《星乙の天秤~夫に浮気されたので調停を申し立てた人妻が幸せになるお話~》09. 調停_2
「ありがとうございます」
「立場上、口は出せないけど、差しれくらいは、ね」
森林判事が力強く笑うとし元気をもらえた。擔當は別の裁判だから、自分は何も言えないという。
いただきますと言って一口お茶を飲む。俊彰とあのばかりがしゃべって、自分はあまり口を開いてないつもりだったが、やはりは乾いていた。冷たくて気持ちよかった。
「擔當が俺じゃなくてよかったよ」
「どうしてですか?知り合いだからですか?」
「いや、笑って仕事にならないだろうから」
そういって森林判事は笑いを噛み殺している。何がだろうと思っていると森林判事が続けて言った。
「だって、あの狹い調停室に桐木がいると思うと……それだけで笑えるっ」
「笑いすぎですよ」
私もそう言いながら一緒に笑ってしまった。確かにそうなのだ。天井の低い狹い調停室は、の大きな桐木先生には窮屈すぎる。
「離婚の案件は、勿論俺もいくつかみてきたけど、當事者は本當に疲れるよね。きついと思うけど、調停では思ってることを素直に言えばいいから」
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私が頷くと森林判事はおどけたような顔で廊下の端を指さす。
「まあ、あれがいるから大丈夫でしょ」
あれ、と言われた桐木先生が廊下の端からこちらに歩いてくるので、「やば、じゃーね」と言って森林判事は風のように逃げてしまった。
男が別れるのに、どちらか一方が100%悪いなんてことあるわけない。俊彰を選んだのは私だ。だから話をしたかった。自分の悪かった所も含めて話したかったのに。
再開された話し合いの中で、俊彰の心が完全に私から離れているのが伝わってきた。
一緒に暮らしていたころは、こんな風に言い合いすらしたことなかった。本當は私に向かって言いたいことがたくさんあったんだろうか。
どうしてこうなったんだろう。どこでどう私達は間違えたんだろう。喧嘩になってもいいから逃げずにたくさん話をするべきだった。
だが、私は、こと不貞については俊彰を許すつもりはなかった。別れてから付き合えばよかったのだから。婚姻関係継続中に、他のと子供まで作ったことは絶対に許せなかった。
桐木先生はいちいち細かく反論したりしなかった。喋らせるだけ相手に喋らせて、「お話になりませんね」で終わらせる。省エネ調停。実にエコ。
あまりにも自分たちの都合のいいように噓ばかりつくので、仕方なくこちらの証拠である例の會話の録音データを出した。俊彰と神代早苗は真っ青な顔をしていた
「なんだよ、これ」
「盜聴じゃないの?ねえ?何これ」
「客観的な証拠です」
私が二人に向かってそう答えると、俊彰が私に向かって卑怯だとか気持ち悪いと罵ってきた。あまりにも暴言が酷いので、調停委員さんに止められるくらいに。
「これから赤ちゃんも産まれるのに酷い!汚いわよ!そんなにお金がしいの?そんなだから捨てられるのよ!」
自分が謝料を払う立場なのだと、ようやく理解して、髪を振りしてんでいる神代早苗の姿を見ても、もはや何のもなかった。馬鹿馬鹿しいこの茶番をさっさと終わらせたい。
一転して低姿勢に減額を頼み込んできたが、減額するつもりは頭なかった。
「お願い。貯金なくなっちゃうわ。赤ちゃんがかわいそう」
泣いている人というのは、男の同をう。上目遣いの神代早苗の泣き顔は、俊彰には通用しても桐木先生には効き目がなかったようで、「仕方ありません。既婚者であることを知っていてお付き合いされてたのですから」と無表に淡々と言われ、忌ま忌ましそうに私を睨み付けてきた。
「でも300萬円なんて!」
「……私は妥當だと思っています」
はっきりと減額の意思がないことを伝える。泣いてばかりで何も言い返さないとでも思ってた?
「なんなのよお……」
顔をゆがめてうつむく様子を見て、私に向かって「慘めすぎてかわいそう」と言っていたこの自が、慘めで可哀そうだった。
俊彰と神代早苗の雙方から300萬円ずつ、謝料をもらって別れる事になった。
とられた金目のもの――といっても小型家電や現金だけだったが――は、現金化して財産分與の一部としてけとることになった。支払いを確認したら竊盜の方は被害屆を取り下げることで合意した。
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