《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第六話
放課後の音楽室、今日は霧代の姿がない。
その事がし寂しくても、僕は教壇に立ってヴァイオリンを弾く。
一番得意で一番好きな楽。
僕はこんな格だからしっとり系、優しい音が好きで、ヴァイオリンの高音には特に癒される。
瞳を閉じ、微笑みながら鳴り響く音をじられる幸福を噛みしめるのが、堪らない喜びだ。
でも――。
もう、これだけで1日が終わるのが寂しい――。
「…………」
ヴァイオリンを、ピアノの上に置く。
どれだけ音を奏でても、今日ここに霧代がいないという事実がを苦しめる。
別に、教室でしはお話しした。
もうそれだけじゃ足りない。
が熱く、鼓の速度が上がる。
こんなに人を束縛するようなは初めてだった。
ただ、これが僕にとってもというものなんだろう。
しかし、そろそろ両親にも話すべき……だろうか?
……まだ“彼がいる”とも言ってないのに。
「……〜〜〜ッ」
彼、という単語が脳裏をよぎるとさらに苦しくなった。
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顔はとっくに真っ赤だろう。
……僕は1人で何をやっているんだ。
「……帰ろう」
頭を掻きつつ、ヴァイオリンを片付ける。
悶えるのもそろそろ、僕は早目に音楽室を後にした。
◇
熱を出した。
確か、朝方は40度近くは出てたと思う。
眠り続け、晝過ぎに起きてみると38度前後まで回復していた。
咳は多出るが、困るほどではない。
しかしこの日は平日で、學校を休んでしまった。
霧代と1日會えない。
それは世界の終わりに等しいことだ。
「……はぁ……明日には治らないかなぁ……」
願が屆くことを祈りながら布団の中で寢返りを打つ。
向いた先にはドアがある。
僕の部屋の扉。
母さんが晝食を屆けに來てくれたのを最後に僕以外は開けていない。
放任主義の家庭だからそれも仕方ないのか、寂しさは拭えない。
普段の寂しさだから、慣れたといえばそうだけれども、ね……。
僕が子供だからなのかなぁ……。
「……ふんぞり返ったって仕方ない、か。寢よう……」
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朗報は寢て待てという。
僕も暫く寢て待つとしよう。
そうして、靜かに瞼を閉じた。
◇
「――やくん」
呼び聲が聴こえる。
誰かを呼ぶ聲が。
聴音が良いというのに聞き分けることができないのは、きっと寢ぼけているから。
「――瑞揶くんっ」
今度はハッキリ聴こえた。
僕のことを呼ぶ聲。
普通に呼んでくれてると思うが、これが彼の聲なら、今は力強い聲を出していることだろう。
だって、彼は貞淑で優しい人だから。
ゆっくりと瞼が開き、瞳は翳った霧代の顔を捉えた。
枝垂れた髪のが、僕の頰に付いていてしくすぐったい。
「……霧代……なんでここに?」
「フフッ、お見舞いだよ? 先生にね、住所聞いちゃったっ」
「……そうなんだ」
壁掛けの時計に目をやると、まだ4時半にもなっていない。
授業は6時間のはずだから終わっても3時過ぎ、HRや友達との多の談笑をかみしても、4時というのは早い。
…………。
特に、語ることはないだろう。
「起こしちゃって、ごめんね……?」
「いいよ。霧代がいるなら起きてたいしさ」
「うっ……あ、ありがと……」
りんごのように真っ赤になって言葉を返してくる。
可らしい。
最近はちゃんと、僕の目でもそうじることが出來てきた。
「……それにしても、瑞揶くんの趣味っての子丸出しだねっ。私はこのクマの人形が好きっ」
「……の子らしいかな?」
「これだけぬいぐるみ持ってたら、誤魔化せないよ?」
「あはは……」
僕の部屋は6畳間だけど、2畳ぐらいはぬいぐるみが範囲を締めている。
簞笥の中に布団をれていてし広くじるけど、機やヴァイオリン、CDラックもあって意外と窮屈だ。
というかぬいぐるみが全部悪いんだけど。
特に、今霧代が抱えている紫のクマは全長1m50cmある。
犬歯が長くて口元からが垂れてるような、ちょっと殘念なやつなのに霧代のお気には召したようで。
布団の中で眠る僕の右橫に正座で座って人形を抱きしめていた。
僕も上を起こして布団の上に座り、話を続けた。
「……それ、しかったらあげるよ」
「え? でも、これだけ大きいと高かったでしょ? いい、の……?」
「自作だから値は張らなかったし、気にしないでよ」
「自作っ!? ……本當にお裁、得意なんだね」
「長年やってたからね。表面を作るのが大変だったなぁ……」
作った當時を思い出す。
