《妹は兄をする》5―放課後の屋上―『彼達の』
繭は隣で私に話した。
「蓮があたしにキスした時」
「お兄ちゃんの気持ちは聞かなかったんだ」
「もしかしら、蓮の気の迷いだったかも知れないし…」
「そ、それにね?」
「きっと聞いたら立ち直れないとおもって、怖くて聞けなかったのあたし」
「繭…」
「でも、あの時のことはウソじゃないって信じたい…――」
彼は私の隣でそう話すと、夕暮れの空を眺めていた。
私は繭がどんな気持ちで、蓮一さんが
好きなのかを考えた。
きっと彼はお兄さんの気持ちが知りたいんだろうなと、私は不意にそう思った。
私も優斗お兄ちゃんの気持ちが知りたい…――。 
でも、聞くのが恐い。
嫌われたらそれこそ慘めで悲しいから……。 
それに最初からこのがいけないことだとわかっていた。
だから希なんで思ってはダメ。でも、すくなからず心のどこかで期待してしまう自分がいた。 
大好きな兄が私に振り向いてくれる、
そんなほのかな淡い期待だ…――。
私と繭はそんな期待を心のどこかで、
かに隠していた。
 
私はオレンジの空を見上げながら、
繭にだけ自分の気持ちを話した。
「繭いいな…」
「私も優斗お兄ちゃんとキスしたい」
「それでね…」
「お兄ちゃんに気持ちを伝えるの」
「大好きって…」
「世界中で誰よりも」
「大好きってお兄ちゃんに伝えるの」
「それでね…お兄ちゃんの気持ちが私で、一杯になってくれたら嬉しいな…――」
「梨乃…」
「梨乃、泣いてるの…?」
繭は隣でそう話しかけた。
私は自分でも気づかない間に、
瞳から涙が溢れていた。
私はその涙の意味を知っていた。
これがだと…――。
その人を思うと嬉しくて涙が出たり、
その人を思うと悲しくて涙が出る。
それだけじゃない。
その人を好きって思うと涙が
自然に溢れたりする。 
が苦しくて息苦しくて、心臓がドキドキするくらい好きという気持ちが溢れる。
それが「」。
私は大好きなお兄ちゃんに、いつもそんな想いを寄せていた…――。
 
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