《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第五話

――結論から言うと、僕は3日でオトされた。

僕は視認というのはできるけど、じることはないというのはそうだ。

くるしく見える霧代を見ていて、今まで惚れてなかった原因はこれであろう。

しかし、抱きつかれたり耳元で囁かれたりしたら耐えられないに決まってる。

その弱點は自分から教えたのだが、だからってすぐに腕に抱きついてきて耳元で「してる」だ。

これで半ば心を撃たれ、それからもベタベタされたらもう惚れない方がおかしい。

そんな事もあって、僕たちは“人”になった。

相変わらず音楽室だけの関係だから、何かともどかしい生活が続いていた。

「……なんだかなぁ」

放課後の誰もいなくなった教室、僕は自席に深く座ってポツリと呟く。

思い返してみても、音楽室だけの関係というのは寂しい。

そもそも僕は霧代の普段の生活だって知らないのだ。

いや、教室でチラッと見るとクラスメイト達と談笑してるっていうのは知っている。

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いやしかし――他に男とかいないのだろうか?

なんたって學校で五指に人で新聞部がその貌を掲示に示すぐらいだ、彼氏の1人や2人……いや、まさかなぁ……。

頭を振って猜疑心を振り払いつつも、僕は席を立って窓際まで歩いた。

外では陸上部とサッカー部が活しているのが見える。

陸上部の方が部員が多く、サッカー部の倍ぐらいいた。

霧代目當てでった男子部員が多いのか、男比は8対2ぐらいだった。

これじゃあ男の影がいくらあったっておかしくない……。

僕はガックリと項垂れ、窓からの落下防止様の手摺てすりに重を掛けた。

が重い、窮屈だ……。

「あれ? 瑞揶くん、何してるの?」

「えっ!?」

もう聞き慣れた聲が背後から掛けられる。

振り返れば、教室のドアからひょっこり顔を出して僕を見る霧代がいた。

しかも、制服姿で。

「……あれ? 霧代、部活は?」

「あぁ……たった今、辭めてきちゃったっ」

「え? な、なんで?」

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「だって、放課後の時間がもったいないもん。フフッ、音楽室行こ〜?」

「…………」

唖然として、僕は開いた口がふさがらなかった。

軽い調子で部活より僕を優先するなんて……。

とても嬉しいが、ちょっと複雑な気持ちだ。

「……どうしたの?早くしないと、陸上部の誰かが私を探しに來ちゃうかもよ?」

「……うん、そうだね。行こうか……」

僕も彼のために何かを切り捨てたい。

いや、僕の場合は増やすべきなのかな?

