《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第一話(※)
僕――響川瑞揶ひびかわみずやは、何かを見るよりも、音を聴く方が好きだった。
それに気付いたのは確か、小學校で鍵盤ハーモニカを叩いてた時。
上手い下手に関わらず、1つ1つの鍵盤が齎もたらす音を聴くだけで楽しかった。
それからは、學校にあるいろんな楽を弾いてみた。
先生の許可を取って放課後に音楽室を開けてもらうのが日課で、毎日が楽しかった。
中でも、1番好きな音を奏でたのは、ヴァイオリンだった――。
「……勿無いなぁ。ここに置き去りにされてるだけなんて」
夕のが差し込む高校の音楽室にて、ピアノの上に置かれたヴァイオリンケースをりながら1人呟く。
高校生になったというのに僕の生活習慣は変わらず、放課後は音楽室に訪れた。
勿無いことに、この高校には吹奏楽部すいそうがくぶがない。
吹奏楽部がない高校には來てしまったのは親の勧めだからなんだけど、ヴァイオリン教室にも通わせてもらってる手前、斷るわけにも行かなかった。
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でも、それは逆に功をしたのかもしれない。
最終下校時刻の5時には帰らなくちゃ行けないけれど、1人で靜かに、毎日放課後の1時間前後は自由に音楽室の楽を使える。
中學校は吹奏楽部にいたから皆と合わせてたけど、弾きたいものが弾けなかったから。
でも今は、小學校の頃に戻ったように自由に弾ける。
僕にとっては、この上ない喜びだった。
「……今日もお世話になりますっ」
謝を込めて合掌し、ヴァイオリンケースを開く。
中の本と弓を取り出し、肩當てと顎當てをしっかりセッティングしてから左肩に乗せ、楽を構えた。
弦に弓を添え、目を閉じてゆっくりと弾く。
弾いている曲は“Calm Song”という、優しい音楽。
余りにも聴く人が眠くなってあまり売れなかったとされる何年も前のバラード曲だけど、僕はとても好きだった。
優しさにはが溢れてる気がして、靜かでしっとりとした雰囲気が大好きで……。
でも後半には一気に音が高くなる部分があり、そこがまた癖になるというもの。
ゆるやかな旋律が、室で鳴り続けていた――。
◇
毎日楽しい事があれば、楽しくないこともある。
僕は生まれつき病弱で、それは月に1度高熱で學校を休むほどだ。
発作とかがあるわけじゃないけれど、突然高熱を出して倒れそうになることが何度もある。
だから育はいつも見學だし、クラスでも浮いた存在となっていた。
もともと僕は放課後に1人でいるし、人付き合いというのは無い。
いつもは授業できちんとノートを取り、休み時間は攜帯で音楽を聴いたり、図書室で借りた本を読んだりして過ごしたり。
ゲームとかもしないから、古典的だと、僕は好奇な目で見られていた。
中學校の頃なら、部活のみんなと話すことはあったし、むしろ部長を任されるぐらいだった。
それは僕の演奏が上手かったし、聴音が良かったからというのもあるけど、おかげで人と接することが多かった。
なのに、高校では1人になる。
それはし寂しいところがあった。
來る日も來る日も1人で、攜帯に時々來る中學時代の友人からの電話やメールぐらいが癒しだった。
家族もいるけど、ひとりっ子だったから會話をわすのはお母さんのみ。
績のことばかり言うから、家族はあまり好きではなかった。
だからって、悲壯曲を奏でることはない。
今も楽しいことはある。
それだけで、生きててよかったと思える筈だから。
「――ゲホッゲホッ。うぅ、保健室からマスク貰ってこようかな……」
今日も今日で放課後、音楽室にいる。
だけれど今日は音楽室でも準備室の方で、奧の方に埋れた楽が無いか探していたのだ。
使われてない楽を自由に使える許可はとってあるし、今日は大膽に奧まで掘り出す。
歳月を得た楽ケースには埃ほこりが被かぶっており、舞い散るのが目にって厄介だった。
「――わーっ、なんか長いのあった」
70cmほどある一本の細長い黒のケースを手に取り、一度準備室から出て音楽室に戻る。
いつも居るピアノの前まで來て、ピアノの上にケースを置いた。
ジッパーを開けて中を見て見る。
中にっていたのは、銀に輝くフルートだった。
「……フルートだ。これも有名だし、吹いてみたかったんだよね」
現れた楽に、つい顔を綻ほころばせてしまう。
良い掘り出しが見つかったものだ。
早速僕は攜帯を出して吹き方を調べる。
小學校の頃は図書室に行って調べなきゃいけなかったけど、高校では攜帯を使えるから便利だ。
「……フルートって繊細なんだ。音の調子とか……まぁ、學校のだから仕方ないかな」
軽い衝撃でも音が変わるようだ。
でも、楽は高いから使えるだけでもありがたいというもの。
とりあえず指使いだけを何度も練習する。
楽の練習はんなものをしたし、他にも管楽はいろいろ挑戦していたから指がらかにき、みるみるうちに覚えてしまう。
「……よしよし。って、もういい時間かぁ……。下手でもいいから、なんか吹いてみよっ」
リッププレートに口を付け、できるだけ背筋良く立ち、いつものように瞼まぶたを閉じて息を吸う。
そして、靜かにメロディーを奏で始めた。
フルートの高溫が音楽室に響き渡り、僕の耳に伝わる。
らかな音程で、穏やかさに溢れている曲。
それはなんだか雅やかで、風をただひたすらに味わった――。
「――ふぅ……」
2分もない演奏だった。
適當に、こういう音楽が聴きたいなと即興で作った穏やかな音楽はまだ暫く.音楽室に反響している。
音が完全に止んで、目を開ける。
――パチパチパチパチ
「……え?」
開いた瞳が捉えたのは、立ち並ぶ機の真ん中に立つクラスメイト――川本霧代かわもときりよの姿だった。
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