「【七王剣】！！」

「【龍天意】！！」

魔界の最深部――。

巨漢とが赤々とした空を舞い、互いに剣から生み出す閃、衝撃波を躱してさらに上へと上昇する。

巨漢はを止めるため。

は地上に出るため。

互いに譲れぬ攻防を繰り広げていた。

「しつこいわね、糞爺！！」

「言葉に気をつけるが良い、小娘がぁあ！！」

巨漢の大剣から無數の漆黒のが放たれ、流星の如く勢いでに襲い掛かる。

「【晴天意せいてんい】！」

の細長い刀は全から日の如くを放ち、一振りすれば全ての黒き星を消滅させた。

「チッ、意思反映とは厄介な……！」

の剣の特は意思反映。

太なら闇を食らう、全てに降りかかるといった力が與えられる。

太と言えば凡ゆるものに対して力を持つため、攻撃の殆どが相殺されてしまう。

「ならここは逃がしなさいよ。どうせここで私が逃げたからって上の“人間界”でとっ捕まえんでしょ？」

「黙れ！貴様を逃がしたとなれば、それこそ魔界の恥である！何としても魔界からは出さん！！」

「……ハッ、何処までも自分の事しか考えてない糞爺みたいね」

は呆れたように手を広げて見せる。

否、事実呆れ返っていた。

娘の私を蔑ろにする、この貍爺を。

「……死ねっ！！ 糞爺！！」

「貴様が去ね！！【龍下剣りゅうげけん】――」

「【羽天技はごろもてんぎ】――」

蔑み合いながら剣を振り上げる。

黒りする闇が瘴気となりて各々の刃にまとわりついて行く。

やがて竜巻の如く集まった瘴気は空をも貫いた。

『【一千衝華いっせんしょうか】――！！！』

トリガーワードが発言された剎那、竜巻は一つの刀へと一瞬変貌する。

二人の剣士は迷う事なく、嵐を纏った剣を振り下ろした――。

ゴウッという衝撃波。

混じり混じる黒くと黒。

どちらも引けを足らず力は均衡する。

「ツッ、ふっ――！」

「なっ――！？」

これを無意味と悟った巨漢は刀と魔力の塊である嵐を分散させ、刀を扇の形に変容させる。

紅の鉄線は幾千のを吸い上げた荘厳の証である。

「【衝扇けっしょうおうぎ】！！」

「ツッ！！ キャァアアアアア！！！」

巨漢は目掛けて鉄線を振るう。

吹き荒れる嵐は黒の霧ごと遙か上空へと吹き飛ばす。

は無數に鎌鼬の傷を負いながら、その姿を消した。

「！ しまった！！」

ある高度を超えると人間界に飛ぶというのに巨漢、魔王は気付いていなかった。

戦闘に夢中になり、そんな高度まで達していたことに。

結果、を魔界から逃がす羽目になったのだった。

「クッ、戻って援軍を出さねば……！」

だが、魔界がを発見する事はない。

はある年に拾われるからである。

◇

「ガッ――！ いったぁ……」

魔法も使えずに急激に地面に叩きつけられ、が悲鳴を上げる。

回復魔法を使うだけの魔力も殘ってない。

となれば、自然治癒に任せるしかない。

腐っても魔王の娘、傷の治りは速いしその間ぐらいなら気絶していても大丈夫だろう。

「……寢よう。もう、疲れたし……」

寢返りを打って、橫になる。

最後に見たのは、やけに生活のじるリビングだった。

◇

――ザスッ。

「うっ……」

一撃目、苦痛からき聲が出る。

倒れはしないが、が汚く垂れだす。

――ドスッ。

「……あぁぁああぁぁあ……！」

二撃目、剣が元が貫通して悲鳴を挙げる。

――ヒュッ。

――ブシャッ。

「ツゥ……グ、うぅ……！！」

三撃目、右腕が吹き飛んでが噴き出す。

涙を堪えきれずに放出させ、片膝をつく。

息を切らしながら片手を床について、倒れる。

もうこれ以上は耐えられないだろう。

だから最後にもう一撃。

それを耐えたらもう一撃。

大丈夫、大丈夫。

だって僕は、死なないから――。

◇

時は20xx年、ヤプタレアという天界、人間界、魔界が繋がった世界では科學文明が栄え、平和が訪れていた。

自由の第2世界らしいが、世界を収める自由律司神は管理など放棄し、天界から離れて何処かに消えたと幾つも報道がある上、テレビではお面をつけて登場するために素顔を知る人間はいない。