とはいえ、彼のために頑張ろうって、そう思えた。

音楽室に著いたというのに、最近はあまり音楽が鳴らない。

手を繋いでいたら、楽は鳴らせないから。

そして、音楽をじるより、お互いをじているから……。

音楽室の端っこにある機の上に、2人で座る。

を支えるために機にやった手の上から霧代が手を乗せ、肩と肩をくっつけてくる。

が當たっているわけでもないのに、とても暖かくじて、揺るぎない幸福にあった――。

喋る必要はない、ただお互いにれ合ってるだけでもじるものがある。

いや、そもそもの話、何か言おうにも恥ずかしくて聲にならない。

人を好きになるというのは初めてだけど、こうまで幸せになれるとは、思わなかった。

日が落ちるのを靜かに2人で待って、落ちたら駅まで一緒に帰る。

手を繋いで、一歩ずつ歩んで――。

夜はとうに訪れ、街燈の幽きに駅から吐き出される人々が當たってゾロゾロと帰宅して行く。

流れに逆らって駅構る前、駅前で霧代が唐突に切り出した。

「――瑞揶くん。今日は、寄り道しない?」

「……え? 良いけど、どこに?」

「……どこでもいいから、一緒に歩きたいんだけど……大丈夫?」

「僕は全然大丈夫。……うん、一緒に行こうか」

2人で夜の街を散策し始める。

ネオン管がチラホラるほど立派な街ではないけれど、デパートやし小灑落た喫茶店なんかはあって、見て回り、時には店って時間を使った。

「帽子……」

「……ん? 何か目に止まるものあった?」

「……うぅん。私が著飾っても、瑞揶くんはそんなに嬉しくないよね?」

「…………」

ショッピングモールの帽子が陳列されているフロアで足が止まる。

霧代が眺めていたのは、白いキャスケットだった。

普通の人間の頭よりも橫幅はずっと広くて、被っても頭を激しく振ったら落ちそうなもの。

つばには綿がってるのか、丸っこくてモコモコとしている。

手に取って値段を確認する。

……4690円。

帽子1つで凄い値段だなぁと嘆した。

「……これ、買う?」

「え? いや、でもなぁ……」

「被ってみてさ、似合ったら、僕が買ってくるよ」

「え? でもこれ結構高いよ?」

「大丈夫だよ。これでも、ヴァイオリンとか作文とか、んなコンクールでお金稼いでるから。そうでなくてもね、両親が金持ちで無駄にお小遣いも多いからさっ」

「……そうなの? っていうか、瑞揶くんってなんでもできるんだね」

「あはは、運以外はね……」

霧代の頭上にキャスケットを乗せる。

やっぱりぶかぶかだったけれど、おっとりとした彼には白も大きめな帽子も似合っていた。

保護を掻き立てるような、そんな印象が持てる。

「……うん、似合ってるよ」

「……ありがとう」

優しく霧代が微笑む。

薄くピンクに染まった頰が可らしく、イヤな表現だけど、僕もニヤけそうだ。

人に喜んでもらえると嬉しいけど、それが好きな人だとより嬉しい。

「……じゃあ、買ってくるよ」

「……いいの?」

「うん。お金の事は気にしなくていいよ」

帽子を取り上げる。

は渋々といったように肩を狹めてぽつぽつ呟いた。

「……そっか。でも……その、今度は私がなんか買う……からね?」

「……うん」

気にしないでと言った側から気にしているらしい。

しかし、その好意にも甘んじたくて僕は頷いたのだった。

散策をしていて、特に大きな出來事はなかった。

けれど々と見て、聞いて、2人で會話して、何気ないことでも楽しくじられた。

「……またね、瑞揶くん」

「うん。またね、霧代」

電車の中で彼と別れた。

繋いでいた手は離され、開いたドアの先へと僕は進む。

ここからは1人で帰る。

いつもはそれが日常だったのに、今は1人というのが辛く寂しい。

でもまた明日としの安らぎを與えて家までの道のりを歩む。

家に帰るまでに公園があるが、つい時計だけ見れば21時を過ぎている。

僕は攜帯電話なんて持ってないから、親には悪い事をしたかもしれない。

多分、數年ぶりに悪い事をした。

遅く帰る事理由が、昔からなかったから――。

「……もうし、寄り道しよう」

僕は公園の中にり、最寄りのベンチに荷を置いてその隣に座った。

よっこらせと座って正面を見ても住宅街と黒い空が広がっているだけで、じるものはない。

外に興味を引くものがないからか、することがないから今日の事を思い出す。

共に歩いては笑った記憶を反芻して頬を綻ばせる。

音楽以外でこんな事をしたのは、初めての経験だった。

今では、笑った霧代の顔を思い浮かべるだけで、が暖かい……。

「……好き……だなぁ」

「あらあら、それは良かったわね」

「!?」

不意に聞こえたの聲に、思わず立ち上がった。

明らかに僕の言葉を拾って発された言葉だったが、周りに人影らしいものは見えない。

空耳、だったのだろうか……。

「いやいや、空耳じゃないわよ。上よ、上」

「え……あっ!」

再び聴こえた聲の通り、上を向けばが浮いていた。

そう、浮いている。

黒い著と羽を著て、艶やかに笑っている。

に照らされた黒の長髪は羽と共に風に揺らめき、壯麗な姿だとじた――。

「……て、天?」

「あら、嬉しいわ。でも殘念ながら、違うの。そう、ね……ここでは“死神”とでも名乗っておくわ」

「え……えぇ!?」

その正が何かと思えば、死神らしい。

僕の前に現れたって事は、つまり……。

「ぼ、僕は死ぬん……ですか?」

「……そんなに心配しなくても大丈夫よ。別に、なんの代価も無しに命を奪ったりしないわ」

「そ、そうなんだ……」

をなでおろす。

こんな所で死んでしまえば霧代に申し訳ない。

「……安心してるわね?やっぱりあの霧代って子が好きだからかしら?」

「ど、どっちだっていいじゃないかっ。とにかく、僕に死ぬ気は無いからどっか行ってよっ」

「あらあら、話も聞かずに追い払うのは早計よ。まぁ慌てずに、條件とかもしは聞きなさいな。しは役に立つはずよ」

「……わかったよ」

話ぐらいは聞いてあげてもいいだろう。

不安ながらも浮いているを見ながら、僕はそう思った。

「ウフフ、ありがとう。じゃあ、し聞いてもらおうかしら」

「……うん」

「まず、私は取引を要求するわ。願いを葉える、その代わりに魂を貰う。これなら悪魔と名乗った方が早いわね」

「見かけは悪魔とかに見えないけどなぁ……」

「え?」

「あ、いや、なんでもないです……」

つい思ったことがそのまま言葉に出た。

第一印象が天だったのに、本當は死神とか悪魔とか、信じようにも信じきれないや。

「……貴方、かなり天然ってるわね。々と殘念な匂いがするわ」

「え……それ、酷いなぁ……」

「天然でもなきゃ、私の言うこと鵜呑みにしないでしょう?第一、空を飛んでる人間を目前にして平然としていること自おかしいんだから」

「…………」

一理あるとも思ったけど、目で見て判斷する事には別の理由とも言えるだろう。

どちらにしても、冷靜でいて悪いことはない。

話を鵜呑みにしようとしなかろうと、ここでは聞くだけだから“そんな話もあるんだ”程度の認識でいい。

だから、気にする必要はない。

「……話を戻すわ。なにも願いを葉えてすぐ命を奪うわけじゃない。だってそれじゃあ願いを葉える意味もないですもの。私が思い出したら、もしくは覚えてたら、フラ〜っと現れて貰うわ。まぁ、今までの経験だと最短で半日、最長でも30年ってところかしらね。今すぐ聞きたいって言うならその場で決めてあげるわ」

「…………」

なんてザラなんだ。

これは本當に契約したくなくなってきたぞ。

「契約の容はそれだけよ。って言っても、貴方は契約しなさそうねぇ……」

「しないよ。死ぬわけにはいかないからね」

「そ。まぁ、暫くは貴方の側にいるわ。死神、もしくはセイって呼んでくれれば出てくるから。あ、セイって言うのは私の名前よ。親からもらった、ね」

「……呼ぶ事はないよ」

「フフ、だと良いわね。じゃあね」

「…………」

は徐々に素が無くなり、消えていった。

早く諦めてくれれば、なんとなく話してて期待できそうにはない。

ともあれ、もう結構な時間だ。

僕も家に帰るとしよう。

不思議な出會いを果たしたが、僕の想いは変わることはない。

好きな人の事を頭に思い浮かべて、僕は公園から帰路についた――。

――ウフフ。

――ああいう子は、生きがいを取り上げちゃえばいいのよね?

――ねぇ?

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