巫長のミスト=レイン=ドラクル様、私は東の魔のディアナ、よ。アドルフの育ての親になるわ、ね。貴に、お話がある、の。今度神殿にお邪魔するわ、ね』
そこで風魔法は終わって書狀は封書ごと風化してしまいました。いったい何のお話なのでしょうか?
それにしてもアドルフとはシャルル様のことですわよね。確かに育てられたというお話を聞いたことがありますけれども、考えれば確かにおかしな話ですわよね。
東の森に捨てられていたとおっしゃいますけれども、大公家のご子息が捨てられていることなどあることなのでしょうか?
私が生まれる十數年も前のことですからわかりませんが、どういう理由があってそのようなことになったのでございましょうか?
……東の魔さんがいらっしゃったらわかるのかもしれませんわね。
シャルル様に聞いてみるのもいいのですが、時間が合いませんしお會いするとその、過度なスキンシップに移ってしまいましてお話どころではないことも多いので、出來ないと申しますか…。
と、とにかくまずは東の魔様にお會いしてお話をすることが最初ですわよね。
いったいいついらっしゃるのでしょうか?日にちはお話しされていらっしゃいませんでしたわよね。近いうちにいらっしゃるのでしょうか?
東の魔さんがいらっしゃったのは、書狀が屆いてから一週間ほどたったある日の事でした。普通に治癒のお客様として來られまして、私にだけこっそり後ほど落ち合う場所を耳打ちしてくださいました。
あの怪我、結構深かったのですがご自分でつけてしまわれたのでしょうか?私と話すためだけに?
それは重要なお話ではないのでしょうか?シャルル様にお伝えしたほうがいいかもしれませんけれども、結局今日までお會いすることはございませんでしたものね。
巫のお仕事が終わりまして、私はこっそり神殿を抜け出して、東の魔さんとの待ち合わせ場所に向かいました。
そこは明るい日差しのり込むカフェでして、のお話をするとは思えない場所でございましたが、私が席に著いたとたんに人払いと傍聴の結界が張られたので、思わずを固くしてしまいました。
「大丈夫、よ。食べたりしないから安心して、ね」
「はい。…今日はどのようなお話でしょうか?」
「アドルフの事、よ。あの子まだ貴に言ってないでしょう?」
「言っていない、とは?」
拾われたという事ならお聞きしましたが詳しくは聞いていませんものね。
「あの子、ね。生まれてすぐに私の住んでいる東の森に捨てられたの、よ。どうしてだかわかる?」
「いいえ」
「母親の、ね。お腹を食い破って産まれて來たんですって」
「え?」
「その話しを聞いて、ね。面白いから拾ったの、よ」
母親の腹を食い破ってなんて初めて聞きましたが事実なのでしょうか?そうだとしたらそれは確かに捨てられてしまっても不思議ではないのかもしれませんわね。
神殿に預けられるにしても大公家のお子様を産まれてすぐに預けるなんて、何かがあると言っているようなでございますものね。
「才能があると思ったのよ、ね」
「才能ですか?」
「そう。魔王の才能、よ」
「なっ!?」
ガタンとはしたなくも音を立てて椅子から立ち上がってしまいました。
「シャルル様は樞機卿様でいらっしゃいます。魔王の才能などとおっしゃらないでくださいませ」
「魔法の才能ももちろんあったわ、よ。だから神殿に帰したんだし、ね」
「……そ、そうですわよね」
私は再度席に座り直して溫くなってきた水に口を付けます。
「でも、ね。魔王になったのは最近なの、よ。ほんの5年ぐらい前、ね」
「シャルル様が魔王だとおっしゃるんですか?」
「そう、よ」
「樞機卿様が魔王など聞いたこともありません。そもそも魔素をどうやって隠しているというんですか」
「魔素を押さえる道をに著けているの、よ。最初は私が與えたものだったけど、今は自分で作ったものを使ってるみたい、ね」
「そんな…」
信じられませんわ。そんなことあるはずもありませんし、そのようなことになれば、ヨハン様を魔人にしたのはシャルル様ということになるではありませんか。
そもそも、シャルル様が魔王なのでしたらもっと早くに休戦協定を結べたのではないでしょうか?
「ありえませんわ。樞機卿様にまで上り詰めておきながら魔王になるなど意味が分かりませんもの」
そう、そうですわ。意味がありませんもの。東の魔様がからかっていらっしゃるに違いありませんわ。これはきっと姑が嫁をめているようなものではないでしょうか?