自由世界といっても、単に自由律司神が命名しただけで、秩序も法もあり、平和な世界だった。

その一旦である、人間界にある小國のとある家にて。

意識を失って數時間経った頃、突拍子もなく響川瑞耶ひびかわみずやは家の自室で跳ね起きた。

「……痛い。完治してないか」

右腕にある、先ほど失くしたはずの腕をいつものようにかしてみると若干震えるし、痛い。

痛いだけで済むのだから良いのだろうが、そうでなければこんな自傷行為もしない。

死んでしまうと、本當に何もできなくなるから……それは困る。

片膝ついてから立ち上がり、時計を見れば短針が9、長が5を指していた。

時刻は大午後9時25分、4時間近く気を失っていたらしい。

「夕食、食べ損ねたかな……夜食になったけど、なにか作ろうか……」

ふらつくをかして、ドアノブに手を出した。

その時、

――ドォオオオン！！

「！？」

耳に響く音とともに、が吹き飛んだ。

後頭部を抑えながら起き上がり、何事かと即座に部屋を出る。

「……うわぁ」

リビングに出ると、臺所が半壊しており、棚や冷蔵庫も倒れている。

天井には大がぽっかり空いており、電気の無くなってしまったこのリビングに月が優しく照らしていた。

は特に、落ちて來たであろうソレに集中してを注いでいる。

「……の子……かぁ」

インカローズのようなピンクの著を著ていて羽をに纏った長150cmぐらいの小さな。

和服には不似合いといえる長い金髪を持っていて、足には高下駄を履いている。

「まったく、なんだって空から人が落ちてくるんだか……うわっ、しかも剣持ってるし、大怪我してるし……」

本來ならば先に気付くべきだった怪我。

所々に赤い斑點があるのは著の模様かと思ったが全ての跡だった。

そうとわかれば、すぐさま“超能力”を使って彼の怪我を癒していく。

手が発し、その微弱ながに移り周って傷を全て治していく。

「一応、診察しよっ……」

外傷を全て治し、他に悪いところは無いか捜索する。

背中から落ちたからか、背骨にヒビがってたし肋骨も何本か折れていた。

そのまま治癒をし続け、安靜狀態にまで回復させた。

「よっ……あっ、軽い」

空いてる部屋にを運ぼうと抱き上げると、存外軽かった。

ズシズシと、しかし慎重に歩いてを部屋のベッドに運び込み、退室する。

夜食もそうだが、が起きた時のために何か軽食も作ろうと臺所に戻った。

「……そうだ。家も修復しないと」

再び超能力で壁や家を修復する。

ただ手をかざして念じただけで天井は塞ぎ、壊れた家は接著していく。

最期に念力で元の位置に戻せば終わり、暗い気な部屋に元どおり。

特に思うところもなく、普段通り靜かに料理を作り始めた。

◇

ゴン！

「痛っ！」

激しい頭痛で一気に意識が覚醒し、同時に蹲りながら頭を抑える。

「おぉ～……何よ？　乙を痛めつけちゃダメでしょうが」

頭を毆っただろう人を探してみるが、が差し込む室には誰もおらず、代わりに自分の下にあるグシャグシャの掛け布団とすぐ隣にあるベッドを見て事態を察知する。

る程、私の寢相が悪くて落ちたのね。

……まぁよくある事よ。

「ここは人間界の病院かしらね？」

寢相云々より、室にいる事が気になった。

室にいる、という事は誰かが私を家に連れ込んだか病院に送ったか。

はたまた拉致監なんてのもおかしくないかもね。

自由にけるし、傷も治ってるし、今のところその線は薄いけど。

病院となれば元確認されたらヤバいからさっさとおさらばしたいところ。

人間の家なら暫く住まわせてもらえばよし。

考えてても仕方ないし、まずは探索ね。

「探索……っとと、貧かしら？」

歩こうとすると、頭が重くてフラついて倒れそうになる。

こんな調子で探索するなら休んどいて誰か來るの待った方が楽ね。

襲ってきたとしても、貧だからって私は負けないし。

「ふぅ、頭クラクラする……」

ベッドの上にボフッと乗っかり、橫に倒れる。

力無く沈んだはベッドに反発すること無く埋まり、がけ止められる。

コンコン

剎那、ノックがあった。

さっき頭ぶつけたときの音に気付かれたらしい。

「どうぞー」

テキトーに呟くと、部屋のドアは開けられて1人の年が來室する。

まず目に飛び込んだのは、彼の瞳。

のない瞳孔は前髪で見え隠れして、気力の無さを現していた。

肩にはまったく力がってないのか、手はブラリと垂れ下がるだけでだらしない印象をける。

歳は15かそこらだろう。

「……起きてる……よね？」

確信めいた語調で確認をとってくる。

寢たばかりだが、私は起きてることを示すためにを起こした。

「起きてるわよ」

「あ、なら良かった〜。傷はもう完治してるよね？」

「ええ、お様で。ちょっと貧気味だけど」

「あれ？　……が足りないか……待ってね」

「？」

私に向かって掌を差し出し、年は固く目をつむった。

年はそのまま數秒かず、何かを終えたのか突如怠そうに息を吐いた。

「ふぅ……どう？　の調子はよくなった？」

「え？　……あら？」

そして、意識が自分に向くと異変に気づく。

先ほどまであった怠さ、の違和がまったくじられないのだ。

「……治ってるわ」

「良かった〜……お腹も空いてるよね？　昨日の作り置きで悪いんだけど、食べない？」

「頂くわ」

「うん、じゃあリビング行こう〜っ。付いて來て」

「えぇ……」

廊下へ行く彼の背を見ながら、私は心にやけていた。

彼は白じゃなく普段著だったし、ここは恐らく彼の家なのだろう。

私というを襲いもせず手厚い看病に食事まで出すとは善人の証拠。

そして強力な治癒能力。

まだ年だし、コロっと騙せそうだ。

これは都合の良い手駒が手にるぞと心笑いが止まらない。

「……？　なにしてるの？」

「あ、なんでもないわ！　行きましょ♪」

「？　うん」

一先ずは何か食べさせてもらおう。

その後はこの子を使ってを隠し、近々またあのクソ親父に挑んでブッ殺してやる。

待ってなさい魔王、優秀そうな回復役見つけたからにはブッ殺してやるんだから！

私は1人意気込んで、ズカズカ歩きながらリビングへとやって來た。

「怒ってるの？」

「え？　ううん、別に」

「？ そう」