店のドアを開けて視界に飛び込んできたのは前夫・俊彰の姿だった。會社帰りらしくくたびれたスーツで、隣には妻の早苗ではなく……見たこともないと親な様子で一緒にいた。

「俊彰……あなた、早苗さんは？妊娠中の奧さんを放ったらかしなの？」

怒りで酔いも完全に醒めた。あんなに気持ち良く酔ってたのに。

「……梓？そんな格好だから一瞬わからなかった。痩せた？」

誰のせいで食事がを通らなくなったと思ってるんだ、この馬鹿。

私と桐木先生が一緒にいるのに気づくと、下卑た目で舐めるように見てきた。

「なんだ、弁護士センセイとデキてたのかお前」

桐木先生の腕が、電気が走ったようにびくっといた。

「毆っちゃだめです、先生！」

瞬時に引っ張ってとめる。

「私は気にしませんから」

私が話してるのもお構い無しに俊彰が喋る。だいぶ酒もってるようだ。

「開いて、そいつとグルになって俺らから金ぶんどったのかよ。そんでその金でチャラチャラ遊んでるのか？いいご分だな」

酷い言いに、私はが沸いて、聲が震えた。

「先生を侮辱しないで……」

「お前、どうせ石だから避妊もしてないんだろう。生でやりたい放題だな」

私が俊彰を毆るのが一番早かった。人生で最も敏速にいた瞬間だと思う。

桐木先生もマスターも手が出てたけど、俊彰の一番近くにいた私が、全の重をかけて手の平で俊彰の顔面を張り倒したのだった。

桐木先生も経歴に傷がつくし、マスターだって店で暴力沙汰だなんて、きっとクビになる。

そもそも私の問題なのだし。

私の手で終らせたかった。

鼻をおさえながら、床に這いつくばった俊彰を見て(百萬年のもさめるわ)と思っていた。

「二度と私の前に現れないでね」

り行きを見ていた外野から、やるじゃん、姐ちゃん！等と喝采がわいた。満場で恥をかかされた俊彰が遠吠えしている。

「おまえ、ふざけんな。これ傷害だろ、警察呼ぶぞ」

「呼べばいい。俺が彼を全力で弁護する」

桐木先生が凄むと極道です。

本當に以下略。

俊彰が逃げるように店から出ていった。は追わなかった。白けたような顔をして、マスターに謝っている。

「あー……私、出ですか？」

やっちゃったな。後悔はないけど。お気にりのお店だったのに。

するとマスターが「ここの出資者オーナーは桐木先生なので、出り止になるかどうかは先生に聞いてください」と言った。

「え？オーナー？」

「言ってなかったか？」

聞いてない聞いてないと首をぶんぶん橫に振った。

自分の事務所の近くにいい店がなかったから自分で開いた、軽食が食べられて遅くまで開いてるのは単なる自分の都合だ、と。

「あそこ、事務室だし。本棚にあるの帳簿」

個室を指差して言う。

そうだ……カードキー式だった。照明も店より明るいし。

「今更ですけど桐木先生、何者？まさか油田……」

「いや、さすがに油田は持ってない」

私のバカな質問は遮って先生はマスターに飲みを頼んでいた。

奧の個室もとい事務室へ行き、中にるとすぐに、先生が「手を見せて」と言った。

私の右手は真赤だった。桐木先生がそのまま持ち上げて私の手にキスするから、の奧がきゅっとなった。

そのまま包むように抱きすくめられた。

気持ちいい。先生はが大きいから、私は全がすっぽりと腕の中に収まってしまう。安心する。

「私、桐木先生にずっと側にいてほしいです」

私がそう言うと、先生がぎゅっと力をこめて抱き締めてきた。返事を待ったけど無言だったので、私はゆっくり顔をあげた。

桐木先生の綺麗な顔がすぐそこにあった。

「俺も、梓にずっと側にいてほしい」

長い長いキスをして、私たちは約束をした。

100日経ったこのあとで、これからも私は先生とたくさん話をするだろうと思う。

終