「本當の事なのに、ね」
東の魔様はそう言うと人払いと傍聴の結界をといて「ふう」と息を吐き出しました。
「あとはアドルフに聞いてみると良いわ。また、ね」
そう言ってこの場から立ち去っていく東の魔様を私は引き留めることが出來ませんでした。
それほどまでに衝撃的な事で、頭の中で処理が追い付かないと言いますか、ありえないという思いと、わざわざ東の魔様が言いに來たという事実が拮抗しております。
これはシャルル様に確認すべきことでございますわね。今夜は寢ずに待ってみることにいたしましょう。
その日の夜、私はシャルル様がいらっしゃるのを待つために、濃い目の紅茶を飲んで眠気をごまかして夜遅くまで起きていました。日付が変わってしばらくしたころにシャルル様が部屋にっていらっしゃいました。
いつもこんなに夜遅くまでお仕事をなさっておいでなのでしょうか?おは大丈夫なのでしょうか?
「レイン起きていたのですか」
「はい、今日はどうしてもお話しておきたいことがございましたの」
「なにかな?」
シャルル様は私の座っている橫に座って、聞く勢になってくださいました。
私はぐっとこぶしをの前で握りしめて覚悟を決めて口をかします。
「今日、東の魔様とお會いいたしましたの」
「は?」
「ですから東の魔様がいらっしゃいまして、お話をいたしましたのよ」
さすがのシャルル様も予想外のお話だったようでキョトンとなさっておいでですわね。
「そこでお聞きしましたわ、シャルル様が生まれた時にお母様のお腹を食い破って産まれて來たとか、産まれてすぐに東の森に捨てられてしまったとか……魔王の才能がおありだったとか」
「…あの」
初めて見るようなお顔で憎々しげにおっしゃるシャルル様に、事実なのではないかという思いが強くなってしまいました。
「噓ですわよね?東の魔様の冗談ですわよね?シャルル様が魔王だなんて、そのほかのことも々噓ですわよね?」
「…し前の私なら、魔法の才能があったためにとかいろいろ言い訳をしていたと思います。そう、5年以上前の私なら、ね」
「5年…」
それは私が一度還俗した時期ですわね。何か関係があるのでしょうか?
「レインが還俗して私はショックをけて東の魔のところに行ってどうしたらいいのか尋ねました。そうですよ、東の魔が言った通りです。私には魔王の才能があった、だから東の魔は、ディアナは私に魔王の種を渡してきたんです。魔王になることを選んだのは私自ですけれどもね」
「う、そですわ…」
「本當のことです。南に現れた魔王は私のことですよレイン」
「噓ですわ!」
「レイン、今まで黙っていてすみません」
「……なぜ、なぜ樞機卿様にまでなって魔王になどなったのですか!そんな裏切るような真似をどうしてなさったのですか!」
私はポロポロと涙を流しながらシャルル様に詰め寄りました。
シャルル様は申し訳なさそうな顔をしながらも淡々を話しを続けられます。
「裏切るとかは考えてはいませんでしたね。なによりもレインを取り戻したかったんですよ」
「私、を?」
「ええ、その方法を東の魔に尋ねに行ったんです」
それでは、原因は私なのでしょうか。ヨハン様があのようになってしまったのも、私のせいなのでしょうか…。
私は両手を口に當てて嗚咽を噛み殺します。
「ひどい、ですわ」
このようなことはあんまりではありませんか。
婚約者に浮気をされるよりももっとひどいことのように思えます。
「……すべては貴を、レインをしているからですよ」
「私のせい、ですのね」
「レイン…」
ヨハン様がああなったのも、勇者様があのように怪我をしてくるのも、シャルル様が魔王になったのもすべて私の行いが原因だというのでしょうか。
「……ひどい、ですわね」
「申し訳ありません」
「私何も知らずにのうのうと暮らしてまいりましたわ」
「レイン」
「ぐすっ…」
「レイン、私は」
スッとばされた手を思わず叩き落してしまいます。今はれられたくはないと思ってしまったのです。
「今はらないでくださいませ、汚らわしいとまでは申しませんけれども、今は嫌ですわ」
「…やはり、魔王である私をけれてはくれませんか?」
「……今は、無理ですわ」
私はそう言って立ち上がります。
「今夜は客室に泊まりますわ、明日からはシャルル様のお部屋にではなく巫長の部屋で寢起きをいたします」
「レインっ」
「心の整理をさせてくださいませ」
いろいろなことがありすぎて私の心はぐちゃぐちゃになってしまいました。これでは明日の業務に差支えがあるかもしれませんわね。
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