《星乙の天秤~夫に浮気されたので調停を申し立てた人妻が幸せになるお話~》07. 東京家裁で

翌週の火曜日、私は會社を休んで午前中に戸籍謄本をとりに行き、午後から東京家庭裁判所に出向いた。夫婦関係等調整調停の申立のために。

申立に関する書類一式は、すでに榊さんを通じて事務所に預けてある。事説明書の「夫婦が不和となったいきさつや調停を申し立てた理由」についての項目は、きっと調停委員さんがびっくりするであろうくらい詳細に作した。もちろん、榊さんに手伝ってもらって。

そして容をチェックした桐木先生が、ちょうど東京地方裁判所と公正取引委員會に用があるからついでに自分が持っていくと言ってくれたのだ。金曜日にその旨を電話してくれた榊さんに、私も來週は年休がとれるのでついていきたいと伝えたら、何故か明るい聲で『OKです!是非是非一緒に!!』と即答された。

空港の手荷検査場のようなセキュリティチェックをけて東京家裁の中にった。一階で待ち合わせのはずだが、桐木先生の姿は見當たらない。早すぎたかなと思って壁際のベンチに座る。フロアには人がたくさんいた。スーツ姿の人、年配の、若い男等々。裁判所というと堅苦しいイメージだったが、事務付のある一階の雰囲気は他の役所とあまり変わらない。ただ、やたら天井が高いなあと思っていた。

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私は手元にある戸籍謄本を取り出した。戸籍には、私と俊彰が結婚した日付が書いてある。

この結婚記念日に、私は離婚を決意したんだ。私と桐木先生が出會ったこの日に。

「やっぱり申し立てるのやめるか?」

顔を上げると、真剣な表で桐木先生が立っていた。協議離婚をんでいた私の気持ちを再確認しようとしているんだろう。

「先生はお人好しですね」

「そんなこと初めて言われた」

私は立ち上がって、家事事件付窓口へと向かった。

「行きましょう。窓口あそこですよね。先生ついてきてくださいね」

「君がついてくると言ったんだろう。書類は俺が持ってるんだぞ」

やれやれと呆れたように笑って、先生が私を追い越す。

足の長さが違うからズルいと思いながら、フロアを斜めに突っ切って歩いた。何も怖くなかった。

付後、「せっかく來たんだから、調停室がどんなものか見ていこうか」と桐木先生が言ってくれたので、私達はエレベーターで上階へ昇った。調停室や法廷、申立人と相手方の待合室等があり、さすがに一階とは雰囲気が違う。私はなるべく桐木先生にくっついて家裁の廊下を歩いていた。すると、突然朗らかな聲で呼び止められた。

「おい、桐木!久しぶり。まだ反抗期なのか?」

裾の長い黒い法服をひらめかせて、若い裁判がこちらへ手を振りながら歩いてくる。桐木先生と対照的な、スポーティーな短髪が爽やかな人だった。

「森林……何でお前がここにいるんだよ……」

「何でって、年末の人事で仙臺から戻ってきたんだぜ。葉書出しただろ」

「捨てた」

「酷いな」

私が「反抗期?」と首を捻ってると、森林と呼ばれたその判事さんが小さな聲で言った。

「知ってます?こいつの親父さん、最高裁の判事なんですよ。超エリート。なのに息子はこんな萬年反抗期……って痛!」

桐木先生が森林判事の肩を毆り付けている。裁判所の中で裁判に暴力ふるってるヤバイ人にしか見えないなと思っていたら、森林判事がにこにこしながら私の方に向き直った。

「バッジつけてないけど事務の子かな?可いね。彼氏いる?今度、俺と食事に行かない?」

バッジとは、弁護士記章か司法修習生の三バッジの事だろう。いきなり食事に派さが、いま森林判事が著ている法服に全然似合ってない。ちょっと面白くて笑ったら、肯定とけ取ったようだ。

「いつにする?土曜は?最近、いい店見つけて……って痛!」

「この人は依頼人だ」

桐木先生が遮るようにそう言うと森林判事は大袈裟に驚いていた。

「はあ?お前が家事?え、なに、家裁ここにいるの仕事?噓だろ」

「他に何だと思ったんだよ」

「俺に會いにきたのかと」

「んなわけあるか。お前がここにいる事も知らなかったのに」

「へーへーほーふーん」とやたらハ行を連発しながら森林判事は桐木先生の肩をがっしと抱いて廊下の隅に寄る。顔を寄せあってこそこそ何かを話してるのを眺めながら、私は仲良いんだなぁ同期かなぁと思っていた。

それから約1ヶ月後、私は夫婦関係等調整調停のため、再び東京家庭裁判所に出向いた。

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