力がないから休み休みで手をかしてた。
今ではなんで作ったのかも思い出せないけれど、無駄な日だったとは思えない。
「……貰っていいの?」
「いいよ。僕なんかが作ったのでよければ、いくらでも持ってってよ」
「…………」
「……どうしたの?」
「…………」
霧代は沈黙した。
その頰に涙を伝わせて……。
なんでまた、彼は泣いているんだ……。
「……これ、大切にするね……」
「……うん」
「……泣いて、ごめんね……?」
「……….…」
謝られることじゃない。
僕は困るというよりも、なんとかしてあげたいって思うから。
「……泣いてる理由、教えてくれないかな?」
「…………」
霧代は無言で頷いた。
いや、涙で聲も出ないのだろう。
どこか暗い表をしたは、いくつか迷いを振り払うように頭を振って、話を切り出した。
「私ね、冬を越えたら、海外留學するんだ……」
「…………」
何も反応できなかった。
ただ驚きがに溢れて、し遅れて漸く反応が出る。
「……え?」
「お父さんがね、こういう経験も必要だろうって、勝手に決めちゃってたみたい……。私はさ、嫌だって言ったんだよ……? なのにね、もう決まったことだからって……」
「霧代……」
「……ごめんね。私、告白なんてしなければ良かったよね……。そうじゃなきゃ、別れたくないって、苦しまなくても良かったもんね……」
「!」
告白なんてしなければ。
そんなことあるものか。
僕は告白してくれなきゃ、離れたくないとも思えないじゃないか……!
「霧代! そんなこと言わないで! 僕は――」
「……短い間だったけど、迷かけてごめんね……?私……本當に好きだったから……それだけは、ずっと忘れないでね……」
「……まだ、冬も終わらないよ。その間はまだ――」
「ううん。ずっと一緒だったら、別れるのがもっと辛いから……だからね、瑞揶くん……」
――別れて、ください。
目前のはしどろもどろになりながら、涙を流しながら、別れを切り出した。
數ヶ月経たずの好きあう関係を終わらせようと――。
「僕はさ、意外とロマンチストなんだ」
「――え?」
唐突に、僕は獨り言のように語り出した。
悲しい言葉をもらったばかりだというのに心は自然と穏やかで、ポツポツと言葉を紡ぐ。
「一応、學校の図書館で本を読んだり、ちょっとくらいなら漫畫も読むんだ」
これは噓じゃない。
音楽を聴いてると手はあくから手蕓や本を読むんだ。
エッセイもフィクションの冒険譚もサスペンスも、ものも……とにかく読む。
「その中で王道といえば、遠くに行ってしまった仲間をいろんな形で助け出すっていう話でさ、中には人を救い出すものもあってさ……久々の再會でも2人はお互い好きなんだ」
「…………!」
「あはは……言いたい事、わかるかな――っと……」
クマのぬいぐるみを手放して、霧代は僕に抱きついてきた。
僕のにどうしようもなく涙をり付けてきて、出したくもないだろう嗚咽をらしている。
ドキドキして、し揺しながらも僕は口を開いた。
「だからさ、離れるのは良いんだけど……いや、良くないけど、別れるのは凄く嫌なんだ……。留學なら、いつか日本に帰ってくるかもしれないしね」
「……がえってくる……ぜっだい……私……!」
「…………」
抱きしめられる力が、さらに強まった。
どうやら、霧代の中で“別れる”という選択肢は消えたらしい。
僕もするのを、優しく抱きとめたーー。
「……ゴホッ」
「あっ! だっ、大丈夫っ!?」
「あはは……だいじょ――グッ……」
「瑞揶――――!?」
熱が再発でもしたのか、がグッタリとして力がらず、再び僕のは布団の中に収まった。
どうにも終わりが悪いと苦笑したい所だが、苦笑いを浮かべる前に僕の意識は深くに沈んでいった。
◇
「意外ねぇ……」
ふよふよと浮かびながら、目の前の年を見やる。
人間には視認できないように、2人の様子をずっと見続けていたのだ。
別れが來れば仲違なかたがいでもするか、私に頼ろうとしてくるだろうと思った。
もともと川本霧代が留學する報を知って行して響川瑞揶に接した。
しかし、響川瑞揶は思いの外ほかメンタルが強く、私の思通りには行かなかった。
……別に今すぐに魂がしいというわけではないけれど、はてさてどうしたものかしら?
「んー、直接手を下さないとダメね。ま、ほんのしの干渉なら大丈夫でしょう」
とにかく今は見學。
丁度いいタイミングがあれば、その時は弄もてあそんでさしあげましょう。
「フフフ、楽しみね――」
さぁ響川瑞揶。
貴方の顔を絶に染めて差し上げましょう――。
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