《妹は兄をする》1―診斷テスト―『それは思いつきで始まった』
並木道を2人で歩いていると、繭が何かに気がついた。
「あ、あの後ろ姿もしかして…!」
「どうしたの繭?」
「もしかしてもしかして~」 
彼は獨り言を呟くと急に走り出した。私は慌てながらあとを追いかけた。
繭は前を歩いている男の人の後を
うしろからつけていた。
男の人は近くのベンチに座ると、鞄から本を取り出してそこで本を読み始めた。
繭は木に隠れると、男の人を遠くから観察していた。
「まゆ~、急に走らないでよぉ!」
「そんな所に隠れて何みてるの?」
私は彼の隣に並ぶと屈んで聲をかけた。
「ほら、こっちに來て一緒に見なさいよ!」
「あの男の人、梨乃のお兄さんじゃないの?」
繭がそう話すと、私はベンチに座っている男の人に目を向けた。
男の人は眼鏡をかけていた。それに服裝はいかにも高校生らしい格好だった。
髪型も決まってて、まるで別人の様だった。
「言われてみれば確かに、優斗お兄ちゃんのような気がする…」
「でも優斗お兄ちゃん、家では眼鏡はかけてなかったよ?」
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「そうなの?」
「うん…」
「でも、何か雰囲気が違っててカッコいい…」
私は思わず本音を呟いてしまった。繭はニヤッと笑うと私の顔を見てきた。
「何みとれてるのよ~!」
「え、私みとれてなんかないよ…!」
私は顔を赤くさせながら、焦った素振りを見せた。
「梨乃ったら、ますます隅におけないわね」
「繭からかわないでよぉ!」
私は思わず大きな聲を出してしまった。
お兄ちゃんは本をみるのをやめると、顔をあげて辺りを見渡した。
「梨乃、靜かに!」
「お兄さんに気づかれるでしょ!」
「ご、ごめん…!」
「まあ、いいわ。今からテストしてあげる!」
「テスト…?」
「そう、テストよ!」
繭は私の方を見ると、ニヤリと笑った。 
「確かにアンタのお兄さんは見た目は凄くカッコいいけど、たった1つ欠點がある!」
「け、欠點…!?」
「そう。アンタも薄々は気づいてるじゃない?」
「優斗お兄ちゃんはそんなに頭悪くないよ!」
「績だって普通だし、運だって得意なんだから!」
「うちのお兄ちゃんに限って欠點なんて…!」
「繭、私のお兄ちゃんの悪口言わないでよ!」
私は思わず本気で怒ってしました。すると、繭がいきなり私の両肩に手をのせてきた。
「ダメよ梨乃!」
「目をそらしてはダメ!」
「いいわ、真実が見えないなら私が見せてあげる!」
「ま、繭…!?」 
「見てなさい!」
「これがアンタのお兄さんの欠點よ!」
繭はさっき食べたクレープの紙くずを右手に握ると、お兄ちゃんの方に向かって狙いを定めた。
「繭そっちじゃないよ!」
「紙くずはあっちのゴミ箱のに捨てなきゃ、ダメなんだからね!」
「梨乃は黙ってて!」
「いい、これはテストなんだから!」
「この紙くずを今からアンタのお兄さんに向けて投げるわ」
「それで気がついたらアンタのお兄さんは、鈍じゃないことが証明される!」
「でも投げた紙くずに気づかなかったら、アンタのお兄さんは鈍だってことよ!」
「これは賭けなんだから、邪魔しないで!」
私はすかさず繭を制止した。
「わかった!」
「ゴミ箱に捨てるの面倒だから、ポイ捨てするんでしょ?」
「だったら私が捨ててきてあげる!」
「アンタ、人の話し聞いてなかったの!?」
繭は私に向かって怒鳴ると、拳を震わせていた。
「え?」
「なんのこと?」
私がキョトンとした顔で首をかしげると、繭は呆れた様子でため息をついた。 
繭が改めて説明すると、私は彼に質問した。
「優斗お兄ちゃんが鈍だって、そんな事でわかるの?」
「そうに決まってるでしょ!」 
「でなきゃ反応悪すぎでしょ!」
「そ、そうかなぁ…?」
「今までのことをよく考えてみなさい!」
「ま、繭…!?」
私はその話しに驚いて、急に言葉を失った。
「いい、とにかく私がアンタのお兄さん診斷してあげる!」
「止めても無駄よ!」
「これは梨乃のためでもあるんだから!」
「ま、待って…!」
繭はそう話すと、ためらわずに紙くずを
ポイッとお兄ちゃんに向けて投げた。 
紙くずは宙を舞うと放線を描くように、兄の頭に綺麗に乗っかった。
その瞬間、私と繭はその場で凍りついた。 
「えぇ~っ!!」
ポイッと投げた紙くずがお兄ちゃんの頭に乗っかると、繭は驚いた聲をあげた。
「適當に投げたら頭に乗っかっちゃった!」
「ヤバい!!」
「どうしよう!!」
繭はそう話すと顔が青ざめていた。
「繭コントロール上手すぎだよ!」 
「あのままじゃ、お兄ちゃんが可哀想!」 
私は彼の隣で兄の心配をした。
「いいの、これからがテストなんだから!」
「繭…!?」
「ほら、見なさい!」
繭は木から兄をジッと観察した。優斗お兄ちゃんは、急に周りをキョロキョロと見渡した。
そして、不思議そうな顔で首を傾げた。
「みて繭…!」
「ほら、お兄ちゃん気がついたじゃない!」
「優斗お兄ちゃんは鈍なんかじゃないよ!」
私はそう話すと、ホッと安心した。すると、繭が顔をひきつらせながら話した。
「でも、頭のゴミにはまだ気づいてないわ」
「もしかして、あのまま気づかないで家に帰っちゃうかもしれないわよ…!」
「えぇっ!?」
私はその言葉に驚いて聲をあげた。確かにお兄ちゃんは、頭に乗っかってる紙くずに気づいていない様子だった。
そして、そのまま気づかないで本を読んでいた。
「ちょっ、ある意味ファンタスティックな景だわ…!」
「頭にゴミを乗せても、本を読む姿がカッコいいなんて…!」
繭はそう話すと、ププッと小刻みに笑っていた。
「繭、笑ってないで早くなんとかして!」
「あのままじゃお兄ちゃん、頭の上に紙くず乗せたまま帰っちゃうよ!」
「私そんなお兄ちゃんの姿、見たくない!」
私は彼に詰め寄ると、自分の顔を手で覆って嘆いた。
「わ、わかった…!」
「責任とるわ…!」
繭は私に向かってそう話すと、木から出て兄の方に向かった。
すると、繭が聲をかける前にお兄ちゃんはベンチから立ち上がって歩き出した。  
「げっ!!」
繭はその場でひるんだ。 
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